第二百六話 差異(3/?)
「1回の裏、バニーズの攻撃。1番サード、月出里。背番号25」
「いきなり1点を追いかける展開となりました帝国代表。しかし、昨日の試合は宿敵・韓国にいきなり3点を奪われる展開となっても最後には大勝しました。何より、帝国代表にはこの打者がいます。"4割打者"月出里。ここまで2試合続けてマルチヒット、得点源としての役割を見事に果たしております」
(ヨーロッパの人だけど身体はあんまり大きくない。どんな球投げるんだろ?)
「対するチェコ代表の先発はカジェフケ・バルトシュ。今大会初登板となります」
「ストライーク!」
「まずはアウトコース低めいっぱい。球速は126km/h……」
「遅っ」
「小次郎のフォークより二回りも遅いやんけ……」
……確かに事実として遅い。おれが高校の時に体重付ける前と同じくらい。特別キレも感じない。
「ボール!」
「これは外高め、はっきりと外れました!」
コントロールは良くて、今のはたまたま外れただけなのか……
(様子見は十分。これなら低めだって……!?)
「ストライーク!」
「「「「「え……?」」」」」
「低め空振り!113km/h、これはチェンジアップでしょうか……?」
あの球単体の球速だけを見れば、まごうことなきチェンジアップ。でもストレートとのスピードと比較すると……
「ボール!」
「2球続けましたがここはバットが止まっております!114km/h、低め外れました!」
「ある意味アタシの高速チェンジと同じだね」
「そうっすね……」
ストレートとの球速差は10km/hほどしかない。そういう意味では、160km/hのまっすぐ投げて150km/hのチェンジアップを投げる妃房さんと同じ。山口さんみたいな緩急が目的のそれとは全く別物。
「ファール!」
「ここで高めまっすぐ!126km/hですが差し込まれております!」
「おいおい、ちょうちょの好きなとこやんけ!」
「今ので仕留めろや!」
(今度こそ……!?)
「ストライク!バッターアウト!」
「スイングアウト!最後も落としましたチェンジアップ!バルトシュ、いきなりの大金星!昨シーズンの三振の数は全打席中わずか3.8%の月出里を仕留めました!」
「「「「「ヘスキィィィィィ!!!」」」」」
「らしくない、だけじゃないよね」
「でしょうね」
確かに月出里さんはいつもとちょっと違う。得意なはずの高めをイマイチ仕留めきれなくて、妙に低めに食いつく。月出里さんは単純に安定してるだけじゃなく打球のスピードが速いから、他の打者と比べて運に左右されにくいタイプのバッターだけど、ここ最近の月出里さんは正直かなり運に恵まれてるだけで、実際ははっきりと数字に出てる猪戸さんと大して変わらない、そんな感じがする。
「2番ライト、草薙。背番号8」
「ストライーク!」
「まずは内側いっぱい!」
「ボール!」
「ボール!」
「ボール!」
「これはワンバウンド!」
ボールこそ先行してるけど、コントロールは悪くなさそうだ。おそらく草薙さん相手だから際どいとこに投げようとしての結果。その証拠に、キャッチャーミットはそんなに動いてない。
「ストライーク!」
「これは胸元まっすぐ125km/h、フルカウント!」
(さっきと同じ、いや少し高い……これは……!?)
「ストライク!バッターアウト!」
「見逃しの三振ッ!最後はインハイへのチェンジアップ!バルトシュ、日本が誇るアベレージヒッターを2人続けて三振に斬って取りました!」
「すげぇぇぇぇぇ!!!」
「130km/hも出てへんのにようやるわ……」
「最近速いピッチャーばっかりやし、やっぱこういうタイプもおらんとつまらんわ」
そしてやっぱりあのピッチャーの生命線は、あのチェンジアップ。




