第13話 「託されたもの」
俺はテジンの案内で別室に通される。
そこは非常に幻想的な空間で鑑定士というより魔術師の部屋を想起させるような部屋だった。
そしてその中心にそれはある。
「さあ、こちらに。」
「……失礼します。」
俺は着席し、姿勢を正す。
「では知っているとは思うが軽く今回行う『詳細鑑定』についての確認だ。」
「はい。」
「この『詳細鑑定』は通常の鑑定とは大きく違う。それは鑑定した物や人物の秘めたる力、すなわち潜在能力を確認するための鑑定となる。」
「はい。」
「そのため、自身が努力し後天的に身に着けるようなものはわからないし、また例外として私の力を超えるようなものは読み解くことはできない。」
「……。」
「そして最後に。結果を知ることができるのは君だけだ。私はあくまで鑑定するだけであり、読み解くのは君自身だ。」
「わかりました。」
俺が頷き返事をしたところで、テジンが詳細鑑定の儀に取り掛かる。
「ここに君の情報を血判として押してくれ。」
テジンの指示通り、置かれている巻物の中心に軽く切った親指で血判を押す。
それをテジンが確認し、『詳細鑑定』が始まる。
テジンが自身のマナを巻物に通し始め、呪文を唱え始める。
すると巻物が軽く宙に浮き紐がほどけ、光があふれる。
巻物が完全に解けるとそこから光で出来た羽根ペンが現れそして俺の情報が次々と羊皮紙でできた巻物にカリカリと踊るように確実に記載されていく。
それはとても幻想的な光景だった。
しばらくの後、それは終わりシュルシュルと音を立てながら元あった姿のように巻物が巻かれ始め、最終的にきっちりと紐が閉じられた形となる。
「……ふう……。さあ取り給え。それが君の『詳細鑑定』の結果だ。」
それを聞いた瞬間ドクンと心臓が高鳴ったのがわかった。
俺は自身のまだ知らない情報が書かれた『詳細鑑定結果』を手に取りゆっくりと紐を解く。
ドクンドクンと、自分の動作一つ一つに合わせて胸が鳴る。
そして意を決し文字を見る。
所有スキル
『想いよ届け』
『想いよ届け』……?俺は見たことも聞いたこともないスキルに若干の混乱を覚える。
だがそれと同時に俺にスキルがあったという事実に感動を覚える。
問題はそれからだった。
スキル効果
『疲労軽減(微弱)』
『体幹強化(微弱)』
え?なんだこれ?
微弱?
俺は更に読み進める。
『気配察知(微弱)』
『従魔との絆(微弱)』
あれ、これらって……。
そう、最近になり自身で覚えた『違和感』。
まさしくそれが書いてあった。
更に読み進めるがここからは予想外のことが書かれている。
『鑑定不能』
『鑑定不能』
『鑑定不能』
これら『鑑定不能』の文字で埋め尽くされている。
いくつも続く『鑑定不能』の文字。
それは記載された最後まで続き、『鑑定不能』で終わるのかと思ったその時だった。
スキル前所有者
『リーニュ・アイゼンバッハ』
ドクン!
俺の胸は一段と強く高鳴り思わず、「あっ……。」と言う声が漏れてしまう。
そして、『詳細鑑定』の結果はこの名前を最後に終わっていた。
俺はゆっくりと巻物を閉じ「ふーーー……。」と強く深呼吸をした。
その様子をテジンは何も言わず、煙管で煙草を燻らせていた。
「あの……。テジンさん。読み終わりました。」
「そうか。」
「一つだけ確認したいんですが。」
俺がそう問いかけると「うん?」とテジンが顔を見上げ俺の顔を見る。
「『鑑定不能』というのは、先程のご説明いただいた通り……、で良いんですよね?」
「ああ、そうだな。極めて稀にそう出るものはいる。だがそれは往々にして私の力を超える者たちだった。それかあるいは……。」
「あるいは……?」
「この世界の理から外れたもの……、なのかもしれないな。」
「……。」
俺は何も言えず沈黙が空間を支配した。
「ふーっ。」
トントン
テジンが煙管の火を消し、その場は解散となる。
「今日は本当に貴重な経験をさせていただきありがとうございました。」
俺は受けることはできないと思っていた『詳細鑑定』をしてくれたことを心から感謝を述べた。
「いいってことさ。それよりも、お前また冒険者ギルドで配達してくれるんだろう?」
「……そのつもりです。」
「ならまた近い内に頼むかもな。まあ今度は『詳細鑑定』はしないから金銭での支払いになるだろうがな!」
そう言いながらガハハとテジンが豪快に笑っている。
俺は何を言うでもなく頭を再度下げ、その場を後にする。
「あるいは……か。」
俺が去った後でテジンが独り言をつぶやいていた。
帰りの馬車までは時間があった。
俺たちは適当な酒場に入り食事を摂ることにした。
「……。」
ガツガツ
「うん?」
勢い良く食べてたグラミは俺が何かを考えていることに気がついたのだろう。
「どうした?おいしくないのか?」
俺はグラミに言われハッとする。
「いや……、考え事をしてただけだ。美味しいよ。」
「……そうか?」
「ああ。」
「ライン。」
「うん?」
「僕とラインはいつも一緒だ。なにかあったら話せ。」
俺は唐突に言われたグラミの言葉に頭を撫でて答える。
「ああ、ありがとう。相棒。」
馬車に乗ってしばらくし、グラミはすやすやと眠っている。
俺はと言うと先程の鑑定結果を紐解き、最後の記載だけを見る。
スキル前所有者
『リーニュ・アイゼンバッハ』
それは間違いなく記載されている。
そして俺には思い当たるフシがあった。
そうそれは母さんが死ぬ直前に話をし、そしてこの『小さな箱』を渡されたときだった。
何かが俺の中に入ってきた気がした。
その時それは小さな違和感でしか無かった。
だがもしも、ここに書かれていることが事実であったなら……。
俺は手に『小さな箱』を持ち目をつぶる。
頭をよぎるのは母さんとの最後の会話。
『ライン。これを貴方に託します。……そして届けて。』
何を届ければ良いんだ、母さん。
『……繋げて……。』
何を繋げれば良いんだ、母さん。
俺は心の中で問いかけるが返事は返ってこない。
今回、確かにわかったものは『想いよ届け』というスキルを有している事実。
そしてわかった事実よりも遥かに多い『鑑定不能』の事実。
俺はテジンの言葉を思い返す。
この世界の理から外れたもの。
俺が元いた世界で死に、こちらの世界で生まれた意味があるのか?
わからない。
わからないという事実だけが眼前に広がる。
鞄の中からペンとインクを取り出し【スキル前所有者『リーニュ・アイゼンバッハ』】を塗りつぶす。
この事を知っていれば良いのは俺一人で十分だと思ったからだ。




