第86話『らむらすの答え合わせ』
『寺岸神流』とは大日本帝国のバーチャルNico・Tuber、女性バーチャルNico・Tuberグループ『ユニオンストリーム』の4期生。ファンの愛称は『プレーン』
主にFPSゲーム・麻雀・歌配信を中心に配信している。
万世かくり、歌観月天と同期でデビューした配信者の1人であり、今年6月に開催された活動5周年記念ライブでは観客動員数1万人を記録。配信活動に留まらない存在感を示し、大型イベントを成功へと導いた。現在のチャンネル登録数は161万人。
ファンや他実況者からの愛称はカンちゃん、カンナたんである。
◆人物。
鮮やかな金髪と、丈の短い赤い着物を着た女の子。一人称は『アタシ』『カンナ』。誕生日は8月13日。バーチャル江戸国出身で父は大工。
猪突猛進でどこか抜けている長女気質の持ち主。率直で歯切れの良い語り口が目立つ一方で、周囲への気配りを欠かさない優しさも併せ持つ。そのギャップが魅力の一つとされている。
ゲームプレイの腕前は決して高いとは言えないものの、失敗を重ねながらも粘り強く挑戦を続けるスタイルが持ち味。長時間にわたって地道に取り組む姿勢から、視聴者は自然と『見守り隊』として応援する関係性を築いている。
初出場となった第3回『QHカップ』では、らむらすやさがんをはじめとするFPS配信者との関わりの中で経験を積み、着実な成長を披露。この過程を通じて活動の幅を広げ、新たなファン層の獲得にも繋げている。
今年に入って同グループ2期生であるイッサ・ヂーチンに対し、自ら弟子を名乗り出るなど積極的な交流も見せている。
――以上、インターネット百科事典サイト『ウィキバンク』の該当項目から一部を中略して引用。
☆彡
配信後。神流は簡単な挨拶を残して通話を抜け、残りのリンゴサイダーを飲み干す。
「んもー!打ち合わせ無かったらもっと三人で話したかったのにー!はぁ……」
――タンドリーマジかっこよかった……!
「二次会は人いっぱいいて全然サシで話せなかったから……ヤバい顔あっつ……」
ゲームスキルの高さと美声、ファンに媚びないのに配慮を欠かさない立ち回り。鋭さはあるのに、キツさを感じさせない絶妙なツッコミ回し。プライベートは『鶏とコックと印度』という設定で巧みに煙に巻かれたが、その誤魔化し方すらユーモアに昇華されていて印象に残る。
さらに新人らしさを感じさせない堂々とした振る舞いで、自分やらむらすといった大先輩相手にも物怖じしない姿勢も悪くない。
――アタシだってらむさんと初めて話した時はめっちゃ緊張したのに。新人からしか得られない栄養素もあるけど……これプロで矯正されてったのかな。
「タンドリーはフレンドリーか……良い。ガツガツしてないのも良い……」
ウェルテックス祭で助けられた恩も相まって、神流の中での好感度は一気に跳ね上がっていた。これまで関わってきた男性活動者の中でも、間違いなく刺さる側の存在である。
「……いやいやいや!」
――女出すなぁ!あくまで推し!推しだって!
慌てて思考を引き締める。女性ブイチューバーというアイドルと同等の立場を考えれば、距離感の取り方は慎重であるべきだ。異性との関係性は、ともすれば誤解を招く。
――アタシは慣れてるけど、タンドリーの方はまだこれからだもんね。そこはちゃんと考えとかないと。変に負担かけさせたくないし。
ビジネスとして、あるいは特別な共演者として認識されるには――時間と信頼の積み重ねが必要だった。
――今回はらむさんが繋いでくれたけど……。
「次はアタシから声かけても……いいかなぁ……」
タンドリーとの関係をどう定義するかはまだ決まっていない。だがそれを探るためにも、神流は少しずつ距離を詰めていくつもりだった。
☆彡
神流が退出して間もなく。タンドリーも小さく欠伸を零し、そのまま通話を抜けようとした――が。
「タンドリーさ……」
らむらすに呼び止められ、マウスから手を離した。
「何?」
「俺に話しときたいことってある?」
いつもより真剣味を帯びた一言に、タンドリーの思考が固まる。視線だけが落ち着きなく揺れ、言葉が喉に詰まった。
「話したいこと……」
復唱して、少しでも時間を稼ぐ。このまま誤魔化すこともできたが――
「俺がこれプロに入る直前まで……らむらすの企画に参加してたって話ですか」
――タンドリーは逃げずに、自分なりの誠実さを選んだ。
「あー怒ってないよ。その話、タンドリーが入ってすぐテディにされたから」
「え」
タンドリーが目を丸くした気配に、らむらすは小さく笑った。
「しかもリスナー歴九年目なんだって?マジお前そういうの嬉しいから早く言えよ!」
「あ……はい」
――そんな長くねぇ……(従兄の)兄貴からアカウント譲り受けたって話は黙っとくか。
「タイミング逃して……結果的に隠してた形になってすみませんでした」
「ん。俺タンドリーが誰だったかは聞かなかったんだよ。なんか何となく」
「!」
「どうしても当てたくてさ。テディにもID聞かなかった」
「……で、絞れた?」
「うん。だいぶ今日ので確信した」
間を置いて、らむらすはニヤッと笑う。
「だから……答え合わせしようぜ」
らむらすは再度バーチカルマップに入り直すと、タンドリーに一つだけ指示を出した。
「今から俺、目瞑るから。前のIDで入ってきて。俺の後ろに回って、ログイン表示消えたら教えて」
「はぁ」
――楽しんでんな……怒られるよりはいいか。
タンドリーは言われた通りにログインし、らむらすの背後へ回る。
「こっちは大丈夫です」
「オッケー」
――まさかアイツが実況者になるとは……。
目を閉じたまま、らむらすは静かに情報を並べていく。
「俺がID覚えてるくらい古参で変なスキン?」
「まぁ……ずっと変えてないからな。流石に見覚えあると思う」
「オフイベも凸待ちも来てなくて、俺と喋った事ないよな?」
「らむらすはおろかコミュニティでも声発したことない」
「陰キャだから?」
「企画に参加することが目的で交流(やらむらす自身)に興味無かったからな」
「要するにコミュ障陰キャだから?」
「……そうだよ。あと世代もズレてたからな」
――ガキすぎて。
「そんでアスレガチ勢で、動きのクセがタンドリーと似てる奴……」
そしてらむらすは――カッと目を見開いた。
「つまりお前だろ……!『Penicillium』!」
「誰がミカンに生える青カビだ!」
「どぅぇぇええ!?インダックス!?」
振り向いた先にいたのは、アスレ上位勢に名を連ねる可愛い蜜柑スキンの『Penicillium』――ではなく、凛々しいアヒルスキンの『inducks_tory』だった。
「バチ当てする雰囲気だっただろ。何で間違えるんだよ」
「恥ずかしっ……!お前……お前だったのかよ!」
――こんなはずじゃなかった……マジか。
確信していただけに外した衝撃は大きい。らむらすの漏らした驚愕の声が、何より雄弁にそれを物語っていた。
☆彡
数日後、らむらすの雑談配信にて。この日はレゾクラ企画で使用予定の農業高校マップを、視聴者と共に制作中だった。
らむらすはその監督兼建築者として、軽い雑談を挟みながら作業を進めている。
「――『バーチカル配信よかった』?ありがとー。あれ楽しかったね」
配信画面では、何故かキャンプファイヤー用の薪が組み上がっていく。らむらすが脈絡のないオブジェクトや、用途不明の残骸を気まぐれで作るのはいつものことだった。
――よし。
五分後。誰の目にもそれと分かる形に仕上がった薪を前に、らむらすは口元に笑みを浮かべる。
「ここで、まぁ内輪向けのお知らせなんだけど……入って」
『え?』
『なにそれ?』
コメント欄がざわつく中、その合図に応じるようにインダックスがログインする。
名前に気づく者がぽつぽつと現れ始めた直後、らむらすは彼を自身のいる座標へと強制的にテレポートさせた。
『インダックスさん!?』
『建築企画にいるの珍しい』
『え?わざわざ呼んだの?』
「俺のリスナーで割と認知されてるインダックスなんですけど……」
らむらすはインダックスを呼び寄せると、半ば強引にキャンプファイヤーの薪の中へ押し込む。そして間髪入れず火を入れた。
『inducks_toryはRAMURASUに燃やされた』
『!?』
『え!?』
インダックスは焼死したと同時にログアウトし――数秒後、何事もなかったかのようにタンドリーのアカウントで再び姿を現した。
「……実は『諸君!これがプロである!!』のタンドリーであることが判明しました」
『おおぉぉ!!』
『え!?』
『急!』
「タンドリー通話入る?」
らむらすがコメント欄を見て苦笑しつつ尋ねると、タンドリーはゲーム内で勢いよく首を横に振る。そのリアクションに吹き出しながら、らむらすは簡単に経緯を説明した。
「タンドリー本人が今後、コラボ以外で俺の企画に参加することは全然ある……ね。まぁそれは勝手に遊びに来たって感じだから」
『おけ』
『仲良くやってこうな』
「ばいばいインダックス……いいリスナーだったよ。ありがとう――」
そして締めくくるように『inducks_tory』はこの場にて、めでたく永眠したことを発表したのだった。
らむらす「よく考えたらペニー(Penicillium)っていつも俺のこと嫌いかってくらい冷たいわ」
タンドリー「それはらむらすが嫌がらせばっかするからだろ。タイムアタックアスレ中に空飛んでガン見してきたり……」
らむらす「ゲハハハハハ!」




