第77話『諸君!これがストレス発散法である!!』
夏休みが終わり、新学期が始まった。休み明けテストに夕方まで続く授業。おまけに外は残暑が厳しく――
「さぁさぁ諸君!殺戮のお時間がやってまいりました」
――テディのフラストレーションが限界に達した。
今回の企画はレゾンクラフト内で制作されたテディのオリジナルゲームを用い、視聴者参加型かつ有料会員限定の生配信として行われる。この形式での配信は、これまでに二度しか例がなかった。
「じゃあ『テディクリース』はーじめるよー!あ、今日のメンバー参加は僕だけね」
非対称型サバイバルゲーム『テディクリース』――レゾンクラフト内で開発された、テディ考案のオリジナルゲームである。
舞台は広めの森の中にある小さな村。通称『これプロ村』を模した専用マップ。
参加人数は五十人。テディ以外の参加者は全員獲物となり、テディから逃げつつ戦う。
◆テディ(一人)
目的……唯一の鬼として出現。テディはジャンプ力上昇、移動速度上昇、落下耐性のバフを受けており、無限の弓矢で獲物を狙う。
頭部への命中は一撃で討伐、それ以外の部位は二回命中で葬ることができる。
◆獲物(五十人)
目的……逃走、潜伏、連携など、あらゆる手段を駆使して生存を目指す。
マップ内は自由に行動可能だが、お助けアイテムやバフは存在しない。また、マップの破壊や味方同士のPVPも不可能となっている。残り時間一分を切ると生き残っている獲物側だけが発光する。
◆対抗手段
テディの放った矢がプレイヤーに命中せずフィールドに刺さった場合、その周囲にいた獲物の中から一名ランダムで単発の弓矢が付与される。
これらの装備はプレイヤー間で譲渡可能であり、状況次第で参加者側もテディに対して反撃を行うことができる。矢によるダメージ判定は、テディにも同様に適用される。
◆勝利条件
参加者側……制限時間を生き延びる。もしくはテディを撃破すれば勝利。
テディ側……制限時間内に獲物を全滅させる。
制限時間は十二分。このゲームは、テディが人間狩りに着想を得て企画したストレス解消用の遊戯だ。
無限の矢と圧倒的ステータスで獲物を狩りまくれる爽快感と、外せば即座に反撃される緊張感――その両方が混ざり合い、ただ一方的に追い詰めるための舞台が完成している。過去二回の開催では、コラボ相手の接待プレーを除く全ての試合で百人狩りを達成していた。
「『何でもっと短いスパンでやらないの』か……だってこのゲームさ」
テディは俊足で駆けながら弓を構え、木から木へと飛び移る三人の獲物を後方から順に撃ち抜いた。
「シンプルすぎて獲物の動きも限られてくるじゃん。生き残りたいから潜伏するけど、その間やることなくて暇になる。みたいな。多分今まさにそうなってる獲物が何十人かいると思うけど……待ってて。今から行くね」
テディは会話の片手間に曲射で二人仕留め、獲物が密集しやすいスポットへと大きく跳躍した。
「結局これさー。僕のやりたいことに獲物諸君が付き合ってくれてる感じなんだよね。奥深さも別にないから頻繁にやるもんでもない。たまにやるくらいが一番気持ちいいんだ」
『本当にテディが百発百中で獲物を残さず平らげるゲーム』『パスパス当てるからこっちも見てて気持ちいい』『また全滅か?』
そんなコメントが流れている通り、このゲームはシンプルな弓主体ゆえに、実力が生存者数として如実に表れる。
鬼側のステータスが強化されているとはいえ、広い森で五十人を十二分以内に仕留めるのは容易ではない。中には攻撃を避ける者や時間を稼ぐ者も現れ、さらに参加者に弓が渡って反撃されれば致命的だ。
だがテディは高いシューティングスキルを武器に、毎回ほぼ一撃で獲物を仕留め続けていた。
「テディクリースあるある。落下ダメージで自滅しがち……『おい歌えよ』って何?ただあるある要素言っただけなのに……」
テディの視界の隅に、屋根から落下して息絶えた獲物が映る。その間にも、偏差撃ちで五人を一気に処理した。
「聞いってたんと、聞いってたんと、聞いってたんと、聞いってたんと違うぅ~ルラッタッタ~」
流行りの歌をうろ覚えで口ずさみながら――あえて姿を見せ、矢を躱そうとした挑戦者二人を一撃で沈めた。
『うっま』『バグってるww』『やばいやばいw』『怖すぎ』
高精度の射撃でキルログは途切れることなく流れ続け、視聴者と獲物のテンションは否応なく引き上げられていく。
「僕の職場って爺さん婆さんばっかだからさ。僕もそうなんだけど。皆のフレッシュな近況聞かせてよ。相続税が高すぎるって息子に文句言われた話とか、白内障の話とか、延命治療してまで生きたくないけど実際そうなったら自分も家族もどうするか分からない話以外で。いやそういう話も楽しいんだけど」
『人間狩りながら世間話するな』『ジジイすぎるww』『重たっ』『お疲れ』
だがテディ本人はいつも通り雑談を続けており、傍目には微塵もストレスを感じているようには見えなかった。
「『次の試合はこの二倍手加減して』……今も優しくはしてるよ?僕の中では」
そうこうしているうちに残り人数は十二人。そして残り一分で発光――だがテディは光らない。生存者たちは鬼の位置を掴めないまま、慌ててその場を離れるしかなかった。
「お嬢さんっ。お待ちーなーさいっ」
『この熊でなし!』『ぬいぐるみの風上にもおけねぇ!』『悪夢で草』
テディの容赦ないエイムに、コメント欄は称賛から半ば責めるような言葉へと変わっていく。
「るるぱっぱ、らーるーらーりーらー♪」
『GAME SET 鬼側の勝利』
「やたー!」
そして今回も、彼はきっちり時間内に五十人を屠りきった。
「うーん獲物諸君。今日もありがとう。お陰で大分スッキリした。じゃあ次戦は僕も獲物側に……」
ここでスカイコードの通知が静かに表示され、とある人物がテディのいるボイスチャットルームに入ってきた。
「あれ?もしもし、こちら配信中。こちら配信中」
「おーっす……」
「声が死んでる……らむらすどーしたの」
らむらすは生気の抜けた声をそのまま配信に乗せ、視聴者とテディを同時に困惑させる。
――らむらすも何か抱えてるのかな。
「今日ストレス発散配信だからさ。表で話せる内容なら僕と視聴者で相談乗るよ」
そう察したテディは、画面の向こうでも分かるくらいに表情を柔らかくして『どしたん、話聞こか』モードに入った。
「あいづが……あのクソブタの所為で、俺は……」
「ブタ?まさか僕も知ってるあの……」
『ブタ?』『そんな配信者いる?』『らむらす参加。忍兵鬼ごっこ配信終わりに来た模様』
視聴者はらむらすの突発的な参加に慌ててついていこうとし、彼の口から飛び出したクソブタの推理を好き勝手に広げている。
コメント欄が一気に熱を帯びていく中――テディはその喧騒を横目に、ちらとカレンダーを見た。
「そんな状態でよく配信できたね」
「薬切れ始めたから配信閉じて飲んだ……効き始めるまでキツいわ。ブタクサの野郎……」
「無理して僕んとこ来ないで寝てなよ……あー鼻詰まってて寝れないのか。花粉症って大変だねー」
らむらすが秋頃に酷い花粉症に悩まされるのは、彼をよく知る者にとってはもはや常識だ。
『寝ろwいや来てくれて嬉しいけどw』『毎年恒例』『孤独に耐え切れなかったん?』『この鼻声の人誰ですか?』
テディの視聴者も、らむらすを軽くいじりながら出迎える。恐らくどちらも応援している層が多いのだろう。
「さっきの配信であんま取れ高無かったから……このままじゃ寝られねぇ……」
「よし獲物諸君!二回戦はらむらす鬼で!フォーメーションSで行くよ!」
『何それ知らない』『カッコイイ感じに言うな』『接待のS?』
「俺いきなりテディ役やらされんの?」
「大丈夫大丈夫。僕にまーかせて」
テディは口では軽く流していたが、内心ではきちんと線引きをしていた。
流石に突然来たらむらすのために、入れ替えたばかりの参加者へ接待じみたプレーを強いるのは違う――そう判断したのだ。
「シェン。SRフォームお願い」
モデレーター兼ゲーム管理を務める彼は即座に、以前から用意していたプラグインの一つを実行する。
「よいせっと」
「おおっ!?」
すると次の瞬間、テディの肩の上にらむらすがひょいと収まり――二人はそのまま肩車の状態で固定された。
「僕がらむらすの足になるから、もう何も考えずひたすら打って!」
「えーヤバ!これなら絶対勝てるわ。ついでに俺の鼻と目と喉にもなって」
「投げ落とそうかな」
『一心同体アッツ』『鬼の強さ丁度良くなった説』『シェン有能』『この試合出たかった』
第二回戦。らむらすは弓を外しまくるが、それでもテディの機動力と反射神経でどうにか回避し続ける。
結果として、試合はかなりの盛り上がりと十分すぎる取れ高を叩き出し――テディとらむらすのストレスはそれなりに緩和されたのだった。




