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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第87話『早すぎる成長』

二学期中間考査一日目。午前で試験が終わった糸哉と敦斗は、そのまま幸樹の家に集まっていた。


「えー諸君。もう薄々気づいてるかもしれませんが……」


糸哉はいつもの気の抜けた笑みを引っ込め、やけに改まった顔で切り出す。


「え、何その空気。怖っ」


「あんだよ急に」


敦斗と幸樹は顔を見合わせつつ、次の言葉を待った。糸哉は一拍置き、静かに告げる。


「『諸君!これがプロである!!』の登録者数がもうすぐ百万人に行きます」


「えっ」


「は?」


敦斗は慌ててスマホを掴み、幸樹は机のPCを起動する。数秒後――表示された数字を見て二人同時に固まった。


『チャンネル登録者数 99.4万人』


「ホントだ……」


「は、早くね……?」


「驚くな驚くな。むしろ遅ぇわ」


糸哉が通話を繋いでいたスマホから呆れ混じりのシェンの声が響く。


「六月にタンドリー加入。七月に最大同時接続数15万に達した熱戦ウェルテックス祭で初出場初優勝。そっからも大手連中とコラボ連発。こせゆ隊、らむらす、ユニオンストリーム、QH勢……さがん達も全員チャンネル登録者数八十万超えクラスじゃけーな」


「へー」


「アイツ等の視聴者層まで流れてきて、夏休みブーストも重なった……俺が本気で張り付けてたらとっくに百万越えとる」


「シェンも八月は円相場が激変したりモニターが一気に二枚も壊れたりして大変だったもんねー」


ウェルテックス祭優勝。それ自体は間違いなく、これプロ三人の実力でもぎ取った結果だ。


しかしただ大会で勝っただけでは、今の動画配信飽和時代では伸び切れない。実際、七十万、八十万付近で停滞するチャンネルも珍しくなかった。


だからこそ裏で動いていたシェン達、通称『裏プロ』の存在が大きい。


これプロメンバーが毎日投稿と定期配信を続け、裏プロが切り抜き、ショート動画の量産、SNSでの話題操作、海外ユーザーへの拡散経路など、新規層を継続的に呼び込む仕組みを維持し続ける。その積み重ねが今の数字だった。


「伸びが遅いって……」


「俺らからすれば十分エグいが?」


一方で敦斗と幸樹は、普段からそこまで登録者数を気にしているタイプではなかった。


というより日々の生活と実況――それ以外にも抱えるものが多すぎて、数字まで気を回す余裕がない。

それでも四月には六十万人だった登録者が、半年足らずで百万人目前まで増えている。


「あはは。二人共現実味なさ過ぎて実感薄いって感じ?」


「うん」


「まぁ……」


「この動画共有サイトでは、今は一日に二千万本の動画がアップロードされていると言われているんだ」


「「は!?」」


「そんなNico・Tube飽和時代ではね、登録者千人超えるだけでも普通に凄いんだよ。十万人行けば広告収入だけで生活できるレベルになるし。まぁ最近は昔ほど甘くなくて、再生数次第になっちゃってるけどね」


糸哉は腕を組み、しみじみと続ける。


「そんな中で、ゲームしながらし喋ってるだけのチャンネルが開設二年半で百万人目前っていうのは……ガチのマジで異例だよね。本当、視聴者と裏プロのお陰だよ」


「裏プロすげー」


「尊敬するか……」


「お、そうだな」


「勿論ホットとタンドリーが入ってくれたのも超大きいよ。そこから新しい層に広がった導線もいっぱいあるし」


「いやいやそんな……」


「…」


褒められ慣れていない二人はイマイチ実感のない返事をした。その様子に思わず頬を緩めながら、糸哉は少し困ったように頬を掻く。


「本来こういう節目って耐久配信とか、記念グッズ販売とか色々やるものなんだけど……」


「おっと?」


「十万人の時も五十万人の時も当日にSNSで一言お礼言って、その週末に記念配信だーって言いながらいつもの定期配信しただけなんだよね」


「えゴメンしょぼ」


「舐めてんのか?」


「応援しがいねーわー」


「だってー!」


三方向から容赦なく刺され、糸哉は『わーっ!』とテーブルに突っ伏した。


「仕方なかったんだって!マジで忙しかったの!何に追われてたのか記憶曖昧なくらい忙しかったんだから!」


「十万の時はQHカップ控えとって五十万の時は……夏じゃった」


「へー」


「後半雑に(くく)りすぎろ」


「だから百万人の時はちゃんとやりますって視聴者にずっと言い訳……じゃなくて説明してたの!」


「物は言いようだな」


「で結局何かやんの?」


『ドゥルルルルルル……』


敦斗が小首をかしげて聞くと、スピーカーからドラムロールSEが流れる。


「……これプロのRICH(ライチ)スタンプ発売します!」


「「おぉー!」」


糸哉が自信満々に発表すると、他二人が普通に声を上げた。


RICHスタンプとは、トークアプリRICHで使用できるイラスト付きメッセージ機能だ。感情表現や挨拶を、キャラクターイラストや効果音付きで送れる定番コンテンツである。


「しかも二種類!ナイア描き下ろし版とテディ描き下ろし版!」


「だからこの前、俺と母ちゃんに『普段どんなスタンプ使ってる?』って聞いてたのか」


「幅広い年代の意見を参考にしたかったからね」


「俺は聞かれてねーぞ」


「タンドリーRICHのデフォルトスタンプすら使ってないの僕知ってる」


「…」


「どんな感じ?見せて見せて!」


敦斗が身を乗り出すが、糸哉は待ったをかける。


「それは告知配信で初公開。視聴者と同じ温度感で反応してほしいから」


「うわニコチューバーっぽい」


「そうだよ」


軽口を返してから、糸哉は咳払いを一つ。


「あとRICH着せ替えも出ます」


「着せ替えまで!?」


「やるな」


RICH着せ替えとは、トーク画面やメニューアイコンなど、アプリ全体のデザインを変更できる機能である。


「デザイン担当はナイア!普段使いシンプル版とカッコいいダーク版の二種類!」


「「おぉー!」」


「スタンプが一種類百五十円。着せ替えが四百五十円。全部買っても千二百円!」


「めっちゃいい!小学生でもギリ買えるじゃん!」


視聴者層にも配慮されたお知らせだと糸哉、敦斗、シェンがはしゃぐ中、椅子で胡坐を組んでいた幸樹がぼそりと呟く。


「何か……百万人突破記念にしては地味だな」


「なんてこと言うんだタンドリー!」


「そーじゃそーじゃ!」


「スタンプの絵描くのって超大変なんだぞ!?」


「分かった分かった。当日はそれっぽいリアクションすりゃいいんだろ」


スタンプも着せ替えも普段使わないタンドリーには正直まだピンと来ていない。だが三方向から一斉に詰められ、しぶしぶ折れることにしたのだった。


☆彡

ユイガの親――山根父は少し時間のズレた休憩中、社員食堂の隅で静かにスマホを見つめていた。


画面に表示されているのは、テディのSNS最新投稿。


『もうすぐ登録者100万人いくだー!週末配信がお祝い配信になるか……!?※耐久配信は出来ませんごめんなさい』


「…」


周囲の社員に見られぬよう、彼はすぐにスマホを伏せた。


――もう100万人に届きそうなのか……。


動画投稿という世界に、彼は決して詳しくない。普段見るのも、気まぐれに開く釣り動画程度。チャンネル登録者数の増減やアルゴリズムなど当然理解していなかった。


だからこそ八月下旬に見た八十三万人という数字から、彼は『息子が加入する頃にギリ100万人届くかどうか』と勝手に想像していたのだ。


しかしその予想は見事に外れてしまう。


――100万人はあくまで糸哉君たち三人の積み重ねだが……。


疎い彼でも『Nico・Tube登録者百万人』という肩書きが、どれほど大きな快挙かは分かる。それだけに――その瞬間に息子がメンバーとして立ち会えないことを、少し惜しいと思ってしまった。


「…」


脳裏に浮かぶのは、ここ半年の息子の変化。


受験勉強を投げ出さず、家の手伝いも言われたらきちんとやる。ゲームも約束通り息抜きの範囲に留め、嫌々ながらも、逃げずに父と向き合おうとしている。


以前のような反抗的な態度は影を潜め、こちらが拍子抜けするくらい落ち着いていた。


――ここまでやっているなら……。


この時期に加入を早めても問題ないのではないか。そんな父親らしい甘さが、ふと胸をよぎる。


何より彼は息子のことを分かっていた。誕生日プレゼントを渡すよりも、欲しいゲーム機を買い与えるよりも――『予定を早めて加入を許可する』方が、息子はよほど嬉しそうな顔をするだろうと。


――無論、受験合格が最優先であることは変わらないが……。


その目標をユイガ自身も本気で見据えていることを、山根父はもう理解していた。


「…」


彼は小さく息を吐く。そして帰宅した後、妻と二人になったタイミングでこっそり相談を持ちかけるのだった。

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