第16話 「救出」
「あん?なんだってこんなヘンテコなものを?」
俺が引いた設計図を見て、木工ギルドの男は疑問の声を上げた。
「まあ、仕事上で必要で。」
必要以上のことは伝えない。
どこで足を掬われるかわからないからだ。
「ああ、それと。」
俺は懐からまさしく『切り札』を取り出し木工ギルドの男に差し出す。
「……ここだけの話、協力してくれたら費用は全額冒険者ギルド持ちですから。毟るだけ毟り取ってやってください……!」
俺はにやりと笑い、半ば無理やり巻き込まれた今回の事案でケリーにむっときていた俺は小さな復讐をすることにした。
その言葉に木工ギルドの男も反応し、ケリーの一筆を見てにやりと笑い返す。
「そういうことなら仕方ねえなあ……!!」
二人は「ぐふふ」と悪い顔をし合い、そのまま依頼の話は終わった。
仕組み自体は非常に簡単なのですぐにできるとのこと。
なので俺はその間にたまに配達の手伝いをしている果物屋にも行き、必要量の果物が手に入るかを相談した。
「ええ!?そんなに必要なのかい?」
果物屋のおばちゃんは目を白黒させていた。
「はい。冒険者ギルドでちょっとした祝い事をするんです。サプライズなので、品物の移動は俺がします。 」
「結構な料金になるけど……。」
「ええ、それも問題はないです。冒険者ギルドには話が通っていますので冒険者ギルドで支払いをしてもらってください。」
「まあ、ラインちゃんの頼みだし、信用もしてるからそれで良いなら良いんだけど……。」
そういう果物屋のおばちゃんは金額が金額だけに表面上心配はしているが内心では笑みがこぼれている。
さて、後は荷馬車の確認だな。
冒険者ギルドが用意していた荷馬車は馬が二頭で、荷台部分が比較的大きめに作られているものだ。
今回運ぶ事になる容量や重さを考えれば妥当なところだろう。
幸いなことにこれも幼い頃から徹底して受けた教育の中に馬の扱いというものが含まれていたので、馬の扱いには自信があった。
俺は馬たちを手入れし、木工ギルドで依頼した物と果物屋から入手したものを積載する。
そうして作戦決行の時を迎えた。
時刻は深夜。
漆黒があたりを支配した頃、俺達は動き出す。
目的の場所へ移動するまでの間にどうやら斥候と思しき者たちがいたがそれはミンが静かに片付けている。
そうして最終目的地である今回の救出対象が囚われている建物を見渡せる場所に到達する。
「あれか……。」
報告通りの建物でそれなりの大きさだ。
また、入り口付近では火が焚かれ建物が寂れているにも関わらず出入りしている男たちの数は多い。
そして全員が武装している。
耳を澄ませ男たちの会話を聞く。
「……やっぱりやっちまおうぜ!?」
「確かに!弱り始めてる今がチャンスってもんだ!!」
どうやら賊と思われる者たちは人質の男の方にやはり相当な恨みがあるらしくいつ爆発してもおかしくないような状況だった。
だが、ある意味ではこれは好機。
どうやら内部で意見が割れている。
ならば、この混乱に乗じて一気に制圧できる。
俺は作戦決行の合図を出し、各人が展開する。
ククルの風魔法を応用したもので火が一斉に消える。
その後、レイが俺達に身体強化を施し、夜目が利くようになり漆黒の中でも問題なく活動できるようになる。
賊たちはというと一斉に起きた変化に戸惑いを隠せない。
各自が剣を抜くものの見当違いの方向を向いている。
そこに盾役である俺が突撃し注意を引いた所でミンとククルによる局所的攻撃で確実に倒していった。
予想通りであるがその光景を耳で聞いたことで、パニックに陥った一部の者達は逃走を開始するもそれを銀級パーティの者たちが予定通り確実に仕留めていく。
建物は地上二階、地下一階の構造だったため、俺たちは二手に分かれる。
俺は対象が囚われている地下になだれ込み一気に対象の二人を捕捉するも、パニックに陥った男が豪商の娘に剣を抜き、脅してきた。
「だ、だれだてめえら!?一歩でも動いたらこの女を斬り殺す!!」
首筋にあてられた剣で若干の切り傷が付いたその時だった。
拘束されていたはずの護衛の男が後ろから男に飛びかかり剣を人質から離すと同時に縄で一気にその男を締め上げたかと思うと投げ飛ばす。
まともに受け身を取れない状態で投げ飛ばされた男は、部屋にあった机に文字通り頭から突き刺さる形となり行動不能になるが、護衛の男もまた、最後の力だったのだろう。
娘の安全を確認すると気絶する。
「……大したものだ。」
俺達は目的の二人を奪還したので用意していた布で二人を包み込み、銀級パーティとククル、レイを念のためこの場に残し一気に離脱することにする。
――しばらく後。
先に合流地点で待機していた俺は、音に気付いた。
俺は最大限の警戒を音がしてきた方向に向けるが、それはシーツにくるまれた人質を抱えてきたゲイルとミンだった。
どうやら無事に人質の救助に成功したらしい。
「お疲れ様です。」
俺がそう声をかけると人質となっていた二人を担いだゲイルとミンは挨拶を手短に済ませる。
「こちらに。」
俺自身、今回は時間が重要だと理解していたため挨拶はそこそこに、用意した木箱の中に入れるよう指示する。
今回木工ギルドで作成してもらったのは、普段商人などが利用する荷箱を四箱、二段に積み重ね、中をくり抜き人が男性でも若干屈めば入るくらいの大きさにしたものだ。
そして人が収容された後は中蓋を被せ、その上に購入した大量の果物を重ね入れる。
こうすることで外面上は縦二箱、横二箱、奥二箱の合計八箱で構成されているような荷箱に見えるというわけだ。
今回はこれを二つ用意し、一見すると合計で十六箱分の荷を運んでいるように見える。
十六箱というと実際かなりの荷であるが、依頼主である豪商の商会へ納入する荷という名目にすることで偽装した。
そして荷の偽装が完了した後はその荷台でグラミに居てもらうこととした。
名目上は見張りである。
それを見届けたゲイルは「ほう?」と短くも感嘆の声を漏らし、ミンは興味深そうに観察していた。
「では、確かにお荷物、お預かり致しました。行ってきますね。」
俺は二人にそう言い、早々にその場を離れる。
だが俺の荷馬車は決して焦らずむしろ若干ゆっくりなくらいだ。
その理由は二つ。
一つ目は今まで監禁という身体的、精神的な部分で過負荷が掛かっている状態の人間を再度荷に偽装するという手段を取ったためだ。
幸いにも今は二人はどうやら、気を失っている様子。
ゲイルさんが最後に、保険として睡眠導入剤を嗅がせておいたらしい。
そのほうが荷としても安定するし、少しでもゆっくりできるならそれに越したことはない。
二つ目は、焦るほど怪しい存在になるからだ。
日本で生活している時によくテレビの番組などで実録系の警察ものを好んで見ていた 。
その際によく起きていたのが軽微な交通違反からの重大な犯罪の発覚だ。
精神的にすでに犯罪を犯している人間は、軽微な違反など気にしないか、あるいは焦りから軽微な違反を犯すのだと、俺は持論として考えている。
これらを踏まえて、俺は焦らず確実に荷馬車を進めることとした。
しばらく進むと今回の逃走ルート上、どうしても避けられなかった場所がある。
それが常設の兵が駐屯している検問所だ。
荷馬車はその検問所まで進むと、当然だが兵より止められる。
「止まれ。検問である。」
「御者。荷は何だ?」
対応してきた兵は二人。
「こんばんは。ご苦労さまです。」
そう言いながら俺は荷馬車から降り、兵に挨拶する。
「随分と量の多い荷だな?」
「物は何だ?検めさせてもらうぞ。」
兵はそう言いながら荷の確認に行くため俺は進んで答える。
「ええ、どうぞ。今回の配送先はとある豪商宅でして。どうやら祝い事でもやるのか荷は全て果物や野菜などでして各農家から預かってきたものを配送中です。」
俺はそう言いながら最上段の蓋を幾つか開ける。
そこには果物が敷き詰められているのが見える。
当然中蓋で仕切っているため、最下段で配達している救助者の姿は見えない。
「なるほど……。確かに荷は申告どおりのようだ。」
「しかしなんだってまたこんな時間に?」
その質問を待ってましたと言わんばかりに首から四角鉄級の冒険者証を取り出す。
「あはは。本当に困りますよね。どうやらその依頼主さんがこだわりが強いようで……。通常の時間の収穫物では納得できないということで特別に農家に協力してもらい、こうして冒険者である俺が運ぶことになりまして。本当に金持ちの考えってわからないですよね……。」
俺はわざとらしく「はぁ……。」とため息を付く。
「なるほど、冒険者であったか。それはご苦労だったな。」
兵の一人がそう言ったときだった。
ガタタ
箱の方から音が聞こえた。
どうやら匿っている救助者が箱の中で動いたに違いない。
「なんだ!?」
そう言って二人の兵は構えるが俺はそれも想定済みであった。
「こらー。グラミ?何を暴れているんだ?」
俺が荷に向かい声をかけるとグラミが姿を現す。
「むー。僕はちゃんと『おしごと中』だぞー?」
グラミが姿を現したことで注目が一気に箱からグラミに変わる。
「しゃべる魔物!?」
「ああ、いや、俺の相棒で従魔のグラミです。訳あって喋ることができまして。今は配達人の相棒として、配達の手伝いをしてもらっていたところです。」
そう説明したところで兵の一人が気がついたように話す。
「配達人だって?じゃあ君が最近街で話題の配達人かい?」
「あはは。話題かどうかは知らないですが、配達人としてお仕事させていただいております。」
そう言いながら照れたように笑う。
「知っているのか?」
兵の一人が俺のことを知っている兵に話を振る。
「ああ、かなり名を聞くことが増えてきたな。」
俺はそれを聞き、久しぶりに、顔がによによしてしまう。
それを見た二人の兵は若干引いている。
「……あ、ゴホン!失礼しました。それで、俺は行ってもよろしいでしょうか?」
「あ、ああ……。問題はない。ただしこんな時間だ。くれぐれも気をつけるんだぞ。」
「ありがとうございます。夜分遅くまでご苦労さまです。」
俺はそう言い頭を下げ御者席に座り検問所を後にする。
しばらく道なりに進み、そしてある場所で道から逸れる。
それは依頼人側が用意し、指定してきた最終受け渡し地点だったからだ。
そこには明かりが暗くあまり視認はできなかったが馬車が1台と数名の男たちがいる。
問題はその男たちは帯剣しておりガタイもよく、市民に偽装していたが俺から見ればどう見ても先ほどの兵よりも上位の兵にしか見えなかった。
「止まれ。」
近づくと声がかかるので停車する。
俺は何も言わずに冒険者証と救助者引き渡しの際に使用するとされていた文章だけを手に両手を上げ無抵抗であることを示す。
「降りろ。」
その言葉に従い、降りた後それらを渡す。
「確かに。間違いありません。」
確認した後恐らく今回の指揮官であろう人間に声がかかる。
「それで?お二人は?」
「こちらです。手伝ってください。」
端的に説明し偽装箱に案内するとその一行も驚いたような表情をしている。
中蓋が外され、中から現れたのはシーツにくるまれた二人の姿。
シーツが若干はだけ、一人は若い女性であることを初めて確認した。
「眠っていますが命に別状はありません。」
問題はもう一人の方だった。
同じく箱から出てくるとシーツから出た顔が明かりに照らされ、顔を目視することができた。
「……え?」
その顔は、俺の異母兄弟で、最も仲の良かった兄――アーサー・アイゼンバッハ、その人だった。
アーサーは既に睡眠薬が切れているようで意識もある。
そして俺の方をちらりと向き、一瞬驚いた表情を浮かべた。
どうやら俺の勘違いではないと確証の持てる表情だったが本当にそれは一瞬のことだった。
だが俺は既にライン・アイゼンバッハではなく冒険者で配達人の『ライン』だ。
去りゆくその人に向かって一言だけ声をかける。
「ご無事で何よりでした。」
若干の沈黙の後返答がある。
「……感謝する。」
こうして無事、緊急合同依頼は終わりを迎えた。




