第14話 「配達の形」
『詳細鑑定』をした結果、俺には『想いよ届け』というスキルがあることがわかった。
だが、わかったのはそのスキルを持っているということだけで、そのほとんどは謎のままだ。
なら、俺がやるべきことは一つ。
止まらずに進むだけだ。
俺たちにはいつもの日常が戻った。
街に無事に帰還してから、配送完了報告を届けるとそれからしばらくして依頼主である錬金術ギルドのシルバから個人的な提案があるということで呼び出しを受けた。
「……、全くなんだって言うんだ?俺は稼がなきゃいけないっていうのに。」
「かせぐ?おかねってそんな『たいせつ』か?」
俺のボヤキにグラミが疑問を投げかける。
「当然だ。金が無ければお前のご飯だって無いんだぞ?」
それを聞いたグラミは俺の髪の毛を引っ張る。
「いたたたた……!」
「ライン!!おかね、かせがないと!」
だがそこはもう、呼び出しのあった錬金術ギルドの目の前だ。
漂ってくる匂いにグラミが反応し、すぐに服の中に避難を開始した。
「全く……。」
俺が錬金術ギルドに入ると、すぐに目的の人物を見つけた。
どうやら待ち構えていたようだ。
「やあ!待っていたよ、ライン君!それにグラミ君も。」
「はあ、どうも……。」
俺は仕事の話ではないのを知っていたためかなりテンションが低い。
「おやおや、今日は随分とテンションが低いね?」
そういうシルバは逆に若干嬉しさが滲んでいるようで癪に障る。
じとーっと睨んでいることが伝わるとシルバは笑い出す。
「そういう正直なライン君も非常に好みだ。そしてそんな君に今日は美味しい話をしようと思ってね。」
俺は『美味しい話』という甘美な言葉に思わずだらけた姿勢をビシッと正し、直立の姿勢になる。
「ははは!まあ、ゆっくりと話をしようじゃないか。」
そうして案内された応接室で話をすることになる。
俺が席に座り、出されたお茶を飲み始めると、すぐに本題へ入った。
「ライン君。君、錬金術ギルドに入る気はないかい?」
俺は話の意図が全くわからず思わず声が出る。
「……は?」
「いや、そのままの意味だよ。正確に言えば冒険者ギルドと錬金術ギルドの『掛け持ち』をしないかという打診になる。」
「掛け持ち、ですか……。確かに冒険者ギルドの規約の上では禁止はされていませんでしたが、理由をお聞きしても?」
「ほお、君は規約を理解しているのかい?素晴らしい!」
素直に驚いているシルバの姿が見て取れる。
この反応を見る限り、規約を細かく確認する冒険者は少ないのだろう。
「君は冒険者ギルドでの配達の傍らで採取も最近は積極的にしてくれているだろう?」
「ええ、まあ……。食い扶持が増えたもので。」
「そこで、だ。君には錬金術ギルドに所属してもらい採取した薬草類を直接錬金術ギルドに『配達』して欲しい。」
要するに、これまで冒険者ギルドに納めていた採取物を、これからは直接錬金術ギルドへ持ち込み『配達』すればいいということらしい。
「それって俺に何かメリットがあるんですか?」
「あるさ、おおありだ。冒険者ギルドで採取の依頼をする、つまりは冒険者ギルドが間に入ることで何が起きると、君は思う?」
俺は一瞬考え、ハッとした。
「中間手数料が発生する……!」
「正解!やはり君は頭の回転が早い。」
つまり今までは薬草を採取した後に冒険者ギルドに持ち込むことでいくらかの手数料が冒険者ギルドに取られ、残金を報酬として手渡されていたが、錬金術ギルドに所属することでその手数料を取られず、買取額をそのまま受け取れる。
「なるほど!!」
俺は思わずぐっと力が入るが、一つ懸念があった。
「あー……、でもそれで冒険者ギルドに中間手数料が入らないという不利益が発生することで立場が微妙になったりは……?」
「それはありえないさ。」
そう言ってシルバは言い切った。
「根拠をお聞きしても?」
「単純な話、薬草はいくらあっても良い。むしろあふれるくらいで丁度いいのさ。そして加工されたポーション類のその一番の供給先は……。」
「冒険者ギルド……!」
「ふふ。」
俺はそこまで聞いた後、すぐに行動した。
一応、一度冒険者ギルドに話の打診があったことを伝え確認を取るためだ。
丁度、冒険者ギルドに入ると運がいいことに受付嬢と冒険者ギルド副ギルドマスターのケリーがなにやら話をしていたので相談をする。
返答はいかにもケリーらしいものだった。
「それで?好きにしたら良いじゃないか?」
なんともさっぱりとしていてかつ後腐れのない言葉だった。
俺はこの言葉をきっかけに、その日の内に正式に、錬金術ギルドの薬草専門の『配達人』となる。
一方、同時刻
<グランヴェール王国の王城 >
「パーシヴァルよ、これは大失態だぞ!!」
激怒し、声を荒らげる男。
「我が王よ。大変申し訳ございません。この度の件は、全て近衛騎士団長である私の失態であり、責任です。どのような処罰も受ける所存。」
現グランヴェール王に叱責を受けているのは、ラインの父――近衛騎士団長パーシヴァルだった。
「ええい、何とかならんか……!!」
王は苛立ちを隠せず、部屋の中を行ったり来たりしている。
「王よ、少し落ち着かれては……。」
そう言い、王の行動を制したのは王の右腕であり相談役である宰相だった。
返ってきたのは言葉ではなく、宰相目掛けて飛んできたグラスだった。
ガシャーン!!
だが、宰相は眉一つ動かさずにそれを見届ける。
「落ち着いてなどいられるか!!我が娘が人質となっているのだぞ!!パーシヴァルよ、軍を出せ!!我が娘を人質とし、あまつさえ身代金を要求してくる輩なぞ力を持ってねじ伏せてくれる……!!」
パーシヴァルが最も恐れていた言葉が王より出たことで一気にその場が緊張に包まれる。
「お待ちください!軍を出すのは危険です!!」
「なんだと……?」
そう言い王はパーシヴァルをギロリと睨みつける。
「現在のように情報が出揃っていない状況での軍の派兵はいらぬ混乱を呼びかねません。それによって最悪、人質となってしまっている姫が害される恐れもございます……!」
パーシヴァルの懸念を補足するように、宰相も続けて進言する。
「左様。この状況での大規模な派兵はどこで情報が漏れるかもわからぬ次第。リスクが大きすぎます。」
「ではどうしろというのだ……!?」
王の疑問に、パーシヴァルは一つの案を提示した。
「幸いなことに現在、我が都市に国内でも有数の実績を持つ冒険者のパーティの一行が滞在しております。」
「なに?」
「その名を『獅子の鬣』。金級の冒険者の一行になります。」
その名前に王も心当たりがあったのか一気に顔色が変わる。
「なんと、あやつらが今ここにいるというのか。だがどうやって依頼する?まさか王女を助けるため力を貸せ、などとは言えまい。」
その反応を見た宰相が間髪入れずに案を出す。
「ならばこう致しましょう。冒険者ギルドにはとある豪商の娘とその護衛が拉致された。その奪還と護送を依頼すると……。」
王からの信頼の厚い宰相の援護にパーシヴァルが続ける。
「それが最善かと思われます。リスクは最大限抑えられ、少数精鋭の者たちで今回の一件を解決することが得策かと……!」
王はその言葉にしばし沈黙し考える。
「……よろしい。そのように計らえ。そして何としてでも王女だけでも救出するのだ。良いな!?」
「はっ!」
パーシヴァルは深く頭を下げ命令を受託する。
(……それでも私は……!!)
その日の内に、冒険者ギルドへ一通の緊急指名依頼が届けられた。




