第15話 「怪しい依頼」
「ふむ。それで俺達『獅子の鬣』に指名の緊急依頼……か……。」
「そうなるな。」
『獅子の鬣』のリーダーであるゲイルは依頼内容を何度も確認し副ギルドマスターのケリーと話を詰めている。
急遽舞い込んだ指名依頼は破格の報酬であるが、なにか違和感のようなものが引っかかる。
「こんなに報酬がいい仕事はないのでは?」
「私もそう思いますが。」
『獅子の鬣』所属の魔法師ククルと治癒師のレイは何が疑問なのかと詰め寄る。
「確かに報酬は良い。むしろ良すぎるぐらいだ。」
そう、俺達は何度もこの手の救出依頼をこなしてきた。
だが、今回は明らかに報酬が『良すぎた』のだ。
それに依頼主から開示されている情報も、どこか曖昧だ。
これは何かがある。
俺の直感がそう囁いている。
チラリと横で壁に背を預け目を閉じ聞いているシーカーのミンはただ沈黙している。
「……。」
だが、長年連れ添ってきた仲だ。
俺には、その沈黙の奥でミンも同じ違和感を覚えていることが分かる。
「ふん。……正直なことを言えば私としても今回の指名依頼は断ってもいいと思っている。」
本来であればギルドの運営の中心となる副ギルドマスターのケリーですらそのように言う始末。
恐らくは形式上、依頼として受け付けただけで、実際に実行されるかまでは約束していないのだろう。
「だけど、これだけの報酬があれば僕は更に魔導書が買えてさらに強くなれるんだよ?」
一見真面目そうに見えるククルは、基本考えるということをしない。
「それに、困っている人がいるんですよね?助けるべきでは。」
元教会所属のシスターであるレイは、困っている人を見るとどうしても周りが見えなくなる。
俺は目を閉じ、現状の情報を整理し考える。
捕らえられた人間の数
その家柄
拉致された場所
そこから考えられる現在の監禁場所
そして相手にするであろう人数
それらを今回の依頼主から得た情報と、冒険者ギルドが現在把握している事実と照らし合わせる。
俺はゆっくりと目を開けミンに命じる。
「ミン……。」
俺はその名を呼んだだけだが、ミンは意図を理解したようでスゥっとその場から退席していった。
シーカーとして先行して情報を再度集め直すのだ。
「ふむ……。相変わらずお前は慎重だがお人好しだな。」
その様子を見たケリーは答える。
「だが考えなしであるつもりはない。今回の依頼だがミンが情報として何を持って帰ってくるか次第だが、俺たちだけではなく、他の冒険者にも力を借りるつもりだ。」
「であるなら、私としては即戦力となる奴らにそれとなく声はかけておく。」
「頼む。」
俺がケリーにそう言うとひらりと片手を上げてケリーは退室していった。
数時間ほどが経ち、ミンが確実な情報を入手し帰って来る。
現在の監禁場所、そこで確認されている人数、そしてその人間たちのおおよその属性だった。
どうやら立ち振る舞いや言動から察するに山賊か盗賊のそれに近い集団であることがわかる。
そして対象者は豪商の娘であり、同じく捕らえられている男は護衛だ。
捕らえられる際、護衛は身を挺して娘を守り、賊の数人を斬り殺したものの、多勢に無勢で捕縛されたようだ。
問題は捕らえた際に賊側に犠牲者が出てしまっていることから、護衛の男に対し怒りの模様が見て取れ、監禁場所はいつ血で染まるかもわからないような状態ということだった。
俺はこれらの情報を基に再度ケリーに声を掛ける。
ケリーは事態を把握した後、銀級の三人パーティを連れてきた。
「戦闘要員としてはこれで十分だろう。」
俺が作戦を伝えているとククルが不満そうな表情でまた馬鹿なことを言い出す。
「ええ?僕の魔法で監禁場所ごと爆破すれば良くない?」
「そんな事をしたら人質救出どころではなくなるだろう。いいから黙ってろ。」
「りょーかい、リーダー。」
戦力としては申し分ない。
直接的に監禁場所へ突入する主力部隊である俺達『獅子の鬣』。
その際、取りこぼした者が逃走しようとした場合には、銀級の三人パーティが対応する。
あと足りないとすれば……。
「移送役か……。」
俺がポツリと口にした瞬間だった。
丁度、ケリーに用があって部屋に入ってきた受付嬢が俺の言葉を聞き、提案をしてきた。
「それなら、ラインさんはどうです?」
「ライン?聞かない名だな。腕が立つのか?」
「いえ、残念ながら最近四角鉄級になったばかりの冒険者です。」
「は?」
俺は何かの聞き間違いかと思った。
今回の作戦の規模は、この部屋にいるメンバーを見れば受付嬢であっても理解できるはずだ。
それなのに四角鉄級になったばかりの冒険者だと?
だが俺の疑問に追い打ちをかけたのは副ギルドマスターのケリーだった。
「なるほど。配達人か。適任だな。今いるのか?」
「はい。相変わらずいつものように依頼票とにらめっこ中ですよ。」
受付嬢がクスクス笑いながら答える。
「連れてこい。」
ケリーが二つ返事で指示を出す。
「なっ!?おい!」
「安心しろ。そいつの腕は私が保証する。」
俺は滅多に人を評価しないケリーのその言葉に驚く。
そしてその後、ケリーから説明された配達人についての話を聞き、二度驚いた。
曰く、今まで主に配達の依頼を中心に活動し、実質戦闘系依頼なしで四角鉄級になった。
曰く、配送関係の依頼は現在完遂状態にあり、滞っていた配送系の依頼が片付き出した。
曰く、最近、錬金術副ギルドマスターから指名依頼を受けそれも完遂した。
街の人間からの評判も良く、思慮深いこともあって、鉄級の頃から配達人と半ば二つ名のようなものを付けられている。
「本当にそんなやつが……?」
「ああ、いる。お前が驚くのも無理はない。……久しぶりにお前のそんな顔を見た気がするな。」
そう言いケリーはニヤリと笑う。
「ラインさん、少しよろしいですか?」
「はい?なんでしょう?」
俺はいつものように依頼掲示板に貼り出されている依頼票を吟味していると受付嬢から声がかかった。
そうして理由もわからず付いて行った先の部屋では何人もの人物たちが手作りの地図を囲み話をしていた。
俺はアイゼンバッハの子として、幼い頃から戦闘訓練を積んできた。
親兄弟に至るまで、この国では守護神と呼ばれてもおかしくないほどの力を持つ者たちだ。
だからこそ、その場にいる者たちを見た瞬間、本能的に理解した。
ここは俺のいるべき場所ではない。
俺がそう思い、回れ右をするとケリーに頭をガシッと掴まれる。
「おい、配達人。まだ何も話はしていないだろう。」
「い、いや、部屋を間違えたようなので……。」
「間違いじゃない。配達人としてのお前の腕を見込んでの話だ。」
ケリーがそう言うと、その隣にいた筋骨隆々で背に一際大きな盾を背負った男に声を掛けられた。
「君が配達人か。ガッシリとした体型をした男かと思ったが、こんなに華奢な女性だったとは。」
「俺は『男』だ!!」
初対面の爽やかマッチョマンに言われたことでいつもより俺の心に響き思わず大きな声で反論してしまう。
「だっはっは!俺の勝ちだな。」
「くそ!」
少し離れた場所でいつも俺のことをからかっていた連中が何やら金を受け渡している。
「あー……。すまなかった。俺は金級パーティ『獅子の鬣』のリーダーでゲイルという。君の能力を見込んで今回声を掛けさせてもらった。」
金級だって!?
やはり俺の見立ては正しくとんでもなく上位の人間だった。
「……失礼しました。俺は四角鉄級のラインです。それで、そんな方々が俺に何の御用で?」
そこまで聞いた所でケリーが一度割って入る。
「ライン。今回は非常に重要な内容だ。話を受けるか受けないかは関係なく聞いた話は全て秘匿扱いにする。」
「俺が今まで、何か依頼人の情報を開示したことがありましたっけ?」
「無い。だからこうしてお前に話をする。」
そうしてケリーはにいっと笑う。
どうやら俺にもう逃げ場は無いようだ。
俺は今回この場にいるメンバーがどういった内容で集められているかをゲイルから聞く。
「……。そして君の出番であるが、君には配達人として、奪還した人物の移送を頼みたい。」
「移送……ですか?」
「ああ、そうだ。戦闘面に参加する必要はない。そうだな、こう言えばいいか。我々が保護した人物たちを目的の場所まで『配達』して欲しい。」
「なるほど……。物は言いようですね。」
どうやら俺の思考はこのゲイルに読まれていると見て間違いない。
金級のパーティでリーダーをやっているだけあり頭が良い。
俺は机の上に置かれた地図と実際に俺が知っている周辺の事情を照らし合わせる。
必要なものは……。
「ケリーさん、馬車の手配は?」
「勿論する。他に必要なものは?」
「木工ギルドに行き、物を特急料金で作ってもらいます。費用は指名依頼ですから準備金として出るんですよね?」
「ああ、問題ない。私から一筆書いておく。」
「後はそうですね……。果物類があれば良いか。」
俺がそう言うとこの部屋のメンバー達の頭に疑問符が浮かんでいるのが分かる。
「支払いは冒険者ギルドに行くよう言っておきますので処理の方だけお願いします。」
「ということは、ライン君。正式に合同依頼として受けるということで良いのかね。」
「どうせ逃げられそうにないですし、恐らくですが問題はないと思いますのでお受けします。」
俺はケリーを睨みながらそう答える。
「そうか、非常に助かる。ではこれから各人準備とし、作戦は明日の深夜に決行する。」
そう言いゲイルが全員を見渡す。
「では、解散!」




