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家での話し合い


「それで、アイクはどうしてあそこに?」


 リビングには椅子が二脚しかなかったので書斎から一脚降ろしてきたのはウォンダーだ。左腕は相変わらず大丈夫だと言われてみせてはくれない。重いものを持ち上げて痛そうなそぶりも見せないところをみると、本当に何でもないのかもしれないと思いそれ以上は指摘する事をやめた。


 食事は手早く屋台で買って、家にあった他の食材を追加で出した。皿も足りなかったので、大皿にそのほとんどを盛って、小さな皿に自分で取り分けて食べて貰う方式をとる。

 お肉とタレのいい匂いがリビングに充満した。


 お互いに簡単に自己紹介をした後、食事に手を合わせて食べ始める。そうなれば話が途中で終わっていた話題に移るのは自明のことだ。食べ物を咀嚼し、水で流し込んで口を開く。テーブルの席順は、ルイスとアイクが向かい合わせで、ルイスの左側の一辺にウォンダーがついている。アイクとウォンダーとの間の距離は、気持ちルイスとウォンダーの間よりも隙間が広かった。


「ここに来たのは中央の状況を伝えるためだったんだが」


 アイクは喋りながらウォンダーをみる。ウォンダーはどこ吹く風というか、あまりその視線を気にしていない様子だ。その感じ、さっきもあったな。


「先にこちらに来てみれば、この男が家から出てくるのが見えて」

「ああ、アイクはウォンダーとは初対面でしたよね」

「ルイスが誰かと暮らしているという情報はなかったし、不審に思って追跡したんだ」


 確かに、以前にアイクがここに来たときはウォンダーをここに招く前の話だった。それに、ウォンダーとこうして再会したあとに部屋を貸していることは誰にも伝えていない。女医に託した手紙には一人協力者がいる事を伝えたが、多分その手紙はまだ中央のリリアナのところには届いていないと思われる。


「ルイスに声をかける前にこの男に話しかけられた」


 フォークを動かしながらそう言ったのはウォンダーだ。大きな葉野菜の塊を綺麗に畳んで口に運んでいる。


「そもそもここにやってきたのは、レイガート家の周りをうろついていた不審者がどうやら第三外周に足を伸ばしたらしいと言う情報を手に入れたからで、そんな中で一人暮らしのルイスの家から知らない男が出てきたところをみると、その素性を警戒するのは当たり前の話だろう」

「そうだな」


 棘のあるアイクの言葉にウォンダーは何事もなく同意する。疑われた理由に納得したのか気にしたそぶりのないウォンダーを見て、ルイスも応じる。


「その通りですね。すみませんアイク、心配をかけたみたいで」


 アイクは首を振った。


「それで、その男は本当に奴の手のものではないんだな?」

「奴とは?」


 口を挟んだウォンダーに眉を寄せつつも、律儀な護衛官は答えてくれる。


「市長の息子。クイーズ・イリュジオの事だ」

「大丈夫ですよアイク。ウォンダーが本当にあの人の手のものだったとしたら、最初にあったときに命を取られていたと思います」

「最初にあったときとは?」

「えーっと、第三外周にやってきた時、ここにたどり着けずに道ばたで気を失ってしまったようで。それを介抱してくれたのがウォンダーだったというわけです」


 アイクは再び難しい顔をして浅くため息をついた。


「……はぁ。わかったそこは信頼しよう。だが、なぜそのあとも部屋を貸し与えている」

「ええと、いろいろとありまして……。どこからどこまで説明したものか」


 手紙では伝えきれない部分を省いたが、こうして対面した今、伝えられることは全て伝えるべきだろうか。ただ、ウォンダーの事をどこまでアイクに伝えるべきか悩ましいところではある。

 とはいえ、ルイスも彼の事については知らないことの方が多い。どうして石の事をよく知っているのか。どうして旅をしてまでその石を回収しているのか。

 ウォンダーと目を合わせると、彼は軽く頷いて話を引き継いだ。


「俺とルイスは一時の協力関係にある」

「協力関係?」

「さっきこの都市に来た本当の目的はなんだときいたな?」


 アイクが頷く。多分二人でいた時の話だろう。ルイスは続きを待つ。


「隊商の護衛として来たのは本当だ。だが、きっかけはとある病気のことを聞いたからだ」

「まさか」

「お前たちが壁外と呼んでいる地域の話だ。その原因が俺の目的だ」

「原因が、目的? どういうことだ」


 この話の続きをルイスが引き継ぐ。


「少し話は逸れますが、竜の庭であったことをアイクには話したと思います。そこで出てきた嫌な感じのする宝石のことも」

「宝石について、か。簡単には聞いたが、それがどうかしたのか?」

「端的に言ってしまえば、その石が今回の病の原因だと思われます。壁外の水から同じ気配がしたんです」


 アイクが前に来たときは宝石の事について、嫌な感覚がする程度で、なにも具体的な報告はできなかった。あの時点であの石がなんなのかわからなかったし、ルイスの感覚は自分の主観によるもので、本当にそれが正しい感覚であったのかを説明する事が難しかったからだ。


 それが、今は少し違う。同じものを壁外区画の水から感じたこと、そして、壁外区画で広がっている病気の存在。それに先ほどクイーズと親交が深いと(もく)される文官から感じたもの。それを総合すると、やはりあの石には人に対して悪い影響を及ぼす何かがある。ウォンダーの言い方を借りるなら、人を呪っている事を説明できる。


 それが竜に対しても同じ効果をもたらすのならば、やはりこの都市にある宝石は回収すべきと言える。


「壁外の病気も石が原因、か。にわかには信じがたいが、壁外に流れ出している水のどこかに、その石があると」

「可能性は高いです」

「確かに、人への影響は無視できないものがあるな」

「はい。だからこそ、水道の調査をしたいんです。そのために、リリアナの力をお借りしたい」


 アイクはふむと考えると口を開いた。


「リリアナ様には話しておこう。言葉だけを聞いていると信憑性が薄いと言わざるを得ないが」


 水を飲んでいたウォンダーが少しとまった。それをアイクが目で制する。


「調べる価値がないとは言わない。正直病気の事に関しては少しでも情報が欲しいところなんだ。一つ一つ原因と思われることを潰していくのは理にかなっている。話は通しておこう」

「ありがとうございます」

「こちらからも話がある。まずは竜仕官長様の動きについてだな」


 竜仕官周りの事はルイスも気になっていた。


「ルイスに起きていること、こちらに避難している事はオリクト様も把握している。それに侵入者の件についても度々の目撃証言があったことも加味して記録には残っていないが事実だと認識しておられる。が、それによって市長に不服を申し入れたりイリュジオの家に申し立てする事はできていない」

「証拠がないからですね」

「その通りだ」


 状況証拠では市長は動かない。ルイス以外に当日の証言もなく、目撃者もいないとなればその辺は仕方がない。


「しかし、おまえに直接話を聞きたいとおっしゃられていた」

「直接会うことができたのですか?」

「水道局長様を伴ってエレクシオン家に来られたのだ。秘密裏に」

「どうして」


 竜仕官長が動くのみならず、水道局の長までがどうしてと疑問がわく。


「とある筋からルイスが第三外周に逃れたことを知った後、家までやってこられて、その流れで石の事を話題に出したら向こうの方から提示されたのだ」

「それこそどうして」

「詳細は語られなかった」


 石の事、なにかを知っているのだろうか。


「それもあったので、ルイスには近いうちに中央に戻って貰おうと思っていた。第三外周にいてもあまり安全とは言えなくなってきたしな。どうやらどこかからルイスの居場所のこともばれていたようだし」


 文官がここまで足を運んでいたのがいい証拠だ。

 潮時だ。


「しばらくは外出には気を付けてくれ。リリアナ様と話がついたらまた迎えにくる」

「わかりました。あの、ウォンダーも同行できますか?」

「この男を?」


 途端にアイクは顔をしかめた。少し考えて椅子に座り直す。ウォンダーを見やって口を開いた。


「おい、少し席を外してくれないか」


 口調を荒げたりはしていないが、有無を言わさない圧があった。それに対して、ウォンダーは抵抗もなく受け入れる。


「わかった。しばらく出てくる」

「すみません」


 席を立ったウォンダーにルイスは頭を下げた。


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