第17話 「旅立ち」
結局私は何もすることが出来なかった。
近衛騎士として誓いを立て、身を賭して守り抜くと誓った彼女を傷つけてしまった。
私は……、近衛騎士失格だ。
「エレノア様、アーサー様。間もなく城に到着いたします。」
私が後悔の念で潰されそうになっていると御者から声がかかった。
「はい。ありがとう。」
エレノア様は先程まで意識を失っていたが、つい数分前に目を覚ました。
ぐっと拳を握りしめると、それを宥めるようにエレノア様がそっと手を添えた。
「エレノア様……!私は……!!」
私の言葉を遮るようにエレノア様は首を振る。
「まずは無事に帰ってこれたことに感謝しましょう。」
城に到着すると王自らがエレノア様の出迎えに上がる。
私はその場で跪き、頭を下げる。
「お父様!!」
「エレノア!!」
感激で涙を流しながら実父である王と抱き合い、喜び合う二人。
「さあ、エレノア。治癒師を待たせておる。治療を受けしばし休むと良い。」
「でしたら、アーサーも……。」
そう言いかけたところで王が遮る。
「ならぬ。やつは近衛としての責務を果たせず結果としてこのような事態を招いた。当然だが近衛としての任を解く。」
その言葉にエレノア様は愕然としているが、自身としては納得だし、それ以上のことも覚悟している。
「さあ、行くぞ。エレノア。」
王に連れて行かれたエレノア様はそれ以上の言葉は残さず、視線を私に向けるだけであった。
二人が移動すると、横で控えてきた近衛騎士団長でもある父が私に声を掛けた。
「失態だったな。」
「……はい。」
エレノア様は王女の身でありながら平民の暮らしに強い関心を持ち供を私一人だけにして外出することが頻繁にあった。
年頃の娘と男性騎士の二人だけで外出するというだけでもかなり危ういがそれ以上に警護の面でも非常に危うかった。
私は常々それを警告していたが、エレノア様が王女としての権限を使って、それを実行に移していた。
「お前の今後の処遇は、軍法会議に掛けられる可能性も十分にある。」
「心得ております。」
「よって処遇が決まるまでの間、一時拘束処分とする。」
「はっ。……騎士団長、いえ父上。」
「……なんだ?」
「エレノア様と私の救助に参加した冒険者についてです。」
「うん?」
「最後に私たちを移送したのは『ライン』です。」
「なんだと……!?」
明らかに父の顔に動揺が見られる。
その反応を見る限り、父も知らなかった情報なのだろう。
「……。わかった。その話は拘束期間中に報告書で私に。わかっているとは思うがこれは秘匿事項だ。」
「御意。」
こうして私はしばらくの間その身を拘束されることとなり、冒険者ラインの情報は近衛騎士団長の父の命により秘匿で内偵調査が行われる運びとなった。
合同依頼達成から数日後
「な、なんで俺がこんな事しなきゃいけないんです!?」
俺は事前準備として木工ギルド及び果物屋に依頼した分の料金についてケリーを中心にこってり絞られ、ちょうど配達の仕事がないこともあり、懲罰的な意味で掃除をさせられていた。
「馬鹿だなお前、相手も考えずにふっかけるからそういう目に合うんだ!」
「いい勉強になったな。だーっはっはっは!」
そう言って酒を煽りながら喧嘩を売ってくるのは合同依頼で一緒になった銀級パーティの面々だ。
報酬金は最終的に仕事に応じての分配ということになったが、それでも破格の金額であった。
銀級パーティの面々はその金で早速酒と食い物で散財している。
そして、その報酬金は当然俺にも支払われたが、なんとその額、金貨三枚。
銀貨三枚ではない。金貨三枚だ。
ゲイルはそれでも少ないと、ケリーに進言したがケリーが独断で決定しこの金額になった上、俺は配達の仕事が来るまで、最低一週間はギルド内の掃除が言い渡された。
「ぐーぬぬぬ!!何故こうなった……!!」
俺がそう言い悔しがっていると後ろから声がかかる。
「配達でーす。受け取りをお願いします。」
「はーい。」
通常の配達が届き、その声を聞いた受付嬢が冒険者ギルド宛の荷物を受領する。
いつもは届ける側だったので改めてこの世界での配達のやり取りを見て不思議な感覚になる。
受付嬢は受け取った荷物の宛名を見てとんでもない速さで仕分けしていく。
だがそれも、一つの包みを見て手が止まる。
「うん……?どうかされたんですか?」
「ああ、いえ。これ宛名が配達人様へってなっているの。」
「え?」
「このギルドで配達人って言ったらラインさんだよねえ?」
受付嬢がさも当然だという雰囲気で俺にその包みを渡してきた。
「はぁ……。お預かりしますね。」
掃除用具を立てかけ、手渡された包みを手に取る。
「配達人が配達されてちゃ、世話ねえな!?」
「がーっはっはっはっは!」
そう言い笑い転げる冒険者たち。
「うるさいよ!酔っ払い共!!」
俺はうがーっと怒りをぶつける。
「ラインにはいたつー?」
今まで呑気に受付嬢たちと遊んでいたグラミがすっ飛んできて俺の頭に乗る。
「おまえな……。まあいいや……。」
俺はその届いた包みを丁寧に開ける。
これも一種の職業病だろうか。
そして中から出てきたのは一冊の手帳のようだった。
「うん……?なんだこれ?手帳?」
俺は自分とはおおよそ無縁の物が届いたことで、誤配送かと思った。
だが、一応ひっくり返してみると――一気に心臓が高鳴った。
『配達人リーニュ』
そこには母さんの名が記されており、しかも配達人と書かれている。
以前、母さんが平民の配達人だったことは聞いていた。
だが何だってこんな物が俺に?
ドクンドクンと心臓の音がうるさい。
俺は落ち着くため、誰にも見られないように部屋の隅に移動し着席した後、それを開く。
中身を見ればそれは間違いなく母さんの字で埋め尽くされているのが分かる。
そして内容はというと、母さんが世界を旅し、『配達』という仕事に情熱を注ぎ配達人として歩んできた歴史書のようだった。
俺はそれを見た瞬間自然と涙が溢れ落ちる。
「ライン?どうした?おなかでもいたいのか?」
俺は涙を腕でぐいっと拭いながら答える。
「ううん。違うんだ……。」
俺は涙で手帳を汚さないように慎重にページをめくる。
内容は詳細なものではなかった。
だが、そこには自身が配達人として届けた想い、感謝の言葉、自分の目で見た『世界』が描かれていた。
俺は途中まで読み進め、パタリとその手帳を閉じ席を立つ。
そして依頼掲示板の前に立ち、一枚の依頼票を手に取る。
それは今まで自分の力では届けられないと感じていた遥か遠方への依頼であった。
俺はその依頼書を受付嬢に渡す。
「ライン君、これって……!」
「はい。是非、受けさせてください。」
その依頼は正式に受領され、俺は数日の準備期間を経て出立する。
「さあ、行こうか。相棒。」
「れっつごー!」
俺とグラミは共に歩き出す。




