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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第20話:揺りかごの監査官と、聖女の独立宣言

皇宮の地下深く、数千年の沈黙を破って開かれた黄金の扉の先。



そこは、巨大な砂時計がいくつも浮遊し、大陸を流れる魔力のすべてが数値として壁面に投影される、異様な光景が広がる空間だった。



「……ここが、帝国と王国の根源。大陸の『中央清算所』というわけね」



ステラは、膨らみ始めたお腹を左手で庇いながら、右手を掲げて周囲の魔力をスキャンした。彼女の瞳には、この空間が単なる遺跡ではなく、大陸全体の魔力流通を管理する巨大な『基幹システム』であると映っていた。



空間の中央、黄金の玉座に座っていたのは、実体を持たないはずの魔力の集合体――『初代の監査官』だった。



「正当なる血脈の統合を確認。……新たな『鍵』の宿りを確認。これより、大陸の全魔力を一点に集約し、システムの再起動リセットを開始する」



監査官の無機質な声が響くと、ステラのお腹のあたりから、柔らかな、しかし抗いようのない力強い光が漏れ出した。



「ふざけるな。その子が誰の許可を得て、勝手に再起動の部品に選んでいる」



レオンハルトが前に出た。彼の持つ聖剣が、監査官の放つ威圧感を真っ向から切り裂く。その背中は、どんな神格をも寄せ付けない、一人の父親としての絶対的な壁となっていた。



「レオンハルト、待ってください。この監査官は、単に古いプログラムに従っているだけですわ」



ステラは夫の腕にそっと触れ、一歩前へ出た。彼女の瞳には、かつてないほど鋭い投資家としての冷徹な輝きが宿っている。



「監査官殿。……いえ、この大陸の古いシステムそのものへ告げます。あなたの提案する『リセット』は、現在の市場状況を無視した、極めて不適切な経営判断ですわ」



監査官の頭部が、機械的な動きでステラを捉えた。



「理解不能。血脈の統合は、システムの安定を最優先する旧契約に基づく。個人の意志は、全体資産の保全において無視されるべき誤差である」



「誤差、ですって? 笑わせないでください」



ステラは、エルフリーデから受け取った銀の羊皮紙を高く掲げた。



「この『合併契約書』の第十七条を読みなさい。……『新たな命が宿った際、その資産価値は両国の過去の負債から完全に分離され、独立した新法人ニュー・エンティティとして扱われるものとする』。……つまり、この子はあなたたちの古い呪縛やシステムの部品ではない、完全に自由な『新規発行株』なのですわ!」



ステラの魔力が羊皮紙と共鳴し、地下空間の数値を書き換えていく。

彼女は、数千年にわたって蓄積されてきた古い因習という名の『不良債権』を、この子の未来に引き継がせないために、今この場で大陸のシステムそのものを買収(買収)しようとしていた。



「……契約の矛盾を検知。再起動シークエンスにエラー発生。……修正……修正不能」



監査官の体が、ノイズのように激しく揺らぎ始めた。

ステラは、自分の体内から溢れ出す光を、恐怖ではなく、愛おしい力として受け入れた。



「いいですか。この子の人生は、誰にも支配させません。……たとえそれが、この世界のシステムであっても。私はこの子の母として、そして帝国最強の投資家として、この命の価値を全力で守り抜きます!」



「ステラ、お前の背中は私が守る。……古い神だろうが理だろうが、我が子の未来を邪魔するなら、この国のすべてを懸けて滅ぼしてやる」



レオンハルトの魔力が爆発し、聖剣から放たれた黒と金の閃光が、揺らぐ監査官を一刀両断した。



黄金の砂時計が次々と砕け散り、地下空間に降り積もっていた数千年の埃が光の粒子となって舞い上がる。

大陸を縛り続けてきた古い魔力回路が、ステラの『独立宣言』によって、新たな形へと再構築されていく。



やがて、眩い光が収まると、そこにはただの、静かな地下室が残されていた。

監査官の姿も、不気味な魔力の数値も、すべて消え去っていた。



「……終わりましたのね、レオンハルト様」



ステラが安堵の息を漏らすと、レオンハルトはすぐに彼女を抱き留めた。



「ああ。……お前は本当に、世界で一番無茶をする投資家だ。……だが、そんなお前だからこそ、私はすべてを預けられたんだな」



レオンハルトは、ステラの頬を優しく撫で、それから愛おしそうに彼女のお腹に耳を寄せた。



「……聞こえるか? 私たちの子供の鼓動だ。……古い契約なんかじゃない、これこそがこの帝国の、真の希望だ」



「はい。……これから、この子が生まれてくる世界を、もっともっと素敵な場所にしていきましょうね。……私たちの『共同事業』として」



二人は手を取り合い、夜明けの光が差し込む地上へと戻っていった。



魔法王国の崩壊、帝国の改革、そして太古の呪いとの決別。

すべての伏線を回収し、ステラはついに、自分自身の、そして愛する家族の『真の自由』を買い取ったのだ。



帝都に鳴り響く朝の鐘の音は、かつてないほど清らかで、未来への希望に満ちていた。



だが、物語はこれで終わりではない。

この時、二人はまだ知らなかった。

ステラの産んだ子供が、後に『投資の神童』として、今度は父レオンハルトのパニックをさらに加速させることになる、賑やかで幸せな日々の幕開けを。



最強の夫婦が紡ぐ、究極のハッピーエンドは、ここから新たな世代へと語り継がれていく。

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