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02 氷上の炎荒

 ギルド本部の大改造が終わり、食堂に集まって夕食を皆で食べる。

 その時、一つの呟きがやけに響いた。


「もぐもぐ、あれ?もぐもぐ、そう言えば、もぐもぐ、布団とか、もぐもぐ、なくね?」


 皆新たな衝撃に打ち震え、私を見据えた。


「⋯⋯夕食が終わり次第各自の部屋を作り出して各自で布団を用意すること。この辺だとクック鳥がいるから素材には困らんだろう」


 そして皆が急いで夕食を掻き込んでいく。

 それも仕方ないというもので、ギルド本部の改造が出来るコンソールはたった一つしかない。しかも早い者勝ちで場所取り合戦だ。先ほどまでしていた風呂、トイレ、調理場、食堂は纏めて空間を作り出したから一度で済んだけど、これは相当な時間がかかるだろう。なにせ8000人もいるのだから。さっき分かれて作業していたのは調理器具や風呂桶、便器の作成のためだ。

 私は急がなくてもゆっくりと自分のペースで作ることが出来る。それはサブマスターたちも同じで、マスターとサブマスターはいつでも自由にコンソールを操作できるのだ。

 とはいっても、私は最後にチェックして少し改造しなければならないだろう。

 何故かって、8000人もいじるのだからきっと迷宮みたいになるはずだ。扉だけ用意して亜空間を作って自分の部屋を作るやつも出てくるかもしれない。亜空間はギルドポイントが大幅に減るから許容できないのだ。

 なので私は最後にチェックする予定。

 きっと朝までかかるだろうから支部に転移するのだ。たぶん、サブマスターも同じことを考えているだろう。

 リフェリティアの支部はこの本部を中心に3角形を描いて設置しているのでどこも同じ距離に位置している。何故支部があるのかと言えば、ギルド対抗戦で使うからだ。ギルド対抗戦では支部と本部を落とす戦いであり、単純な戦闘ではない。支部を落とさずとも本部を落とせば勝てるのでそれも考えると、本部の周囲に支部を設置するというのが定石になっている。

 因みに支部もギルドポイントで作るため、割と膨大なポイントを使用している。支部を消せば本部をもっと大きくできるだろう。それこそ一つの街並に。


「支部っているかな?」

「あ~、どうだろうな。この世界で支部って使い道なさそうだし」

「消しちゃう?それで一度本部を大改造しちゃった方が早いと思うんだよね」


 隣席していたサブマスターが呟きを広い会話が成立する。


「じゃあそうしよっか。問題があったらもう一度作ればいいだけだし」


 支部は消去し、本部のみにすることとなったのでそのことを通話で伝える。


「ギルド『支部は消去することにしたから明日新しい魔城を作りまーす。というわけで男女別の大部屋で寝ることをお勧めする!』」


 これを聞いたメンバーは2種類の反応に分かれた。一つ目は折角作ったのにという残念な表情。二つ目は夕食をゆっくり食べられるという安堵の表情。

 そして私は早速男女別の大部屋を作った。大部屋の他にもう一つ6畳ほどの部屋を作ることは忘れてはいけない。何といっても、私の本来の性別は男であり女性陣の中で寝るなど出来ない事であり、男性陣の中で寝ると見た目は美少女なので襲われる可能性が浮上する。そのためぼっちの就寝が待っている。


 夕食を終えた者から順に男女別に作った温泉もどきに入っていく。私はここでもぼっちで入浴なのだけど⋯流石に女の体で風呂に入るのは初めてである。

 下着になるだけでも数分かかり、下着を取るのにも数分かかった。女性の服と下着は面倒臭いな。

 風呂から出ると、レイラに出会った。レイラに服を脱ぐコツを聞いてみると斜め上の回答が返ってくる。


「着せ替え機能で脱げばいいんじゃない?」


 すっかり忘れていた。装備なんて最高の状態から変える必要なんてないし、既に素材から何もかも拘り誰も持っていないだろう装備に身を包んでいる。最後に着せ替え機能を使ったのはいつだったか、もう忘れてしまった。


「にいちゃん」


 レイラと別れると声がかかった。これは弟であるゴルゴの声。というより「にいちゃん」なんて呼んでくるのはリアルの弟しかいない。


「どうした?」

「俺らどうすればいい?」

「……どうすれば、とは?」

「フェルトと俺、このギルドに入ってもいい?」

「そういうことか。全然いいよ」


 加入申請の仕方を教えて申請許可をすると同時に2人がギルドメンバーになった。

 2人は入ったばかりだからギルドランキングは最下位で称号は平民だ。

 ギルドごとに細かく設定出来る物があり、その中でも称号というのはギルドによって趣が違っている。

 リフェリティアでは上から、婦爵(ふしゃく)子爵(ししゃく)公爵(こうしゃく)侯爵(こうしゃく)伯爵(はくしゃく)叔爵(しゅくしゃく)亜爵(あしゃく)男爵(だんしゃく)田爵(でんしゃく)・平民となっている。これは爵位に相当な拘りを持っているサブマスターであるツツミが決めたものだ。ツツミはギルド創立からの初期メンバーでたまに相談に乗ってもらうこともある。ただしサブマスターは辞退された。

 そして、婦爵は私、子爵は初期メンバー、公爵はサブマスター、侯爵はギルド内ランキング戦での上記メンバー抜きでの最高成績者、伯爵はランキング戦のトップ2位から10位とギルド対抗戦での貢献度がトップ10の者、叔爵はランキング戦とギルド対抗戦での50位までの者、亜爵は100位までの者、男爵はギルド加入後1年以上経った者、田爵はギルド加入後1か月の者、それ以外は平民となっている。

 一番多いのはもちろん男爵だ。しかし、二番目に多いのは田爵となる。3番目は子爵となり、これは何故かと言えば初期メンバーは優に200人を越えているからだ。初期メンバーでもサブマスターでもある場合は公爵となる。これはワンランク下がることになるけど、サブマスターとしての機能を使えるように設定しているのが公爵なのだから仕方ない。

 これらはキチンと設定を決めていれば後はシステムが勝手にしてくれるのでとても楽なのだ。操作することと言えば私がサブマスターを任命する時くらいだろう。


「じゃ、皆おやすみ」


 もう寝ている人もいたけど、一応言っておく。私は6畳部屋に入ってゲーム時代含めて異世界初の睡眠をとることとなった。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――――――



 朝が来て、ギルド本部の廊下の窓から見える空は相変わらず曇っていて雪も降っている。ここは北端に位置しているから雪が止む日は滅多になく時には吹雪く地。これが毎日見る風景だと思うとなんだか気が滅入るような気がした。


「おはよーございますギルマス」

「おう、おはよ」


 このギルドのメンバーは小学生から40代までを取り揃えており、年齢幅も全ギルド最大である。


「じゃあ、早速大改造するよ~。温泉とコロッセオと調理場、それから食堂の位置は変えないからね」


 コロッセオに集まった全ギルドメンバーにそう告げてコンソールを起動させる。

 起動したコンソールはゲームの時と同じだった。


 ―――――――――――――

 ギルド:リフェリティア

 基地:本部・支部・支部2・支部3

 ギルドポイント:340/780620

 ギルド加護:HP25%増加・MP25%増加・HP消費25%減少・MP消費25%減少・HP自動回復1500/秒・MP自動回復1500/秒・攻撃力25%増加・防御力25%増加・スキルクールタイム25%減少・種族補正25%増加・状態異常耐性25%増加・全属性耐性25%増加


 設定変更選択:基地改造・基地建造・基地解体・加護取得・ギルド員ランク変更・ギルド固有設定変更


 ―――――――――――――


 まずは基地解体を選択し、本部以外の支部3つを選択する。すると、基地の表示が本部のみになりギルドポイントが大量に戻ってきた。

 ギルドメンバーはこれからも増える可能性もあるから1万人分の部屋を用意しなければならないだろう。そう考えると、やはり洋風の城では無理だろう。日本の城のように塀を作りいくつもの建物を建造するいう方法でなければ厳しいと思う。

 でも、私は洋風の城の方が好きなので中心には少しサイズを小さくした、今までと同じ外観の物を設置する。その中身は以前とは異なり、1階にコロッセオを設置し2階には大浴場を設置する。3階に調理場と食堂を設置し4階には食堂を設置した。5階には露天風呂を設置する。そして最上階である6階はただの空間を広げて置く。

 その洋風の城を中心に居住区を作っていく。集合住宅をイメージしようと思ったけど流石にそれは嫌だと思い、円形に1万人分の家を作る。もはや一つの街である。家は日本でよくある住宅を参考にして8畳と6畳の2部屋を1人で使えるようにした。

 その周囲を高い塀で囲い、城の正面に当たるところには門を設置する。

 これで地上部分は終わりだ。次は地下部分である。

 地上部分はむしろオマケで、地下部分がギルドの心臓というべきだろう。

 地下には迷宮を作れるようになっている。その最奥にはギルドコアと呼ばれる物を置き、それが取られると一時的にギルドの所有権を奪われるというものだ。

 どうしてこんなものがあるのかと言うと、ギルド対抗戦は公式の遊びのようなものでギルド同士での戦争が行われることがある。その戦争は宣戦布告をするものや奇襲されるものがあり、それらに対処するために迷宮を作れるようになっているのだ。

 地上部分で使ったギルドポイントは大体10万ポイントほどだ。本部は元々あり、デザインは歪過ぎたりしてしまうと消費ポイントが嵩むけど、そんなことをしなければ大したポイントはかからない。本部でかかるのは主にエリア範囲だ。支部はエリア範囲に加えて建物の分もポイントを支払わなければならないため、消費が激しくなる。

 今回設定したエリア範囲は直径5キロの範囲となる。1キロのエリアで1万8千ポイントを消費することになっている。なので、そのポイントがないギルドは本部を持つことが出来ないためギルド戦争という、ギルド本来の楽しみを味わうことが出来ない。ギルド対抗戦に出て勝利していくことによってポイントを集めたり、ギルドイベントと呼ばれるギルド単位で参加するイベントでいい成績を納めたりすればもらえたりもする。

 地下迷宮を設定するに当たり、まずは宝物庫、通称倉庫を亜空間に作る。倉庫にはギルドメンバー全員の預かり資産とギルドの資産が入っている。ギルド本部を作る主なメリットはここにあり、神殿でもメルやアイテムを預けることは出来る。でもその時に少なくない手数料が発生してしまうのだ。

 それをギルド本部が手数料なしで出来るようになるため、本部のあるギルドには自然と人が集まる。

 だから倉庫には絶対辿り着かれないようにしなければならない。とは言ってもギルドコアは亜空間に移すことは出来ない。亜空間はギルドメンバーしか行けないため、コアを亜空間に入れることはシステム的に不可となっている。

 地下迷宮は最大9階層まで設定することが出来る。でもこのギルドでは3階層までしか作らない。その分、強力なモンスターを設置しているので問題はない。

 地下迷宮の醍醐味はこの、モンスターを設置出来ることにある。自分で狩ったモンスターが一定の確率で服従という形で召喚モンスターとなることがあり、それをギルドに寄贈すると地下迷宮に設置できるのだ。もちろん、個人で強力なものを所有していればクエスト攻略も楽になるしパーティにも誘われやすくなる。

 私が寄贈しているモンスターは4体いて、それら全てが最高レベルの1000レベルのモンスターだ。1000レベルのモンスターであっても単独で倒さなければドロップする確率が0になってしまうので、根気よく攻撃を当てては攻撃範囲外に出てという行為を繰り返すことになる。流石に他のメンバー、というよりおそらく全プレイヤーを合わせても1000レベルを所持している人はいないだろう。

 3階層目にはそれらを設置して、2階層と1階層にはサブマスターや初期メンバーが集めたモンスターを設置させてもらっている。設置を解除すれば持ち主に戻すことが可能になるので皆気軽に貸してくれるのだ。


 因みに、モンスターレベルは1000が最高だけどプレイヤーレベルの最高は900である。

 しかし、課金することによってその上限が1000まで解放される。私は解放して1000レベルになっている。


 地下迷宮を作り終えると残りポイントが僅かになっていた。ここで使ったポイントは50万ほどで、召喚モンスターが強ければ強いほど消費も多くなる。それが原因で3階層までしか作れなかったのだ。

 残りの約20万ポイントは加護に振り当てる。これだけ残っていればギルド加護に振り分けることが可能だ。

 ギルド加護はギルドポイントで取得しギルドポイントでそのレベルを上げることが出来る。最高で25%なので、全加護レベルMaxとなっている。

 ギルドに入る2大恩恵と呼ばれる物のうちの一つが預入、もう一つが加護ということだ。


「ふぅ。おわったよ~家にはそれぞれの名前を振っておいたからよく確認して入ってね」


 そしてコロッセオから出て新しくなったギルド本部を眺める。そんな時だった。


『レフィ?マリンなんだけどさ、ちょっと助けてほしいんだけど……』

『どうしたの?』

『ちょっと現地人といざこざがね……今から来れない?』

『ん~わかった。じゃあ念の為50人くらい連れて行くよ』

『ありがとう!もうちょっと時間稼ぎしてみるね』

『りょーかい!』


 何があったんだろう?でも、マリンは連合に加入している「氷上の炎荒アイシクルファイアトルネード」という中二病ギルドのマスターなので、助けに行かなければならない。助けに行かなかったら北斗七星連合長としての名が廃ってしまう。


「え~、私直轄部隊集合~」

「「「「「なに?(なんですか?)」」」」」

「アイシクルから救援要請が来ました~今から飛んでいきます。⋯⋯⋯それから念の為大隊を一つ準備しておいて。それから昨日割り振った役割を今日からお願い」


 私が指示を出すと皆から元気のいい返事が返ってくる。それに揚々に頷き翻して翼を広げた。



 アイシクルの本部はここからは割りと離れている。距離にして四国の西端から東端ほどである。その距離は翼人族からすればあっという間だった。障害物など何もない、空の法律もないこの世界において空は私たち翼人族の庭なのだ。

 すぐにアイシクルの本部が見え、その前方に1000を超える現地人らしき人間が見えた。その向かいにはアイシクルのメンバーが勢揃いしていて皆の表情は硬い。

 私はゆっくりとアイシクル側に降り立つと現地人が何事かを呟いた。


「まさか……いや、そんなはずは……翼人族は300年前に絶滅したはずではなかったのか………」


 それは私の耳に入ることは無かった。

 そしてマリンから事情を聞くことにする。


「で、どういうこと?」

「それがね、ここはベジタリアン王国っていう国の領地みたいなの。本部の引っ越しは資金が嵩むしそんな無駄遣いは出来ない。かといって敵対するのは避けたい」

「あの人たちは兵士?」

「そういうこと。それで一番前にいる人が部隊を率いている伯爵様らしいよ。話があんまり通じないんだよねー、選民意識っていうの?それが邪魔」

「あ~、なるほどね。それで私にどうしろと……」

「愚問よ、レフィ。あなたたちの最強部隊を見せつけるのよ!そうすれば撤退せざるを得ないわ!」


 思わず天を仰いでしまった。仰いだ先の空には連れてきた翼人族が佇んでいる。というより楽しそうにじゃれ合っていた。そして目が合う。すぐさま逸らされた。

 一度溜息を吐いて落ち着いて対処する。


「それは逆効果だと思うよ。ていうかそれ敵対行動じゃないの?」

「うっ⋯⋯だって、話聞いてくれないんだから仕方ないでしょ?」

「どうすればいいのかなぁ……」


 2人悩んでいると痺れを切らしたのか若干強い口調で1人の男の声が聞こえた。


「おい!何を話している!さっさとこっちにこんか!」


 仕方なくそちらに行くと自己紹介が始まった。


「私はこの部隊を任されているベジタリアン王国騎士、テンペスター伯爵である。即刻この地から離れるか我が国に属するかを決めろ」


 相手の言い分はとりあえず無視して私も自己紹介をしてみることにした。


「私は北斗七星連合連合長、レフィリアと言います。この地は我々北斗七星連合の加盟ギルドの一つであるアイシクルファイアトルネードのものであり、貴国の地ではありません。お引き取り下さい」

「何を言うか!この下賎の民め!それ以上言うならば実力行使で制圧する!」

「出来ると思っているのですか?」

「ふんっ、そっちは高々600人程度ではないか。対してこちらは1500人。戦というものを知らぬのか?」


 テンペスター伯爵はあざ笑うように鼻を鳴らした。しかし、こちらもこのまま黙ってはいない。


「こちらには540人の援軍が私のギルドから向かってきている。精鋭部隊だ。本当に戦うつもりか?」

「ははっ!本当に戦を知らぬようだな!戦とは兵の数で決まるのだ」

「なら、その考えを打ち破ってやろう」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべて空を見上げると話を聞いていたのか既に戦闘態勢に入っている直轄部隊がいた。


「見せしめにあの山でも消し飛ばせ!」


 おそらく兵たちが超えてきたであろう山を指さして叫ぶと、直轄部隊が攻撃スキルを発動した。その攻撃スキルは翼人族の咆哮。射程が長く威力も相当なものを誇っている一撃の強さでは最強でもあるスキルだ。でも、これのスキルクールタイムは非常に長い。25%減少があっても45分ほどかかるのだ。

 凄まじい爆音と共に突風がこちらまで届いた。その突風に煽られて相手の部隊は転んだり怯えたりと実に様々な反応を見せている。そして山を見てみると標高が3分の2ほどになっていた。


「これでも、本当に戦うのか?」


 とどめにそう言ってやるとテンペスター伯爵は怯えた目でこちらを見たかと思うとキッと睨み付けてきた。これは⋯⋯やりすぎたかもしれないな。


「これは明確な敵対行動だ!お前たちは必ず我らが殲滅する!!」


 実現できそうにない捨て台詞を吐いて部隊を率いて彼らは来た道を帰っていった。


「ねぇ、誰かさんが「逆効果」って言ってたと思うんだけど?」

「⋯⋯ごめん、つい!マジでごめん!大丈夫。大隊二つ派遣するから許して」

「あのさ、その大隊って何?さっきも540人って数字が出てきたけど……」

「あ、戦闘部っていう奴作ったからね。12人で1小隊、それが9個で1中隊、それが5個で1大隊!」

「⋯⋯⋯ってことは大隊二つって1080人?うちのギルドメンバーより多いんだけど」


 アイシクルは700人ほどの中級ギルドで、そのメンバーは中堅プレイヤーが多い。平均レベルは600から500といったくらいだろう。それでも十分さっきの敵には通用するとは思うけど、本当に死ぬかもしれないから慎重になっているのかな?


「まぁ、それだけ派遣すれば安全でしょ」

「そうね。じゃあそれでお願い」

「おっけー⋯⋯⋯ギルド『大隊二つ派遣することになったからよろしく』」

『まじかよ!はぁ~。明日の夕方までにはなんとか到着する!』

「『わかった。ありがとう』⋯⋯⋯ってことで明日の夕方になるけどいい?あいつらもそんなはやく戻ってこないだろうし」

「それでいいよ」


 話が終わり、別れを告げてこの世界での家である通称魔城へと帰還した。そしてレイラと大隊長と中隊長と小隊長を作戦室へ呼ぶ。


「――――てことになったからあとはよろしく」


 説明を終えるとその場にいた全員が一瞬固まった。そしてレイラが口を開く。


「レフィ。ここはゲームじゃないんだよ?本当に死ぬかもしれないし、それにその戦いって要は戦争だよね?平和な日本で育った私たちに勝手に戦争を押し付けてるの、自覚してる?」


 レイラからの思わぬ口撃に口を噤む。そこまで考えていなかった。ただ、強い戦力を見せれば退いてくれる。そんな希望的観測で、もし攻めてきてもこちらの戦力を考えれば余裕で勝てる。そう思っていた。実際に戦う人の心情なんて理解しようと⋯⋯いや、考えようともしないで。


「……ごめん。そこまで考えてなかった。そうだよね。本当に死ぬかもしれないって、最初に行った人が戦争を持ち込んでくるなんて、有り得ないよね。ほんと最低だ、私」


 よく考えれば、ほんのちょっと考えていればこんなこと気付けていただろうに。そんなことにも気付かなかった。何よりもいけないのは、自分で死ぬかもしれないと言っておきながらその張本人が戦争を持ってきて、相手の命を奪ったりこちらの命もかけて戦えと、そう言っていることだろう。

 少し相談してからでも遅くなかったはずだ。いくらあの伯爵がバカでどうしようもなくてもすぐに攻めるわけではなかっただろうし。

 そうだ。今回の標的はアイシクルなんだ。マインに、ちゃんと謝罪しないといけないな。勝手にアイシクルを戦場に決めて、敵対はまずいってマインも言っていてそれに同意もしていたのに。どうしてあれほど短絡的思考に陥ることが出来たんだろう。自分の力を、ギルドを、連合を過信していた?最強プレイヤーと呼ばれる私に、最強ギルドと呼ばれるリフェリティア。そして知らない人はいない、憧れの的となっていると聞く北斗七星連合。ギルドマスターだから、連合長だからあんな勝手をしてもいいのか?⋯⋯いいわけがない。


「そんな、泣きそうな顔しないで。私も言いすぎたよ。わかってくれればよかったんだ。でも、次からはちゃんと皆に相談して、皆と一緒に考えて答えを出そうね」

「うん。うん。絶対そうする。ごめん。ありがとう。私まだすることがあった。から、ちょっと行ってくるね」

「いってらっしゃい」


 その場にいた小隊長、中隊長、大隊長は暖かい目で私を見ていた。ギルドマスターが一歩前進したことを喜んでいるような顔だった。レイラは⋯⋯優しく笑って送り出してくれた。彼女には感謝しないといけない。私に大切なことを教えてくれて、気付かせてくれたのだから。


 超音速でアイシクルまで戻ると、既に外に人はいなかった。

 正門でインターホンを押して来客を告げると門がゆっくりと開いて行く。門を通ると自動的に閉まり、アイシクルのギルド本部の扉までやってきた。扉に近づくと勝手に扉が開いた……かと思ったらマインが開けていた。


「どうしたの?」

「マイン……その、考えなしにあんなことになっちゃってごめん。マインは敵対したくないって言って私もそれに同調していたのに……」

「あははっ、それだけでここまで来たの?律儀だねぇ」

「ちょ!私は真剣で!」

「うん。正直ちょっと殴りたくはなったよ。でも、それを一番近い場所で見ていた私も止められなかった。だからお相子様。それに、ギルドの皆はあいつらの態度にいらついて戦いに乗り気だしね」


 ふふっと笑って後ろにいたギルドメンバーを視線で促した。そこにはいっそ清々しい晴れやかな表情をした人たちがいた。


「そっか……でも、ほんとにごめん!」

「いいよいいよ。それにレフィのその顔を見てたら……ねえ?」


 そう言ってマインは後ろのギルドメンバーを見た。そのメンバーは私を見て苦笑を零す。


「私の顔、何か変?」

「そうね。初めてみたよそんな顔」

「えっと⋯⋯?」

「はいこれ」


 咄嗟に手鏡を手渡され、それを恐る恐る覗き込んでみると⋯⋯そこには今にも泣きだしそうな顔をした美少女―――私がいた。


「え!?なにこれ!」

「ふふっ。まぁそういうわけだから、今回は不問とします。他のところでは失敗したらダメだよ」

「ふぇっ?ぁ、ありがとう⋯⋯」

「どういたしまして。それから、まだ帰らなくて大丈夫なの?」

「えーっと、今はたぶん帰ってもすることはあまりないかな?」

「そっか。でも、ギルマスが本部にいるかいないかだといるほうがいいよ。だから、もう帰っていいよ」


 私はもう一度お礼を言ってから、今度はゆっくりと飛翔した。

 飛んでいる間少しずつ涙が零れてきた。自分の犯した過ちの大きさを再認識したこととレイラとマインの暖かい優しさに触れて安堵したことで流れているのだと思う。

 そんな涙は我慢しようとしても止まらない。

 ―――あぁ、そう言えばリアルだと物凄く涙脆かったな⋯⋯。

 今更そんなことを思い出し、ゲームをしている最中一度も流したことのない涙を流していることに気付いた。というより、ここ数年涙を流した覚えがない。そのことがより強くこの世界が現実だと報せ、頬を伝う涙の量が次第に増えて行き飛翔していた翼が空中に漂う。空中で翼を広げたまま膝を抱きかかえて丸まり、1人で寂しく泣いていた。しかしその内心は自然とぽかぽかしていてとても心地がよかった。

 私は自分の手鏡をアイテムボックスから取り出して目が腫れていることを確認した。これではギルドに戻れない。

 それから腫れがが引くまで待ち、完全に引いてから再び空を駆けた。








二日連続投稿なんて今回だけかもしれません。

だって1話1万文字とかマジできついっす

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