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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第80話『女子と外道と価値観合わせ』

『序列トークゲーム』。最初のお題は『女子のスカートの中が見えてしまった時の言い訳。(数値が低い台詞ほど相手にエルボードロップをかけられる)』だった。


『――まずは小椿さん。数字を言語化した内容を発表してください』


「あ、はい!」


『可愛い』

『顔がいい』

『どんな回答でも百点だな』


マーモット共の黄色い声に囲まれながら、翠羽はごくりと喉を鳴らした。


「私……いや僕、小椿翠太郎が女子のスカートの中をうっかり覗いてしまった時の言い訳は……」


「そこまでキャラ作りこむもんじゃないだろ」


『服部!静かに傾聴しろ!』


その瞬間だけ男としての人格を乗せた翠太郎の弁明は――


『ぼ、僕のも見る!?』


『『キッショ!』』


――最低レベルに近い内容だった。


『い、いかん!このままだと小椿さんがただの変態になる……服部!お前の回答を発表しろ!』


『そうだ!服部なら間違いなく酷ぇ言い訳が出て来るぞ!』

『服部がマトモな言い訳をするワケがねぇ!』

『ノンデリが服を着て歩いてるような男だからな!』


「よし。全員後で全身ヘモグロビンレッドの刑な」


幸樹は軽く咳払いをして声色を作る。その合図を皮切りに、この場の全員の脳内で同じシーンが一斉に再生された。


強い風が吹く渡り廊下。スカートがめくれ、慌てて押さえる翠羽とばっちり目が合う。そして幸樹は――


『えっ?見てないけど……っていうか髪にパンくずついてるよ?』


『『この卑怯者ー!』』


――マーモットたちから総ツッコミを喰らった。


『焼きカレーパン引きずってんじゃねーか!』

『テメェを信じた俺が馬鹿だったぜ!』


理不尽な罵声が飛び交う中、回答者側のマーモット――日新が静かに手を挙げる。


『皆。俺に任せろ』


空気が変わる。それぞれが抱いた感情を押し殺し、誰もが口を閉ざした。


再び、あの光景が脳裏をよぎる。強風に煽られ、翻るスカート。その見えてしまった一点に、日新の視線が吸い寄せられた。


そして彼は――


『イチゴパンツちゃんおはよう!』


『『やっぱ日新は違うぜぇー!』』


――場違いなほど爽やかな笑顔で、最低な挨拶を口にした。


悪びれなさ、躊躇のなさ、そして圧倒的なデリカシーの欠如。とびきり突き抜けた下衆の言い訳に敦斗は確信する。


――アイツ絶対一桁だ……俺この回答で大丈夫かな。


『へー。スカートの裏地ってこうなってるんだ』


続く縄帯は、視点をずらすことで直接的な地雷を回避。


そして最後。


「……俺か。えーと渡り廊下で翠羽のスカートの中を見ちゃった時……」


「敦斗君?私をキャスティングしたら回答しだいでエルボードロップしなきゃだよ?」


「一旦聞いて欲しい……俺の言い訳を」


「敦斗。その言い方だと本当に小椿のスカートの中を見たことになるだろうが」


幸樹がツッコみ、マーモットたちが固唾を呑む。


ピラッとめくれるスカート。慌てて押さえる翠羽。赤くなった顔で、敦斗を睨む。


その視線の先で――彼は整った顔のまま一言。


『俺、悪くねーから!』


「敦斗君のバカー!」


「ヴグッ!?」


次の瞬間、翠羽は迷いなく親衛隊から差し出されたロケットパンチ式グローブを装着。『バシュン!』と軽快な音と共に、拳が一直線に撃ち出された。


『逆ギレかよ!』

『サイテー!』

『もう別れちまえ!』


敦斗の胸元に直撃し、彼は机に突っ伏した。遅れて親衛隊の怒りが一斉に弾ける。


「はぁ……はぁ……」


「テディまだ一問目だぞ」


「熊本君が笑い死んじゃう……!」


糸哉は回答が発表されるたびに笑い、外野のリアクションに釣られて呼吸困難になりかけていた。


――よだれ出ちゃう……苦しい……!


それでもどうにかミニホワイトボードとマーカーを握り、数値の順番を予想する。


マーモットたちが顔を突き合わせてヒソヒソと相談を重ねる中――糸哉は出題者たちの表情を読み取りながら、思考の海に沈んでいた。


『タンドリーが最後でその次が縄帯じゃろ?問題はその後か……』


「うーん。やっぱそうだよなぁ……」


「ふふっ。熊本君って、考え事するとき声出ちゃうタイプなんだね」


その様子を無意識に漏れる独り言と捉え、翠羽はどこか微笑ましそうに眺める。


「…」


しかし敦斗と幸樹の視線は彼の耳穴に向く。


照明が抑えられた室内と髪で見えないが、二人は最後まで糸哉につく神の存在を疑っていた。


やがて回答が出揃う。親衛隊チームの回答はこうだ。


『俺悪くねーから!』<『イチゴパンツちゃんおはよう!』<『ぼ、僕のも見る!?』<『へー。スカートの裏地ってこうなってるんだ』<『えっ?見てないけど……っていうか髪にパンくずついてるよ?』


対して糸哉は。


『イチゴパンツちゃんおはよう!』<『俺悪くねーから!』<『ぼ、僕のも見る!?』<『へー。スカートの裏地ってこうなってるんだ』<『えっ?見てないけど……っていうか髪にパンくずついてるよ?』


両者の違いは、日新と敦斗の順序を入れ替えただけだった。


「結果発表!まずそっちで数字を確認して、どっちかに正解がいるかどうかだけ教えてください」


出題者の五人はカードを寄せ、数値を照合する。そして――翠羽が代表して立ち上がった。


「どっちかに正解は……います!」


その瞬間、回答者側のマーモットたちの空気が一気に爆ぜた。


一番低い数字が日新であれば糸哉の正解。敦斗であれば親衛隊チームの正解――果たして。


「……せーの!」


敦斗『11』。日新『2』。


「よって、正解したのは熊本君です!」


二人が同時にカードを掲げ、翠羽は糸哉に向かって微笑む。


「やった!」


『えええええ!?』

『なにィ!?』


糸哉は小さく拳を握る隣で、マーモットたちは悔しさを滲ませていた。


『女子のスカートの中が見えてしまった時の言い訳。(数値が低い台詞ほど相手にエルボードロップをかけられる)』は以下の通り。


日新……2『イチゴパンツちゃんおはよう!』

敦斗……11『俺悪くねーから!』

翠羽……35『ぼ、僕のも見る!?』

縄帯……44『へー。スカートの裏地ってこうなってるんだ』

幸樹……73『えっ?見てないけど……っていうか髪にパンくずついてるよ?』


「やっぱ敦斗のあの妙なアイコンタクト、あれ自分が最下位じゃないって伝えたかったんでしょ?」


「そうそう! だからあえての逆ギレ戦法」


『犬飼の方がエルボードロップだろ!』『目で通じ合うなんて姑息な真似を!』


一部のマーモットが口汚く不満を噴き上げるが、籠目は軽く手を振ってそれを切り捨てる。


『次のお題はテディの仕置き内容!数値が高い方がより邪悪だ!』


「嫌だぁ!絶対それ後で参考にされるヤツじゃん!」


『うおおおおおお!!』

『来た来た来たァ!!』


テディの悲痛な叫びが視聴覚室にこだまするが、マーモットたちの歓声がそれを一瞬で飲み込んだ。


誰もがどれだけエグい案を出せるかに意識を切り替えていく中、当のテディだけが、取り残されたように涙ぐむ。


「…」


幸樹は『65』という微妙な数字を頭に浮かべ、先ほどのお題以上に真剣に思考を巡らせていた。


――テディの弱点は辛さとスタミナと泳ぎと暑さ……辛いのは給食の豚キムチ丼の飯すら辛くて食えなかった。体力テストのシャトルランではいの一番にギブアップ。泳ぎは水泳の授業全部休んだっていう実話が結構出回ってるからな。あんま知られてない暑さで攻めるか……。


「こうして考えてみるとテディって(リアルでは)雑魚だよな」


「急に罵倒!?僕に味方はいないのか……」


何でもできるように見えて、意外と穴の多い糸哉。その見えにくい弱点を突く仕置きを――幸樹は被りを避けながら、極限まで練り上げた。


そして発表タイムへ。トップバッターは敦斗である。


「俺の回答は――これだ!」


『激辛カップ焼きそばチャレンジ』


彼は糸哉について誰よりも詳しいと自認しているため、的確に彼を苦しめる罰を出した。


「えー捕捉で商品名言うと――」


「あれ辛いか?」


「だから捕捉。テディは俺と幸樹がいる世界に住んでないから」


激辛系カップ焼きそばの中では比較的マイルドな商品を提示しても、糸哉の受けた精神的ショックは大して変わらなかった。


「…」


『おい熊本。想像しただけで呼吸を止めるな』


「イぐっ……ハッ!?」


籠目が殴って糸哉を復帰させ、仲間に指示を飛ばす。


『よし!誰か買ってこい!』


「ここ飲食禁止だよ!幸樹の時言い忘れてたけど!」


『校則違反が怖くて断罪が出来るか!』


「その強固な信念は別の何かに活かすべきだと僕は思う!」


今にも調達してきそうなマーモットたちを糸哉と翠羽が宥め、続いて幸樹の発表へ。


「ただ殴る蹴るじゃ古いしワンパターンって言うんだろ。だからその辺も含めて考えてみた」


『太陽の近くで正座』


『『ブハァッ!』』


ほぼ全員が吹き出し、糸哉と敦斗も腹を抱えてその場に蹲った。

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