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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第22話:最終監査の生存者と、母が遺した最後の含み資産

ルークが指ししめした帝都のうらぶれた路地裏。そこは、普段なら誰も足を止めない、古びたレンガ壁の隙間だった。



カイトが影の魔術で周囲の空間を遮断する中、レオンハルトはルークをしっかりと片腕で抱き上げ、もう片方の手で魔剣を構えていた。



「ルーク、ここだな? ……ステラ、下がっていろ。何が飛び出してくるか分からん」



「大丈夫ですわ、レオンハルト様。ルークが導いてくれたのですもの。それに、私の魔力眼にも、この壁の奥に潜む『隠された名義』がはっきりと見えていますわ」



ステラがそっと壁に触れ、純白の魔力を流し込む。

すると、レンガの表面に複雑な数式が浮かび上がり、まるで銀行の巨大な金庫扉が解錠されるかのように、ゴゴゴと音を立てて壁が内側へと開いていった。



内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返った、冷たい石造りの地下室だった。

部屋の中央には、魔力を拘束する幾重もの鎖に繋がれた、一人の男が座り込んでいた。



ボロボロの衣服を纏い、長い髪が顔を覆っていたが、その男は侵入者の気配を察すると、ゆっくりと顔を上げた。

肉体は限界まで痩せ細っているというのに、その瞳だけは、すべてを見透かすような鋭い知性の光を放っている。



「……やれやれ。ようやくまともな『監査官』が来たようだ。ザイードのトカゲめ、私をここに三十年も焦げ付かせおって」



男は低く、ひび割れた声で皮肉交じりに笑った。



「あなた、は……。まさか、失踪したと言われていた、王国の最高監査官ヴィンセント卿……?」



ステラが驚きに目を見開くと、ヴィンセントは繋がれた鎖をジャラリと鳴らし、ステラの姿、そしてレオンハルトの腕の中にいるルークをじっと見つめた。



「そうだ、お嬢さん。……いや、今は帝国の皇后陛下だったな。ステラ、大きくなったな。お前がまだ赤ん坊の頃、その不細工な灰色のドレス(繭)の術式を、お前の母親と一緒に編み上げたのはこの私だ」



「ヴィンセント卿……! では、やはり母は……」



「ああ。お前の母は、王国の崩壊と、ザイードやバルカスといった『内部の寄生虫』どもの暗躍をすべて予測していた。だからこそ、王国の真の心臓部である『救済基金』のアクセス権を私に託し、お前が本物のパートナーを見つけるその日まで、隠匿するよう命じたのだ」



ヴィンセントは、レオンハルトを鋭い眼光で見据えた。



「ヴァロージアの皇帝よ。お前がステラをただの便利な道具ではなく、一人の女性として、生涯の伴侶として正しく『査定』したこと、まずは合格点をやろう。お前がパニックを起こして帝都をひっくり返さなければ、私もあと数年はここで干からびるところだった」



「ふん。私のステラに対する評価は、最初から無限大だ。貴様に採点される筋合いはない」



レオンハルトは不機嫌そうに鼻を鳴らしたが、その剣先を収め、一閃してヴィンセントを縛っていた魔力の鎖をすべて叩き切った。



自由になったヴィンセントは、よろけながらも自らの足で立ち上がり、ルークの前に膝をついた。



「それにしても、この小さな坊主が私の結界を見破るとはな。……お前が、この大陸の未来を担う『新規発行株』か」



「おじちゃん、きらきら、いたかった?」



ルークが小さな手でヴィンセントの頬に触れると、ヴィンセントの凍てついていた表情が、生まれて初めて見るような優しいものへと緩んだ。



「いや……お前のおかげで、痛いのはもう終わりだ。ありがとうよ、小さな投資家殿」



ヴィンセントは懐から、ボロボロになりながらも奇跡的な純度を保ち続けている、黄金の鍵を取り出した。



「ステラ、レオンハルト。これが、お前の母親が遺した最後の『含み資産』……魔法王国の真の力を、帝国の未来へと正しく統合するための『最終清算鍵グランド・リセット』だ」



ヴィンセントが鍵をステラの手へと渡した、その瞬間。



帝都の全域を揺るがす、これまでにないほど不気味な地鳴りが響き渡った。

地下室の石壁に亀裂が走り、帝都の中心にある皇宮の方角から、どす黒い魔力の柱が天に向かって噴出すのが見えた。



「……ちっ、やはり動き出したか。バルカスの残党どもめ、親玉がノルド村で土を耕しているというのに、まだ往期悪く『強制執行』を仕掛けてくるか」



ヴィンセントが苦々しく地上を見上げた。



「レオンハルト様、バルカスが遺した古い魔力回路の残滓が、帝都の大結界を暴走させていますわ。彼らは、自分たちが支配できない世界なら、帝都ごと自爆(破産)させるつもりのようです」



ステラはルークをカイトの腕へと託し、レオンハルトの隣へと並んだ。

その瞳には、家族を脅かす者に対する、絶対的な守護の意志が燃え盛っていた。



「ハハハ! 面白い! 私の愛する家族の日常を、これ以上邪魔する不良債権どもめ。……ステラ、これが本当に最後の『事業整理』だな」



「ええ、レオンハルト様。私たちの未来に、一シルの未払いも残してはなりませんわ。……さあ、行きましょう。帝国の未来を守る、最終決算の場へ!」



二人は手を取り合い、崩れゆく地下室から、光の差し込む地上へと駆け上がった。

帝都の命運、そしてルークの未来を懸けた、史上最大の『大逆転の最終決戦』が、いま幕を開けようとしていた。

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