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『魔力貯金』を全額引き出した聖女、婚約破棄してきた王太子を無視して隣国の皇帝に全額投資(溺愛)される  作者: 葉山 乃愛


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第11話:皇后陛下の堅実なポートフォリオと、次なる投資先

帝国の皇后となったステラのもとには、連日のように帝国の魔導学者や有力貴族たちが詰めかけていた。




彼らの目的はただ一つ。ステラという底なしの『魔力資本』を利用した、新規プロジェクトの承認である。




「皇后陛下! 陛下の莫大な魔力を用いれば、帝都の空に浮遊する巨大な『空中庭園』を建造できます! これは諸外国に対する圧倒的な力の誇示となりましょう!」




興奮気味に図面を広げる学者たちに対し、ステラは執務机で優雅に紅茶を傾けながら、静かに首を横に振った。




「却下しますわ。その計画は、魔力の消費量が激しすぎます」




「し、しかし! 陛下の魔力貯金をもってすれば、これしきの消費など痛くも痒くもないはずでは……!?」




食い下がる学者に、ステラは手元の資料をパタンと閉じ、凛とした声で告げた。




「私は、派手で莫大な魔力が一度に激しく動くような事業は好みません。私が最も好む投資基準は、一日の魔力流通量が低く抑えられた、一見すると地味な『薄商い』の事業です」




ステラは立ち上がり、窓の外に広がる帝都の街並みを見下ろした。




「一気に巨大なものを作って終わるのではなく、長期的に安定した成長が見込めるもの。そして、その魔力の循環が、領民たちの日常にささやかな『優待』のような恩恵を継続して与え続けるもの。……対象の小さな変化を日々見守り、寄り添うように適量を与える細やかな手当てこそが、最も確実で豊かな利益を生むのです」




その堅実で、かつ領民に寄り添う深い慈愛に満ちた言葉に、学者たちは雷に打たれたように言葉を失い、やがて深く頭を下げた。




ステラが王国の無能な王太子から見限られた理由。それは、彼女のこの『目立たないが、最も確実な利益を生む』という本質的な価値を、あの愚か者が理解できなかったからに他ならない。




「……退室しろ。お前たちの浅ましい欲望で、私の皇后を疲れさせるな」




突如として執務室の扉が開き、圧倒的な覇気を纏った皇帝レオンハルトが入ってきた。




先ほどまで熱弁を振るっていた学者たちは、皇帝の冷たい一瞥を受けただけで震え上がり、逃げるように部屋から退出していく。




「レオンハルト様。彼らをあまりいじめないでくださいな。彼らも帝国のために必死なのですから」




ステラが苦笑しながら歩み寄ると、レオンハルトは先ほどの暴君ぶりとは打って変わり、大型犬のようにステラの肩に顔を埋めた。




「私以外の奴らが、お前に頼み事をして時間を奪っていくのが気に入らないんだ。……少し、魔力を使いすぎてはいないか? 顔色が悪い気がする」




「もう、大袈裟ですわ。むしろ、魔力を持て余しているくらいです」




レオンハルトの過保護ぶりは、結婚してからさらに拍車がかかっていた。

かつては他人に触れることすら拒絶していた孤独な皇帝が、今では公務の合間を縫ってはステラのもとへ現れ、こうして甘い時間を貪ろうとするのだ。




ステラは彼の銀髪を優しく撫でながら、机の上にあった一枚の古い羊皮紙を手に取った。




「それよりもレオンハルト様。少し、気になる『投資先』を見つけましたの」




「投資先? 帝都のインフラ整備は、お前の手で完璧に終わったはずだが」




「帝都ではありません。帝国の北端にある、小さな廃鉱山街『ノルド』です」




ステラが指し示した地図の端。そこは、数十年前に資源が枯渇し、今はわずかな老人たちが残るだけの、見捨てられたような寒村だった。




「ノルドだと? あそこはもはや何の価値もない土地だ。作物も育たず、魔石も出ない。なぜそんな場所に?」




レオンハルトが眉をひそめるのも無理はない。常識的に考えれば、そこに資本を投じるのは完全な無駄遣いだからだ。




しかし、ステラの瞳は、かつてレオンハルトの体内に眠る価値を見抜いた時と同じ、特級の投資家としての鋭い光を放っていた。




「確かに表面上の価値はゼロです。しかし、私の魔力眼には見えますわ。あの土地の地下深くには、帝国の誰も気づいていない『星の脈絡』が眠っています。……ただ、少し『詰まって』いるだけですの」




ステラは自信に満ちた笑みを浮かべた。




「誰も見向きもしない、底値で放置されている銘柄。ですが、少しの手当てで劇的に化ける可能性を秘めています。……私の次のプロジェクトは、このノルドの再興にいたしますわ」




「……お前がそこまで言うのなら、間違いはないのだろうな。だが、現地への視察は私も同行する。お前一人をあのような辺境へ行かせるわけにはいかないからな」




レオンハルトはステラの腰を抱き寄せながら、絶対の条件としてそう告げた。




「ふふっ。もちろん、一緒に行っていただきますわ。皇帝陛下の威光という『最強の担保』があれば、現地の事業も円滑に進みますもの」




ステラの言葉に、レオンハルトは満足げに微笑み、彼女の額に口づけを落とした。




魔法王国という悪質な負債を完全に切り捨て、新たな基盤を確立したステラ。

彼女の堅実で愛情深い魔力運用は、ついに帝国の辺境にまで奇跡を起こそうとしていた。




誰も見向きもしない寂れた廃鉱山に、一体どんな途方もない秘密が隠されているのか。

世界で一番美しく、そして抜け目ない投資家による、新たなる大逆転劇の幕が、静かに上がろうとしていた。


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