第12話 「商業都市グラール」
俺たちが荷の確認をしてから次の目的の村まではだいぶ近かったようであり、そこまでの時間を要することなく到着することができた。
この村から最終目的地の商業都市グラールまでは、俺の認識が正しければ舗装された道が続いているはずだ。
相乗り馬車亭で確認するとそれは正しかったようで、しかもさほど待たずに次の便が到着するとのことだった。
俺は馬車が来るまでの間に一応の情報として、村に駐在している兵士に襲われた事実と簡単な特徴を伝えた。
「運が良かったなあ、お前さん。」
「あはは……。どうやら急に苦しみだしたので食あたりでも起こしたんじゃないですか?」
「四人同時にかい?ならなおのこと運が良かったな。情報、感謝する。」
兵士に敬礼をされお辞儀を返す。
きっとあの場所では、匂いで気絶した四人が残っているか、もしくは吐瀉物などの痕跡があるかだろう。
俺が今回投じた『臭い玉』は特徴として、匂いは長く残らず、時間とともに効果も薄れていく。
さすがにあの匂いをそのまま残しておけば必ず問題になると思ったからだ。
そのような注文をつけたため、錬金術ギルドでも開発が完了するまでに時間がかかったという訳だ。
丁度兵士と別れた頃に乗合馬車がやってきたため、俺たちは乗り込みしばし身体を休めることにした。
「お客さんがた!見えてきましたぜ!終点『商業都市グラール』です。」
俺とグラミはその声で目が覚め馬車から身を乗り出しその目的地を見る。
「うわぁ……。」
それは俺たちが普段利用している街よりも更に巨大できらびやかだ。
実はというと、俺は元貴族であるが他の都市と呼ばれる規模の街へ行ったことがない。
基本的にそうした都市への移動は成人後に必要に応じて行く。
本来であれば俺も十三歳の成人を迎えた後、王都にある貴族学院に入学し、五年を過ごした後正式に軍属になる予定だった。
だが、今の『ライン』にはそんなことは関係がない。
馬車は入口の大門の前で全員下車となる。
ここから先は入場するために各人のチェックが行われ、入場税を支払う必要があるからだ。
持っててよかった『四角鉄級』!!
おかげで身分はしっかりと保証された上に入場税も俺と従魔であるグラミの分が合わせて四割の割引値段で入場することができた。
二回目以降は冒険者証が有効で、犯罪歴などがなければ更に安くなるらしい。
無事に入場手続きを終えた俺は早速目的地である鑑定士がどこにいるのかを兵士に聞き、向かう。
さすがに小腹も空いていたので道中で売っていた見たことない焼き物屋の匂いに惹かれ軽食を摂る。
「おー、旨いなこれ。スパイシーだ。」
「うまうま!からっ!!」
グラミが食べるにはまだ刺激が強かったようだがそれでも最終的には満足し目的地に向かう。
『国家鑑定士鑑定所』と書かれた看板を見つける。
「ここだな。こんにちはー。」
俺が鑑定所に足を踏み入れると冒険者ギルドほどではないがそれなりの人で賑わっている様子だった。
すぐに俺たちのもとに一人の人物が近寄ってくる。
「ごほん!ここは由緒正しき『国家鑑定士鑑定所』です。どのようなご要件でしょうか?」
明らかに俺たちを姿で値踏みして怪しい目で見てきている男に俺は首元から四角鉄級の冒険者証を取り出し挨拶をした。
「はじめまして。錬金術ギルドのシルバさんより鑑定士テジンさんへ配達の依頼を受けてきました。」
「テジン様にですか!?」
男は驚いた様子で聞いてきたため、依頼票を取り出し渡すと慌てた様子で取り繕い急に腰が低くなり案内してくれる。
どこにでもこういう輩はいるもんだな。
コンコン
「テジン様。錬金術ギルドのシルバ様よりお荷物が届いております。」
「入れ。」
男がドアを開けてくれ俺が入室するとその男は礼をして消えていく。
「うん?荷物が届いたと聞いたが、何か聞き間違えか?」
「いえ、俺がその届け人です。錬金術ギルドのシルバ様より荷物をお預かりしておりお届けに来ました。」
「ほお……?君がか。先立って話は聞いていたが確かに冒険者らしくはないな。」
「いやあ、それほどでも……。」
俺が照れてみせるとテジンは困惑した様子を見せる。
「あ、失礼しました。お荷物はどちらに。」
「この机の上で良い。確認させてくれ。」
「かしこまりました。」
俺は、手慣れた手つきで五箱取り出す。
見慣れない梱包にテジンは更に困惑していたが、その箱を開けるなり感嘆の声が漏れ出た。
「ほう、素晴らしい……!すべて無事か……!!」
俺は笑顔だけで応える。
「こちら、ご確認できましたら受領証の方をお願いいたします。」
「ああ、預かろう。」
スラスラとペンが走る心地の良い音が聞こえる。
「さて、大変素晴らしい仕事をしてくれたな。改めて自己紹介をしよう。私はこの商業都市グラールで唯一の国家鑑定士であるテジンだ。」
「改めまして、四角鉄級冒険者のラインです。」
「グラミだよー。」
グラミがそう言い、手を上げて挨拶すると面食らったような表情を浮かべる。
「……なるほど。変わった相棒を連れた冒険者とシルバより聞いておったが、言い得て妙だな。」
「今では重要な相棒です。」
俺はグラミを見て笑い、グラミも俺の顔を見て嬉しそうにしている。
「さて自己紹介も終わったところで、早速だが報酬の話をしよう。改めての確認だ。シルバより聞いていると思うが今回の報酬は二種類の内のどちらかを選ぶことになっているのは聞いているな?」
「はい。」
「よろしい。そしてそのうちの片方が金銭での報酬となり、見事に欠品なく全てを届けたことで満額の金貨一枚となることも承知しているな?」
「はい。」
俺が頷いた所で更に驚くような事をテジンが提案する。
「個人的にはこの素晴らしい仕事を評価し更に追加で払っても良いと考える。報酬を金貨として受け取るなら一枚から二枚にしても良い。」
「金貨二枚……ですか!?」
「それだけのことしてくれた。」
俺はあまりの金額に一瞬気が遠くなる。
「さて、そのうえでもう一つの報酬だ。それでもお主は一回限りの『詳細鑑定』を望むか?」
その問いに対し俺は即答する。
「はい。『詳細鑑定』を望みます。テジン様が高く評価してくれたこと、大変ありがたく思いそのお心遣いだけいただこうと思います。」
俺がそう答えると、テジンの顔には笑みが見られる。
「そうか。では望み通り『詳細鑑定』を今回の報酬としよう。」
「ありがとうございます。」
俺が深く礼を述べるとテジンは『詳細鑑定』のための準備を始めた。




