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突入


 第一外周より、中央区の南側。そこにある宝石店突入の前に、ルイスは裏手の排水用の水道管で呪いの有無を調べる。そうして確実に呪いの気配がすることを確かめ、突入は敢行された。


 宝石店の扉付近には宝石店の警備員と思われるものが二人。最初に入店したのは令状を持った水道局員が一人とそれについた護衛官が一人。店員は令状にやや不審な顔をしながらも、差し出し元である水道局員の身分を示す書状も携えていた事から、事は穏便に進んだ。

 ルイスやリリアナたちは続いて入店する。


 宝石店という看板のわりには入店者から見えるところに石はない。第三外周の知り合いの店とは違って客の注文に合わせて石を奥から出してくるのだろう。入ってすぐ左側に接客用のテーブルとソファ。入り口からは離れた壁に扉が二つ。左手側には二階に上がれる階段がある。


 室内には店員が二名。開店してすぐの時間だからか、客はいない。突如やってきた大所帯に、店員は萎縮して部屋の隅で小さくなっている。警備の二名は彼らとルイスたちの間に陣取って危害は加えられないようにしようという構えだ。令状があってこちらに分はあるのに少し申し訳なくなってくる。


「奥の扉のすぐ側にもう一人いる」


 小さくささやいたのはウォンダーだ。その耳で人の動く音を拾ったのだろう。護衛官が一人頷いて部屋を素早く移動し、奥の扉を開く。

 小さく悲鳴を上げて後ろに下がったのは小柄な男だった。何かを倒したのか、大きな音がする。他の店員が静止の声を上げた。ルイスははっとして部屋を横切った。その小柄な男からは呪いの気配がしたからだ。


「あの男、石の事を知っている可能性が高いです」

「身柄確保に動け」

「はい」


 リリアナが号令を出す。男は、二名の護衛官に両脇を固められた。店の警備の者が近づいてこようとするが、リリアナはそれを視線と態度で遮る。対角線上にはアイクがいた。アイクの出す物々しい雰囲気に警備員は動けない。その間に、ルイスは奥の部屋に入る。そこにはもう他の人はいなかった。小柄な男だけが潜んでいたのだろう。作業用の台と、椅子。鍵のできる棚に、工具箱。窓の側には流し台がある。


 ここだ。

 近づいた排水口から濃い呪いの気配。手を伸ばそうとしたらウォンダーに止められた。

 両手に水を通さない革の手袋をしたウォンダーが、排水口に手を突っ込む。そして、すぐにそれを引き上げた。


 網に入った何かだった。作業台の端にそれを置いて中のものを取り出す。紫色の石が現れる。石の中には火花のような色を宿している。

 後ろがにわかにざわついた。


「それに触るな!!!」


 両脇を固められた男が、拘束を解こうと必死にもがいていた。片腕が護衛官からはずれ、しかし、すぐにまた捕まえられる。じりじりと前進しようとする男の口からは泡だった唾が飛ぶ。男もまた手袋をしていた。


「あんたらにはやらない! もうとられるものか!」

「暴れるんじゃない!」


 掴んだ腕の袖口がめくれて腕が見える。皮膚は見慣れた色ではなく、赤黒くなっていた。片腕の拘束を外した男が、机の上の金槌を掴んで振り上げる。だが、正面から相対したウォンダーが手首を掴んで捻る。肩を押さえて床に引き倒した。護衛官はその動作を遮らないように手を離している。

 つぶれたような声を上げる男。護衛官が上から片腕ずつ抑え、後ろ手にまわすと、手に縄をかけた。

 なおも暴れる男。


「あいつにもってかれたんだ! もう誰にも! ふざけるな! 離せ!」


 外の応援を呼んだのか、他の護衛官も数名店内に入ってくる。彼らに囲まれて、男は引きずられるように回収されていった。説明を引き受けたのはリリアナで、店舗の表の方で店員に聞き取り調査と状況の説明を行っている。彼女の落ち着いた声が、やや感情的で混乱している店員の冷静さを取り戻させていた。

 怒濤(どとう)のような展開だった。

 外の怒鳴り声が絶えることなくきこえている。近くに寄ってきたのは、この店に一番に入った水道局員だった。


「竜仕官様。この石の性質を調べてもよろしいでしょうか?」

「はい。どうぞ」


 水道局員の手にもしっかりと水を通さない手袋がはめられていた。

 局員は扁平の白い石を取り出すと、宝石の周りにできた水たまりに置く。無色透明な水の中で、石は濃い紫へと色を変えた。


「水道局長様から聞いていた石の特徴とも一致します。呪いの石で間違いないですね」


 水道局員は携えていた箱を机の上に置くと、蓋を開ける。


「回収はこちらの箱へ。布では水を通します」

「わかりました」


 宝石についている水を柔らかい布で拭き取り、その布でくるんだ状態で箱の中へ宝石を入れる。蓋は金具で固定されるようになっていて、上下逆にしても開かないようになっている。ただ、呪いの気配は箱の外側からでも感じる事ができた。


「これを、どうされるおつもりですか?」

「これから水道局長様と、竜仕官長様に確認をとります。それまではこちらで保管させていただきます」

「待て」


 待ったをかけたのはウォンダーだ。


「なんでしょう」

「その箱はルイスに持たせてくれ」


 ウォンダーがルイスを指さす。


「あなたのご協力には感謝いたしますが、それは……」

「複数の人間に簡単に渡ってしまう状態にする事は、懸念(けねん)材料が残る」

「私どもが信用できませんか?」

「ここの権力構造はよくわからない。誰が誰の命令を受けて行動しているかわからないところに、せっかく回収した石を持たせるのに抵抗がある」


 ウォンダーはそうはっきりと言った。


「どうした?」


 説明を終えたリリアナがやってくる。もめている様子なのをみて、ルイスに説明を求めた。リリアナは詳細を聞くと納得して口を開いた。


「ルイスに渡してくれ」

「しかし――」

「壁外からきた人とはいえ、原因を突き止めた大きな功労者だ。石は誰が運んでも一緒だろう? このあと水道局長様と竜仕官長様に石を確認していただくまでは竜仕官としてルイスが持っておけばいい」

「わかりました」


 水道局員は引き下がった。


「それでは移動しよう。あの男からの聞き取り調査で石を手に入れた経緯と、売ってしまった石の行く先を追う。同時に、水道局長様、竜仕官長様を交え、この宝石の確認をしてもらう。各自、自分の職務を行うように」


 リリアナは、この場に集った者たちに号令を出す。自身はこの後、書類調査と他店員への聞き取りに残った水道局員のための護衛官を残し、連行された男の元で聞き取りを行うのだとか。


「ルイスは石を持って、彼と共に一度宿に戻ってくれるか?」


 リリアナは一人の護衛官を呼ぶと、彼にルイスたちを任せた。


「わかりました。リリアナ、お気を付けて」

「ああ、ルイスも道中気を付けるように。護衛と、そこの男がいれば、何が起こっても問題ないとは思うがな。頼んだぞ」


 最後の言葉は、彼女の護衛官に向けた言葉だった。年かさの護衛官は浅くこちらに礼をして、ルイスたちを案内した。

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