03 暗黒祭殿
ギルド本部に戻り、どうすれば戦わずして勝てるかを考えていると隠密部が帰ってきた。
「隠密部エースっただ今参上!」
「「「「⋯⋯⋯」」」」
「無反応かよぉ⋯⋯まぁいいや。地図出来たし。お前らには渡さねえし」
「「「「ご、ごめん!」」」」
「って言ってもまだ1枚しかないけどな!」
「「「「こいつ~!」」」」
隠密部の無事の帰還にギルド内が明るい雰囲気に包まれた。
「ていうか、大改造でもしたのかよ?変わりすぎじゃね?」
「いろいろあってね。1人につき一つの家があるからそこで寝てね。布団はこれを使って」
アイテムボックスから余分に捕獲し、はぎ取っておいたクック鳥を取り出す。所謂羽毛布団だ。隠密部とは言えその人数は多い。戦闘部が5400人で隠密部が1600人、生産部が1600人となっている。生産部は主に中学生以下のメンバーとリアルでミリタリーが好きだった者を中心に構成し、隠密部は忍者に憧れていたり、陰で活躍することが好きな者をメインにして2人1組で行動させることにしている。戦闘部はそれ以外だ。とはいっても、ほぼ全員が戦闘に参加できるので隠密部と生産部は準戦闘部とでも言うべきだろうか。
「これが今の地図か⋯⋯国が増えてるな」
「そうなんだよ。地形は大して変わっていないのに国と街なんかが増えててちょっと苦労した」
「お疲れ様。じゃあ、皆これをカメラ機能で撮って各自プリントするなりマップ機能っぽくいじるなりしてね」
隠密部の報告はコロッセオで行われていたため、全員が話を聞いていた。
ここがゲームだった頃はマップ機能があった。それはいつでも視界の端に表示されていて、意識を向けると拡大するという優れ機能だった。でも、今はそれがなかったから地図を作製することを最優先にしたのだ。流石にそこまで変わっていないだろうと思っていたけど、国がやたらと増えている。
その増えた国の一つにベジタリアン王国があった。
地図の下には既存の国と新規の国が記載されていてとても見やすくなっている。
私はその地図をプリント機能で紙に印刷する。印刷した物はアイテムボックスに支給されるようになっているので、それを取り出して見ると隠密部が書いた地図よりも詳細になっていた。
どうしてだろう⋯⋯?
原因が気にはなるものの、詳細になる分には問題ないので一度問題の棚上げする。
「隠密部はちょっとの間待機で、もしかしたら戦闘部に加わってもらうかもしれない」
「ん?どこかの国と戦争でもするのか?それともボス攻略か?」
「⋯⋯戦争の方。ちょっと失敗しちゃって、ごめんね」
「いや、構わねえよ。相手は何人いたんだ?」
「え?1000人以上いたと思うよ。でも一旦退いていった」
「なら次は5000以上連れて来るだろうな⋯⋯戦闘部全員連れて行った方がいいんじゃないか?ここまで辿り着く現地人なんていないんだしよ」
隠密部の部長であるガリオに助言を受け、それを熟考する。でも、本当に5000人も連れて来るだろうか。もし連れて来なければ大変だ。しかも他ギルドから本部を狙われる可能性もあるから常駐戦力は確保しておきたい。
「他ギルドから攻められた時のことを考えると⋯⋯」
「それはない。他のギルドも現状把握で忙しいだろう。ここが一番先を走ってると思うぜ」
「本当?ん~⋯備えあれば憂いなし、か」
「そうだ。生産部と隠密部で本部は守るから安心していってこいよ」
「わかった。ギルド『レイラ率いる戦闘部は全員アイシクルの援軍に駆けつけて。期限は明日の夕方!と言いたいけど明後日の朝でもいいよ』」
話が終わり、私は1人作戦室に行く。作戦室にはギルドマスターの隠し部屋がコッソリと用意してあるのだ。
あぁ、そうだ。アイシクルにも連絡しとかないと。
「マリン『戦闘部5400人が向かうことになったからよろしく~』」
『はっ!?正気!?』
『ガリオに次は5000人は連れて来るはずって言われたからね。対抗するためだよ』
『そんなに⋯⋯流石戦オタクのガリオくんだね。ありがとう!助かるよ』
『うん。じゃあまたね』
『は~い』
マリンへの報告を終えて少しぼーっとする。
昨日突然ゲームが現実となった。そのことが少なくないストレスになっているように感じた。私はギルマスだから皆よりしっかりしなくちゃ、という意識が強いからというのも、もしかすればあるかもしれない。
個室でゆっくりしていると、いつの間にか睡魔に襲われていたようで眠っていた。
しばらくして、目が覚めた時に時間を確認してみると既に夕方を回っていた。相当寝ていたようで眠気もすっかり吹き飛んでおり、夜眠れるかどうか心配になるほどである。
その後、昨日より少し落ち着いた雰囲気で一日が終わった。
グランドクエストはありません。に迷い込んでからすでに2日が経過し、3日目を迎えた。私は作戦室の隠し部屋から出る。作戦室には誰もいないようで、静かなものだ。
コツコツと足音を鳴らして作戦室を出る。作戦室はコロッセオの施設で、外に出るとそこはコロッセオだ。
コロッセオは広く、半径300メートルもあるのだが、ゲーム内なので端から端まで見渡すことができる。これはスキルの恩恵でもあり、【鷹目】や【遠見】というスキルを持っていれば問題なく見れる。ただし、鷹目は私たち翼人族だけのスキルであって、他の種族は遠見のスキルを使う。
今日は戦闘部が全員で大移動する日だけど、本当にそれだけの人数が必要なのか。確かに人数差があれば勝ちやすいとは思うけど、私たちと現地人の間に力の差が大きく開いていれば、なにも問題はない。
ガリオの言ったことは信頼できるのだが、ここは地球とは違ってレベルも魔法もあるのだ。戦での常識もまた別物だと思われる。だからと言って、今更変えることには行かないだろう。
『あの〜レフィリア姉さん?聞こえますか?』
コロッセオで1人、腕を組んで翼をバサァッと広げたり閉じたりしながら考え事をしていると、アイシクルとは別の北斗七星連合加盟ギルド「暗黒祭殿」のギルドマスターであるキトくんからメッセージが飛んできた。
キトくんは3回目くらいのアップデートで導入された家族システムというもので、私のゲーム内弟になっている翼人族だ。この家族システムは同じ種族同士でのみ構成できるのだが、レベル差などによる制限はない。ただ同じ種族であり双方同意して然るべき操作をすれば可能である。
『キトくんどうかした?』
『それが……実は、僕のところにベジタリアン王国の使徒?みたいなのが来て、即刻立ち退けって言われてるんです……。どうすれば良いですか?』
『あ〜、キトくんのところもか。実はアイシクルの方でもあってね〜。他のギルドにも確認してみるほうがいいかな?』
『アイシクルもですか?……それなら、確かに確認してみたほうがいいかもですね』
『まぁ、それよりもキトくんの対処が先か〜。今どんな感じになってる?』
『えっとですね。相手の要求が立ち去ること、もしくは留まるなら金銭の支払いって言ってますね』
『金銭の支払い?それはどのくらい?』
『すみません、そこまでは……聞いてからまたメッセージします』
『うん、お願いね。場合によってはこっちでもお金出せるように準備しておくから』
『はい。ありがとうこざいます』
キトくんの方でも問題が発生したようだけど、マリンのアイシクルとは違って、立ち退き以外にも方法があるようだ。相手が話のできる人だったのかもしれない。そうなってくると、どのくらいのお金がかかるのか気になる。それを今から聞いてくれるとのことなので、聞いてから用意してもいいはずだ。相手も、その場で全額渡されるとは思っていないだろうし。
『レフィリア姉さん。今いけますか?』
『うん、それでどうだった?』
『それが……そもそも通貨が違うみたいで』
『えっ?そうなの?』
『はい。僕たちが使ってるのはご存知の通りメルですけど、ベジタリアン王国はルンという通貨のようです……』
『そっかー……使者の人はまだ待ってくれてるのかな?』
『あ、はい。そっちは問題ありません。僕たちのギルドがあるところは食べられる動物とかお茶の素材とかも多いので、それでおもてなし中です』
『じゃ、もう少し粘って。通貨のこと調べてみるよ』
『わかりました』
キトくんのメッセージが切れると同時に、ガリオにメッセージを飛ばす。
「ガリオ『聞きたいことがあるんだけどー?』
『なんだ、レフィか。何の用だ?』
『ベジタリアン王国の通貨、ルンと私たちの持ってる通貨、メルって幾らで換金できる?』
『ん〜、確かルンって相当安かった……いや、メルが高すぎたんだっけ?1メルがだいたい100ルンってとこだ』
『え?そんなに差があるのか』
『そそ、てことで忙しいから切るぞ』
『ああ、うん、ありがとう』
ガリオとのメッセージが終わったら、今度はまたキトくんにメッセージを飛ばす。ちなみに、1メルと言えば何も買えない。下級HPポーションという、1番安いものでも80メルなのだ。
「キトくん『キトくん、1メルでだいたい100ルンらしいよ。どう?払えそう?』
『えっ!そんなに安いんですか?それなら払えそうです。交渉してみます。ありがとうございました、レフィリア姉さん』
『気にしなくていいよ。何かまた問題があればかけてきてね』
『はい。わかりました!』
『それじゃ』
キトくんの方は穏便に済ませられそうだ。だけど、お金を支払うことによって国の一部として吸収されてしまい、戦争の招集とかにかけられたりすることはないのか。そこのところが交渉で話されるところかもしれない。黙って交渉の結果を待つしか出来ないことが歯痒く思う。
私は一度、連合加盟ギルドのギルドマスターや主要メンバーを招集することに決め、1人ずつ声をかけて行った。その中にマリンやキトくんもいる。全員が集まるのは今日の午後1時で魔城に集合となった。
キトくんは空を飛べるとしても、他のメンバーは空を飛ぶことはできない。なので、おそらく今すぐにでも出発していることだろう。ギルド連合に加盟するには親ギルドから何キロ以内、と決まっていたはずだから、それほど離れてはいない。とは行っても、四国の端から端の距離はあると思う。
最北の地である魔城の更に北には、昨日までは支部が一つあったけど、今はもうない。南に行けば他のギルドの本部があることだろう。
1時まではあと4時間あり、暇になったその時コロッセオにレイラが入ってきた。鷹目はパッシブスキルなので、MP消費もなく常時切り替えが可能となっている。パッシブスキルを自分の意思で切り替えられるようになるまではちょっとした訓練が必要だが、それほど時間はかからない。
「レフィ。そろそろ出発するけど、本当に全員で行くの?5大隊も連れて行って大丈夫?万が一、ここが落とされでもすれば……」
「それは私も思ってるんだけどね。相手の強さがどの程度なのかわからないし……あっ、隊長クラスだけを連れて行くようにしてもらえばなんとかなるのかな?こっちの指揮は私が取れば問題ないかも」
「確かにそうだね。じゃあそうしようか!隊長クラスっていうと全員で280人……かな?全員レベル1000だし、どうにでもなるでしょ」
「それじゃ、後はお願い。現場の判断に任せるよ」
「はいはーい。またね」
咄嗟に思い浮かんだことを言うと、レイラがすぐに同意してくれた。リフェリティアのメンバーで、レベル1000に到達しているのは500人程度。1番多いのがやはり中堅層である500〜800レベルがほとんどで6000人ほどいるのだ。そして初心者から300レベルまでは人数が少なく、300レベルから数百人単位である。
私はまた人数の変更を伝えるため、マリンにメッセージを飛ばす。と、通話中らしく脳内に機械音のメッセージが響いた。変にゲームっぽいところがまた、現実ではないのかも、と思わせる。そりゃあ、マリンだってギルドマスターの立場なのだから忙しいのは当然か。
『レフィ、さっきのメッセージは何の用だったの?』
『あ、マリン!あのさ、やっぱり5000人も連れて行ったらダメじゃない?ってレイラに言われて、それでレイラ率いる隊長クラスを連れて行ってもらうことにしたよ。全員で300人弱だけど、全員1000レベだから問題ないでしょ』
『1000レベが300人弱って……それ小規模ギルド攻め落とせるよ?』
『まぁ、それだけいればそっちはいけるってことで。こっちには200人くらい1000レベが残ってるから、問題ないよ』
『はぁ……相変わらずリフェリティアは最強ギルドだねぇ』
『褒め言葉ありがと!』
『……嫌味だったんだけど、まぁいいや。こっちこそありがとね。っていうか、もうじきそっちに着くんだけど。もう切るよ』
一方的にメッセージを切られたけど、確かに、あと2時間ほどで1時になる。もうすぐ着くってことは昼ごはんはこっちで食べるのかな?この辺りは高レベルモンスターが多いから、作る人次第で高級定食並みの味になるのだ。きっと、それ目当てだろう。そう考えると、他のギルドマスターたちも早めにこちらに到着するかもしれない。
生産部が料理を担当しているので、私は生産部のいる区画へ足を運んだ。魔城を再築する際、各部門ごとに区分けしていたのだ。門がある南側一帯から魔城の東西までは戦闘部が占領し、魔城より後ろ側に生産部と隠密部の住宅が建ち並んでいる。
「ギルマスー?どうしたの?」
「ちょうどよかった。ゆうくん、暇な人いないかな?連合のギルマスと主要メンバーが数人来ることになってるから、その人達の昼食を頼みたいんだ」
「あー……ん〜どうだろ。お父さんに聞いてくる!」
「じゃあ一緒に行くよ。いいかな?」
「もちろん!こっちだよ!」
笑顔で頷いてみせた小学6年生だというゆうくんに連れられ、私は住宅街を歩く。1人でログインしてる人には1人で2部屋の一軒家だけど、家族連れの人には長屋で1人2部屋、同じ家にある。そして、ゆうくんは料理スキルが高い。父親が料亭を開いているというので、その影響だと思われる。
ゆうくんについて行くと、道中、中が子どものメンバーがサッカーなどをして遊んでいる様子が見られた。こんな事態に陥ってもこれだけの元気があれば、なんとかなりそうだ。ただ、スキルや魔法を乱発しているようで非常に危険なサッカーになっていた。監視役は、と探してみると1000レベの初期メンバーがいたので、彼に任せておくことにしよう。
「お父さーん!ギルマスが話あるってー!」
扉を少し開き、隙間から顔を突っ込んで大声を出す。子どもらしい親の呼び方で思わず笑みがこぼれた。
「おーう?レフィリアがか。ちょっと待ってろー」
「はーい!……ちょっと待ってだってさ〜。ギルマスを待たせるなんてお父さんはダメだなぁ」
家の中から取り組み中なのか、ゆうくんのお父さんであるテンペストさんの声が聞こえた。そのあとゆうくんが復唱し、口を尖らせる。その仕草が可愛くて、ついつい抱きしめてしまった。
「もう、かわいいなぁゆうくんは」
「ちょ、放せよギルマス!僕は男だよ!?むぐっ」
なにやら騒ぐので、力を強めると胸のあたりに顔を埋めてしまった。これは男なら嬉しいことだなぁ、と思いながらも解放すると、ゆうくんは顔を真っ赤にして私を見る。ちなみに、なかなかの大きさでたゆんたゆんだ。ずっとこのアバターだったので違和感は感じていないし、むしろしっくりくるくらいだ。
「ギルマスのバカぁぁぁ!!」
「えぇっ!?」
「うわぁぁぁぁぁぁ……!!」
ゆうくんが来た道を走り去って行き、それに手を伸ばすも届かない。というか、スキルか魔法を使ったのか一瞬にして姿が消えたのだ。そこまで嫌なことだったのかなぁ?と思いながら襟を広げ、胸元を見る。
「さっき息子の悲鳴が聞こえたんだが……何やってんだよレフィリア……」
「はひ!?いるならいるって言え!」
「いや、今出てきたところだから……」
「ふーん、そう。ゆうくんなら抱きしめたらあっちに逃げちゃったよ。相変わらずかわいいよねぇ」
「……確かにかわいいのは認めるが、お前その容姿でそんなことするなよ……頼むから息子を誑かさないでくれよ?」
「そんなことするわけないじゃん」
何を言ってるんだか、と溜息を吐く。同時にテンペスト、略してテトも溜息を吐いていた。何故なのだ。いや、それよりも。
「テト、今日連合会議するからギルマスと主要メンバーが数人来ることになってて、たぶん昼飯をここで食べると思うんだよな」
「連合会議?まぁ、そりゃあこの辺はゲームの頃から食料場として有名だったし、特にプレミアムドラゴンの肉は極上だったぜ!」
「あ〜!あれは美味しかったよね!ってそうじゃなくて!1時に集合予定だったんだけど、そのせいで早く着きそうなんだ」
「よし、任せとけ。でよ、連合会議ってなんぞ?」
「今さっき思いついた、北斗七星連合所属ギルドのマスター及び主要メンバーを集めて開く会議」
「やっぱそうか。なら食料調達にでも行ってくるかな」
「いってら〜」
「あばよ」
捨て台詞を吐き、着せ替え機能でテトのメイン装備の一つである黄金のマントが現れ翻った。そして家の中に戻っていく。たぶん、演出したかっただけだろう。おそらく道具を取りに。食料にするためには生けどりにしないといけないため、割と大道具が必要となる。その場で討伐すると素材になってしまい、肉が一つも残らない。
ちなみに、料理スキルとかはない。なので完全なプレイヤースキルとなるため、本当に作る人次第で味が変わる。テトはここにギルド本部を置いたのがリフェリティアだったから、という理由で加入したという、珍しい人だ。
テトは確か800レベは越えていたはずだから、ドラゴン系が出ない限りは単独で余裕だろう。他のモンスターは最高でも700レベまでしかいないのだ。この辺りはドラゴンが支配している地域でそのトップに君臨しているのがプレミアムドラゴンとなり、レベルが1000。倒しても復活するため、私が単独で倒してギルドの守護へ回している。
「私も戻って迎えの準備でもしよっかな」
ここから歩いて戻ると、ちょうど12時になる。……テト、間に合うかな?問題ないと思うしかないため、私はゆっくり歩いて、中心に聳える魔城に戻った。
「レフィリアさん、やっと戻ってきたぁ」
安堵の息を吐き、魔城の荘厳な扉の前で待ち構えていたのは私、レイラに次いで3番目の実力者であるルナだった。ルナより下はよく順位が入れ替わるほど、実力が拮抗している。逆を言えば、安定した強さを持った頼りになる人だ。
「何かあったの?」
「それが……テンペストさんからのメッセージが飛んできて、『レフィリア寄越せぇぇえ!』と……」
「う、うまいね」
「それは、どもです」
「ていうか、テトから?直接私に飛ばせばいいのに」
「それを言ったら『あいつ着拒してやがる!出ろよ!!』って言ってましたよ。どうやって着拒したのか、私も知りたいです」
「……考え事してたからかな。それは後で検証するとして、今どこにいるって言ってた?」
「あっちです」
ルナによるテトの真似が似ていることに若干引きながらも指さされた方角は北端にありクリスタル銀山と呼ばれる、ゲーム内最高峰の難度を誇るダンジョンがあった。
え?バカじゃないの?ドラゴンわんさかいるんだけど!?
「ちょっと行ってくる!てかルナに向かわせればよかったのに!」
「それは私も言ったんですけど、『いや、あいつじゃねぇといけねぇ!!』とかなんとか……」
「そう……あのバカは、全く手間のかかる。もうすぐそれぞれのギルドマスターたちが来るはずだから、来たら食堂か6階の会議室に案内しておいて!」
「6階は会議室になったんですね。なるほど」
「……準備よろしく!じゃね!」
「は?へ?……いや、あの、まさか」
私は知らん顔をして翼を広げ、大空に飛び上がった。
「レェェフィィリィィアァァァァさぁぁぁあん!!!」
地上から何か聞こえた気がしたけど、きっと気のせいだろう。私はテトが向かったというクリスタル銀山に向けて高速で飛翔を開始する。
僅か数分で着いた頂上。今思えば、飛行能力のないテトが頂上に来るにはダンジョンを制覇せねばならず、まず来れない。しまったなぁ、と思いながら一度下まで降り、正規ルートでの侵入を果たした。
ダンジョン内に入ると、一気に雰囲気が変わる。先ほどまでの雪の積もった山のようではなく、ひんやりとした空気が肌に浸透していく。魔城一帯は雪の積もった地域なのだが、クリスタル銀山のダンジョン内に雪は一つもない。
「テンペスト『テト、今どこ?』」
『やっとか!今はプレミアムドラゴンの巣穴だ!マジでやばい!早く助けに来てくれ!』
『は?どういうこと!?』
『いいからはやく来てくれよぉぉお!プレミアムドラゴンの子どもの餌にされそうなんだよ!!』
それを聞き、私は詳しいことは後で聞けばいいと思い、すぐにプレミアムドラゴンの巣穴に向かう。そこへの近道はやはり……。
ダンジョンを引き返した私は大空に飛び上がり、頂上に到着する。そこから逆戻りするようにダンジョンへ侵入し、ステータスに物を言わせてダッシュした。プレミアムドラゴンの巣穴は最終ボスの部屋の真上にあるのだ。
それほど時間がかからず、巣穴へ着く。そこで待っていたのは今にも襲いかかろうとするプレミアムドラゴンの子どもと必死に逃げているテトだ。
プレミアムドラゴンの子ども、というのはゲームではなかったため、小さいプレミアムドラゴンのことをそう呼んでいるようだ。だが、確かにプレミアムドラゴンの子どもで間違いはなさそうで、微笑ましくその様子を見ていたプレミアムドラゴンの親が鎮座している。
つまり、プレミアムドラゴンの親が微笑ましげな表情をして我が子が人族の勇者を選択したテトを追いかけている様子を眺め、その光景をあたかも傍観者のように見つめる私がいた。
プレミアムドラゴンの親というくらいだ。当然のように二匹いる。子どもは三匹いて、ちょっかいを出そうものなら1000レベ100人は欲しいところ。ステータスは見えなくなっており、少し慌てたものの子どもの方からは親よりも存在感というか、威圧感は少ない。
「テンペスト『……で、どうしろと?』
『き、来たのか!?早く助けてくれ!マジでヤバイうおぉぉぉお!!』
この圧倒的不利の中、助けられるとでも思っているのか?
『いくら私でもさすがに無理だわ。自力でなんとかよろ。てか勇者なら逆境を乗り越えてこそ、じゃないか?』
『勇者だからこそ仲間を求めてギルドに入り仲間と強敵を倒すべく呼んだ!』
『ほっほーう。なら何故レイラやルナを呼ばなかったのか』
『お前さえ呼べばいけると思ったんだよ!お前直轄がいるからなぁ!』
『ん……?そう言えばあいつらいないな。どこいったんだ?』
『おいぃ!?もうマジ!HPイエローだから!はよぉ!』
『え?いやいや、何故にイエロー?』
『こいつらの噛みつきの爆風でチクチクダメージが……』
『……HP底上げと強化と防御力アップと被ダメ軽減とか使って?』
『当たり前だろっ!』
会話では余裕そうに聞こえるけど、どうやら本当に余裕はないみたいだ。私直轄部隊がどこへ行ったのかはさて置き、とりあえすルナへメッセージを送る。
「ルナ『聞こえる?』」
『レフィリアさん!全くもう!会議室の準備全く出来てないじゃないですか!もう!もう!』
『テトが瀕死なので救出部隊を急遽編成後、プレミアムドラゴンの巣穴まで来て。敵はプレミアムドラゴンの夫婦とその子ども3体。あと30分くらいしか持ち堪えられない。じゃ、よろしく』
『えっ!?本気ですか!すぐに行きます!全くあのバカはいつもいつも何してやがってんですか!』
会話の最後にいつも以上の罵倒が聞こえたような気がする。まぁ、怒られるのはテトだからいいかな。ゲームの頃からテトは厄介な相手に突っかかるようなことばかりしていたし、そのせいでどれだけの被害が出たことか。今回ばかりはキチンとお仕置きが必要だろう。何せ、死ぬとどうなるかわからないのだから。
「テンペスト『救出部隊を準備させてるから、もうちょっと待って。本当にやばくなって来たら介入するから。ポーションは持ってないの?』
『ああっクソっ!了解した!ポーションなんぞなくても小さいからいけると思ったらこれだよ!』
『え……?じゃあ一回死んでる?まさかあのスキルは使用済み?』
『ん……あぁ、まぁ、そう……だな。ジュラ雪原で子ども一匹がウロついてると思って攻撃したら親が現れてよ。そのままここへ連れてこられたわけだわ』
『超ピンチじゃん!』
『だからそう言ってるだろっ!?』
アホだ!バカだ!救いようがない!
人族のみが選択できる勇者という職業は、人族が選べる職業の中でもチートと呼ばれるほどの力を持つ。中でも反則と言われている勇者のみが使えるスキルである【転換】。このスキルは死亡時に自動で発動するパッシブスキルで、HPもMPもスキルクールタイムも全てがリセットされるものだ。リセットされる、つまりは死亡がなかったことになる。一つだけ欠点があるとすれば、相打ちになった場合経験値が入らないことだろうか。これを再使用するためにはギルド本部、もしくは神殿へ行く必要がある。
……のだが、これほどのスキルを使用済みだなんて何を考えているのか。思えば親のプレミアムドラゴンが子どもを危険に晒すわけがない。微笑ましい顔で見ていることなどあり得ない光景なのだ。だけど、速攻で逃げればどうとでもなっていただろうに……。
『……ジュラ雪原だからって高括ってたんだ』
『マジでスマン』
『グループ申請送ったよ』
『……よし、承認できた!』
はぁ……。だけど、ジュラ雪原と言えば強くても600レベまでのモンスターしか出ない。油断しても仕方がないと言えるし、ゲームとの違いであるプレミアムドラゴンの子どもを予想しろなどと言えるわけもなく、許すしかない。
おそらく、子どものレベルを上げるためにジュラ雪原まで出かけていたのだろう。
「そろそろヤバそうだなぁ……」
グループに入ると、グループメンバーの倒したモンスターの経験値の半分を得られたり、HPとMPを見ることができるようになる。テトのHPを見ると、もうすぐレッドゾーンに入るところだった。




