第4話 「飛び込み依頼」
「ただいま戻りました。」
俺はいつものように受付嬢に配達の依頼が完了したことを報告する。
「お帰りなさい、ラインさん。受領報告、お預かりしますね。」
「よろしくお願いします。」
最初の依頼から、しばらく時間が経った。
俺は何件かの配達をこなし、日々の生活費を稼ぎながら、新しい生活を満喫していた。
「ではこちらが、今回の報酬となります。ご確認ください。」
窓口より支払われた金額は銀貨2枚。
「ありがとうございます。助かります。」
冒険者の報酬としては決して多くはない。
むしろ少ないぐらいだろう。
「ラインさんが冒険者として配達を引き受けてくれているおかげで、今まで滞っていた配達依頼が徐々に減ってきていてこちらとしても助かっています。」
そう言って受付嬢は満面の笑みを見せてくれる。
「そうなんですか?」
「はい!それにラインさんの依頼は今まで一度も失敗していないどころか、依頼主さんからの評判も良いんですよ!」
「はあ……。俺は特別なことはしてないつもりですが。」
「それに時折ラインさんが配達の片手間で持ってきてくださる薬草類にも助かっています!」
「あはは。俺としては生活費の足しになればと思っているくらいなんですけどね。」
俺は公爵家での勉強として、遠征先で怪我や病気をした際の応急処置法や薬草の知識などを一通り学んでいる。
なので冒険者ギルドに常時張り出され買取依頼が出されている程度の薬草であれば見分けて回収することができた。
それを決して多くはない配達報酬の足しにして生計を立てている。
そんな話を受付嬢としていると背後から声が飛んできた。
「おい!配達人 !!」
戦闘系の依頼を受けている冒険者たちだった。
冒険者となってから配達の依頼ばかり受けていたことから、『配達人』と呼ばれるようになっていた。
俺はその嬉しさのあまり顔をニヨニヨと緩ませてしまった。
「いやあ、配達人 だなんて光栄だなあ。」
「「「褒めてねえよ!」」」
俺の言葉を聞いた冒険者たちが一斉にツッコミを入れる。
更には俺の緩んだ顔を見た受付嬢も若干引いているように思えた。
気を取り直して俺はいつものように配達依頼が集中して貼り出されている依頼板を見る。
次の配送依頼を検討するためだ。
「うーん。これはだめだな。こっちは要検討かな?お、これは問題なさそうだな。」
などと独り言を言いながら依頼を確認していると、それを見た受付嬢に疑問を投げかけられた。
「ラインさんはよくそうやって時間をかけて依頼を確認しているようですが、どうしてですか?」
「え?」
どうやら受付嬢はラインの成功率の高さからこうした行動が不思議であるようだ。
だがそれは俺にしてみれば必要なことだった。
「確かに。どれもこれも受けられれば良いんですけどね。ですが俺にも能力的な限界がありますから。」
「なるほど……。」
俺は万能や超人ではない。
ただの配達人だ。
身体的能力や、装備、収納力、そして運搬力に限界がある。
それを客観的に見極め、自身で可能な配送を選ぶことにしていた。
そんなことを話しながら依頼板を眺めていると慌てた様子の老人がギルド内に入ってきた。
「ん?」
俺は一瞬気を取られるが、ギルドではこういった場面は日常茶飯時だ。
それにこういった場合、俺には関係がないことが多い。
なので気にせず俺は依頼板を見続けていると老人の対応をしていた受付嬢より名を呼ばれた。
「ラインさん、少々よろしいでしょうか?」
「?」
思わず『俺?』と指を自分に向け、首をかしげた。
受付嬢と老人が座る席まで移動すると老人が話しかけてきた。
「おお!お主が噂に聞く優秀な配達人か!」
「え?どこでそんな話を?」
「ミーギ村のハイツじゃよ。」
「ああ、ハイツさんか。ですが優秀だなんて……そんなこと言ってたんです?」
「ああ、話は聞いている。」
「まあ、良いです。それで俺に話とは?」
「私はランガーオ村からやってきたものだ。急ぎでとあるものを運んでくれる冒険者を探している。」
「うーん。まあ、話だけでも聞きましょうか。」
「おお!やってくれるか!?」
俺の言葉に興奮した老人がそう聞き返すが俺は冷静に返答する。
「やるかどうかは内容次第です。それ次第では俺は最初から受けませんよ。」
「なんだと……?もしや金の問題か?」
「いえ、俺が欲しいのは『情報』です。『どこから』・『何を』・『どこまで』届けるのか。それと付随する補足事項を知りたいです。話はそれを聞いてからになります。」
「そ、そうか。実はな、我々の住む村では毎年、山の恵みを守ってくれている、山の主様に感謝をお伝えし来年もまたよろしくお願いしますという気持ちを込めてその恵みの一部を山の主様へ届ける風習があるのだ。」
「なるほど。いわゆる土着信仰のようなものですね。」
「そうだ。だが、毎年その役を担っている狩人がこのタイミングで怪我をしてしまい、代わりを務める者がいないのだ。」
「ふむ……。」
「代わりの者もいなかったところ、お主の話をハイツから聞いたものでな。」
「荷はなんですか?」
「大きめの荷鞄に詰めた諸々の食材だ。」
「それを村から山の主が暮らす山の中まで?」
「そうなる。」
「道中魔物などは?」
「それはほぼないと思ってもらって良い。それらの魔物を間引いてくれているのが、山の主様だからだ。」
「なるほど。ちなみに料金は?」
「銀貨5枚だ。」
「……。確かにそれでは緊急という割に他の冒険者たちは動かないでしょうね……。」
「そこをなんとか!頼む!」
「いいですよ。」
「……え?」
「だから受けますと言ったんですが。道中は山道のようですが魔物は山の主が間引いてくれているようですし、狩人が一人で背負える程度の荷物量なんですよね?であれば問題はないかと思います。」
それを聞いた依頼主の老人はガバっと俺の手を握る。
「助かる!!」
「では、正式に依頼として受領しますので少々お待ちくださいね。」
そう言って笑顔を浮かべた受付嬢が手続きを進めてくれ、正式に依頼受領となる。
「改めて私はランガーオ村のダバンという。よろしく頼む!」
「鉄級冒険者のラインです。お願いしますね。それでランガーオ村までは?」
「ああ、それは私の乗ってきた馬車で向かう。」
「なるほど。では問題がなければ向かいましょうか。」
俺はダバンがここまで乗ってきたという馬車に乗り込みランガーオ村を目指すことになる。
ランガーオ村までは馬車で片道3日と言ったところだ。
ダバンはあまりこうした旅に慣れていないのか道中で水場の確保や馬の休息、野営の場所等に若干の不安を抱いていたため、俺の知識内でフォローすることにした。
「鉄級とはいうがライン、お主旅慣れしてるではないか?」
「ああ、まあ。旅慣れというか知識だけで実戦経験は乏しいので今それを実体験しているの方が正確かもしれないですね。」
「そうなのか?」
意外そうな顔をダバンはする。
「ええ。馬車なんて久しぶりに乗ったのでお尻が取れるんじゃないかって思うくらいですよ。」
俺はガタガタに揺れる馬車でお尻が痛くてしょうがなかった。
「わはは。それは慣れるしかないな。」
ダバンは大笑いする。
俺はその時閃いた。
身体強化でお尻を強化すれば多少痛みを軽減できるのでは?
それを閃いてから実戦するまでは早かった。
「おお。これはいいや。」
「どうかしたのか?」
「ああ、いやこちらのことです。」
あはは、と笑いながら気をそらす。
予定していた三日が経とうとする頃、ダバンから声がかかる。
「見えてきたぞ!あれが我々の村、『ランガーオ村』だ!」
さて、ではお仕事といきましょうか。




