↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつけと呼ばれた国人三男、弓と算術で室町を制す  作者: みぎみみ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
24/30

第24話 「南の山道」

翌朝、地図を広げた。



雪乃が書庫から引っ張り出してきた古い測量図だった。城の南側が描かれていた。山の等高線が細かく入っていた。



三郎は地図を見た。



南の山は急峻だった。普通の道はない。ただし一か所、谷筋に沿って細い線が引かれていた。



「これは何だ」



雪乃が覗き込んだ。



「炭焼きの道、と書いてあります。昔、この山で炭を焼いていたときに使っていた道かと」



「幅は」



「地図からは……一人通れる程度ではないでしょうか」



「人は通れる。馬は無理だ」



「大軍では動けませんね」



「大軍は無理だ。ただし少人数の奇襲なら」



雪乃の顔が少し青くなった。



「……赤松が、その道を知っていたとしたら」



「知っているかどうか分からない。ただし、知ろうとする可能性はある」



「どうすればいいですか」



三郎は地図から顔を上げた。



「源蔵を呼んでくれ」






◆






源蔵は地図を一目見て、顎に手をやった。



「炭焼きの道か。知ってるぞ」



「入ったことがあるか」



「一度だけ。細い。荷は持てない。暗い。ただし城の南に出られる」



「出口はどこだ」



「城から二十間ほど南の崖下だ。そこから城壁まで、遮蔽物がない」



「二十間か」



「奇襲するには距離がある。ただし夜に動けば、見張りに気づかれる前に近づける」



三郎は地図を指で叩いた。



「この道に罠を仕掛けられるか」



「罠、というのは」



「通った者が自分で気づかずに引っかかるものだ。落とし穴でも、縄でも、音が出るものでもいい」



源蔵が少し考えた。



「音が出るものが一番いいな。気づかれる前に倒したいなら落とし穴だが、傷つけすぎると捕虜として使えなくなる。音が出れば、こちらが先に気づける」



「竹を並べてもいい。踏めば音が出る」



「それは藤吉の仕事だな」



「頼む。今日中に仕掛けてくれ」



「分かった」



源蔵が出ていった。



雪乃が三郎の横で帳面に書いていた。



「三郎様、南の道に罠を仕掛けることで、赤松が来てくれることを期待していますか」



「来るとは限らない。ただし来た場合の準備をしておく」



「来なかった場合は」



「損はない」



「来た場合は」



「捕まえる」



雪乃が筆を止めた。



「……赤松本人を、ですか」



「捕まえられれば、交渉の材料が増える。捕まえられなくても、迎撃できれば南からの脅威が消える」



「赤松が捕虜になれば、赤松の軍は」



「動けなくなる。指揮官のいない軍は崩れる」



雪乃は帳面を見たまま、しばらく何も書かなかった。



「三郎様は……最初からそこまで見えていたのですか」



「見えていたわけではない。南の道に気づいたのは昨日だ」



「昨日気づいて、今日には罠の手配まで」



「気づいたら動く。それだけだ」



雪乃が帳面を閉じた。






◆






その日の午後、赤松の陣では梶原が南の地図を広げていた。



道空が横から覗き込んでいた。



「炭焼きの道があります。細いですが、城の南に出られます」



「何人通れる」



「一列で通れば、五十名は」



「馬は」



「無理です。歩きのみです」



道空は地図を見た。



攻め口として使えるかどうか。問題は城についてからだった。城壁まで二十間の開けた場所を、見張りに気づかれずに突っ切れるかどうか。



「夜に動けば」



「夜は月があります。雲が出なければ、それなりに明るい」



「雲待ちか」



「三日後に月が陰ると聞いています」



道空は腕を組んだ。



(三日後、南の山を五十名で抜けて、城の南壁を一気に登る)



正面からは来られない。法円寺が手を引きかけている。時間がない。



だが一か所だけ穴があれば、それで十分だった。



「三日後、夜に動く。炭焼きの道の入り口で合流する。誰にも話すな」



「御意」



梶原が地図を畳んだ。



道空は天幕の外を見た。



南の山の稜線が、遠くに黒く見えた。



(小僧よ、北ばかり見ていろ)






◆






大内城、同じ夕刻。



藤吉が南の山道から戻ってきた。



「三郎様、仕掛けてきました。道の三か所に竹を並べました。踏めば音が出ます。それと、道の真ん中に細い縄を張りました。足に引っかかれば気づきます」



「出口の崖下はどうだ」



「崖下も竹を一列。暗くて見えにくいところに置いてきました」



「見張りを一名、崖の上に置けるか。音がしたら知らせる役だ」



「できます。ただし夜通しは辛い」



「交代で二名出してくれ」



「分かりました」



藤吉が出た。



三郎は左近に向き直った。



「三日以内に南から動きがある可能性がある。見張りを増やした上で、すぐに動ける者を二十名、南の内壁に待機させろ」



「南の内壁に……三郎様、赤松自身が動くとお考えですか」



「動くとしたら道空だ。梶原のような男は奇策を取らない」



「赤松は、大将自ら夜に山道を歩くような方ですか」



「追い詰められた武将は自分で動く。道空は逃げる男ではない」



左近がしばらく三郎を見た。



「……もし赤松を捕らえられれば、この戦は終わりますか」



「終わる可能性が高い。ただし法円寺が別の手を打ってくる可能性もある」



「法円寺は」



「道乗から返事が来るのが先か、道空が動くのが先か。どちらになるかで次が変わる」



左近は深く息を吸った。



「三郎様は……すべてを同時に動かしておられますね」



「動かしているのではない。動いているものを見ているだけだ」



左近は何か言いかけて、やめた。



三郎は窓の外を見た。



南の山は、今日も暗く静かだった。



三日後の夜まで、あと三日ある。



第24話 了


励みになりますので、高評価ブックマークをよろしくお願いします。


毎日20:30に更新します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。