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女神の手違いでち私の人生は異世界で始まる  作者: Adarsh Miri
第1章:異世界での生活を選ぶ
6/13

第6話:ここが俺の最後の世界なのか?



俺はまだ、女神セレーネのオフィスにいた。


部屋の隅で、壁にもたれかかるように座っていた。


そこは、死者たちが新たな道へと導かれる、あの白くて何もない空間だった。


もう、ここから動く気さえ起きなかった。


俺はただ、黙って座り続けていた。


セレーネは椅子に座り、そんな俺を見つめていた。


しばらくして、彼女は静かに口を開いた。


「前の世界で、よほど落ち込んじゃったみたいね。


まあ……ここで休みたければ、好きなだけ休んでいていいわよ」


そう言うと、彼女は俺から視線を外し、自分の仕事を始めた。


それからしばらくして――


突然、セレーネの目の前に一人の魂が現れた。


太った少年だった。


高校の制服を着ていて、その顔には疲労と悲しみがはっきりと浮かんでいた。


セレーネは落ち着いた声で話しかけた。


「それでは、田中ハルさん……。


こんなことをお伝えするのは心苦しいのですが、あなたは亡くなりました。


私は女神セレーネ。あなたを新たな道へ導くために来ました」


少年は彼女を見つめていた。


そして突然、その場にひざまずき、セレーネの足元にすがりついた。


その声には、泣きそうな感情がにじんでいた。


「ほ、本当に……女神様なんですか?


もし本当に女神様なら……どうか、僕を導いてください!」


彼はひどく悲しんでいるようだった。


セレーネは彼の様子を察し、優しく尋ねた。


「あなたが前の人生で、とてもつらい経験をしてきたことは分かっているわ。


だからこそ、自ら命を絶つことを選んだのね。


……もう一度、生まれ変わってみたいと思う?」


少年はゆっくりと立ち上がった。


目は赤くなっていた。


彼は首を横に振りながら答えた。


「いいえ……。


もう、どんな世界にも生まれ変わりたくありません。


僕は……もう生きたくないんです」


セレーネは彼の言葉を聞き、しばらく黙っていた。


やがて、静かに口を開いた。


「……分かったわ。


それなら、あなたを天国へ送ることもできるわよ。


そこへ行きたい?」


少年の顔に、初めてかすかな笑みが浮かんだ。


「ありがとうございます……偉大なる女神セレーネ様」


すると、少年の目の前に、まばゆい光を放つ扉が現れた。


セレーネはその扉を指さして言った。


「この中へ入りなさい。


その扉は、あなたを天国へ連れて行ってくれるわ」


少年は扉に向かって歩き始めた。


だが、その途中で、彼の視線がある人物に向けられた。


部屋の隅で、壁にもたれながら黙って座っている俺だった。


少年は足を止め、セレーネに尋ねた。


「……女神様、あの人は誰ですか?」


セレーネは俺を見ることもなく答えた。


「ああ、あれはただの男の子よ。


自分の死をまだ受け入れられずにいるみたいね。


気にせず、そのまま行っていいわ」


少年は一瞬だけ俺を見つめた。


それから何も言わずに向き直り、扉の向こうへと消えていった。


扉はゆっくりと閉じられた。


再び、部屋に静寂が戻った。


セレーネはほっと息をついた。


「かわいそうな子……。


人生で本当にたくさんの苦しみを味わってきたのね。


だから、自分の人生を終わらせる道を選んだ……。


まあ、あの子にとっては、それが一番楽な選択だったのかもしれないわね」


その言葉を聞いた瞬間――


俺の頭に、一つのアイデアがひらめいた。


俺はその場から立ち上がり、まっすぐセレーネのもとへ歩いていった。


「……いいことを思いついたぞ!」


俺は彼女の目を見て言った。


「俺が、自分で命を絶とうとしている世界に送ってくれないか?


そうすれば、俺は簡単に自分の死を回避できるかもしれない!」


セレーネは俺を見つめた。


さっきまでの悲しそうな表情は、もうどこにもなかった。


今の俺の顔には、なぜか奇妙なほどの期待と興奮が浮かんでいた。


セレーネは少し考えてから答えた。


「そうね……。


あなたが自ら命を絶つことになっている世界なら、二百くらいはあると思うわ」


俺の笑顔が、一瞬で消えた。


「……は? 二百もあるのか!?」


「でも、あなたがどんな世界に行きたいのか教えてくれれば、それに合わせて候補を絞り込めるわよ」


俺は少し考えた。


そして、はっきりと答えた。


「魔法があって、モンスターがいて、冒険者ギルドもある世界がいい。


そこで自分だけの冒険者パーティーを作って、冒険に出て、金を稼いで……仲間たちと楽しく暮らしたいんだ!」


セレーネは少し眉をひそめた。


「ずいぶん注文が多いわね……。


でも、いくつかなら見つかりそうよ」


彼女は目を閉じ、意識を集中させた。


しばらくすると、再び目を開いた。


「見つかったわ。


条件に合いそうな世界が五つあるわよ。


試しに、その五つの世界でトライアルを受けてみる?」


俺は即座に首を横に振った。


「いや。


もうトライアルは受けない。


今度こそ、自分で世界を選ぶんだ。


……その世界と、そこにいる俺の姿を見せてくれないか?」


セレーネは小さく微笑んだ。


「ええ。それくらいなら、別に不可能じゃないわ。


私にもできるわよ」


そう言うと、彼女は俺の両手を握った。


次の瞬間――


俺たちは、新たな世界の中にいた。


ただし、今回は誰かの体の中にいるわけではなかった。


俺は空中に浮かんでいた。


そして、セレーネが俺の手を握ってくれていた。


彼女は片手を離し、眼下を指さして言った。


「さあ……最初の世界に到着したわよ。


見える? 美しくて、冒険心をくすぐられるような世界だと思わない?」


俺は周囲を見渡した。


目の前には、青々とした木々が広がっていた。


澄み切った湖。


そして、遠くまで連なる雄大な山々。


確かに、美しい景色だった。


セレーネはさらに下の方を指さした。


そこには、鎧を身にまとった一人の男が歩いていた。


「彼が、この世界にいるあなたよ。


一人の戦士ね。そして……彼は今、自ら命を絶とうとしているところよ」


俺はその男を観察した。


彼はひどく落ち込んでいるようだった。


苛立った様子で、乱暴に足を踏み出しながら歩いている。


「……いったい、何があったんだ?


どうして、そこまで死にたいと思っているんだ?」


セレーネは静かに答えた。


「自分の妻が、ほかの男と一緒にベッドにいるところを見てしまったの。


それで、生きる気力を失ってしまったみたいね」


俺は思わず驚いた。


そして、心の中でつぶやいた。


(……最近の人間って、そんな理由だけで人生を諦めちゃうのか?)


セレーネが尋ねた。


「彼の体に入ってみたい?」


俺は少し考えた。


体格自体は悪くない。


だが、年齢が少し高そうだった。


しかも、すでに結婚している。


身長だって、俺の好みとは違っていた。


「……俺が求めているものとは、ちょっと違うな。


こいつ、身長も高いし……。


次の世界に行こう」


セレーネはうなずいた。


「分かったわ。


それにしても……あなたの理想にぴったり合う世界なんて、本当に見つかるのかしら?」


俺は何も答えなかった。


そして、俺たちは次の世界へと向かった。


◆ ◆ ◆


次の世界は、夕暮れ時だった。


俺たちはかなり高い場所から、沈みゆく太陽を眺めていた。


空はオレンジ色と紫色に染まり、とても美しかった。


そのとき――


下の方から、何人かの話し声が聞こえてきた。


俺たちは声のする方へ向かった。


そこには、三人の少年が立っていた。


そのうちの一人は……。


まるで俺自身のような姿をしていた。


顔も、髪型も、肌の色も……すべてがそっくりだった。


まるで、自分自身を目の前で見ているような気分だった。


違うのは、着ている服くらいだ。


その少年の隣には、もう二人の少年が立っていた。


彼らの会話が、はっきりと聞こえてきた。


一人が言った。


「おい、カジョラ。お前、家を出ていったって聞いたぞ?」


もう一人が、笑いながら言った。


「いや、俺は家族の方がお前を追い出したんだと思うけどな!」


二人はカジョラを見て、ゲラゲラと笑い始めた。


俺そっくりの少年――カジョラは、その場から逃げ出した。


背後から、二人の少年が大声で叫んだ。


「お前って本当に役立たずだな、カジョラ!


いつも逃げてばっかりじゃねえか!」


俺は、走り去っていく彼の姿をじっと見つめていた。


カジョラはそのまま走り続け、森の中へと消えていった。


セレーネが静かに口を開いた。


「……そろそろ決めてもらわないと困るわね。


彼はもうすぐ崖の近くにたどり着くわ。


そして、そこから飛び降りて、自ら命を絶つつもりなの」


彼女は俺の方を向いた。


「さあ、カイト……。


この世界を選ぶ?」


俺は、あの少年に対して、なぜか不思議な感情を抱いていた。


どうしてなのか、自分でも分からない。


ただ、彼の姿が妙に気になった。


そして、俺の頭の中に、一つの疑問が浮かんだ。


(……もしかして、こいつが……俺の探していた世界なのか?)


つづく……

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