01 始まりの時
これからヨロシクオネガイシマス
『にいちゃん、友達がにいちゃんと会いたいって言ってるんだけど』
『どっちで?』
『ゲームだってさ』
『わかった、じゃあ来週の土曜正午に始まりの村集合で』
弟から掛かってきた電話に対応している間も私の仕事は進み続ける。
私と言っているのは社会人ならそう言うだろうと思って使っているのだ。というのは建前で、本当はこれがいいからである。所謂オカマという奴かもしれない。
私の本職は小説家なのだ。
高校卒業と同時になったから今で3年目、もうじき21歳になる。弟は5歳も離れていてまだ高2だ。羨ましい。
でも副職も持っている。それがゲーム。
ーーグランドクエストはありません。
私がやっているゲームの名前だ。相当巫山戯ていると思う。でも実際はこのタイトルが一番売れていてミリオンセラーも達成している。
総プレイ人口は100万人とまで言われている。
しかし、このタイトル。実はグランドクエストはあるのだから詐欺である。
サービス開始時にネタにされまくっていた。だが、今では超有名なトップタイトルであり、知らない者はいないとまで言われている。
しかもそのタイトルは課金制でもあって還元システムまである。それが一番の秘訣だろう。
還元システムというのは、ゲーム内マネーをリアルマネーに交換することが出来るシステム。これで私は月に50万ほど稼いでいる。
正直、小説家などしなくても生きていけるし小説の売り上げよりも稼いでいる。というより小説の方はむしろ赤字とも黒字とも言えないギリギリライン。
よって、私の生活はゲームに依存していた。
小説家の仕事とゲームでの荒稼ぎをしているとあっという間に一週間過ぎた。
もう11時半になる。昼飯はさっき食べたところだから今からログインして移動すれば丁度いい時間になるはずだ。
相手は私のアバターを知っているので声をかけてくれるとのこと。因みに弟は初めてプレイするらしく、初心者プレイヤーだ。
今でもこのゲームは初心者プレイヤーが絶えなく生まれている。
誕生日プレゼントで買ってもらうという小学生がほとんどで、稀に中学生で買ってもらったり高校に入ってからバイトして買うという者も多い。
「グランドクエストはありません。をプレイしますか?」
このゲームは仮想現実を作り出している。なので脳内に直接メッセージが響いた。
しかし何故か、このメッセージに対する答えは「ログイン」なのだ。
「ログイン」
音声認証によって本人確認され、ゲームの世界へと入り込んだ。
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「転移、始まりの村」
音声認証で転移を……いつも通りにしようと思ったらできない。
どうしたのかとメニューを呼び……起こせない。
これはまさかと思いステータスを表示……出来なかった。
「え、マジで?バグ?運営出てこい!あっ、メニュー開けないとか積んでる。システムコールも出来なくない?」
まぁいっか、とりあえず飛んで行こう。
私の種族は翼人族であり、ゲーム内ではフリューゲルや天使、又は鳥人間などと呼ばれている。
空に上がると清々しい気分になる。毎度のことながら、空を飛ぶというのは感動するものだ。
とは言うもののこの種族を選ぶ者は少ない。私は空を飛べるという説明を見た瞬間決めたけど。
何故ならこの種族、序盤まで空を飛べないし中盤までは大して強くない。それこそ、他種族の序盤の強さが中盤で手に入れられるようなものだ。
ただし、それを乗り越えれば最強種族となる。私が初めて中盤を乗り越えたプレイヤーで、それが約2年前。高校卒業のプレゼントで発売と同時にこのゲームを買ってもらえたのだ。つまり2年半以上のプレイ時間を持っている。
それから翼人族を選ぶ人が増えた。劇的に増えたわけではないが、それでも増えたのだ。
増えても結局、断念する者も多く100万人いる中でたった1000〜2000人しかいないとまで言われる希少種だったりする。
それ故イジメも勃発することもあった。
そんな説明をしている間に始まりの村へと降り立った。周りを見てもプレイヤーがいない。恐らく時間丁度にログインするのだろう。
とりあえず村長のところへ行き、クエストを達成させる。
始まりの村の村長のクエストは何度も受けられることが出来る。そのクエスト内容はゴブリン討伐10体討伐であり、報酬が人気度。
人気度と言うのは隠れステータスのようなもので、現実で言うならばカリスマ性だろうか。
一度に2ポイントも貰えるからこれをこなすプレイヤーは割と多い。
でも、一定まで行くと辞める人が多いので一部の古参プレイヤーくらいしかもうしていないはずだ。
私もその一部の古参プレイヤー、ギルドマスターである。この人気度という隠れステータスを上げるとギルドメンバーの最大人数が増えていくのである。私はもうじき100万ポイントに到達する。計算式としては人気度÷100となっている。
「あ、いたいた!レフィリアさん!」
村長のクエストを達成させ、村長と世間話(こちらが一方的に話しかけること)をしていたのを中断し振り返る。
そこには金髪のよくある王子様の容姿をした、装備から見て中層プレイヤーだろう人物とつい先程始めたばかりなのでは?と一発でわかる装備を身につけたこれまた金髪の違うタイプの王子様がいた。容姿が王子様なのに装備は雑魚である。
きっと中層プレイヤーが弟の友達で見るからに初心者プレイヤーが弟だろう。
因みに私は弟の友達を初めて見た。そして初対面でこの声のかけられ方は初めてである。
「君が友達でお前が我が弟か」
「にいちゃん……本当に女キャラだったのか………」
そう、私は男プレイヤー唯一の女性アバターである。
ハードが誤作動したのか、女性と認識されてしまったのだ。でも俺はラッキーだと思っている。俺は女になりたかったからな。
一応運営とハードを作った会社に問い合わせるとすぐに変更すると言われたので慌てて止めた。
でも、相手曰く「体に支障がでる場合があります」とのことだったので「全責任は私が背負いますので!なんなら契約書書いても構いません!」と言ったところ、本当に契約書を書かされたのは苦い思い出。
「まぁ、そんなことより、初めましてフェルトくん」
弟の友達の名前はフェルトと表示されていた。弟はゴルゴ555となっていて、ゴルゴは既にいたんだなと心の中で笑ってしまう。
「あの、レフィリアさん、ちょっとおかしくないですか?メニュー出ないんですよ」
「そう!にいちゃん、これってバグ?どうすれば直るの?」
どうやら二人も同じ状況のようだ。
「私も同じ……システムコールが出来ないからどうしようもないしログアウトも出来ない。きな臭い事になってきたな」
一応他の連中にも連絡しておくか。
何故会う日をこの日にしたのかと言うと、正午にバージョンアップされるからだ。
このゲームは凄い事に、ログアウトしなくてもバージョンアップでバグったりしない事にある。
だから皆いるはずだ。ゲーム内でバージョンアップを待っているはずだから。
「……メッセージも使えないとか?」
それはないだろうと思いメッセージと思い浮かべる。そうすればチャット欄が現れる。
はずだったのだが……。
『メッセージの種類をお選びください。
・全体
・ギルド
・連合
・フレンド
・個人
なお、次回から思い浮かべるだけで可能となります』
なんじゃこりゃぁ……。
まぁいいや、これがきっとバージョンアップの内容だろ。
そう言えばキーボードが出てこない。どうするんだ?もしかして……通話みたいになったとか?
「ギルド『今ってもしかして異常事態?』」
さっきギルドメンバーとフレンドリストを確認したところキチンと全員ログインしていた。
ギルドのことを思い浮かべると一覧が脳内に現れたのだ。フレンドリストも同様である。
『この声……もしかしてギルマス!?』
『そうそう。それでさー、皆メニューとか出るー?』
『出ないんだよなー、どうなってんだろ。システムコールも出来ねぇ』
『あのさ、これってあれじゃない?S○Oとかログ○ラとかオー○ーロードとか』
『あ〜、ゲームの中に迷い込んだ系ね……って!それやばくね?』
『うーん、でも全員一緒だしそこまでじゃない?ギルマスがログインしてくれててよかった』
『それな!ってことでどうする?ギルマスぅ〜』
そして暫くの沈黙が降りた。
いや、お前らうるさいよ!?でもその会話は助かったから良しとしよう。次からはもうちょっと声、抑えてね。
『とりあえず全員ギルド本部の作戦室に集合。1時間後に点呼!』
『ラジャー!』
『了解っす!』
『おっけ〜』
会話していたのは数人だけだったけど、ギルドのメッセージだから全員聞いているだろう。着拒とか出来ないのかな……?
「とまぁ、そういう訳で、フェルトくんはギルドに入ってないみたいだし一緒に来る?」
「いいんですか!?是非お願いします!」
「ゴルゴも来いよ」
「え、あ、うん、わかってる」
俺たちは村長の家を出る。
「じゃあ二人とも掴まって」
フェルトくんは嬉々とした笑顔で、ゴルゴは疑問を浮かべながらも掴まる。それを確認して空へと飛んだ。
二人とも興奮している様子だ。でもその興奮、どこまで持つかな?
私はギルド本部のあるこの大陸の北端に向けて飛ぶ。徐々に加速していき遂には亜音速を越え超音速に到達する。その頃には二人とも気を失ってしまっていたので左右の手で掴んで宙ぶらりんである。
時間にして2分ほどで北端に到達する。そこには一つの城……というべきものが見えた。それこそが我らの居城、ギルド内外から魔城と呼ばれるギルド本部である。
そこの入り口に降り立つと既に何人か……とでは済まない人数が待っていた。
「やっと来た~!」
「ギルマス遅いですよ~」
「ていうかあの二人……もしかして現地人狩ってきた?」
「流石魔王……」
何やら好き勝手言われているようだ。私が魔王だなんて、よく言われているけども!
「はいはい。この2人の事は後で話すから行くよ」
「あ、その事なんですけど、人多すぎては入れませんよ?」
ふっ……忘れていました。
そう言えばこのギルド、メンバーが8623人なんですよ。多いでしょ?でも総プレイ人口100万人だから、割合的に……多いのか?まぁ、そんなわけで作戦室になんて入れないわけで。
「え~っと、じゃあコロッセオ集合!」
「わかりました!」
私の一声で全員が移動を始めた。人がゴミのようである。
そしていつの間にか二人は目覚めていた。
「こ、ここが魔城……凄い」
フェルトくんがとても感動していて涙を流しているように見えた。でも今はそれどころじゃないんだよ。
「移動するよ。コロッセオに」
「コロッセオ?」
そんなゴルゴの質問は軽くスル―して歩き始めると、フェルトくんが解説を始めた。
「コロッセオ!コロッセオっていうのはあれだ、競技場。物凄く有名なんだよ?ここの競技場で行われるギルドメンバーランキング戦っていうのがおもしろいんだ!ギルドエリアだからほかの人は入れないんだけど、リアルタイムで放送してくれるから毎回楽しみにしてて⋯」
説明が長ったらしかったので途中から聞くのをやめる。因みに、ギルドエリアというのはそのままギルドが所持しているエリアのことである。ギルドメンバーランキング戦というのはこのギルド特有の物で、希望者のみ出場できる。参加者は毎回6000人を越え、リアルタイム放送の閲覧は数十万に上る。
そんなコロッセオに辿り着くと、さっきよりも多くの人が集まっていた。軽く見回してみたところ、全員いるように思えた。
「じゃあ点呼開始~」
点呼が始まった。
8623人の点呼である。しかしそれではいつ終わるかわからないので、対策を講じていた。ギルド対抗戦では全員が集まらなければ参加できないのでよく点呼が行われる。その際の点呼方法は86班に分けて100人ずつ点呼するというものである。残りの23人は最前列のサブマスターである。他にもサブマスターがいて、100人増えるごとにサブマスター枠が1人増えるというシステムだ。しかし、あまり便利ではない。
「100!全員いたよ!」
全員揃っているようだ。これから私の大演説である。
「総員傾聴!我々はどうやら異世界に放り込まれたみたいだ。だが、マップも使えない転移も使えない。そんな世界でもだいたいの地形はゲームと同じはずだ!種族もスキルも全てゲームのままで、変わったところは皆知っているだろうと思う。その中でも便利なのは通話機能だ。これから多用すると思うので覚悟しておくこと!で、まぁ、皆、とりあえず知り合いとかに連絡とっていいよ。それから初心者に出会ったら保護して。もしかしたら本当に死ぬかもしれない、試すのは禁止。次の集合は3時間後の16時。それまで自由行動!解散!」
「の前に~そこの二人は誰?」
「あ、忘れてた……ごめんごめん。この2人は……まずゴルゴ555から。……ほら、自己紹介」
「あ、えっと、俺はにいちゃんの弟です。よろしくお願いします」
「「「「お、弟!?」」」」
「リアルのな。じゃ次フェルトくん」
「はい!俺はゴルゴのリアルの友達です!今日はレフィリアさんと会う約束をしていました!お邪魔します」
自己紹介も無事終わり、各々散っていく。
私もすることがあるので二人は放置である。
「え~っと、個人、チルノ『……チルノ?そっちはどんな感じ?』」
『あ、レフィ?私のところはやっと皆集まったところ。そっちは?』
『今解散したところ。どうする?』
『やっぱり、これってあれだよね?』
『だと思う。だから……』
『わかってるよ。私の方でも声かけて行くから、場所は天空都市で時間は……17時でいいかな?』
『りょーかい』
『またあとでね』
チルノとの会話を終え、別の人にも通話をかけていく。かけていく人物はいずれもギルドマスターをしている人だ。この異常事態に対処するのに、情報を共有するのにログ○ライズンのようなものが必要だろうと判断してのことだ。でも、私としてはどちらでもいい。かと言って中小ギルドを見捨てられるほどの神経は持ち合わせていない。
それらが終わった頃で1時間が経っていた。その間ずっとコロッセオにアイテムボックスから出した玉座に座っていた。ふと目を開けると何故かギルドメンバーが全員?揃っている。
「どうした?」
「もう終わったんだよ。大して時間かからないし。これからの指示を出してくれないとにゃ~」
こいつら……早すぎる。でもまぁ好都合だ。俺の中の考えを伝えて実行させるのは早い方がいいだろう。
「じゃあ、指示を出す。まず、隠密部・戦闘部・生産部を作る。隠密部の部長はガリオ、戦闘部の部長はレイラ、生産部の部長はビレッツ。隠密部のメンバーは---」
それから一人ずつ名前を出していくと、いつの間にか1時間も経っていた。そこから各部隊ごとに作戦会議をさせる。その会議では部の中を細分化、つまり班分けを行う。
「隠密部は各自で行動、危険度は高くなるけど⋯やってくれるとありがたい。戦闘部は12人で1つの小隊を作って9つの小隊で1個中隊とし、5個中隊で1個大隊とする。小隊長、中隊長、大隊長を決めて、元帥はレイラね。生産部は念の為兵器の研究開発。それから生活に役立ちそうなものを適当に」
軽く指示を出すとその通りにしてくれるから楽なものだ。皆、私を無条件に信頼してくれているのでそれに応えることがなかなかプレッシャーのかかること。
「あの〜呼ばれてない人は?」
「ふっ……愚問だな………」
私が調子に乗っていると、ギルドメンバーが俄かに騒ぎ出す。
「「「魔王モードキターー!!」」」
厨二病を全面に押し出して話すと、何故か魔王モードと呼ばれるようになった。でも悪い気はしない。俺も悪ノリしまくるから。
「我の直轄部隊だッ!!」
その瞬間シーンと周辺から音が消える。それも一瞬のことで直ぐに先ほどよりも熱い雰囲気に包まれた。
「魔王直轄とか魔族みたいだなー」
「ギルマス直轄とか羨ましすぎるー!!」
「いいなーいいなー、私も入りたかったなー」
皆口々に騒ぎ出し、直轄部隊になった人たちは恍惚な表情を浮かべていた。
「「「あぁ…私(俺)がギルマスの直轄部隊のメンバーに………」」」
因みにメンバーは翼人族のみで、このギルドにいる翼人族の総人口は200人程度。そのうちの50人を直轄部隊に組み込んだ。主に中層プレイヤーで3人ほど上層プレイヤーが混ざっている。
「まぁ、何させるか決めてないけどね。ないよりあったほうがいいと思って」
「うん。確かにあったほうがいいかも知れない」
「そういうわけで、とりあえず直轄部隊は指示があるまで連絡要員ってことでよろ」
「「「はいっ!!」」」
それからそれぞれに指示を与える。
「隠密部はまずこの世界の地図の作成。上空から見て回るだけなら大丈夫だと思うからね。山とかの標高は調べなくていいけど街までの距離とかはちゃんと調べてね。縮尺は……1キロ1センチでとりあえず書いてみて。地図の作成が終わったら近隣の街への潜入かな?」
「了解」
「じゃ次、戦闘部隊はある程度の安全が確認されるまでは1個中隊単位で行動しらもらう。25個の中隊で初心者プレイヤーを探して保護しつつ敵モンスターが変化していないかと周囲の散策。残りのメンバーはギルド支部に行って現状確認」
「は~い」
「最後に生産部は兵器の開発とかだけど……まぁ出来る範囲でいいよ。材料は倉庫に沢山あるけど無駄遣いは禁止で」
「一番難しいんじゃねぇかそれ……」
指示を出し終わると小一時間ほど経過していた。もうそろそろここを出なければならない。ギルマス会議の時間だ……。
「それじゃ各員行動開始!」
「はいっ」
「りょ!」
「うっす」
それぞれの返事を聞き、私は翼を広げて空に飛びあがる。天空都市とはそのままの意味で空に浮かんでいる都市で、行き方は2通りある。
まず一つ目は私のように空を飛んで行く。でもこれは翼人族しか出来ない。もう一つは天空都市の真下にある転移装置に行くことだ。その転移装置は遺跡ダンジョンと呼ばれている場所の最奥にあり、そこに行くにはダンジョンをクリアする必要があった。でも、いちいちクリアするのは面倒臭いという話になり各ギルドが資金を出し合って神殿に管理をさせるという裏技に近い方法でその問題を解決した。
しかし、入場料は5000メル取られる。このエリアの購入金額が5兆メルという意味不明な金額だったのだ。それが各ギルドに支払われるまで入場料はなくならない。因みにこれはあと1年ほどで終わるだろうと言われていた。そもそも、5000メルは初心者プレイヤーが初期に配布される金額であり、別段高価ではない。
そして天空都市とは何かと言うと、ワープゲートと呼ばれるエリア間ワープ以外の瞬間移動、通称転移を手に入れられる場所である。そこに行ったプレイヤーは転移をすることが出来るようになるのだ。
だから、初心者プレイヤーでも5000メルさえあれば転移を使うことが出来るようになりこの世界は更に活気づいたのだ。
天空都市に時間丁度に到着し、箱庭と呼ばれる各ギルドマスターが集まって会議を開く時に使われる場に行くと、既に全員が揃っていた。総勢40名で大規模ギルドマスターが6人と中規模ギルドマスターが18人、小規模ギルドマスターが14人だ。
「早いな~お待たせしてすみません」
「本当だよっもう」
笑いながらからかってきたのはチルノだった。しかし、他の皆は硬い表情をしていた。
「それじゃあ今日集まってもらったギルドの基準なんかはいりますかー?」
「いや、いらぬ」
即答ですか。そうですか。
「ここで話し合うのはこの世界の認識とか、これからどうするかですね。まずはこの世界の認識から」
「ここは、ゲームのようでそうではない。異世界なのだろう?」
いきなり確信の部分に触れてきたのはギルド・紅蓮の宮と呼ばれる大規模ギルドマスターだった。
「うちのギルドでもそう言われてるなぁ。ほんま、なんで転移したんやろか?」
「転移というよりこれはアプデの影響なのでは?」
「アプデで異世界に来て溜まるか!」
「それもそうだな……だが喜ぶ人間がいるのも事実。最強ギルドではどのような感じなんだ?」
私のところですか?そうですね。全員喜んでましたよ?
因みに私がギルドマスターをしているギルドは最強ギルドとも呼ばれていて、正式なギルド名は「リフェリティア」特に意味は無い。パッと思いうかんだからこれにしているだけなのだ。
それでも最強ギルドの名は揺るがない。だって、私が最強プレイヤーでもあるしギルド対抗戦では毎回優勝に輝いている。
そして最大規模を誇るギルドでもある。他の大規模ギルドは4000人から5000人ほどのメンバーで、中規模ギルドは2000から4000人のメンバーを保有し、小規模ギルドは1000人から2000人のメンバーを保有している。因みにそれ以下の人数のギルドは上級ギルド、中級ギルド、下級ギルドと呼ばれている。
上級ギルドは800人から1000人、中級ギルドは400人から800人、そして下級ギルドは最低人数である10人から400人までのメンバーで構成されている。
かと言って、メンバー数でその強さが決まる訳ではない。
下級ギルドでも精鋭のみが集まった物凄いギルドもあるのだ。
「全員異世界に来たことを喜んでましたね。子どもがいる社会人の方は子どもと一緒にゲームをしているし結婚している社会人はここで知り合ったという人も多いですし。というかこのゲームをしている人の大切な人は大抵勧められて一緒にしてると思いますよ。というわけで私のところは地球に未練が無い者しかいませんね」
私の言い分はあてにならないのか、無視されてしまい私以外のメンバーで話し合っていた。
やがて話は纏まり、各ギルドが独自で調べわかったことを報告するというシステムになった。
「次に、これからどうするか、ということですが……」
「それは各自ギルドでの方針に従うということでいいのでは?」
「ていうか面倒臭いんだけど、コレ」
「儂もそう思うんじゃが……異世界になったからと言って同盟が必要というわけではなかろう?」
「そうだよっ。連合機能は生きてるんだしさ」
「あっ、この集まりって連合長の集まりだったんですね~。なるほど~」
「今更かよ!」
中学生で構成されていると有名な小規模ギルド・メタルキラーのマスターの少女が今更なことを言うと他の面子が揃って溜息を吐いた。
連合というのは複数のギルドで繋がりを持つこと。簡単に言えば兄弟姉妹のような関係だ。私が所属しているのは北斗七星連合というもので、連合に加入しているギルドは7つ。でも、連合に加入させることが出来るのはギルドメンバーが1000人以下のギルドと決まっている。そのため、大規模、中規模、小規模ギルドのギルドマスターが連合長をすることが多い。
「もう帰るわ。これ以上ここにいても何も決まらんだろうし」
1人、また1人と席を立ち自然消滅のように解散となった。
確かに、私もギルドと連合で手を組めばそれほど大きな問題にはならないはずだとは思っている。
それでも、この世界にいる現地人はどうなっているのか、NPCのままなのかそれとも……。
「レフィ、仕方ないよ。私もそろそろ帰るね」
「あ、うん。ありがと、チルノ」
そうして庭園に1人残されてしまうこととなった。でもずっとこうしているわけにはいかない。戻って皆に指示を出して、せめて連合内での連携は取らなければならないだろう。
私は沈む気持ちを無理やり震え立たせて翼を広げる。この翼はいつ見ても綺麗だ。オーロラのような配色がされているのだから当然と言えば当然か。
キャラ設定時、元々あるパーツを組み合わせるかイラストを読み込ませるかの二通りがある。オーロラの配色なんてパーツはないから、知り合いの絵師に頼んで書いてもらったのだ。
「た~だ~」
「おかえりー。どうしたの、そんなに落ち込んで」
「いやー、ダメだったわ。とりあえずお腹空いたから夕食にしよ」
そして沈黙が落ちる。
あれ?そう言えば飯ってどこから出てくる……?
「これは、緊急事態発生かな……?」
「……そうみたい。どうしよう」
こんな時こそ職権乱用するべきだろう。
「ギルド『緊急事態発生!緊急事態発生!大至急隠密部以外コロッセオ集合!』」
と、言った途端次々に転移で帰ってきた。
あれ……転移って出来ないんじゃ……。
「なんで転移出来るんだよ?」
「え?ギルマス気付いてなかったの?ギルド本部と支部なら転移出来るんだよ。てっきり空を飛びたいのかと思ってたけど違ったんだね」
初耳なんですけど~!と喚いているとコロッセオに全員が集まった。早すぎませんかね?
それに重要な事を思い出した。このギルド本部は大陸の北端にあり、雪が積もり雪が止む日などほぼない。1週間に一度は吹雪くとも言われる超厳しい気候である。それに加えて敵モンスターの強さも平均400レベルを超えている。そんなところに徒歩で行くなど土台無理な話だ。
「緊急事態とは他でもない。飯がないっ!そして今気づいたけど風呂もトイレもない!生産部を中心に風呂、トイレ、調理場、食堂を作る!風呂は私が指揮を執る。トイレはビレッツ。調理場は……「私がやります。これでも調理師やってたので」……調理場はアイラ。食堂もアイラ!というわけで解散」
こうしてギルド本部の大改造が始まった。
最早フェルトくんとゴルゴは蚊帳の外であり、誰もがその存在を忘れていた。




