【悲報】ペタマ20個配信の女、たぶん暴食さん Part1
ここまで読んでいただいた事本当に嬉しいです。
【悲報】ペタマ20個配信の女、たぶん暴食さん Part1
1 :名無し視聴者
さっきの大食い配信見た奴いる?
2 :名無し視聴者
見た。
何だあれ。
3 :名無し視聴者
最初は普通の大食い配信かと思ったんだよ。
黒パーカーで、声もきれいで、ちょっとだるそうな女が「ペタマックス二十個食べます」って言い出すまでは。
4 :名無し視聴者
二十個は頭おかしい。
5 :名無し視聴者
顎どうなってんの。
6 :名無し視聴者
喉もどうなってんの。
7 :名無し視聴者
一口がでかい。
啜る速度もおかしい。
間に揚げ物挟む判断もおかしい。
8 :名無し視聴者
途中から明らかに食事じゃなくて処理速度になってたよな。
四杯目あたりからギア入ってた。
9 :名無し視聴者
「量としては、かなり控えめでしょう?」
↑ここで価値観が人類じゃないの確定した。
10 :名無し視聴者
あの台詞で空気一回死んだの笑った。
いや笑えねえけど。
11 :名無し視聴者
「食事中へ人の黒歴史を持ち込まないでちょうだい。消化に悪いでしょう」
↑これ本人じゃなきゃ出ない返しだろ。
12 :名無し視聴者
しかも返しが妙に上手いんだよな。
コミュ障が頑張って会話成立させてる感じが逆に生々しい。
13 :名無し視聴者
わかる。
全体にだるそうで眠そうなのに、食ってる時だけ急に生き生きするの何なんだろうな。
14 :名無し視聴者
食ってる時だけ本当に目が輝いてた。
たぶんそこだけが人生なんだと思う。
15 :名無し視聴者
大食い配信として見ると怪物。
人生として見ると悲哀。
総合すると珍獣。
16 :名無し視聴者
黒パーカー。
きれいな声。
妙な生活の湿り気。
大食い。
玉織紬の黒歴史に心当たりあり。
……もう役満だろ。
ペタ女、ほぼ玉織紬じゃん。
17 :名無し視聴者
生活の湿り気って言い方やめろ。
18 :名無し視聴者
でも分かるんだよ。
ちゃんと身綺麗にしようとはしてるのに、人生の端っこがちょっとだけ漏れてる感じ。
19 :名無し視聴者
しかも本人たぶん頑張ってるんだよな。
頑張って、あれ。
20 :名無し視聴者
やめろ。
21 :名無し視聴者
ちょっと応援したくなるだろ。
22 :名無し視聴者
でも絶対近くにはいたくない。
23 :名無し視聴者
同級生にも同僚にもなってほしくないけど、次の配信は見たい。
24 :名無し視聴者
放っておけない珍獣枠って言い方が一番しっくりくる。
25 :名無し視聴者
本人が見たら傷つきそうな評価やめろ。
26 :名無し視聴者
でもたぶん一番的確だろ。
27 :名無し視聴者
なんか娘というか子供ポジに見えてきた。
28 :名無し視聴者
俺らの子供ポジ紬ちゃん(26)。
29 :名無し視聴者
やめろ。
年齢が急に刺さる。
30 :名無し視聴者
玉織紬=この配信者=暴食さん、ほぼ確でいいと思う。
31 :名無し視聴者
心当たりの出し方が本人すぎる。
32 :名無し視聴者
コメントで「朔ちゃん呼んできていい?」って出た瞬間の
「やめなさい」
がガチすぎた。
33 :名無し視聴者
あそこだけ偽装全部剥がれてたよな。
34 :名無し視聴者
それまでの感じのいいお姉さんボイスが一瞬で消えて、
“本当に嫌なものへ本気の拒絶反応を出す人間”の声になってた。
35 :名無し視聴者
つまり妹ガチ怖いんだろうな……。
36 :名無し視聴者
朔ちゃん情報で、小学生相手にガキ大将やってたって見たぞ。
スイッチ2持ってれば小学生コミュニティの王様になれるって大喜びしてたらしい。
37 :名無し視聴者
マ?
38 :名無し視聴者
しかも金持ちの子供に「お菓子買って、お菓子買って」ってじたばたしてたとか。
アラサーが!?
39 :名無し視聴者
そのへんのエピソード出るたびに社不性が急に増して怖い。
40 :名無し視聴者
紬おばさんかわいいよクンカクンカハアハア。
41 :名無し視聴者
分かる。
42 :名無し視聴者
分かるじゃねえよ。
43 :名無し視聴者
でも実際、顔と声はかなり強いんだよな。
それで言動が終わってるから落差で変な人気出るタイプ。
44 :名無し視聴者
「感じのいい女」に見せようとしてる瞬間と、価値観が完全に暴食さんな瞬間の落差がひどい。
45 :名無し視聴者
そこが一番おもろい。
46 :名無し視聴者
しかも本人、自分ではかなり自然にできてると思ってそうなのがまた良い。
47 :名無し視聴者
計算したらペタマ20って十六キロ前後で草。
いや草じゃねえ、人間やめてる。
48 :名無し視聴者
しかも後半の十個一気食い、普通に怖かった。
カメラ早送り疑ったわ。
49 :名無し視聴者
十個残ってる状態から、コメント欄がざわついてる間に無くなってたからな。
意味が分からん。
50 :名無し視聴者
喉にワープ装置でもついてんのかって速度だった。
51 :名無し視聴者
見るだけでお腹いっぱいになるって都市伝説だと思ってたけど、普通に胸焼けした。
52 :名無し視聴者
話変わるけど【エリュシオンオンライン】でも暴食さん本体いなくても影響すげえらしいぞ。
53 :名無し視聴者
子紬やべえよ。
本体がログアウトしても食い荒らす。
食うほど強くなる。
倒しても別の子紬の腹から復活する。
あいつらのせいで【迷い人の大樹海】壊滅したって。
54 :名無し視聴者
割とかわいいから触れ合い(被食)しに行く奴らもいるって聞いて末期だと思った。
55 :名無し視聴者
末期すぎる。
56 :名無し視聴者
初期の倍くらい強くなってるらしいぞ。
普通の召喚物みたいにスキルレベル依存だけじゃなくて、別口で積むからシステム踏み倒してる。
57 :名無し視聴者
システムとして終わってる。
58 :名無し視聴者
そういや最高レベル今なんだっけ。
59 :名無し視聴者
ちょっと前までは勇者の70。
臨時イベントでダンジョンできてからは盗賊の120が最高。
今かなり育成早い。
60 :名無し視聴者
じゃあ暴食さんもそろそろダンジョン行くのか。
61 :名無し視聴者
人族領に来たら返り討ちにしてやるとか言ってる奴らいるけど、あいつに環境与えたら余計育つだけでは。
62 :名無し視聴者
それな。
弱者が多い場所ほど回復源が増える理屈だから、王都とか最悪だろ。
63 :名無し視聴者
そういや【ケイゴ】って配信者が、暴食さんに【万膳楼】の一週間食べ放題チケット渡したらしいんだよな。
64 :名無し視聴者
終わり終わり終わり終わり終わり。
65 :名無し視聴者
【万膳楼】終了のお知らせ。
66 :名無し視聴者
王都の料理系ギルドの本拠地じゃねえか。
何考えてんだケイゴ。
67 :名無し視聴者
いや本人は数字取れたから感謝してたし……。
68 :名無し視聴者
街が終わる。
69 :名無し視聴者
王都が食い荒らされる未来しか見えない。
70 :名無し視聴者
次何食うんだろうな。
ペタマ20でおやつ未満なら。
71 :名無し視聴者
業務用炊飯器ごと白米一気飲みとかやりそう。
72 :名無し視聴者
焼肉屋一軒まるごととかじゃね。
73 :名無し視聴者
回転寿司レーンの端から端まで制圧とかやりそう。
74 :名無し視聴者
ラーメン屋で寸胴いく可能性ある。
75 :名無し視聴者
ケーキバイキングで棚ごと消えそう。
76 :名無し視聴者
なんかやたら強いサキュバスのプレイヤーが闘技場荒らしてるって話もあったな。
77 :名無し視聴者
あれ別件かと思ったけど、今の流れ見ると暴食さん周辺どんどん変なの増えてない?
78 :名無し視聴者
ゲーム側もプレイヤー側も煮詰まり方が怖い。
79 :名無し視聴者
でも結局みんな暴食さん好きじゃん。
80 :名無し視聴者
好きというか、観察対象として魅力が強すぎる。
81 :名無し視聴者
“善良でまともな人気者”じゃなくて、“絶対近寄りたくないのに目が離せないもの”として強い。
82 :名無し視聴者
ホラー映画のクリーチャー見ながら「次どう動くんだろ」ってなるのに近い。
83 :名無し視聴者
でもそのクリーチャーが、たまに妙に礼儀正しくて、なんか社会に馴染みたそうな雰囲気出してるのが余計に情緒を壊してくる。
84 :名無し視聴者
あれだろ。
見世物小屋の珍獣が、たまにすごく人間っぽい目をするやつ。
85 :名無し視聴者
表現は最悪だけど分かる。
86 :名無し視聴者
本人が見たら傷つくぞ。
87 :名無し視聴者
でもあいつ、たぶんちゃんと傷つくんだよな。
そこがまた厄介。
88 :名無し視聴者
完全無敵メンタルだったら、もう少し安心して嫌えた。
89 :名無し視聴者
嫌えないんだよな。
嫌なんだけど。
普通に怖いんだけど。
それでもちょっと応援したくなる瞬間がある。
90 :名無し視聴者
頑張って人間のふりしてるのに、どう頑張っても暴食さんなのが面白くて悲しい。
91 :名無し視聴者
そして食ってる時だけ本当に幸せそう。
92 :名無し視聴者
結論。
大食い配信者としては怪物。
人間として見ると悲哀。
ネットマスコットとしては珍獣。
ゲーム内では災害。
93 :名無し視聴者
全部合ってる。
94 :名無し視聴者
次配信あったら見る?
95 :名無し視聴者
見る。
96 :名無し視聴者
見る。
ただし妹を呼ぶコメントはやめてやれ。
あれだけは本当に命に関わる空気だった。
97 :名無し視聴者
分かる。
98 :名無し視聴者
姉は珍獣にして害獣。
妹は害獣駆除業者。
この認識でだいたい合ってる。
99 :名無し視聴者
やめろ。
的確すぎる。
100 :名無し視聴者
でも、ほぼ玉織紬で決まりだとしても――
次の配信があったら、たぶんまた見るわ。
◇
総理大臣官邸、地下深く。
特別防空壕を改修して設けられた極秘会議室には、いつものように、煙草の匂いとコーヒーの苦味と、国家規模の胃痛が充満していた。
そこへ集められているのは、政権中枢と、治安・防衛・情報を担うごく一握りの責任者たち。
表の歴史を運営する側の人間たちが、表へ出せない現実を前にして、揃って苦い顔をしている。
会議室中央の大型モニターには、国内外の匿名掲示板、動画サイト、切り抜き拡散アカウント、監視対象SNSのトレンド推移が、何十枚もの窓に分かれて並んでいた。
どれもこれも、同じ方向を指している。
【接続案件】。
そして、その前兆とみられる【特別テスター】の捜索。
「……隠蔽が、もう厳しいな」
総理が短く言った。
誰も否定しなかった。
できるはずがない。
これまで第五接続【羽化】の前兆については、超常現象という決定打を避ける形で、辛うじて“偶発事故”“違法薬物”“錯乱行動”“映像加工”“集団ヒステリー”として押し流してきた。
だが、さすがに件数が増えすぎている。
指先から火を出した青年。
数秒で傷を消した女。
暗所で異常な視力を示した男。
鉄格子を曲げた未成年。
高所から転落して軽傷で済んだ、特別テスター疑惑のある複数の被観測者。
それら一つ一つなら、まだ誤魔化せる。
だが、世界中のVRMMO、それも【特別テスター】という共通項を持つ一群がその影響を受けているとなれば、話は別だった。
「繰り返しますが、これはゲーム内だけの狂騒ではありません。笑い話だというプロトコルもすぐに剥がれます。」
内調室長が、淡々と告げた。
「笑い話として処理されているうちは、まだマシか」
防衛大臣が低く言った。
「ええ。問題は、その“笑い話”の中へ、本物が混ざっていることです」
警備局長が、手元の分厚いファイルを開いた。
そこには、すでに国内で確認された複数の接続疑惑事案が、写真と報告書付きで綴じ込まれている。
「一番分かりやすい例からいきましょう」
モニターが切り替わる。
映し出されたのは、数日前の都内某所。
厳重な封鎖線の向こう、警官隊とSAT、自衛隊の一部部隊まで動員されて包囲された、ひとりの男の映像だった。
年齢二十代前半。
職歴不安定。
借金あり。
前科は軽微な窃盗と強盗未遂。
人間としては、どこにでもいる小物。
だが、その男は【特別テスター】として、ゲーム内職業【盗賊】の特性を、現実へ持ち込んでいた。
「国内確認済み、接続疑惑事案の一つ。【盗賊】系特別テスターです」
警備局長が説明を始めた。
「ゲーム内スキル【武装解除】が現実で発現。対象の“装備”として認識されたものへ干渉し、装着・装備状態を強制的に解除する能力を持っていました。確認された範囲では、拳銃、小銃、警棒、防弾ベスト、手錠、簡易電子ロック、金庫扉の施錠機構、果ては車両ドアのロックまで“解除”しています」
会議室の空気が、一段冷えた。
「……金庫もか」
「はい。金融機関の小型金庫、警備会社の現金輸送ボックス、個人宅の耐火金庫。構造を理解していたとは思えません。にもかかわらず、“装備”として触れた瞬間、施錠機能だけが無効化されていた。物理的破壊痕はありません」
自衛隊の高官が苦々しく言った。
「しかも、奴自身の身体能力も上がっていた。人とは思えないほどに。現場報告では、隊員があいつへ照準をつけて前進した途端、手をかざされただけで小銃がすっぽ抜けるように落ちたとある。あれは理不尽だ。ゴリラ相手に、いきなり素手で戦えと言われるようなものだ」
別の資料が表示される。
短距離加速。跳躍。異常な反応速度。拘束回避。
「単なる窃盗犯なら、警官三人で十分だったでしょう。だが、【特別テスター】だったせいで、捕縛に異常な手間を食いました。特殊部隊が取りついても装備を剥がされる。盾も無力化。テイザーも外す。格闘へ持ち込まれれば、相手は“怪物の身体能力を持った成人男性”です。現場の報告書は総じて同じ結論でした。“こんなものと素手でやり合うのは理不尽だ”と」
総理が眉間を押さえた。
「それで、どうやって押さえた」
「近代麻酔銃です」
警備局長は即答した。
「【武装解除】の有効射程より、こちらの麻酔銃の方が長かった。単純な話です。自衛隊と警察の前衛が装備を剥がされながら時間を稼ぎ、その外側から麻酔弾を複数発撃ち込んで制圧した」
「結局、射程の暴力か」
「はい。神秘が中途半端に現実へ漏れた段階では、まだ近代兵器の方が強い。それ自体は、かろうじて救いです」
しかし、と警備局長は続けた。
「それは“今は”の話です。ゲームである以上、特別テスターたちは育つ。スキルも伸びる。職業相性も広がる。ダンジョン実装により育成効率が上がった現状では、こちらの優位がいつまで持つか分からない」
モニターの端に、別の映像が並んだ。
スマホ撮影のブレた動画。
警官の拳銃が落ちる瞬間。
自衛隊員の小銃が手から弾かれる瞬間。
金庫の扉が、壊れたわけでもないのに勝手に開く瞬間。
「これらの映像は、もう抑えきれていません」
内調室長が、苦い声で言った。
「一部は回収しましたが、転載、切り抜き、再編集が早すぎる。現在は“巧妙なフェイク”“AI動画”“宣伝用バズ”として受け流されていますが、それもいつまで持つか」
総理は、しばらく黙って画面を見ていた。
それから、静かに問うた。
「で、日本国内の【特別テスター】候補は」
会議室の空気が、わずかに変わった。
内調室長が新しいリストを表示する。
ぼかし入りの写真。
イニシャル。
推定接続率。
危険度。
監視優先度。
「現時点で“高確率”判定が数名。“ほぼ確定”が二名。うち一名は、先ほどの【盗賊】系被拘束者です。もう一人が――」
画面が切り替わる。
黒いパーカー。
引きつったようでいて、妙に整った笑み。
コンビニ袋。
回転寿司店の防犯カメラ切り抜き。
ラーメン店のレシート。
動画配信サイトのスクリーンショット。
そして、エリュシオンオンライン内で血まみれの口元をしている、黒髪の女の画像。
「玉織紬。二十六歳。無職。対人関係および就労継続能力に重度の問題あり。生活面は実家依存。ただし、現実側での異常食欲、異常消化、異常筋力、異常回復傾向、ゲーム内行動との一致率を総合すると、特別テスターである可能性は極めて高い。……いえ、実質、確定でいいでしょう」
誰かが、資料をめくる手を止めた。
「ただの人間が、ペタマックス二十個を“おやつ未満”扱いするはずがありません」
警備局長が、身も蓋もない結論を口にした。
「動画だけなら演出や編集も疑えます。だが、現実店舗のレシート、複数店の証言、配信上の摂食速度、ゲーム内ビルドとの一致。全部を合わせれば、さすがに偶然では済まない。別配信似て玉織家、三女、玉織朔が奴の食費は月間240万と言っていましたが、接続も抜きにそんな人間いるわけないので誇張でしょう。」
「うむ……よりによって、飯で確定されたか」
防衛大臣が低く呻いた。
「ええ。しかも厄介なのは、彼女の“背景”です」
モニターへ、新しい文字列が表示される。
日本国公安最高戦力――玉織龍の実妹。
人類最強【勇者】河村澪の幼馴染。
禁忌指定一家【玉織家】の一角。
「……玉織龍と同じ遺伝子とか、嫌な冗談だな」
統幕の将官が、半ば本気で顔をしかめた。
「冗談なら良かったのですが」
警備局長は、こめかみを押さえた。
「国際接続対策会議の場では、他国の手前、“日本が保有する特級エージェントの一人”として紹介せざるを得ませんでした。ですが、実態を知る立場から言わせてもらえば、あれは――」
そこで、彼はほんの一瞬、言葉を切った。
会議室の数名が、微妙に視線を逸らした。
知っている人間だけが知っている、触れてはいけない方向の真実がある顔だった。
「……馬鹿中の馬鹿で、クズ中のクズです」
総理が、静かに目を閉じた。
警備局長は構わず続けた。
「前回の国際会議では“冷徹にして忠実な神秘対策エージェント”みたいな顔で出しましたが、実際のところ、四十股をかまして報復に男性器を切り落とされ、それを泣きながら川沿いに追いかけ、最終的に海へ流れ着いた自分の男性器が未知の病気で魚を浮かせたのを見て、“僕のせいで罪のない命が”と衝動的に切腹してICU入りした、救いようのない馬鹿です」
沈黙。
重い沈黙。
とても総理官邸の地下で交わされる説明とは思えない内容だった。
「……本当に、その説明を今しなきゃいけないのか」
総理が、疲れ切った声で言った。
「いえ。しなくていいなら私もしたくありませんでした」
警備局長は即答した。
「ただ、玉織龍を語る上で、“公安最高戦力だから安心”という幻想だけは、先に破壊しておく必要があります。奴は戦力としては超一流ですが、精神構造が全体的に終わっています」
内調室長が、ひとつ咳払いした。
「……河村澪は?」
「第四接続【魔王】事案における単独撃破個体――通称【勇者】です。間違いなくこの世における最強生物ですが、現在連絡は取れません」
「分かった。もういい。胃が痛い」
総理が本気で言った。
だが、会議は止まらない。
「問題は、玉織紬をどう扱うかです」
警備局長がファイルを閉じた。
「現状、彼女は国家へ敵対する意図を持っているわけではない。思想的にも、組織的にも、反政府方向の敵ではありません。ただし、社会性に難があり、衝動と空腹で行動しやすく、ゲーム内ではすでに対人捕食ビルドとして高い危険性を示している。放置して成長させれば、現実側でも“偶発的な災害”になりかねません」
彼は言葉を選ぶように、一拍置いた。
「彼女は、明確な悪意をもって国家を壊すタイプではない。
支配欲でもない。
復讐心でもない。
ただ、腹が減ると、喰う。
そのうえ、社会性が壊れているせいで、どこまで被害が広がるか本人にも読めない。そこが一番厄介です」
「確保は?」
「下策です」
即答だった。
「現時点での確保は、玉織龍、玉織結、河村澪という周辺危険人物の反応を誘発するリスクが高すぎる。しかも本人はまだ、国家の敵ではない。ならば接触して、観察し、導線を作り、最低限こちらの“窓口”を持つべきです」
「誰を出す」
総理の問いに、警備局長は一枚の資料を取り出した。
若い男。
切れ長の目。
余計な装飾のないスーツ姿。
経歴欄は優秀そのもの。
そして備考欄には、珍しくまともな文字が並んでいた。
「村山玲。公安所属。接続案件対策補佐官。現場経験あり。対人交渉、危機判断、心理耐性ともに高水準。過去の接続疑惑案件でも、刺激しなければ危険化しない対象を、無理に拘束せず会話で回収した実績があります。何より――」
警備局長は、そこで少しだけ表情を緩めた。
「――良心と常識があります」
会議室の何人かが、思わず同意の意味で頷いた。
この案件において、良心と常識が“能力欄”へ書かれるのは、だいぶ終わっている証拠だった。
「彼へ任せます」
「玉織紬へ接触しろ、と?」
「はい。監視対象としてではなく、保護対象としてでもなく、“自然な接点を持ったプレイヤー”として近づく。まずは同じゲームを遊ぶ、感じのいい知人の一人として認識させるべきです。追い詰めず、刺激せず、だが逃がさず。保護も確保も、そのあとでいい」
警備局長は真顔で追加の注意点を口にした。
「彼女は空腹時、判断能力より食欲が前に出る傾向があります。交渉以前の問題になる可能性が高い。腹を満たした状態の時を狙って接触させるのが望ましいでしょう」
「……分かった。呼べ」
総理の短い言葉とともに、会議室の脇に控えていた職員が、無言で頷いて扉の向こうへ消えた。
しばしの後。
厚い扉が、静かに開く。
入ってきた男は、姿勢がよく、歩幅も一定で、余計な気負いがまるでなかった。
公安の人間特有の、感情をよく研いで隠した顔。
ただし、その奥にはまだ、壊れ切っていない人間らしい温度が残っている。
「公安部特別事案対策補佐、村山玲です。お呼びとのことですが」
警備局長が、手短に告げた。
「よく来てくれた。君に求めるのは一つだ。玉織紬へ接触しろ。監視でも拘束でもない。まずは、同じゲームを遊ぶ友人の一人としてだ」
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