第二百二話(第五章最終話) 真に誇るべきもの(9/9)
******視点:月出里牡丹******
12月26日、地元の病院。
年末年始の時期だけど、『定期検診』って理由もあるし、勤め先も割とホワイトなとこだから、平日に有給を取って順番待ちすることなくスムーズに診察してもらえた。
「ンじゃ、ちょっと腕チクッとしますよォ」
消毒したあたしの腕に点滴の針を刺す看護師さん。学生の時から変わらず茶色くてモコモコのトイプードルみたいな髪型。
「仕事順調?」
「うっす、おかげさまで」
逢が中学でヤンチャしてた頃からのあの子の友達、ミッコちゃん。ちょっとグレてたけど根は真面目で優しい子で、シングルマザーのお母さんのためにも一生懸命勉強して、希望通り看護師になった。
「逢さンは今年も帰ってくるンすか?」
「ええ。もうすぐ婿くんと一緒にね」
「いやァ、ほんと大物になりましたねェ。『4割打者』とか……中学ン時にサインもらっときゃ良かったっすよ」
「ちょっと大物気取りすぎてるけどねぇ」
「……あー、昨日のニュースのアレっすか?」
「観た?」
「ええ、まァ……そりゃあっしも正直最近のテレビ、幾重幾重うっせェなァとは思ってましたけど……まさかあンなはっきり言うとは……」
「……多分、今年色々すごいことして、あの子なりに色々考え方が変わったんでしょうねぇ」
「と言うと?」
「あたしは野球はあんまり詳しくないけどね……あの子小さい時からビリオンズの若王子姫子が好きで、野球始めてもずっと内野のどっかばっかりやってたのよ。『姫子ちゃんみたいにプロでも内野でスラッガーやる』って。だからピッチャーを勧められたりしても全部断ってね」
「…………」
「でもそれって単にこだわりとかプライドだけじゃなくて、あの子自身実際に野球をやってみて、『プロになればピッチャーか野手かどっちか選ばなきゃいけない、両方やるなんてできっこない』ってのをあの子なりに理解して、妥協した部分も多分あったと思うのよね。あの子基本負けず嫌いだから、自分でピッチャーやって何が何でも勝ってやろうって思ったことが一度や二度くらいはあるはずだし」
「……でも実際いてしまったと。"ピッチャーか野手か選ぶ必要のない奴"が」
「まぁあの子はプロ入ってすぐは下っ端同然の立場だったから、あんな"世界的大スター"に敵意なんて向けてる余裕がなかったんでしょうけど……"野手一本"で日本じゃ1、2を争う大物になって変なプライドが生まれたと言うか、自分がどっちかを選んでこうなれた以上、"どっちも妥協しなかった奴"を認めたくなくなったと言うか、自分が妥協したって事実を認めたくなくなったと言うか……」
あの子は自分の見た目のこと以外は基本ネガティブで良く言えば謙虚だけど、中学の時に自分の腕っぷしの強さを自覚してヤンチャしてたみたいに、一度調子に乗るととことん乗り続けるタイプだからねぇ。
母親として今度のWBFもその勢いで活躍してほしいって気持ちはもちろんあるけど、実物の幾重くんに会って、ちょっと頭を冷やしてほしいわね。あの子に『世界で一番になってほしい』と願ってる、あの子の友達のためにも。




