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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第74話『オカルティックデイズ』

到着した四人は、異様な光景に足を止めた。


ガード下を進めばあるはずの『縁切り地蔵』――だがその先はスマホのライトすら届かないほど濃い霧に覆われ、入口から先がほとんど見えなかった。


蟇目(ひきめ)君と家守(やもり)さんここにいるかなー?君たちが呪った相手が迎えに来たよー」


「この先に二人が行ったかもしれない都市伝説の『縁切り地蔵』が……何でこんな霧凄いの?」


「ガチで敦斗と小椿を呪う為に……?にしてもこの先ワザとかってくらい怪しい演出だな」


「ひ、蟇目君!家守さーん!家族の人心配してたよー!いるなら返事して!」


翠羽は呼びかけに応じて二人が現れれば、不気味なガード下を進まずに済むと思っていた。しかし現実は残酷である。


「裏から回れないこともないけどね」


「うーわ幸樹。地図見てこれ。自転車だと迂回エグいわ」


「行くか……」


「いえぇ!?」


――そんなぁ……絶対入っちゃ駄目なヤツじゃん!?


話は地蔵へ向かう方向に進み、彼女の顔はみるみる絶望に染まっていく。


「…」


――予防接種の日の蓮夢みてーな顔してんな……。


流石の幸樹でも、翠羽がガード下を前に露骨に足を止めている理由は読み取れていた。


本人からすれば、注射と怪奇を同列に扱うなと怒るところだろうが――。


「小椿はこれ怖いの」


煽りにも聞こえる問いに、翠羽は弱々しく肩を落とす。


「う、うん……ほら一般的な感覚で言うとね?外は晴れてるのにここだけ霧って異常じゃない?一旦引き返してリセットした方が良いんじゃ……」


「これ脱出ゲームじゃねーから」


――そうか。変だけど、俺はただの霧として見てなかった……。ビビりはガード下に霧があるだけで怖いのか。


「ふーん……やっと面白くなってきたな」


「分かってたけど……幸樹もう蟇目君のこと頭にないよね」


「別のとこに興味持っちゃった……」


一瞬の納得のあと、幸樹の中で『真の恐怖を体感したい』という欲求が一段階跳ね上がる。


一方で敦斗は偽装彼氏として、怯えている翠羽の傍にいるべきだと理解していた。


――でもわざわざ部活をサボらせてまで付き合ってくれたテディと幸樹に、地蔵の調査を任せきりってのもな……。それに都市伝説の『縁切り地蔵』って実際どんなもんなのか気になるし……この道も初めてだし。


理屈は引き止める。だが好奇心が、それをじわじわと上回っていく。


「翠羽ごめん。俺は行って確かめないと……不安ならここから離れて、神社で待ってて」


「っ……」


体裁と好奇心を天秤にかけた末、敦斗は彼女の傍を離れる選択をした。


――そうだよね……私が敦斗君に相談したことから始まったし。午前中で明るいし三人もいる……ここで直感だけで怯えてたらどうしようもないよね。


翠羽は必死に大丈夫な理由をかき集める。胸の奥のざわつきを押し込めるように、ひとつひとつ並べていった。


「……ううん。大丈夫。私も皆と行く」


首を横に振ると、彼女は敦斗の腕をそっと握った。そのまま離れないように力を込めて、前へ進むことを決める。


「よーし。皆準備完了したみたいだね。そいじゃ行こっか」


「テディ何その眼鏡」


「ホラ僕糸目だし?現実がよく見えるように?」


糸哉は屈託のない笑みを浮かべると、いかにも何かを仕込んでいそうな瓶底眼鏡をクイッと押し上げた。


「…」


「俺よりよっぽど容赦ねぇな」


その仕草を見た敦斗の視線がゆっくりとずれる。幸樹も右耳の小型ワイヤレスイヤホンに視線を向け、冷ややかな目を向けるのだった。


『霧でなんも見えん……でもゆっくり歩いて余すとこなく映せ』


「はいはい」


ここのガード下はさほど長くない。普通に歩けば一分とかからず抜けられる距離だ。


平日の午前十時前――しかし未だ彼等以外の人影はなく、電車の走行音すら聞こえない。


四人は毛ほども怯えていない糸哉を先頭に、『縁切り地蔵』を目指して薄暗いガード下へと足を踏み入れた。


「ニコチューバーみたいに実況したいよぉ……」


「テディ実況やめて?」


「え?私は逆に喋ってくれた方が安心できるかも……」


「音が少ない方が異変は拾いやすからな……うるさいって言ったんだろ。誰かが」


糸哉、敦斗と翠羽、幸樹――その順で進んでいたはずだった。しかし敦斗はガード下に入ってすぐ、先頭の背を見失う。


「テディ!?歩くの早……」


呼びかけようとした瞬間――右腕に絡んでいた柔らかな感触が、ふっと消えた。


「翠羽!?」


ばっと首を動かすが、隣にいたはずの姿がない。


「――敦斗君!」


「翠羽……!びっくりした」


しかしすぐに、彼女は敦斗の左腕へ強く抱きついてきた。確かな温もりに安堵し、彼もまた抱きしめ返す。


「敦斗君。ここ怖い……早く行こ?」


いつになく積極的な距離感だったが、敦斗はそれを『恐怖の所為』だと片付ける。


「…………翠羽……可愛い。怖いの?」


「う、うん……」


「怖いんだ……やべぇ超可愛い。翠羽……好き」


「へ!?」


「大好き」


「ええっ!?」


翠羽は彼の()()にしがみついたまま素っ頓狂な声を上げる。だが本来なら反響するはずのその声は、霧に吸い込まれて消えた。


周囲を見ても他の姿はない。それでも翠羽の思考は、突然の告白に塗り潰されていく。


「好き……!?私のこと、ちゃんと好きだったの?」


「……オレは、もう二度と……翠羽を不安にさせない」


先ほどまでの高揚は影を潜め、彼は不自然なほど落ち着いた声音でそう告げる。


「花みたいに綺麗で、鳥みたいに可愛くて、羽みたいに優しくて……翠羽だけが、オレの特別なんだよ」


☆彡

同時に別の場所では。


「――幸樹?」


「……テディ?何で……」


――他の二人は?


先頭にいたはずの『糸哉』と、幸樹はいつの間にか合流していた。


「探したんだけど、地蔵っぽいのなかった。工事かなんかで撤去されたっぽい?」


「は?」


「だからもう帰ろう。部活終わるまで、どっかで時間潰してさ……よくよく考えてみたら、幸樹にはこんな捜索ごっこ必要なかったよね」


『彼』は変わらない笑みを浮かべる。


「幸樹には変わらない僕がいるんだから――ずーっと一緒に、楽しくゲームして遊んでればいいよね」


霧の中でも『イトヤ』の笑顔だけは妙に鮮明だった。


――変わらない……そうだな。ずっとテディたちとゲームして、実況するのが今の俺の……。


だからこそ、幸樹は思わず頷き――差し出された『その手』に触れようとする。


「……何そんな腑抜けたことを言っているの?」


「!?」


しかしその直後、幸樹の後ろからカレンの細く白い腕が伸びた。


「課題も部活もきちんとやってると思ってたのに……急な怠けは見過ごせないわ」


糸哉は以前終業式をサボった際、心配のあまり彼にメッセージを送り続けてきたカレンの様子から学び、今回は先手を打つことにした。


急に友達と『縁切り地蔵』を見に行くことになったので部活休みます――そんな正直すぎる理由を送ると案の定、既読をつけた彼女は苛立ちを募らせ、その感情をスカッシュにぶつけていた。


だが休憩時間。何気なく調べたその内容が、妙に心に引っかかって離れなかった。


――何でそんな気色の悪い地蔵を見に行く流れになったのよ!譲りたくも無いけど!百歩譲って行ったとしても部活終わった後に行きなさいよ!そしたら私だって先輩として……引率くらいしてあげたってよかったのに!


「……部長!今日人が多いので、私走り込み行ってきます!」


「えー!?」


その声と同時に、カレンも練習着のまま走り出し――糸哉の後を追いかけたのだった。


「この暑さで文も武も忘却してしまったのかしら……熊本君?」


「えっ――痛い痛い痛い!」


カレンは息を荒げ、急な体温の高ぶりに突き動かされるまま――躊躇なく『糸哉』の顔面を鷲掴みにした。


感情とスカッシュで鍛え上げられた筋力と握力がアイアンクローの威力を増し、糸哉の顔がミシミシと悲鳴を上げる。


「おいちょっと……っ!?」


――あれ?テディってシェンのカメラ付き眼鏡かけてよな……?


幸樹が一拍遅れて止めようとしたその時。ようやく彼は、この『糸哉』が漫画のような瓶底眼鏡をかけていないことに気づいた。


「今ならまだ許してあげるわ……大人しく私と戻りなさい!」


「……ぐっ、この――」


『バキィン!』と鋭い破砕音がガード下内に響く。


カレンの手の中にあった『何か』が砕け――同時にカレンと幸樹は『糸哉』と霧の一部が消失したような違和感に襲われた。


「……えっ」


「……先輩?」


「ち、違うわよ!?私はただ……って貴方もサボりね?もう何なのよ……」


「俺の目にはアンタ……先輩がテディの顔を粉砕したように見えたんですけど」


「……細かいことを言うけれど、私の手に伝わったのは――」


カレンはじっと右手を見つめ、数秒前の感触を確かめるように呟く。


「――熊本君の顔じゃなくて、彼の顔を覆っていた仮面?のようなものが砕けた感触だったわ」

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