第81話『やっぱり二組はOMG』
『コイツやべぇ』
『えーまずテディを宇宙空間に飛ばしてと』
『お前だけは裏切らねぇと思ってた』
当の幸樹は眉をひそめる。完全に真面目に考えた結果だったが、その一方で縄帯はあえてネタに走っていた。
『腕立て伏せ・腹筋・スクワット各100回、10kmランニング』
「ハゲマントレーニングじゃねーか」
『くそっ……太陽には勝てねぇって!』
『いや縄帯!お前はよくやった!』
『俺これ大好き』
縄帯は数字に沿いつつ、翠羽に引かれないようネタに走ったつもりだったが――天然という異次元には及ばないと、静かに歯噛みした。
『俺は肉体じゃなく、精神的な仕置きを考えました』
日新は少し溜め、回答を発表する。
『一週間女の子生活』
「オーバーキルだよ!もうやめて!」
『イトちゃんか……』
『俺は糸美ちゃんがいい』
外野が勝手にビジュアルを補完し始め、ざわめきは妙な方向へと膨らんでいく。意外にも誰一人として強い拒否反応を示しておらず、糸哉はこの先に待つ未来に恐怖を覚えた。
「最後は私?」
ざわついていたマーモットたちの視線が一斉に彼女へ集まる。
「私の考えた熊本君のお仕置き内容は、皆の気持ちに立って考えてみました!」
翠羽ははにかみながら――
『右半身を供物に捧げる』
「小椿さん!?」
――最も邪悪な断罪方法を宣告した。
『ありがとう……!』
『そこまで俺らのことを考えてくれたなんて……』
『天使だ……』
「この回答のどこに感動と天使要素があったんだよ」
「改めて見ると酷い……半分以上が僕の一生を左右する内容だぁ」
規格外の回答が並ぶ中、糸哉は『テディの仕置き内容。(数値が高いほど邪悪な内容)』を見て内心頭を抱える。
――難しい……嫌な順に並べてみるか。
やがて回答が出揃う。親衛隊チームの回答はこうだ。
『激辛カップ焼きそばチャレンジ』<『一週間女の子生活』<『腕立て伏せ・腹筋・スクワット各100回、10kmランニング』<『右半身を供物に捧げる』<『太陽の近くで正座』
対して糸哉は。
『腕立て伏せ・腹筋・スクワット各100回、10kmランニング』<『一週間女の子生活』<『右半身を供物に捧げる』<『激辛カップ焼きそばチャレンジ』<『太陽の近くで正座』
というように、最後以外バラバラの順番だった。
再び全員が数字の大小を確認し、翠羽が代表して発表する。
「正解は――いません!どっちも不正解です!」
「なら小椿さん。順番が合っている方が多い側を発表してくれ」
籠目の一言で、出題者側は再び軽く相談し、やがて翠羽が口を開く。
「多い方は――親衛隊です!」
『『よっしゃー!』』
「うぐぐ……」
マーモットたちが一斉に手を上げて歓声を上げ、その勢いが糸哉の悔しさをいっそう煽った。
『テディの仕置き内容。(数値が高いほど邪悪な内容)』の正しい順番は以下の通り。
敦斗……26『激辛カップ焼きそばチャレンジ』
縄帯……31『腕立て伏せ・腹筋・スクワット各100回、10kmランニング』
日新……47『一週間女の子生活』
幸樹……65『太陽の近くで正座』
翠羽……88『右半身を供物に捧げる』
「テディ全外しじゃねーか!」
「いや幸樹が大分ノイズだったよ!?たった65で死に直結させないでよ!」
「俺が捕捉した意味!辛い焼きそば食うくらいだったら供物になんの!?」
「僕にとっては死と同義だよ!」
「せっかく思い切ったのに……」
『おいそこ!やかましいぞ!いよいよ最後のお題だ……傾注せよ!』
糸哉が味方三人と泥沼の口論を始めたところで、最後のお題が発表された。
『最後は――女子を見てドキッとする瞬間!数字が高い方が一般的とされている内容だ!』
「女子を見て怒気っとする……?」
「幸樹。それピキッとするだね」
「恋愛的な意味のドキドキな。幸樹にはまだ縁がない方のアレ」
「男子目線かぁ……ならまた翠三郎にならないと」
「キャラブレてんじゃねーかさっき太郎だったろ。次男どこ行ったんだよ」
三問目ともなると慣れが生じ、シンキングタイム中も小ボケが飛び交っていた。
『手を繋いだとき……かな』
『二人きりでの遊びに誘われてみてぇ……』
「考えてる時に欲望カミングアウトすんな。後でやれ」
「出題側が悪いな……年相応のマトモな恋愛思考を持ってんのが一人もいない」
『何だぁテメェ!?日新はともかく俺は普通だろ!』
「確かに縄帯君が一番そうだけど……マーモットになった時点で終わりだよ」
「テディも人のこと言えないだろ」
「ホラ敦斗も早く言語化して?僕ずっと縛られたままで辛いよ」
糸哉は堂々と自分のことを棚に上げ、回答が出揃うのを待った。
『まずは……縄帯!回答を発表してくれ!』
今回のトップバッターは縄帯。彼は『同士なら分かってくれると思う』と自信たっぷりに答えた。
『中学生になって最初に話しかけてきた美少女が保育園の幼馴染だった。彼女は俺限定で名字+敬語NGで幼馴染ポジに収まろうとしてきます』
「ラブコメラノベのタイトル!」
『長い長い長い』
『タイトルがあらすじやめろ』
『分かるのがちょっと嫌だ』
糸哉がシャウトすると、前のホワイトボードに書かれた回答を何度も読み返していた幸樹が眉間にシワを寄せる。
「敦斗。これ要約してくれ」
「ごめん分かんない……多分『幼馴染の女の子と変わらず仲良しになれたとき』とか?」
『そう』
「随分……限定的なシチュエーションだね?」
――私も保育園組だったけど……縄帯君とは同じ保育園じゃかった……よね?
翠羽は素早く記憶を辿り、彼の答えが自分との関係を重ねて作られたものではないと結論付けた。
『先にヤバそうな奴から処理するか。じゃあ服部!』
「俺は何もヒネってねーよ」
そう前置きした幸樹の回答は――
『太もも』
――どう考えても一般的とは言い難かった。
『『……っ!』』
幸樹を除く全員はしばらくの間、爆笑に呑まれて肩をプルプルと震わせていた。
続く敦斗は『連絡先教えてって言われたとき』。翠羽は『目が合ったらそのままニコッて微笑みかけられたとき』。日新は『名前呼ばれたとき』と、後半は一見、数値が高く一般寄りの回答に見えた。
「これ完答するか、マーモットより正解に近い予想だったら僕の勝ちだよね?」
『そうだ』
「もう後は祈るしかないな……」
親衛隊チームが順番を並べ終える。
『太もも』<『中学生になって最初に話しかけてきた美少女が保育園の幼馴染だった。彼女は俺限定で名字+敬語NGで、幼馴染ポジに収まろうとしてきます』<『名前呼ばれたとき』<『連絡先教えてって言われたとき』<『目が合ったらそのままニコッて微笑みかけられたとき』
対して糸哉は。
『太もも』<『中学生になって最初に話しかけてきた美少女が保育園の幼馴染だった。彼女は俺限定で名字+敬語NGで、幼馴染ポジに収まろうとしてきます』<『目が合ったらそのままニコッて微笑みかけられたとき』<『連絡先教えてって言われたとき』<『名前呼ばれたとき』
といったように、被っている部分は一番目と二番目だけだった。
「頼む日新君……!僕 (とシェン)の予想では君が全ての鍵となるハズだ!」
『ワンチャンあるのが怖い……』
糸哉は目を閉じて祈る。浮いた話の一つもない彼にとって、異性に名前で呼ばれることがどれほど大きな意味を持つか――その可能性を信じ『名前で呼ばれる』を最大値と見て賭けに出た。
「――結果が出ました。まず、どっちも正解じゃないです。けど……引き分けでもありません」
翠羽は神妙な面持ちを崩さぬまま、最後の結果を告げる。
「正解に近い方は――熊本君です!」
「きたぁー!」
『女子を見てドキッとする瞬間。(数字が高い方が一般的)』の正しい順番は以下の通り。
幸樹……19『太もも』
縄帯……26『中学生になって最初に話しかけてきた美少女が保育園の幼馴染だった。彼女は俺限定で名字+敬語NGで、幼馴染ポジに収まろうとしてきます』
敦斗……71『連絡先教えてって言われたとき』
翠羽……95『目が合ったらそのままニコッて微笑みかけられたとき』
日新……99『名前呼ばれたとき』
『テディ俺のこと好きすぎだろ。完璧なんだけど』
「やったー」
親衛隊は敗北の確定以上に、ただ一人の戦犯――トロールをかました人物に非難の矛先を向ける。
『舐めてんのかコラァ!』
『テメェふざけんな!』
『お子ちゃまがよぉ!』
『耐性なさすぎだろ!』
『ピュアぶってんじゃねーぞ!』
「あーっはっはっはっは……ふふふふふっはははははは!」
「エブリデイ不整脈じゃん」
「小学生か?」
「日新君……でも可愛いよ?」
『序列トークゲーム』は二対一で糸哉の勝利。そして縄が解けた彼がまず取った行動は――
「まったく。嘆かわしいことだよ」
『アガッ!』
『ゴバァ!』
『グブゥ!』
――愚かなマーモットたちにどちらが上なのか分からせることだった。
『バ、バケモンめ……お前テディベアだろ!』
『許せねぇ……いずれ必ず粛清してやる!』
『残飯と一緒に捨ててやるからな!』
「あははは。二度と僕に歯向かっちゃ駄目だよー?」
ヘナチョコどもはまとめてシバき倒され、大舞学園一年生を代表する阿呆共の騒ぎはこれにて終幕となった。
翠羽「熊本君、ら、乱暴は……」
糸哉「今日は好きなゲームのイベントが始まるから早く帰ってゲームを楽しむ予定だったのに殴られて拉致られて手足縛られた挙句、集団で脅迫された僕ですが。何か?」
翠羽「ごめんなさい……」
幸樹「テディいいぞーもっとやれ」
敦斗「俺もロケットパンチで援護するぜ!」




