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『聖女業務の属人化』、解消します。〜元コンサル聖女の使命標準化計画〜  作者: すみ ふじの
第二部:神秘の解明と記憶媒体革命

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第19話:聖女のステークホルダー・マネジメント

きわめて邪悪な高笑いとともに「データベースを作ろう」と宣言した私であったが、当然ひとりの力で実現出来ようはずがない。よって私はヘルマンも部屋へ呼び、現時点での目論見を共有することにした。このいつも通りの打ち合わせへの動きに、アーネストとアメリアが明らかに安心した面持ちに変わるのが見て取れた。──気が触れたかと思わせてしまったかもしれない。その誤解は仕事で払拭しよう。


「今回目指すデータベースとはつまり、大量の情報を整理した状態で格納し、必要なときにすぐ使える状態にしておく仕組みのことです。例えるなら……そうね、読める聖典。それも紙ではなく、魔術によって記述が行われるようなものでしょうか。」


聖典、もとい聖典の神秘は古代語で書かれているがゆえに業務マニュアルとしての役割は果たさない。紙が貴重であるならば書き込みなども許されていないのだろうし、扱いもさらに慎重になるだろう。なにかと適宜参照して確認などとは、とても出来ないのかもしれない。


「魔術による記述というと、灼符紙(しゃくふし)符砂板(ふしゃばん)があります。でもどちらもいずれは定着した魔力が消えてしまうので、記録には向かないんです。」


今いるメンバーはもとより国民全員と比べても記憶媒体に明るいアーネストが真っ先に回答する。


「はい、そうでしたよね。それらと紙以外になにか利用しているものはありますか?」


「ある一定の時代以前は石に刻まれています。今でも特定の場所にずっと残しておきたい言い伝えやなにかは、石碑や石板が用いられる場合がまだありますね。」


なるほど。確かに石は紙よりも長く持つが、その分携行性はない。アメリアの淹れてくれた紅茶を傾けながら私は改めてこの世界の記録媒体まわりの技術を復習する。


「ちなみに紙と灼符紙では、もととなる紙がそもそも異なるんでしたっけ。灼符紙の紙は転用には向かないのですか?」


私のさらなる疑問にも、アーネストは淀みなく答えを出す。


「はい。あれは植物の繊維で出来ていて、魔力で焼き付けるようにしてはじめて書けるような品質なんです。普通の筆記具だと引っかかってしまいますし、とても扱えません。そもそも灼符紙は西から紙を輸入するようになった後に出来たものなので……そちらに合わせた筆記具もないんです。とくに教会が、魔力で文字を焼き付ける行為自体を冒涜的とみなしているのも大きいですね。」


「その上、書いた人物以外が触ると燃えてしまうんですもんね。他者との情報共有に使えないのは不便すぎるでしょう……嫌われるのもわかります。」


この質疑応答の合間にヘルマンがすっと手を挙げる。視線で発言を促すと、ヘルマンは情報の補足をはじめる。


「紙の供給量が少ないというのは長年の課題です。陛下は西の連合が出し渋っているのではとのお考えであると噂で耳にしたことがあります。そのためのポーション輸出案だったのかもしれません。」


ヘルマンの聞いていた噂はアーネストが直接聞いてきた王の野心とは矛盾しない。ただ紙さえあれば解決する方法を取るのであればそれでもよかったかもしれないが、やはり教会と角が立ちすぎてしまうのも問題だ。さらに言えば、データベースをやると決めた以上、紙では満たせない要件がある。


「紙がいいというのは携帯性や保存性の問題だけではないの。私は『検索性』まで持たせたいと考えています。」


私のこの言葉にアーネストだけは理解が出来たようで、へらへらと笑いながら平謝りをする。私はその謝罪には明確に首を横に振って、話を続ける。アメリアとヘルマンは互いを一度見つめ合うものの、首を傾げるにとどまる。


「検索性というのは、倒れる前の会議でアーネスト卿に尋ねたような調べ方が出来るってことね。色々な角度から、関連する情報を棚にしまった順番に関係なくすぐに呼び出せる……みたいなイメージかしら。」


二人に続いていよいよアーネストも天井を眺めはじめた。さすがに検索性がある状態をイメージするのは難しかっただろうか、私はこれ以上空気が重くなる前に話題を変えることにした。


「今はわからなくて大丈夫ですよ、作る段階に入れたら私とテオフィルスの間で共有できればいいという話ですから!──ともかく、これを魔法で実現するには神秘のエネルギー源の解明が不可欠になります。なので、私はもう一度、あの書庫へ入れないか試みるつもりです。」


あの書庫という言葉に反応を一番に示したのは、同行していたアメリアだ。大司教が現れたときには本当に肝を冷やしたものだった。


「大司教様に立ち入りを禁じられたという場所ですよね?僕達リヒターも知らない場所ですけど……入室する方法がなにか見つかったのですか?」


「いくらポーションの件があるとはいえ、また許可なく潜入をするのは如何なものかと思いますが……。」


アーネストとヘルマンがそれぞれ懸念を述べる途中で、私は王からの手紙をひらひらと揺らして三人に見えるようテーブルの上へと置いた。手紙、そして私へと三人の視線が注がれる。護衛であるヘルマンの目には怪訝な色さえあるが、私は気付かなかったことにして微笑んだ。


「そこでこの手紙を使います。いいですか?誰にも漏らしてはいけませんよ。」


私はテーブルにぐっと身を乗り出し、三人だけに聞こえるほどの抑えた声量で、とある秘策を伝えた。その瞬間、空気が変わるのが分かった。


「それは……、露見すれば終わりですよ、今度こそ。」


低く押し殺した声がひとつ。かたや息を飲む気配。そしてもう一人は──場違いなほど軽い音を立てて手を打ち、半ば呆れたように笑っていた。



◇◆◇



「ルツィア様。大司教様がお見えです。」


「お通しして。」



公式な面会の申し出から数日後、舌戦を交わした大会議場に大司教は現れた。ステンドグラスから差し込む光を背に出迎える姿は、我ながら聖女然としているのではないだろうか。そう意図して立ち位置を決めた。私は大司教に目礼をし、決まった席への着席を促す。そしてヘルマンには()()()()()()()()()()()

広い場内に残されたのは私と大司教の二人のみ。私が次席へ腰を下ろす間に大司教がお題目のような挨拶を述べるも、その瞳は明らかに私の慇懃な態度と、護衛を外させたという状況の真意を探っているようだった。記録に残る正式な手続きをとって聖女が大司教と面会する、護衛もなく。一般の教会関係者が見ればなんら自然な光景なのだろうが、そうは思わせない実績が私と大司教の間にはあった。私はまるでそのような履歴などなかったかのように、着席したままではあるが胸に手を当てて頭を下げた。大司教の片眉が微かに動く。私はその反応には対応しない。何故ならば、今の私は『そう』あって然るべきだからである。そして、あくまでも相手を尊重する立場も崩さない。私は十分な間を取ってから、恭しく、大司教の疑念を払う。


「大司教様。お忙しい中、お時間をとっていただきありがとうございます。──出来るだけ人に聞かせたくない内容となりますゆえ、護衛には外を見張ってもらいます。」


「さようで。──して、折り入っての相談とはどのような内容でしょうか?果たしてこの老人めに、聖女様のお役に立てることがありますかどうか。」


「まあ、ご冗談を。此度の相談は大司教様のお知恵を授からなければどうにもなりません。迷える聖女をどうかお救いください。」


神妙な面持ちで辺りを見回してから、一段声量を落とす。『人に聞かせたくない話』であることに嘘偽りはないのだから。



「……陛下より、“聖女名義のポーション”をともに作らないか、とお誘いがありました。」


次の瞬間、大司教の両の目が見開かれる。国王陛下の大胆かつ突拍子もない、いささか短絡的にも聞こえるこの提案は、さすがの大司教も想像するに至ってなかったのだろう。すぐに答えはなかった。私は、紋章つきの封蝋に陛下の署名がはっきりと記された手紙を大司教へと差し出し、沈黙の重たさに追い打ちをかけた。手紙を読む手が小刻みに震えている。それが怒りなのか恐れなのかまでは分からない。


「なんたる……なんたることを、陛下は。」


大司教がようやく声を絞り出した。私は静かに、かつ険しい表情でそれに頷く。


「内容を理解した瞬間は、背筋が凍るようでした。そして……何も考えずお言葉に従ったのならば、この国が割れてしまうと恐ろしくも感じました。」


国が割れる──すなわち内乱。

大司教は眉間の皺を一層深く刻み、手紙を伏せてこちらに返した。


「この内容からお分かりいただけるように量産を経てもポーションの配合の秘密は守られたままです。しかし陛下はその秘密を、教会とも切り離して手中へ収めるおつもりです。黙ってお受けすることも、見なかったことにも出来ず、今大司教様へこの重責を共有させていただきました。」


「……よくぞ明かしてくださいました。まずはその賢明なご判断に感謝いたします。」


そう返すしかないだろう。よくも、などとは言えようはずもない。私は懺悔するかのように話を続ける。


「先の疫病に対しての行いによって、民からの信仰が高まっていることは私でも感じております。それゆえに此度の提案を受けてしまっては、その信仰を踏みにじることになりはしないかと。しかし正式なものでなくても王命は王命。無碍にしてしまえばそれはそれで、教会と王宮の対立を深くします。私は、本日この場に至るまでに聖女として何をなすべきかと考えに考え、夜を過ごしておりました。」


殊勝すぎるだろうか?しかしすべて嘘ではない、真実だ。

大司教もそこまで私を疑いはしない。なぜなら眼の前にはもっと重要な問題が立ちはだかってしまったからだ。


「……まずは聖女様の、そのお考えをお聞かせ願えますか。私が答えを出すにも、幾ばくかの時間が必要です。」


妙案があるなら聞いてみたかったのは正直なところ、なくはなかった。だが同時に、先に何か思いつくものなら出してみろという気持ちでもあった。私は計画通りに発言を続けた。


「はい。──今の私には、ポーションの国有化を阻むだけの理屈がありません。陛下は西の連合との貿易で優位に立とうとお考えでしょう。そうなれば国は豊かに、文化はより発展することでしょう。信仰がなくなることもありません、その方向が教会に向かうか……聖女を擁した王宮に向かうかだけのこと。しかし、大司教様は以前に『均衡を保つ』ことが必要とおっしゃいました。国民が幸福を得ることを阻んでまで均衡を保つ宗教的な道理は、一体どこにあるのでしょうか?」


大司教は重たい沈黙を守る。おそらくそれに足る理由がない訳ではないのだろう。しかし、国民の幸福を天秤にかけた時には軽率に結論づけられないのかもしれない。私は止まらない。順序を守り、ここへと至ったのだから。


「理由があるのならば、私自身がこの心でもって理解しなければなりません。知る必要があります。教会のみが知っている聖女の役割がなんたるか、均衡を保ち信仰を守らなければならない理由、神秘を神秘のままに置くべき真の意味――そのすべてを。」


すべてという言葉の意味するところを大司教は即座に理解し、瞠目した。


さあ悩め。今ここで『すべて』を明かすのか、要求を飲むのか。それでも均衡を守ろうとして『信仰』を失うか。

悩め、そして答えを出せ。どの答えであっても、次の一手は用意してある。


私は敬虔な聖女の顔を崩さずに大司教の言葉を待った。この張り詰めた空気が妙に心地良い。古びた手を握り締め、頭を働かせているであろう表情は険しい。私の底意地の悪い笑みが滲み出すより前に、大司教はようやくその答えを述べはじめた。


「……私が教義についてお話したとて、聖女様は納得なさらないでしょう。」


「私ではなく、国王陛下でしょう?額面通りの言葉ではご納得なさらない。そんなに甘い相手ではないことは、大司教様もよくご存知のはずです。」


「ええ、そうでしょうな。……本来であれば到底許されぬこと。しかし、もはや選択の余地はありませんな。 我らの教義の最奥が眠る書庫への入室を認めましょう。その代わり、こちらにも条件を出させていただいてよろしいか?」


条件ならばなんなりと。私は頷いて続きを促す。返す大司教の視線の鋭さに、彼がまだ諦めてはいないことを知った。


「書庫には未だ我々の手で解き明かせていない記録も多くございます。リヒターを同行させ、その都度発見した新たな文書について報告をしてください。リヒターは記録を、記録のままに保持するのみの役割。解釈を自ら禁じている一族ですので、我々としても問題はありません。聖女様は教義を真に理解をするためとおっしゃいました。ならば我々もそれに続きたく存じます。得た記録は民や教義のためだけに用い、決して外へ漏らさぬことをお約束ください。斯様なことがあれば流石に私も大司教として、貴方を罰しなければなりません。──以上が条件です。いかがでしょうか。」



なるほど、そこまで来たか。

私は奥歯を苦々しく噛み締めた。得た情報が筒抜けになるのか、と。しかし大司教の理屈はもっともであり、私の用意していたストーリーにも正しく乗っかっているため、条件を拒否することは出来ない。私はそのように頭の中で考えた後で返す言葉を口にした。


「それはその通りですね、……承知しました。リヒターの当主であるアーネスト卿にご同行いただき、調査の後にはお一人で大司教様へ報告していただくことを守ります。私とて此度のような重さの記録を前にしてしまっては、きっと一人では背負えませんから。」



かくして交渉は成った。ビジネスシーンだったならば握手のひとつでも交わすところかもしれないが、ここは異世界だ。そんな習慣はない。

私は今度こそ立ち上がり、両の手を握って深く頭を垂れた。解けていく緊張感に、互いに安堵の息が漏れていた。この日は、大司教に銀色の光は見えなかった。大司教の退出を見送ってから、私はヘルマンに外の様子を確認する。そして、()()()()()()()()()()()()()()()




王への謁見のやり方は、前回と同じだ。教会に気取られないようにホーエンフェルス家へ立ち寄って、馬車を乗り換えてから向かう。しかしアメリアは留守番だ。これは私の超個人的な理由によってであり、アメリアにはなんの瑕疵もない。


侍従の案内を受けて執務室の扉の前まで来たら、侍従とヘルマンとはそこで一度お別れだ。極めて内密にしなければならない話だからである。大司教との交渉と同様に──いや、それ以上に。


「陛下。……()()()()()()()()()()()()()()()大司教に陛下からの打診を密告してまいりました。」


今回もまた月夜に照らされるジークムント国王陛下は、私が挨拶でもするかのように行った報告に高らかな笑い声を上げた。さながら悪役のような、共犯者の笑いだった。


「さすがだな、聖女ルツィア!大司教を手玉に取るとは畏れ入る、実に面白いことを考えたものだ。」


「お褒めに預かり光栄です、陛下。」


「禁書庫の件もうまくいったのだろう?」


「ええ、すべてお望みの通りです。」


上機嫌な国王陛下に促されるまま私は着席した。この座り心地には教会とはまた異なる、確かな力を感じる。陛下は私の報告を肴にグラスを傾け、まさしく勝利の美酒に酔わんとした。


「よい、素晴らしい戦果だ。今ここで褒美をやってもいいくらいの成果だ。」


「ご冗談を。まだ陛下が望む『実利』には達しておりませんよ?」


私の返答に、陛下はそれもそうだなと酒を煽った。陛下の親書を大司教に提示する代わりに私が提供するものは、禁書庫から得る実利だった。

では実利とは何か。それはポーションひとつに留まらない、商品化出来る神秘の発見だ。


「まず狙いたいのは結界だ。国防のほぼ全てと言っても過言ではない、偉大にして憎たらしいあの神秘よ。我々が連合に売っている一番の商品が安全であることは、以前話したな?」


私は静かに頷いた。この聖石の王国ハイリゲンシュタインは、三方を魔物の巣窟に囲まれている。唯一残された西側に、通称西の連合、ヴェストファーレンという隣国が存在している。ヴェストファーレンには製紙にはじまる高度な文明に基づいた様々な技術、海産物や香辛料などの交易品、そしてさらなる西へ広がる世界の情報──まさに、『神秘』以外のすべてを持っているかのような隣国だった。王国からは結界による魔物の流入阻止という恩恵の他に、魔物の巣窟である北東の山脈で採取できる魔石などの希少鉱物資源、唯一生産量に勝る穀物などを輸出しているが、技術で大きく水を開けられている分、優位性が保てそうなものは安全保障しかなかった。そしてその安全保障すらも、聖女──教会の手の内である、という状況だった。


「禁書庫の存在が示されなければ、ポーションの製法で教会に揺さぶりをかけ……あわよくば西から技術を幾つか得られる程度にしか考えていなかったであろう。さしもの私も、『ポーションひとつで教会と対立するのは割に合わない』と持ちかけられた時には驚いたものよ。」


「しかし大司教もタダでは転んでくれませんでしたよ。毎回の成果報告を義務付けられてしまいました。大きな問題はありませんが……完全勝利という訳にはいきませんね。」


「なに、記録や術式などいくらでもバルドゥインにくれてやったらいい。我らが目指しているのはその先、()()()使()()()にあるのだからな。」


例えば結界の術式が分かったとする。術式そのものが教会と共有されても、私や陛下にとっては何も障りはない。陛下が求めているのは、その術式を応用して生まれる商品──結界を小型化した装置やその技術、または応用としての魔物誘導装置などだからだ。そして私が求めているのは神秘そのものを動かすエネルギー源の正体と、特定の人物だけが神秘を実行できるからくり。なお、だからといって大司教との約束を反故にしているとまでは言えないだろう。あくまでそれらは漏洩ではなく、解釈だからだ。私と陛下の利害は、少なくとも現在は完全に一致していた。


「その通りです。もし国が割れたら、それこそ連合が何をしてくるかも分かりません。陛下は国防の掌握と新たな看板商品を得て、私はようやく禁書庫へ入って神秘を仕組みから理解することが出来る。その暁には国や民、信仰にも寄与することでしょう。」


見事な三方よしだろう。私は誰にも嘘は吐かず、しかし全ては明かさずに求めていた成果を得た。そう思っていた。

不意に、視線が刺さる。顔を上げれば王はグラスをすでに置き、私を見据えていた。


「──で、聖女ルツィアよ。貴殿の本当の狙いはなんだ?まさかここまでの策を立てておきながら、神秘の理解だけで満足するはずがないだろう。」


王はすべてを見透かすような鋭さも湛えた瞳で、そう言い放った。私は不覚にも驚き、その感情を顔に出してしまっていた。完全に油断していた。王は私が思っているより、私の人格を知っていたようだ。


「……私の目的は、はじめての謁見で申し上げた通りです。この聖女の役目が属人化していることが恐ろしく、それによる危険が民にまで及んでいる現状がどうしても許せないのです。なんとしてでも私の代でこの危うい状況を終わらせたいだけです。」


言い切ってから視線が重なる。本能的に身が竦む心地がする、恐ろしい。眼の前に生殺与奪の権を握る者がいるという事実が、私の成功に冷水をかけた。


「それもまた真実なのだろう。しかし足りないな、私には分かる。……だが、我が大義と比べて取るに足らないことでもある。我々が同志であり得る限りは、な。」


「ええ。私の願望など陛下の御心と並べるに値するものではありません。私は成し遂げます。──たとえ聖女が、その権力を失っても。」


王はまだ私が本音を話し切っていないと理解した上で、この場でそれ以上追及することはなかった。動きを悟られない程度の定期報告、応用が思いつき次第の共有を約束し、私は密会を終えた。扉を開ければ、そこには侍従とヘルマンが待っていた。私の首が繋がっている現実を見て、ヘルマンにしては珍しく、露骨に安心した顔を見せた。


「さあ帰りましょう、今日は働きすぎました。」


私は侍従に礼をし、ヘルマンを伴い帰路についた。その短い度の中で、私は陛下が使っていた『同志』という言葉の意味を反芻していた。


このまま調査をしても、私と陛下が敵対することはまずない。自分の研究に没頭して報告の遅延でもあれば怒られそうなものだ。そのぐらい、狙いは同じだった。


では、ヘルマンやアメリア、アーネストとは『同志』たり得るだろうか?とくにアーネストは、もしデータベースがもたらす可能性にまで気がついたら、一時的……もしくは永遠に対立してしまうこともあるかもしれない。ヘルマンやアメリアも私が最終的に聖女の役割を降りようとしていることまでは知らない。属人化の解消が良いものであると理解はしてくれているが、その先に見ている未来には、私がまだ在任しているに違いない。聖女をやめるまでが目的であると知ったら、『同志』ではなくなるのだろうか。聖女ではない者に仕える理由はないのだから、当然といえば当然かもしれない。この観点ならテオフィルスは最後まで『同志』のままだろうが──あの二人とは比べようもない。


私はそんな事を考えながら、自分の願望が前世、もともといた世界と離れがたく繋がっていることを思い出す。


この世界に生きる者の大義と比べたら、取るに足らないもの。


私は目を伏せ、馬車に揺られた。

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