第11話:ルルミとのクエスト受注
ちょうどその時、ギルドの扉が再び開いた。
今度はその場の笑い声が一瞬で止んだ。
四人組のパーティーが入ってきた。彼らの足取りは普通の冒険者のそれとは違い、まるで床全体を支配しているかのように堂々としていた。
先頭を歩くのは背の高い男で、背中に大剣を背負い、顎には古い傷痕があった。その隣には暗い色の革鎧を纏った男が立ち、二振りの短剣を腰に下げ、口元には気だるげな笑みを浮かべている。二人の後ろには長い灰色のローブを着た女が続き、手にした杖の先端では緑色の魔石が妖しく輝いていた。
そして最後尾、仲間たちの陰に隠れるようにして歩いていたのは、頭に猫のような耳を生やし、後ろで長い尻尾を揺らすオレンジ色の髪の少女だった。
「おい、あれって『アイアンファング』の連中じゃないか?」と、誰かが囁いた。「Bランクが二人と、Cランクが一人だぞ!」
「後ろのちっこい猫は誰だ?」
「あれはEランクだよ。戦いの頭数合わせに連れてるだけだって話だぜ」
少女の耳が、少しだけしょんぼりと垂れ下がった。
ギルド中の視線が一斉に彼らへと向けられた。もはや俺のほうを見ている奴は一人もおらず、この時ばかりはその空気に心から感謝した。
俺は一瞬だけ彼らを眺め、それから掲示板からスライムの依頼書を剥がした。
(あいつらと関わる必要はない)と、俺は心に決めた。強すぎる連中だ。強い奴ら=厄介事。厄介事=危険。危険=死、だ。
俺は依頼書を受付嬢に手渡し、早足でギルドを後にした。
背後からリッカが小声で囁いた。「カイト、あの猫の娘、あんたのこと見てたわよ」
「気のせいだろ」
南部の湿地帯は、まるで雨の中に放置された濡れ雑巾のような生臭い悪臭を放っていた。
そして蓋を開けてみれば、スライムという生き物は恐れるに足りない存在だった。
スイカほどの大きさの緑色に蠢くブヨブヨした塊で、その動く速度たるや居眠りをしている亀のようだった。俺がリッカを一匹目のスライムに向かって振り下ろすと、小気味よいベチャッという音を立てて弾け散り、ビー玉のように輝く小さく丸いコア(魔核)だけがその場に残された。
「やったぞ! リッカ、魔物を倒した!」
「スライムでしょ」
「魔物は魔物だ!」
「おもちゃの剣で倒せてよかったじゃない」と、リッカが冷ややかに言い放った。
「リッカ、お前まださっきのこと根に持ってんのか?」
「百五十ニッケル」
「あれは受付の人が適当に言っただけで……」
「百五十ニッケルよ、カイト」
夕暮れ時になる頃には、俺は十二匹のスライムを仕留めていた。腕は鉛のように重く、靴は泥水でぐしょ濡れになり、全身から湿地の臭いが染みついていたが、腰の麻袋はずっしりと重いコアで満たされていた。
最後の一匹を仕留めた瞬間、不思議なことが起きた。コアから温かく柔らかな光が流れ出し、剣を握る右手に吸い込まれていったのだ。あの洞窟の夜に感じたものと同じ、だがずっと穏やかな感覚だった。
俺は懐から冒険者カードを取り出して確認した。
『レベル3 ―― 剣士』
俺はその数字を穴が開くほど見つめた。
「レベル3だ!」
「へえ? レベル上がったのね」と、リッカはずっと応援していなかったかのように素っ気なく言った。「よくやったじゃない、変なカイト」
「もう一回それ言ってみろ、鍛冶屋に売り飛ばすぞ」
「そんなことできるわけないでしょ!」
「できるね。百五十ニッケルでな」
「カイトっ!!」
◆ ◆ ◆
ギルドのカウンターで、受付嬢がコアを一つ一つ丁寧に数え上げた。
「コアが十二個ですね。基本報酬の六十ニッケルに、コアの買取り分で百二十ニッケル。合計で百八十ニッケルになります」
百八十。
俺は両手で硬貨を受け取った。
それはどんな剣よりもずっしりと重く感じられた。
その夜、俺は胸を張って食堂の扉をくぐった。自分のために肉料理を一皿注文し、そしてリッカのためにもう一皿頼んだ。彼女はまるで扉の裏でずっと待ち構えていたかのような早業でテーブルの前に姿を現した。
俺たちは身体を動かせなくなるまで腹いっぱいに平らげた。
それから宿屋へ向かい、三十ニッケルを支払い、階段を上がって窓とベッドだけがある小さな簡素な部屋へと案内された。
本物のベッド。そして本物の毛布。
俺はまるで湖に飛び込むかのように、ベッドの上へと身を投げ出した。
「最高だ……信じられない……」俺は枕に顔を埋めたまま呟いた。「俺はもう二度とこの部屋から出ないぞ」
壁に立てかけられた剣から、リッカの声が響いた。
「カイト」
「んー?」
「おやすみ」
「おやすみ」
最後の言葉を言い終えるより早く、俺の意識は深い眠りへと沈んでいった。
翌朝、満たされた胃袋と晴れやかな気分で、俺は再びギルドへと足を踏み入れた。
そして、その姿を目にした。
オレンジ色の髪をした少女が、部屋の隅にある木製ベンチに膝を抱えて一人で座っていた。尻尾をぎゅっと足に巻きつけ、頭の上の耳は髪にペタリと張り付いている。
昨日のあの猫耳の少女だった。
だが、『アイアンファング』の仲間たちの姿はどこにも見当たらない。
放っておくべきだった。分別のある大人なら、間違いなく素通りしていただろう。
だが、彼女を取り巻く空気があまりにも重苦しく、俺の理性がいさめるよりも早く、足が勝手に彼女の元へと向かってしまっていた。
「おい。大丈夫か?」
彼女が顔を上げた。その瞳は澄んだ黄金色で、目元はほんのりと赤くなっていた。
「ニャ……? あ。あんた、昨日のスライムクエスト受けてた奴ニャ」
「そうだ。天野海斗だ」
「ルルミよ」と、彼女は鼻をすすりながら名乗った。「Eランクニャ」
「知ってるよ。みんなが話してるのを聞いただけだけどな」俺はベンチの反対側の端に腰を下ろした。「仲間はどうしたんだ?」
ルルミの耳が、さらにペタンと垂れ下がった。
「追い出されたニャ」
「は? いきなりか?」
「昨日ニャ」彼女は袖口で鼻を拭った。「森でウルフの群れと戦ってたの。リーダーはすごく良い作戦を立ててくれてたニャ。あたしは後方に控えて、側面から来る別の群れを見張る役だったんだけど……」
「それで?」
「ウルフが見えた瞬間、身体が勝手に動いて飛び出しちゃったの! ニャ! 戦いたかったんだもん! 目の前にウルフがいたんだから!」
「つまり作戦を無視したわけか」
「作戦なんて退屈だったんだもん!」彼女は宙に向かって両手をぶんぶんと振った。「あたし一人でウルフを三匹も倒したニャ! でもリーダーが怪我しちゃって、後ろから別の群れに挟まれて……ぜんぶ滅茶苦茶になっちゃった」
彼女は口を閉ざした。
「あたしは足手まといだって言われたニャ」と、小さな声で呟く。「言うことを聞かない奴なんて置いておけないって。分け前の報酬をテーブルに置いて、今すぐ出て行けって言われたの」
俺は何と声をかけていいか分からなかった。
彼女は決して弱くはない。たった一人でウルフを三匹も仕留めたと今言ったばかりだ。だが仲間たちが命を預け合えなくなるような、致命的な失敗をしでかしてしまったのだ。
その気持ちは、俺にも少しだけ痛いほど理解できた。誰からも必要とされない、周囲から浮いてしまうあの感覚。
「本当に……クビになったのか?」俺はまだ信じられない思いで、もう一度尋ねた。
「うん……」彼女は力なく頷いた。
「……そいつは災難だったな」と、俺は言葉を絞り出した。
ルルミは膝を見つめたまま、小さく頷いた。
それから、彼女はゆっくりと顔をこちらに向けた。その金色の大きな瞳は潤んでおり、尻尾が慎重に、本当に用心深く左右に揺れていた。
「ねえ、あんた……」
「ん?」
「お願いだから、あたしをパーティーに入れてニャ!」
「……俺の、何だって?」
「あんたのパーティー!」彼女は俺の両手をぎゅっと握りしめてきた。「あたし一生懸命戦うから! なんでもぶっ倒すニャ! 近接戦ならすっごく強いんだから! それにご飯だってそんなに食べないし! あんたの言うことだって聞く! ほぼ絶対に! ニャ……!」
「今『ほぼ』って言ったよな」
「『ほぼ』って言ったのはあたしが正直者だからニャ!」
「それで説得力が増すわけじゃないだろ」
ルルミの唇が震え、耳が再び情けなく垂れ下がった。
俺はこの小柄な獣人の少女を見た。それから自分の冒険者カードを見つめた。レベル3の剣士、Fランク、喋る剣を持ち、今は満腹の幸せを知ってしまった胃袋を抱えている。
ベンチで過ごした惨めな三日間の夜を思い出した。たった一つのスライム討伐が、どれほど生活を一変させたかも。そして、一日に百ニッケル以上を安定して稼ごうと思うなら、一人きりでは限界があるという現実にも思い至った。
「リッカ」と、俺は小声で囁いた。「どう思う?」
「騒がしい娘ね」と、リッカが背中から応じた。「でも、嘘はついてないわ」
「あいつはEランクだぞ」
「あんたはFランクでしょ」
「……ごもっともです」
俺は長いため息をついた。
「分かったよ、ルルミ。入っていいぞ」
「本当ニャ?!」
「ただし一つ条件がある。戦闘中は俺の言うことを聞くこと。最低でも一度はな」
「ニャ! 分かった! 約束するニャ! たぶん! だいたいは!」
「……もう後悔し始めてきたぞ」
ルルミはその場で勢いよく跳び起きると、尻尾をブンブンと振り回しながら嬉しそうにクルクルと回り始めた。
「あたしパーティーに入れたニャ! パーティーに入れた! カイト! カイト見て、あたしパーティーの一員ニャ!」
「見てるよ」
「ニャハハ!」
ギルド中の人々が一斉にこちらを振り返った。
俺は片手で自分の顔を覆った。
俺たちは並んでクエストボードへと歩いて行った。依頼書を眺めるルルミの金色の瞳がキラリと輝き、彼女の爪の尖った指先が上の方にある真新しい一枚の紙の上でピタリと止まった。
「これ! これすごく面白そうニャ!」
俺はその依頼書を読み上げた。
『Dランク。ワイルドボアの討伐。報酬:400ニッケル』
「よ、四百……?!」
理性がブレーキをかけるより早く、頭が勝手に計算を弾き出していた。四百ニッケルなんて、俺のこれまでの人生の総収入を遥かに上回る大金だ。
「俺たちにDランクのクエストなんて無理だろ」と、俺は言った。「俺はFランクだぞ」
「パーティーを組んでいる場合、メンバーの最高ランクより一段階上のクエストまで受注可能ですよ」と、受付嬢がカウンターの向こうから笑顔で声をかけてくれた。「ルルミさんはEランクですからね」
「じゃあ、受けても大丈夫なんですか?」
「規定上は問題ありません。ただし、くれぐれも油断は禁物ですよ」
油断。俺の一番嫌いな言葉だ。
だがそれでも、四百ニッケルは四百ニッケルだった。
俺はボードから依頼書を剥ぎ取った。背中でリッカが楽しげに、小さくカチリと音を立てて笑った。ルルミが嬉しそうに歓声を上げる。そして俺の胃の奥深くでは、またしても取り返しのつかない最悪な選択をしてしまったのではないかという微かな声が警鐘を鳴らし始めていた。
喋る剣、お調子者の猫耳娘、そして魔法適性レベル0のFランク冒険者。俺たちは奇妙なパーティーを結成し、狂暴な猪たちの巣食う森へと向かってギルドを出発した。
第7章:招かれざる厄介事
「カイト、カイト、カイト! 見てニャ! 森がすっごく広い! あたしここにあるもの全部ぶっ倒せそうニャ!」
「全部じゃない。倒すのは猪八匹だけだ」
「八匹?! 少なすぎるニャ!」
「八匹で十分だ」
俺たちはマルカスの街を出て、深い森へと続く未舗装の土道を歩いていた。俺のポケットには、はっきりと要件が記された依頼書が入っている。
『ワイルドボアの討伐。猪の牙を8本納品すること。報酬:400ニッケル。ランク:D』
四百ニッケル。それだけの大金があれば、温かいベッドで十日間も眠ることができるし、底なしのリッカの胃袋を八回も満腹にできる。
ルルミは俺の前をピョンピョンと跳ねるように歩いていた。一歩進むごとに、その尻尾がまるで誇らしげな旗のようにフリフリと揺れている。
「おい、ルルミ」
「ニャ?」
「約束、覚えてるだろうな? 戦闘中は俺の言うことを聞くってやつ」
「うんうん、覚えてるニャ! 最低一回は聞く!」
「一回じゃなくて、戦闘中ずっとだ」
「分かった、分かったってば! 努力するニャ!」
「努力じゃ困るんだよ」
「約束……するよう……努力するニャ」
俺は深い深いため息をついた。
背中から、俺にしか聞こえないリッカの潜めた声が届いた。
「カイト、あたしこの猫、結構気に入ったわ。でもね、言ってることは一ミリも信用しちゃダメよ」
「……俺も全く同意見だ」
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