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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第85話『落下は垂直だけじゃない 後編』

――薄い説だってちゃんと分かってたけど……全然アタシだから助けたとかじゃなかった……。


「ねぇアタシとらむさんってそんなキャラ被ってる?」


「髪色と服の色と……らむらすも落下死で0キル最下位になりかねない」


「やる訳ないだろ勝手に重ねるな。カンちゃんじゃあるまいし」


「ハァン?」


「ふっ……タンドリー視点も見たけどクソ笑ったわ。そういう縁もあってね。ノリで誘ってみた」


軽口を叩き合いながら、タンドリーと神流は実際にコースへ挑戦。


らむらすは全ての素材が無限に利用でき、自由に飛行もできる『レゾンフリーモード』で俯瞰(ふかん)視点から二人を見守る流れになった。


この『らむらすバーチカル』は通常なら、全クリアに二時間はかかる難関コース。だが、いわゆるガチ勢であれば四十分程度での踏破も可能とされている。


「そんなタイム変わんの……!?え、じゃあ今ここにいる人たちって全員ガチ勢?」


「いや。そーいうのもチラホラいるけど……」


神流が驚いたように目を丸くして周囲を見渡すと、配信を聞いていた参加者たちは素早く首を振って否定した。


「またまたー。そんなこと言って皆アタシを置いて先に行っちゃうんでしょ?」


「コイツ等平気で『遅っせw。まだそんな高いトコいるの?』って言ってくるぞ」


「ここでしか聞かない煽りだな」


「じゃ。そろそろ始めまーす。カンちゃん。今タンドリーと俺がいるとこに来て。スタート地点ここ」


「はい。あーそっちね」


「……!」


――やべ。初見プレイ設定……。


タンドリーは無意識にスタート地点で待機している自分に気づき、画面の外で肩が強張る。


――ま、スタート地点なんて他の参加者がどこに集まってるかで大体分かるしな。大丈夫だろ。


彼は内心で言い訳を並べ、真上から見下ろしてくるらむらすの存在は意識から切り離した。


「三……二……一……」


「スタートー!えー何これー!」


「Vキーでズーム出来るよ」


神流が最初のステージで目にしたのは、巨大なアルファベット『R』。その下には『A』が続き、全体を俯瞰すれば『RAMURASUNO BATIKARU』の文字列を形作っている。最下部、Uの直下にある水面に着水できればクリアだ。


――まずは雑に……。


「ダーイブ!うわぁーー!」


神流は一直線に走り出し、そのまま飛び降りる。『R』『A』『M』『U』と順調に文字の間を抜けていく――が二個目の『R』の縁に足が接触してしまい、無情にもリスタートへと叩き戻された。


「はいはい……ただ真っすぐ落ちるだけじゃ駄目な系?」


「そうね。でも落ちる場所いいよ」


「寺岸も早く気づいてほしい」


「えっ何々?」


「このマップ後半すげー馬鹿だぞ」


――まんまローマ字で脱力したっけな……早く『Vertical』だろ!って言いてー。


タンドリーは既に残り五文字の地点まで到達していた。『A』の斜めに走るわずかな隙間を一発で射抜き、そのまま続く『R』の急カーブへ。落下の勢いを殺さぬまま身体を切り返し、難所を軽々と突破する。


「じゃお先」


「は!?ドリーもう行けたの!?」


「えっ一発?」


「……たまたま」


「えー待って置いてかんといて!」


「タンドリー(ズル)やってる?」


「バーチカルは(ズル無しで昔から)結構やってる」


「ほほぅ」


――ってことにしとこっかな。


らむらすは面白がっているのが丸わかりの笑みを浮かべ、初プレイである神流の健闘ぶりを重点的に映すことにした。


「よっ、ほっ……あぁっ!」


「惜しい……!」


神流は『N』の斜め配置に対応しきれなかった次の瞬間にはもうリスポーン地点に立たされていた。


「あっ……む、無理かも?」


「できりゅ?カンちゃんできりゅ?」


「ウザいキモい口臭っ!」


「開始二分でもうバチギレかよ」


「これコツとかあります?」


「え……針の穴に糸通す感じ」


「バーチカルって無機物にならないとクリア無理マジ?」


「せやね」


「嘘ではない」


「オーケー?」


――そろそろ次行かないと空気悪なる……!


神流は一度深呼吸し、パニック気味の思考を落ち着かせる。


「まっすぐ落ちたら駄目で、体を左に傾けて……すり抜けっ!」


らむらすからもらった的確なアドバイスを復唱しながら、神流はついに最初のステージを突破する。


「キター!」


「カンちゃんナイス!」


「行けたか?」


まだ1ステージ目だが――その小さな一歩に歓声が弾けるほど、この場の熱はすでに高まっていた。


「ドリー今どこぉ?」


「……俺のことはいないもんだと思ってくれ」


「うはっ!タンドリーもうそこ!?早いなー」


「あれ。ひょっとしてアタシ配信終わるまでドリーに出会えない?」


「カンちゃんお得意のイナバウアー靴舐めしても厳しい」


「そんな変態特技持ってない!?」


「……俺が一周して寺岸に追いつくチャレンジやるか」


「な!?それは流石に舐めすぎじゃない!?」


「えー現在、タンドリー首位を独走直下中です」


「へっ……ペ、ペロペロ!舐めてるのはアタシでしたペロ!」


「鶏だからって舐めんなよ」


――これならガチでやっても自然か。


タンドリーは内心でぼやく。というのも、彼は既にこのマップを攻略済みである。


『inducks_tory』名義のレゾクラアカウントで全コースクリアどころか、現在も破られていない最速記録の保持者でもある。


七十人のリスナーもまた、次々と落ちては消え、落ちては消え――複雑化していく落下ルートを攻略していく。


「キモすぎー!もう一回!」


神流は絶賛、出社風景をテーマにしたステージに挑戦中だった。


プレイヤーは自宅の玄関を飛び出し、そのまま重力に身を任せて落下していく。


車の間をすり抜け、住宅街の屋根をかすめ――次に待ち受けるのは通勤ラッシュの駅構内。改札やホームの僅かな隙間を抜け、走り込む電車の中へと飛び込むように軌道を合わせる。


そこを抜ければ、今度は高層ビル群。看板や信号、張り出した広告のわずかな隙間を縫うように落下し、会社のエントランスの一点に用意された水面へ着水できればクリアだ。


日常の出社を極限の精度でなぞったこのステージは、最初のステージに比べれば難易度は控えめだと言われている。


「フッ」


「何笑っとんねん」


「いや。カンちゃん普通に進めてるやん」


「間に『にしては』って入ってなかった?ナチュラルに煽るじゃん」


「入れてない!」


「あーあ闇堕ちする!ちょっと一杯飲んで本気出すね!」


『カシュッ!』


「は?酒?」


「飲酒ブースト?」


神流は失敗後、足を止めて気持ちを整えるように新しい飲み物を開ける。一口飲んでから炭酸の音に勘違いした二人に苦笑した。


「違う違う!これリンゴサイダー!」


「と見せかけて実はリンゴサワー?」


「あー。サワーをジュースと同列だと思えるタイプか」


「やめてよ!本当に誤解する人出ちゃうって!」


「ふははは!タンドリーは普段なに飲む?」


「水」


「それな」


「……けど、カレー味の炭酸水なら前飲んだことある」


「へえっ!?」


「何それ!」


「香りはカレーだけど味は普通のサイダーで――」


そして話題はカレーサイダーから、神流が旅行先で見かけたシークワーサイダーの話へと移る。途切れずに繋がった流れに、タンドリーは内心で安堵した。


――危うく会話途切れるとこだった……金もらってんだからちゃんとやらなきゃな。


Nico・Tubeの生配信は『三秒以上の沈黙は放送事故』とされるFMラジオと大差ない。タンドリーは改めて自分の役割を思い出す――自分が今日はアスレガチ勢ではなく、らむらすの配信を盛り上げるゲストだと。


――普段の喋りはテディとホット任せだって痛感するな……。


寧ろあの二人は、短く終わらせる隙すら与えないパスを投げてくる。だが今日はその役目を担う者がいない。ツッコミの時だけ口を出す鶏だと思われる訳にはいかず、タンドリーは発言の量を増やすことを決めた。


――けど、流石らむらすと寺岸はベテランなだけあるな。


「二人の会話面白すぎて一生聞いてられる」


「何聞いてんのよ!」


「ただマウンティング取り合ってるだけだけど」


「そのクソみっともねーバチバチが良い……ってコメントが言ってた」


「よし。ソイツBANするわ」


「っはぁー!行けたっ!」


ここで神流が十分かけて出社ステージをクリアする。対してタンドリーは既に折り返し地点を越えていた。


「マズい。カメラが不足……配信してないタンドリーの方見とくか」


らむらすはどちらにカメラを向けるか迷いながら、二人を追い続けた。


「あーミスったっ!」


「カンちゃん……シンプルに大丈夫?」


「大丈夫。あと八時間頂戴」


「長ぇ!」


「夜が開けるわ」


初心者らしい失敗を繰り返しながらも、神流は挑戦の積み重ねによって確実に攻略の糸口を掴み始めていた。


「ぷぇー惜しい!」


「カンちゃんやるやん」


「らむらすカメラ見てるけど結構うまいな」


「うん。コツ掴むの早い」


「えっ……えへへ。そう?ってあーあ動揺した!禿げそう!」


「早く降りて来いよ。この低みまで」


そして三時間後。障害物の一部を取り除くという特別措置を受け、正規の攻略とは異なる形にはなったが――ラストは三人で手を繋いでゴールインしたのだった。

神流「らむさんとドリーはお酒飲めるの?」

らむらす「俺は……飲むねぇ……」

神流「らむさんが飲んだらダルそう」

タンドリー「でも結構強いんだろ?」

らむらす「そう!ただ……気づいたら毎回ビールと日本酒を交互に呑んでるだけ」

神流・タンドリー「「うっわ……」」

らむらす「そういうタンドリーはどうなんだよ!」

神流「アタシも気になる!」

タンドリー「(店で最近よく出てるのは)ジャパニーズウイスキーとか……」

神流「クワッ、カッ……(コイイ)」

らむらす「タンドリー本当そういうとこ良くないわ」

タンドリー「何がだよ」

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