第7話:ついに、俺の物語が始まる
俺は今、新たな世界にいる。
この世界は、俺自身が選んだ世界だ。
女神のミスによって命を落とした俺は、いくつもの世界を巡った。そしてついに、ようやく自分にふさわしい世界を見つけたのだ。
今の俺は、カジョラという少年の体の中にいる。
そして、深い森の中を歩いていた。
「確かに、今の俺はカジョラっていう別人の体に入っている……。でも、あいつの名前を使うつもりはない。
俺は自分の本当の名前を名乗る。
だから、よく聞いておけ……俺の名前は、天野カイトだ!」
森の中を歩いていると、少しずつ不安になってきた。
前の世界でも、俺はこんな場所で命を落としたのだ。
しかも、もうすぐ夜になる。
「……これから、どうすればいいんだ?」
しばらくすると、辺りはどんどん暗くなっていった。
背後からは、野生動物の鳴き声が聞こえてくる。
思わず体が震えた。
俺は何も考えず、全速力で走り始めた。
暗闇のせいで、周囲の様子はほとんど見えなかった。
ただひたすら走っていると、突然、洞窟の入り口が目に入った。
「助かった……!」
俺は迷わず、その中へ飛び込んだ。
入り口付近は暗かったが、奥へ進むにつれて、青い光が見えるようになった。
俺はその光を追いかけていった。
そして、ついに光の発生源へとたどり着いた。
そこには、一本の剣があった。
剣は石の中に半分ほど埋まっていた。
柄には金やダイヤモンドがあしらわれており、剣そのものから青い光が放たれていた。
「こ、これは……すごいな!」
俺は目を輝かせた。
「ちょうど武器も持っていないことだし……これ、もらってもいいよな?」
俺は両手で柄を握り、思い切り引っ張った。
だが、剣はかなり深く石に埋まっていた。
引っ張り続けているうちに、少しずつ体から力が抜けていくのを感じた。
さらに、俺の両手から青い光の粒が流れ出し、剣へと吸い込まれていった。
「……なんだ、これ?」
思わず手を離そうとした。
その瞬間――
剣が、ほんの少しだけ動いた。
「……よし! やっぱり、引き抜けるぞ!」
俺は再び、全身の力を込めた。
「抜けろおおおおっ!」
そして――
ガコンッ!
剣が石から抜けた。
俺はそれを高く掲げた。
「ついに……この剣は俺のものだ!」
その直後だった。
突然、全身が鉛のように重くなった。
「……え?」
俺はその場に倒れ込んだ。
そして、そのまま意識を失った。
◆ ◆ ◆
翌朝。
目を覚ますと、俺は昨日と同じ洞窟の中にいた。
ゆっくりと体を起こす。
「……俺、なんでこんなところにいるんだ?」
しばらく考えているうちに、昨夜の出来事が少しずつよみがえってきた。
洞窟。
青い光。
そして、あの豪華な剣。
「……待てよ。俺の剣はどこだ?」
慌てて周囲を見回した。
すると、すぐそばに一本の剣が落ちていた。
だが、それは俺が見つけた剣とは違っていた。
「……なんだ、これ?」
俺はその剣を持ち上げた。
「ただの安っぽい、薄い青色の剣じゃないか! まるで子供のおもちゃみたいだぞ!
俺の本当の剣を探さないと!」
俺はその剣を放り投げた。
ガシャンッ!
剣が地面にぶつかった。
その瞬間――
「いたたっ! ちょっと! 何するのよ! 痛かったじゃない!」
「……え?」
俺は驚いて、周囲を見回した。
「い、今の声は……誰だ?」
細くて、柔らかい女の子の声だった。
すると、再び声が聞こえてきた。
「ちょっと! 私はここよ! こっちを見なさい!」
俺はゆっくりと、地面に落ちている剣へ視線を向けた。
……声は、そこから聞こえていた。
「……は?」
俺は思わず目を見開いた。
「つ、剣が喋ったああああっ!?」
剣はひとりでに立ち上がった。
そして、当然のように言った。
「人間が喋れるんだから、剣が喋ったって別におかしくないでしょ?」
「…………」
俺が何か言い返す前に、剣はさらに続けた。
「それより、あなたが私をあの石から引き抜いたんでしょ?
なのに、どうしてこんな乱暴に投げ捨てるのよ!」
俺は完全に混乱していた。
「ちょ、ちょっと待て!
お前が、あのダイヤモンドで飾られた豪華な剣だっていうのか?
冗談だろ! あの剣は、もっと大きくて、ずっと綺麗だったぞ!」
剣は不機嫌そうに答えた。
「こうなったのは、あなたのせいなんだからね!
私の姿は、私を石から引き抜いた人の性格に合わせて変化するの!
分かった!?」
俺は剣をじっと見つめた。
「……つまり、お前が言いたいのは、俺の考え方が子供っぽいってことか?」
「細かいことはどうでもいいの!」
剣は少し得意げに言った。
「まずは自己紹介ね。
私は偉大なる剣、リッカよ!」
俺はまったく感動しなかった。
「……なんだよ、その子供っぽい名前は。
もっと格好いい名前にすればよかったのに……例えば、アマテラスとか!」
「私の名前のどこが悪いのよ!?」
剣――リッカは怒ったように叫んだ。
俺は胸を張った。
「まあ、いい。俺の名前も教えておいてやろう。
俺は天野カイトだ。
よろしくな、可愛い剣ちゃん!」
リッカは突然、笑い出した。
「ちょっと! さっきまで私の名前をバカにしていたくせに!
あなたの名前だって、十分変じゃない!
変なカイト!」
「……なんだと?」
俺はだんだん腹が立ってきた。
だが、リッカは気にする様子もなく言った。
「まあまあ、そんなことはもういいじゃない。
これから私たちはパートナーなんだから!
お互いにケンカしたって、何の得にもならないでしょ?」
「……ちょっと待て。
俺たちがパートナーになったのは、いつだ!?」
「あなたが私を石から引き抜いたんだから、当然あなたが私のパートナーよ!」
「…………」
俺は彼女の言葉を無視し、洞窟の出口へ向かって歩き始めた。
「……もういい。そもそも、俺にはお前なんて必要ないからな」
すると、リッカが慌てて叫んだ。
「ちょ、ちょっと待って!
私を置いていかないでよ……お願いだから!」
……俺は、生まれて初めて剣が泣くところを見た。
俺は少し考えた。
(……でも、確かに俺は武器を持っていないんだよな)
(こいつを連れていくのも、悪くないか……)
俺はリッカを背中に背負った。
そして、そのまま洞窟を後にした。
◆ ◆ ◆
洞窟の外に出た俺は、広大な森を見渡した。
「……しかし、ずいぶん大きな森だな。
いったい、どっちへ行けばいいんだ?」
俺はリッカを背負ったまま、歩き始めた。
だが――
たった五十メートルほど進んだところで、体が限界を迎えた。
「……もう、無理だ」
俺はその場に座り込んだ。
すると、背中のリッカが尋ねてきた。
「えっ? もう疲れたの?」
俺は疲れ切った声で答えた。
「……体の中に、エネルギーが一滴も残っていない気がする」
俺はもう一度立ち上がろうとした。
どうにかこうにか歩き続け、ようやく舗装されていない道にたどり着いた。
だが、そこまでだった。
俺は再び倒れ、そのまま意識を失った。
それから、どれくらい時間が経ったのだろう。
再び目を覚ましたとき、俺は見知らぬ場所にいた。
いや……正確には、場所そのものが揺れていた。
「……ん? ここはどこだ?」
周囲を見回すと、そこは馬車の中だった。
目の前には、馬車を操る男が座っていた。
男は後ろを振り返り、俺に声をかけた。
「おっ、目が覚めたか。よかった。
道端で君を見つけたんだ。もしあの深い森の中に取り残されていたら、外へ出るのはかなり大変だっただろうな」
俺は慌てて頭を下げた。
「助けていただいて、本当にありがとうございます……!」
男は軽くうなずいた。
「礼なら俺じゃなくて、君の妹に言いな。
あの子がいなかったら、野生動物に食われていたかもしれないぞ」
「……え?」
俺は驚いて、自分の隣を見た。
そこには、一人の小さな少女が眠っていた。
淡い青色の髪。
青い服。
年齢は、十二歳くらいに見える。
俺は彼女の顔を見つめた。
そして、心の中でつぶやいた。
(……待てよ)
(この子……いったい誰なんだ?)
つづく……




