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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第73話『それはまるでTRPGのように』

TRPG……『テーブルトーク・ロールプレイングゲーム』の略称。会話やルールブック、ペンやサイコロなどの道具を用いて、参加者同士で物語を創り上げていく対話型のロールプレイングゲーム。

部活の練習や大会、それぞれの家族との旅行や帰省、宿題に撮影、編集――やることに追われるまま、八月はあっという間に過ぎていった。そんなある日。


「――タンドリー宛てに質問が来ててさ」


「どんな」


「えーと『タンドリーっていつもスマートにアクションゲー攻略してるけど、鶏なら性根はチキンなの?』って」


「よし。訴訟するか」


「チキンじゃなくて短気だったか……」


週末の定期配信『これ雑』。今日はゲストとしてタンドリーが招かれていた。テディはいつも通り、ゲームプレイをしながら事前に送られてきた視聴者の質問をネタに雑談を広げていく。


「チキン……臆病って意味か?俺が?」


「タンドリーには無縁の言葉だねー。メンバーで言ったらホットかな?慎重なの」


「ゲームだったらな。ミスのリスクがあるから」


「『ホラーでビビらないの?』って……タンドリーそうなの?」


「ホラーアクションも普通にやるけど。でもやっぱな……3Dより2Dアクションの方がよくやってる」


「メテメもクリムゾン・トラップアイランドも2Dだしね。タンドリーがホラーで叫んでるトコ想像できないなー」


「怖い……は思ったこと無いな。だから好きとかでもない」


「タンドリーはホラー耐性高いかもね。僕と同じくらいかな」


「これプロってホラー系やらないよな」


「だって視聴者がおしっこ漏らしても責任取れないし」


「『オムツ穿くが?』……何で開き直れる?尊厳捨ててまで観るなよ」


「少なくとも僕とタンドリーのペア……通称『チ(キン)』がホラゲー実況やってもクソつまんないと思う。怖い場面来ても僕は笑ってタンドリーはノーリアクションで先進むから」


「『苦手なのバレるのが嫌なだけでしょ?』おい言われてるぞ」


「前そう言われたから何個か配信でやったよ。ちゃんと激ムズホラゲー」


「へー。どうだった?」


「いつ怖いのが来るか分からない心理ホラゲーより、ひたすら化け物から逃げる系……サバイバルホラゲーの方がやってて楽しかったかな。今度マルチプレイでやる?」


「ホットに俺らの分まで叫んでもらうしかねーな」


「もうリアクションはホット任せみたいなとこあるからなぁ……彼の喉が潰れる前にそういうのやってこ」


テディとタンドリーがホットの喉を酷使する方向で盛り上がる一方、敦斗は翠羽と通話していた。


「――覚えてる? 昨日会った蟇目(ひきめ)君。蟇目君がね、まだ家に帰ってないらしくて……ウチにも連絡が来たの」


昨夜。翠羽は敦斗と地元の夏祭りを訪れた際、同じ小学校出身の蟇目から、半ば勢いのまま告白された。もちろんその場には敦斗がいたため、彼氏がいると断ったが――蟇目は言葉にしきれない怨嗟(えんさ)を滲ませ、その場を去っていった。


「部活の友達と花火しに行くって、十八時半頃に出かけたらしいんだけど……蟇目君、誰とも約束してなかったみたい」


「プチ行方不明ってこと?」


「うん……」


時刻は二十二時過ぎ。家族の立場で考えれば、とても平静ではいられない時間帯だ。


――ちょっと怖い想像しちゃうよな……分かる。


だからこそ敦斗は電話越しに気丈さを装い、翠羽を安心させようとした。


「……大丈夫。翠羽は無関係だから。もし朝になっても見つかってなかったらまた連絡して。心配で探したいって思うなら、俺も協力するから」


「ありがとう……夜遅くにごめんね」


通話を終えると、敦斗はそのままスカイコードのボイスチャットルームへ入る。


昨日、神社で顔を合わせたばかりの蟇目が突然行方不明になった。敦斗にとっては(仮であるのは置いといて)自分の彼女に横恋慕してきた初対面の失礼な男に過ぎなかったが、翠羽にとっては違う。


同じ小学校出身で、しかも想いを向けられていた彼女が――自分に責任があるのではと気に病むのも無理はない。


「――今日中に解決したらそれでいいんだけど、寝る前に共有だけしとこうと思って。二人共配信してたし」


「ミステリーの匂いがするねぇ」


「凄ぇどうでもいい……」


「え?幸樹は知り合いじゃないの?蟇目君」


「出席番号……俺の後ろだったっけ。多分。いつも机の上に怪談系の児童書置いてた奴ってことくらいしか印象ねぇ」


「きょ、興味無さすぎる……いやタンドリーにしては覚えてる方なのかな?」


「幸樹それはグロいよ……」


敦斗はかつて同じクラスだったはずの幸樹があまりに無関心でいるのを見て、蟇目に同情を覚えた。


「まぁ、過度な心配は本当に大切な人に取っといてさ。楽観的に考えよ? 自力でひょっこり帰ってくるか、警察が見つけてくれるかもしれないし」


「そうだよな……」


「――って、思っとったままの方が幸せなのにな……」


「シェン!?」


敦斗が糸哉の言葉でどうにか納得しかけたその時。シェンは調査結果の画面を睨みつけたまま、重みのある声で口を挟む。


近い時間、近い地域でもう一件――三人と同い年の女子の捜索願が出ていた。


堀蔵(ほりくら)中学に通う十三歳の家守(やもり)って女の子の捜索願が出とる。住所からして小学校も地元……堀蔵小出身の可能性大じゃな」


「……え」


「わぁ家守さん?もしかしなくとも……だよね?」


その苗字は、糸哉と敦斗が六年生のときのクラスメイトと一致していた。


「家守さん……俺、昨日の夏祭りで会った……」


「……!」


「そうなの?」


そして敦斗は追い打ちをかけるように、新たな情報を口にした。


「蟇目君と同じパターンで、彼女と来てるっつって翠羽を紹介した……」


つまり敦斗と翠羽は昨夜、ほぼ同時刻に行方不明になった二人と顔を合わせていたことになる。


「テディと敦斗はその女子と仲良かったのか?」


「僕は普通で、家守さんはホットガチ恋勢だったね」


「家守さんと蟇目君は……いやでも……」


――いくら俺と翠羽に未練のある二人が偶然同じ場所にいたとはいえ……そこを繋げるのは早いか……?


「穏やかじゃなくなってきたねー」


「オカルト好きの男子と嫉妬に狂った女子が夏祭りで出会い、利害の一致から結託。で、今夜何かをやらかして、アクシデントの所為で帰れなくなっとる――」


「「…」」


「――タンドリー。いくら鶏じゃからって話飛躍させすぎ」


「チッ。このままいてもシェンに(なす)られるだけだし落ちるわ」


シェンが自ら作り出した重苦しい空気の責任をタンドリーに擦り付けようとしたところで、三人は解散し各自就寝することとなった。


☆彡

翌日――悲しいことに、夜が明けても二人は帰ってきていないことが分かった。


警察にはすでに届け出ているものの、状況に進展はない。そんな中で、翠羽はとても部活に行ける心持ちではなかった。


――こんなこと、パパとママにも話せないし……。


気づけば、指はスマホの画面をなぞっていた。そして二十分後――


「やっふぁふあぁぁぁ……」


「なんて?」


欠伸(あくび)語で話すな」


「熊本君まで……ありがとう。服部君も蟇目君の家から連絡来たの?」


――部活をサボった四人が、学校の近くにある大舞(おおまい)神社に集まっていた。


敦斗は眠気に沈む糸哉に代わって家守の件を翠羽に説明する。蟇目だけではなかったと知り、彼女は酷く動揺していた。


「警察は家出か誘拐の線で調べてる。だから俺たちは……幸樹が蟇目君はオカルト好きって言ってたから、そっちの線を追おうと思う。翠羽、ちょっと怖い話だけど大丈夫?」


「ウン」


――ごめん嘘。でも言えない……!


「…」


糸哉は翠羽の声の震えに気づいていたが、あえて見て見ぬフリをした。敦斗はシェンの関与を伏せたまま、手がかりになり得る情報を話し始める。


その界隈では有名な『縁切り地蔵』


そこには『愛する人と結ばれない者が、相手と自分の髪を結んで供えると、来世で結ばれる』という――どこか心中を連想させる、不気味な逸話がある。


その話は匿名掲示板に書き込まれたことをきっかけに広まり、半ば都市伝説のように語られるようになった。


そして、そのモデルとされる地蔵が――ここ、大舞神社のすぐ近くのガード下にあるという。


「えっ……」


――もう二度とその道通れない……。


「極めつけに、蟇目君と家守さんのっぽい自転車がすぐ傍に乗り捨てられてたらしいよ。鍵はかかったまま――まぁ駅も近いから、警察は駐輪場代を払いたくなくてここに停めたんだろうって見てるみたい」


「熊本君?その情報はい、一体どこから……」


「暑ぃな……ガード下なら日陰だよな。さっさと行くぞ」


恐怖と困惑に揺れる翠羽をよそに、幸樹が強引に話を進め――四人は(くだん)のガード下へと辿り着いた。

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