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小さな賢者の配達人(リトル・セージ・ポストマン)  作者: 馬ノ やすら
第4章 想いよ届け

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第10話 「報酬」

「馬鹿弟子によろしくな。」

テ・チョより配達の受領書を預かり村を出る。


「おばちゃん、よろこんでたね。」

「そうだな。」

「『はいたつ』、楽しいね!」

「そうだな。」

帰りの道、横に並び歩くグラミに答える。


数日掛けて、俺たちは無事に街へと戻り、冒険者ギルドへ向かった。

「ただいま帰りました。」

「おかえりなさい。受領書、お預かりしますね。」

そうして俺の手から受付嬢へと受領書が手渡され、報酬金をもらう。


その後も、俺とグラミは変わらない生活を続けていた。

少し変わったと言えば配達の合間に採取の回数が増えたくらいか。


ある日のこと。

俺とグラミが依頼掲示板の前で、ああでもない、こうでもないと話していた時だった。

「ふふ。やってますね?配達人(ポストマン)たち。」

そう言いながら声を掛けてきたのは受付嬢だった。

俺は口の端が微妙に上がってしまうのを必死に抑える。

「おはようございます。何か?」

「はい。実はラインさんの冒険者証をお預かりしたいんです。」

「え?冒険者証を、ですか?……まあ良いですが。」

俺は首から冒険者証を外すと代わりの物を渡される。


「はい。ではこちらが新しいラインさんの冒険者証になります。」

それは材質は変わらず鉄であるが形が円から四角になっている。

「……え?」

状況が理解できず困惑していると周りが騒ぎ始める。


「おいおい!あれって四角鉄級じゃねえか?」

「まさかあの配達人(ポストマン)が?」

「だがあいつ、今までの依頼完遂しているらしいぞ!?」

「まじかよ!!」


などなど俺に関する話題で賑わっていた。

「おめでとうございます!ラインさんは今日から、正式に『四角鉄級』冒険者です!」

「……?はあ……ありがとうございます?」

「なんで疑問形なんですか!?『四角鉄級』ですよ!昇格したんです。」

「そうですか……。でもそれで報酬が増えたりはしませんよね?まあ、もらえるものはもらっておきますが。」

「確かに報酬は変わりませんが、受けられる幅が広がるんですよ?それによって報酬が増えることだって……!」

「でも俺は配達人(ポストマン) ですし。それは今までもこれからも変わらないですよ?」

「……。ああ、そうだわ!配達人(ポストマン)としてならこういうのはどうです?所属する街の人頭税が若干減額されます。」

俺はそれを聞いた瞬間、ガバッと顔を上げる。

「それに、大きな街へ入るための初回の入場税ですがあれも場所によってですが減額の対象になりますよ!」


俺は斜め四十五度の綺麗なお辞儀をし、礼を述べた。

「ありがたき幸せ!不肖ライン、四角鉄級冒険者証を拝命致します!」


俺はもらったばかりの四角鉄級の冒険者証を首に掛ける。

「僕にもみせてー。」

「ああ、わかったよ。」

そうしてグラミとじゃれている時だった。

一人の来客が現れる。


「おはようございますー。錬金術ギルドですー。」

そう言いながら現れたのは前回の依頼主のミストだった。

「あれ?ミストさん。おはようございます。」

「お、ライン君、グラミちゃん。ちょうどいい所にいた。」

俺とグラミはお互いの顔を見合わせ首を傾げる。


「ちょっと待っててね。話を通してくるから。」

「……はあ。わかりました。」

ミストは受付嬢のところへ行くと、一通の手紙を渡した。

それを受け取った受付嬢は、驚いたように目を見開くと、慌てて部屋の奥へ消えていった。


「なんだろうね?」

「さあ?」

しばらくすると受付嬢が戻ってきて俺たちに声を掛けた。


「ラインさん!ちょっと良いでしょうか。」

「はい?」

「ラインさん達宛に錬金術ギルドの副ギルドマスターから『指名依頼』が入りました!」

「『指名依頼』……ですか?」

「仕事の内容はいつもの通り配達業なんですが、報酬がちょっと……。冒険者ギルドとしては確認が取れましたので、そのあたりも含めて詳細を依頼主である錬金術ギルドまで行っていただいてもよろしいですか?」

それを聞いたミストはニコニコと嬉しそうに微笑んでいる。


「……?わかりました。」

そうして俺たちとミストは一緒に錬金術ギルドに移動する。

道中でテ・チョがよろしく言っていたことを思い出し伝えるとミストは苦笑いしていた。

「あ、あはは。まあ、あの人が喜んでくれたのなら何より。」


錬金術ギルドが近づくなりグラミは鼻に手をあて俺の服の中に逃げ込む。

少しでも匂いを嗅がないようにするためのグラミなりの努力だろう。

ミストはそのまま錬金術ギルドの奥まで案内してくれる。

「ここだよ。失礼します。ミストです。配達人(ポストマン)たちを連れてきました。」

「入ってくれ。」

室内から聞こえてきたのは若い男性の声。

部屋に入るとその男性の姿が見える。

モノクルを掛け、白衣を纏った華奢な若い男だ。

年は副ギルドマスターと言う割にはかなり若く見え二十代後半から三十代前半に見える。


ミストはそのまま副ギルドマスターの近くまで行き後ろに控えた。

「はじめまして。私は当錬金術副ギルドマスターで名をシルバという。よろしく頼むよ。」

「こちらこそはじめまして。冒険者ギルド所属の鉄級……、『四角鉄級』のラインと相棒のグラミです。グラミ?」

そう言われグラミはヒョコっと顔を出し片手を上げるとすぐに服の中に避難した。


「すみません。失礼をしてしまいまして。」

代わりに俺が謝罪すると笑いながらそれを制した。

「いいんだよ。仕方ないさ。それにしても『四角鉄級』か。昇格したんだね?おめでとう。」

「ありがとうございます。今朝昇格致しました。」

「そうか。では私たちがそんな記念日の初依頼人になるのかな?」

「いえ、依頼があるのは聞いていますが受けるかどうかはお話次第です。」

「……噂通りとても慎重なようだ。仕事柄、私はそういった人物は大好きだ。」

「光栄です。」


シルバが席に促してきたので俺も着席して話を聞く。

「では今回の話をさせてもらおうか。まずはミスト君の依頼の件、見事だった。惜しむらくは、私自身の目でその緩衝材とやらを見てみたかったくらいだ。」

「あはは。」

「そこで、だ。君たちにその緩衝材を利用した配達を行ってもらいたい。配達先は商業都市グラールまで。そこで活動している鑑定士に特別な鑑定に必要な薬剤を持てるだけ持っていって欲しい。」

「持てるだけ……ですか?」

「ああ。当然ながら無限に持てるわけではあるまい?君の収納量に応じた数の配達を頼みたい。」

「なるほど。」

「報酬金だが、無事に届けられた商品の数だけ払おう。それに今回は距離もあるので多少の損失が出ても問題はないとする。」

「いえ、そこは仮に受けると判断した際は責任を持って届けさせていただきます。」

「ふふふ。ミスト君の言うとおりだな。仕事にプライドがあるらしい。仲良くやれそうで嬉しいよ。」

ミストとシルバは顔を見合わせ笑顔を見せている。

どうやら前回の仕事ぶりが全てシルバに通っていると見て間違いはなさそうだ。


「報酬の具体的な金額だが……。」

「いえ、それよりも先に実際に運ぶべき物を教えていただくか、実物を見せてください。」

俺が報酬よりも仕事の内容を優先したことに冒険者としてかなり異端だということを再認識したシルバは目をパチパチさせている。


「……わかった。今回運んでもらう物はこれだ。」

そうして机の上に一本の薬瓶が置かれる。

大きさは前回運んだ薬瓶より少々大きい。


「失礼します。」

俺は品物には近づき、触りはしないが大きさを確認し脳内で計算を始める。

収納鞄を広げ、何度も一本当たりの箱の大きさと収納鞄の容量、向きなどを計算する。


その様子を黙ってシルバは見つめている。

「失礼しました。その大きさでしたら距離とそこまでに掛かる必要な内容物を考えれば運べるのは最大で五箱ですね。それ以上は無理です。」

俺が出した答えにシルバは満足そうな表情を浮かべ「パン!」と手を一つ鳴らす。

「十分だ。仮に五箱全てが無傷で届いたならば十分すぎる結果になるよ。」

「そうですか。ちなみに日数は途中から徒歩になりますので通常の馬車のみだけよりもお時間がかかりますがそれでもよろしいでしょうか?」

「理由を聞こうか?」

「単純な話です。ここから途中までは舗装されているので問題はありませんが途中で未舗装の道が入り衝撃が強くなる箇所があります。そのリスクを避けるために途中で下車し、徒歩に切り替えます。その後、再度舗装された道で馬車に乗れれば良いですが乗れなければ徒歩で通すことになりますので。」

俺は以前、公爵家で勉強して苦労した国家的機密情報に近い地図を脳内に描きながらルートのシミュレーションを行っていたため、このような結果を導き出した。


それを聞いたシルバは少し目を細める。

「……ほお?」

だが俺は余計なことは言わない。

「……ご納得いただけないようでしたら俺はこれで失礼させていただきます。」

「いや、納得も納得さ。是非お願いしたい。」

「……そうですか。わかりました。」


「本来であれば先にすべきだった報酬の話をしようか。」

「はい。」

「五本を運んでくれるなら報酬は金貨一枚とする。」

ガタッ!

俺は思わずその金額の高さに驚きその場に立ってしまう。

そして俺は再び机の上に置かれた薬瓶を見下ろす。


「そ、そんな高価な代物なんですか?」

「まあ、『特別』だからね。それと話には続きがあるので聞いて欲しい。」

そうしてシルバが手で座るよう促してきたため俺は慌てて着席し直す。


「今回は報酬が二種類あってね。それのどちらかを選んでもらう。」

「二種類ですか?金だけではなく。」

「ああ、そうだ。もう一つの報酬。それは配達先の鑑定士による『詳細鑑定』だ。」

俺は全身の毛が逆立つのを感じる。


「ふふ。そのリアクション。説明は不要かな。」

「ええ、まあ。ですが『詳細鑑定』はその特殊性からかなり希少だったはずです。」

「そこは私たち錬金術ギルドと配達先の鑑定士とのコネさ。さて、どうする?」

「『詳細鑑定』でお願いします。」

俺は即答する。


詳細鑑定は通常の鑑定とは違い、鑑定対象の未だ顕現していない潜在能力を見通す鑑定法だ。

もしかしたら『無属性』と言われた俺にも何かが眠っているかも知れない。

それを鑑定できる方法が唯一『詳細鑑定』だけだった。

正直、今の状況になってからは一生縁がないと思っていたものだけに誤算的嬉しさがある。


「では、報酬は『詳細鑑定』ということで。依頼指名は受けてもらえるかな?」

「……喜んで……!」


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