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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第16話:永遠の配当と、未来への再投資

帝国の朝は、かつてないほどに穏やかだった。



約束通り、皇帝レオンハルトは自ら厨房に立っていた。

帝都の最高級食材を使いながらも、作っているのはノルド村で教わった素朴な野菜スープだ。

豪快に野菜を切るその背中からは、戦場での威圧感は消え失せ、一人の女性を喜ばせたいと願うひたむきな熱量だけが伝わってくる。



「……よし、味は完璧だ。ステラ、熱いうちに食べてくれ」



運ばれてきたスープは、湯気と共に野菜の甘い香りを漂わせていた。

ステラはスプーンを口に運び、ゆっくりと味わう。その瞬間、彼女の瞳にじんわりと涙が浮かんだ。



「……美味しい。レオンハルト様、これまで食べたどんな豪華な食事よりも、心が満たされますわ」



「それは良かった。お前を満足させるのが、私の生涯で最大の『基幹事業』だからな」



レオンハルトはステラの向かいに座り、彼女が美味しそうに食べる姿を満足げに眺めた。

二人の間に流れる時間は、かつての冷徹な契約関係からは想像もつかないほど、甘く、深い信頼に満ちていた。



しかし、平和な朝のひとときは、一通の報告書によって新たな局面を迎える。

運んできたのは、かつての財務卿ザイードの後任として抜擢された、実直な若手官僚だった。



「皇后陛下、ご相談がございます。王国から接収した資産の『最終目録』を整理していたところ、一つだけ、どうしても用途の分からない特殊な口座が見つかりました」



ステラは書類を受け取り、その内容に目を通した。

そこには、王国の歴代王族が極秘裏に積み立てていた『救済基金』という名目の、膨大な金貨の記録があった。



だが、不可解なことに、その資金は過去数百年間、一度も引き出された形跡がない。



「……これは、ただの貯金ではありませんわね。レオンハルト様、この資金には非常に強力な『封印術式』が施されています。それも、王族の血筋ではなく、純粋な『慈愛の心』を持つ者が触れなければ解けない仕組みです」



ステラの指先が、書類上の数字をなぞる。

彼女の魔力眼には、その金貨の裏に隠された、先人たちの切実な願いが見えていた。



「魔法王国は、いつからあんなに腐敗してしまったのでしょう。この基金を設立した初代の王たちは、魔力が枯渇した時のために、民を守るための『保険』を残していた。……ユリウスやルナは、その存在にすら気づけなかったのですね」



ステラは立ち上がり、レオンハルトの瞳を真っ直ぐに見つめた。



「レオンハルト様。この眠れる資産を、帝国の新たな『未来』のために再投資したいのです。……具体的には、帝国内のすべての子供たちが、家柄や魔力の有無に関わらず学べる『国立投資学校』の設立です」



「投資学校だと? 魔法学校ではなくか?」



「はい。魔法はあくまで手段に過ぎません。大切なのは、自分が持っている資源ちからを、どこに、どう使うべきかを見極める知恵です。バルカスやユリウスのように、力に溺れて本質を見失わないための『心の運用術』を教えるのですわ」



ステラの提案に、レオンハルトは感銘を受けたように深く頷いた。

力で押さえつけるのではなく、民一人一人の知恵を育てる。それは、真の意味での『帝国の安定』をもたらす究極の防衛策だった。



「……素晴らしい考えだ、ステラ。お前の構想こそ、帝国が真に求める『百年の計』だな。予算の心配は不要だ。私が全責任を持って、お前の計画を完遂させよう」



レオンハルトはステラを抱き寄せ、その賢明な愛妻への賞賛を口づけに変えた。



それから数ヶ月。

かつて王国の圧政に苦しんでいた領土には、新しい学校の校舎が建ち始めた。

泥にまみれて働いていた若者たちは、ステラが考案した教材を手に、瞳を輝かせて未来を語り合っている。



ステラは皇后として、そして学校の名誉学長として、各地を視察して回った。

彼女が訪れる先々で、民衆は「投資の聖女様!」「未来の母!」と、心からの歓喜で彼女を迎えた。

彼女はもう、誰かの影に隠れる必要はない。自分自身の力で、人々の心という市場を完全に掌握したのだ。



そんなある日の夕暮れ。

視察を終えたステラは、皇宮の庭園でレオンハルトと共に沈みゆく夕日を眺めていた。



「ステラ。お前が帝国に来てから、すべてが変わった。私の呪いも消え、国は豊かになり、民は笑っている。……お前という存在は、私にとってどれほどの配当をもたらしてくれるのか、もはや計算が追いつかないな」



レオンハルトが冗談めかして言うと、ステラは彼の腕にそっと頭を預けた。



「……配当は、これからもっと増えますわよ、レオンハルト様」



ステラは少し顔を赤らめながら、彼の耳元で、最も大切な『新規事業』の報告を囁いた。



「……えっ?」



レオンハルトが驚愕し、それからこれまでにないほどの喜びの表情でステラを見つめる。



「……ステラ! それは、本当か!? 私とお前の、新しい……」



「ええ。最高のポートフォリオ(家族)を、これからじっくりと育てていきましょう」



レオンハルトはステラを天高く抱き上げ、庭園に響き渡るような歓喜の声を上げた。



かつて婚約破棄から始まった物語は、一つの帝国を救い、そして新たな命の芽吹きという、最高のハッピーエンドへと向かっていく。



ステラの人生という名の投資は、これからも永遠に、愛という名の利益を生み出し続けていくのだった。


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