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むむぅ……やはりいきなりそんなことを言えば流石の国王バージョンのオランも困惑するよな……。ここ最近で染み付いた王者の風格が台無しになっている。
「……断ったら絞める、受け入れたら斬る、保留なら串刺し……」
「流石はリュートだよ!僕じゃ出来ないことをあっさりやってのけるんだね!僕は剣でオランを斬れないもの」
「おい、こら止めろ」
不穏な空気を感じたと思えばリュートたちの非常に物騒な会話が聞こえて来た。勿論止める。何をやっても重傷を負うオランを見たくはない。だが不安なのは一対一ならともかく、二対一ならば私だけでリュートとルチェを止めることは出来ないということだ。リュートを抑えこむだけなら可能だろう。だがルチェも、となるとまず不可能だ。しっかり釘を差しておけば二人ともそんな馬鹿な真似はしないだろうが。
「……、ちっ」
「ティオに止められたら、僕、絶対にやめるよ!でもリュートはやりたそうだけど……ごめんなさい、ティオ、ごめんってば!」
ルチェが少しばかり調子に乗ったので軽く睨むと、一瞬で態度を改めた。賢明なルチェの方が私は好きだな。うん、決して脅してなんかいないからな。
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薄ら笑いというか、自分でも怖い顔を作っている感じ。こんな顔は絶対に女性で繊細なティオには見せられないし、リュートにもそういう意味では向けたくない顔。オランに向けているこの冷たい表情は獰猛な昔のリュートのように、ちょっと人が近寄りがたい顔になっているはずだ。こんなの絶対に愛する妻や娘にも絶対に見せられないな。でも……娘…………アディには別の意味で色々怖い目に遭わせなくてはならないけど。あの子には使命を託さなきゃいけないんだから。
「『はい』でも『いいえ』でも命の危険を感じるのはどうすればいい?」
「さぁ?王様なんだから自分で考えてよ」
「……不敬だとかは考慮しないんだな、まぁ有難いんだが」
ぼやくオランがぐったりと疲れたように玉座に怠そうに座り直す。そんなオランを見てぴくりと大臣が眉を動かす。これは…………日常茶飯事だよね。
「正直、ティオの申し出はとても嬉しい。だが、俺はむしろティオに逆に問いたい。俺なんかよりもティオを大切にする男は山ほどいるだろう?そっちに何故しないのか」
「そんな奴いないからな。私は構わないのだが、…………物理的に蹴られない限りは」
まざまざと思い出す、あの輝かしくも辛い十年。自由と引き換えに過酷な生活だったあの頃を。楽しくもあったが、その後の苦しい日々を思うと何も言えない。そんな日々の中、よくルチェにもオランにも寝相で蹴られたもんだ。特にオランにはな。ルチェの場合は土下座の様な謝り方で迫ってくるから逆の意味で面倒臭かった。
「……物理的に……蹴る……可愛くて綺麗で美人ですごくて格好よくて美しくて国宝レベルで強くて優しくてでもか弱くてでも強くて優しくてリュートとそっくりの顔なのに女の子らしくて最高なティオを…………まさかオランは蹴らないだろうね……?寝相とて許さない……よ……」
「ちょ、ちょっと待て!目が座っているぞ、ルチェ!」
何やら聞き取れはしないが、ぶつぶつと呟いているルチェにびくびくと此方を伺うオランを何やら愉しそうに眺めているリュートやら、不穏な空気を出しだした父さん、ニコニコと笑顔で逃げ出したくなるような寒々とした風を巻き起こす母さんといったメンバーにそろそろ衛兵が気絶しかねない。早いとこ決めてもらわなくては…………。
「ルチェ、とまれ。リュートもなにか言いたそうにするな。父上も母上も自重して下さい。
オラン……馬鹿二人が暴走する前に早く決めてくれないか。断ってくれてもいいし、受けてくれてもいい。馬鹿は私が止めてやるから」
何かまだ言いたそうにしているリュートを小突き、ピタリと動きが止まって幸せそうに何故かなったルチェを押しのけてまだ呆けるオランをじっと見た。ハッとしたオランはぴしりと姿勢を正し、勢い良く玉座から立ち上がる。
「むしろこっちから願い出たいところだった!そろそろ化粧臭くてゴテゴテとした無意味な飾りを付け、甲高い声でがなりたて、弱くて馬鹿な女どもに囲まれるのにうんざりしていたしていたんだ……!リュティオーネ・スゥバァ・アッディ・アースルヴァイツ!頼むから結婚し……」
オランの言葉が最後まで紡がれる前に真っ赤な顔をしたオランは柔らかい絨毯の上に倒れこんだ。
「抹殺成功?」
「いや、僕なんかのしょぼい魔法なんて、僕らの中で一番魔法が使えるオランに対して効かないんだ……ごめん、リュート」
「俺はオランにできうる限りの魔法封じ……マジックキャンセルをかけておいたから限りなく魔法耐性を弱めておいたけど……どうやらただ寝ただけ、だね」
馬鹿共の阿呆らしい行動のせいで魔法により倒れたオランを玉座に座らせ、ふつふつと湧き上がる怒りに任せてこっそりと帯剣していた短剣を取り出す。ギラリと輝く刃は「俺」の持っている刃物の中でも選りすぐりの鋭さと恐ろしさを持っている。ギザギザの刃は傷が治りにくいだけではなく、痛みも増す。また、「俺」が持っていてもなお魔法剣としての威力を発揮する呪いの剣だ。切りつけられた相手は暫く動けなくなるという。
「…………約束は守るもの、有言実行、それは大切だろう?」
重々しく、低い声で二人に語りかける。冷や汗を垂らしたリュートはじりじりと後ずさりし、顔面蒼白になったルチェは哀れなほどガタガタと震えていた。
「邪魔するなと。止まれと。ちゃんとわかりやすく言ったはずだが?」
「ご、ごめ……ティオ、本当に……」
「……ごめんなさいごめんなさい……う、うぅ……嫌わないで……」
震える二人に笑いかけた。いっそ清々しいまでのほほえみだ。
「一回痛い目見ろよ?」
二人分の悲鳴と、叩き起こしたオランに書かせた婚姻届。何故こうなるのか、私の人生。
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