表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハズレスキル《残響》で追放された鑑定士は、 ダンジョンの"音"だけで最速攻略する ~戦闘ゼロなのにBランクパーティの記録を塗り替えた件~  作者: 月代


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/10

第7話 「壁の向こうに誰かいる」


 1週間が経った。


 パーティ「残響」は、Bランクに昇格した。


 沈黙の回廊の踏破記録と、それ以前の連続安全踏破記録が認められた結果だ。

 Dランクで結成して、約二週間。異例の速度だった。


 ただし、オーゲンは昇格通知と共に一言添えた。


「特例はこれで最後だ。次は正規の記録で上がれ」


 二度目の特例。これ以上はない。

 次のランクは、自分たちの手で掴む。


 ギルドの掲示板に俺たちの名前が載るようになった。

 他のパーティから「うちの鑑定を頼みたい」という声がかかるようにもなった。


 全て断った。


「俺は『残響』のリーダーだ。他のパーティには入らない」


 断るたびにレナが「もったいない」と言ったが、譲らなかった。

 俺の耳は、この三人のために使う。


  ※


「哭壁の迷宮」。

 地下30層。Aランク相当。


 Bランクの俺たちが挑むには一段上だが、10層ごとに帰還判断を報告するという条件付きで申請が通った。


 名前の由来は、壁が泣いているかのように水が染み出し続けていることにある。

 石灰岩の壁面を水が伝い、水音が途切れない。


 入口に手を当てた瞬間、情報が奔流のように流れ込んできた。


 水音の残響は石の3倍は密度が高い。

 水は振動をよく伝える。壁を流れる水の中に、過去72時間分の音が層を成して詰まっていた。


「1層、右の通路。水棲の魔物が2体。左は安全だが、水深が膝まである。足音が立つ」


「膝まで?」レナが眉を寄せた。


「モンスターに気づかれるリスクはあるが、左の方が安全だ。静かに歩け」


 ミラが頷いた。獣人の肉球は水の中でも音を立てにくい。先行役に最適だった。


  ※


 水の迷宮は、《残響》にとって最高の環境だった。


 壁を流れる水から3層先のモンスターの動きまで読める。

 罠の作動音は水に増幅されて、通常より鮮明に残っていた。


 15層まで、3時間。無戦闘。

 予定通りのペースだった。


 16層。


 壁に手を当てた。


 水の残響が流れ込む──いつも通り。

 モンスターの足音。罠の金属音。水が岩を穿つ音。


 その中に──


 指が強張った。


「……人の声が聴こえる」


 レナが足を止めた。


「人? 他のパーティか?」


 目を閉じた。集中する。


 声。

 複数。少なくとも三人分。


 叫んでいる。


 悲鳴だった。


「違う。これは残響だ。過去48時間以内に、ここで人が叫んでいる」


 さらに深く聴く。


 悲鳴の合間に──武器が壁を打つ金属音。

 重い。大剣か、両手剣。

 そして──咆哮。低く、太く、通路全体を震わせるような巨大な音。

 モンスターだ。大型の。


 悲鳴は途中で途切れている。しかし──


「この先に、まだ生きている人間がいる」


「根拠は」ドルクが訊いた。


「呼吸音が残っている。浅い呼吸が二つ。弱っているが──生きている」


 壁から手を離した。


 三人の顔を見た。


「16層で大型モンスターとの戦闘があった。パーティが壊滅し、一部が取り残されている可能性が高い」


 ドルクが腕を組んだ。


「救助ですか。しかし我々はA相当のダンジョンの16層にいる。先に進めばリスクは跳ね上がる」


「でも放っておけないだろ」


 レナが言った。剣の柄を握っている──臨戦の握り方だ。


 ミラが黒板を掲げた。


『助ける』


 俺は頷いた。


「行く。ただし全員の安全が最優先だ。危険と判断したら撤退する」


  ※


 17層を抜けた。


 水の残響が語る情報量が増えていく。

 大型モンスターの移動痕──壁に体を擦りつけた音の残骸。水を大量にかき分けた振動。


 巨大な何かがこの通路を通った。


 18層。


 壁の窪みに──人がいた。


 二人。

 見覚えのある鎧。


 「鉄壁の盾」の戦闘員だった。


 第3話で重傷を負い、ギルドに担架で運び込まれた二人。

 復帰したのだろう。しかし、今また──


 一人は足を投げ出して座っていた。左足が不自然な角度に曲がっている。骨折。

 もう一人は壁にもたれ、肩の鎧が割れて肉が見えていた。


「……お前は」


 足を折った方が俺を見て、目を見開いた。


「カイル──なぜここに」


「後で話す。ガルドとエルダは?」


 戦闘員の顔が歪んだ。


「リーダーは……ハイドラの亜種を引きつけて、奥に走った。エルダさんが追いかけた。もう6時間以上──戻らない」


 ハイドラの亜種。

 上級ダンジョンに出現する大型水棲竜。複数の首を持ち、通路を埋め尽くす巨体。


 壁に手を当てた。

 《残響》を発動する。


 水の残響の奥深くに──聴こえた。


 剣が壁を打つ音。

 ガルドの剣だ。三年間聴き続けた。間違えようがない。


 20層。

 ガルドはまだ戦っている。


 もう一つ。軽い足音。走っている。

 エルダだ。ガルドの近くにいる。


 しかし──ガルドの呼吸が乱れていた。

 剣を振るリズムが崩れている。消耗が激しい。


「20層。二人は生きている。だが──追い詰められている」


 壁から手を離した。


「戦闘員二名はここに残す。ドルク、お前がここで守れ」


 ドルクが頷いた。即座に戦闘員の傍に膝をついた。


「カイルさん」


 立ち去ろうとした俺の背中に、ドルクの声がかかった。


「あなたは──彼らを追放した相手を、助けに行くのですか」


 振り返った。


「追放されたことと、死んでいいかどうかは別だ」


 ドルクが眼鏡の奥で目を閉じた。


「……いやはや。投資家としては最も不合理な判断ですが──人としては、最も正しい判断ですな」


 レナが横に立った。


「あんた、本当に甘いね」


 ぶっきらぼうな声。しかし──剣の柄を握っている。行く気だ。


 ミラが黒板を掲げた。


『行く』


 三人で、20層に向かう。


 ガルドの剣の音を、俺は何百回も聴いてきた。

 あの音が止まる前に──着かなくては。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ