閑話⑧『CAFE REFLECT テディ×さがん』
糸哉「僕明日休むね」
敦斗「終業式だからサボってもいいって?」
幸樹「ついでに部活ごとサボって一人涼しい部屋で編集するって?」
糸哉「違うよ。今日はどうしても喫茶店にふらっと立ち寄りたいって本能が」
敦斗・幸樹「「どんな本能だよ」」
『CAFE REFLECT』は、バーチャルなカフェ空間を舞台にしたトーク系のNico・Tube動画配信チャンネルである。
定期的に新しい回が公開され、毎回異なるゲスト同士による、そこでしか交わされない会話が楽しめる。エンタメやカルチャーの話題を軸にした、実験的なプロジェクトだ。
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その店は、駅前の喧騒から一本外れた路地にあった。看板の灯りは弱く、初見では営業しているのかも分からない。
カウンターに腰を下ろすと、視界の端に見覚えのある横顔が映った――。
今回訪れた客はゲーム実況者グループ『諸君!これがプロである!!』テディと、プロゲーミングチーム『Quirk Hematite』に所属する人気ストリーマー兼元プロゲーマーのさがんだった。
テディ(以下:テ)「――あれ?さがんだ」
さがん(以下:さ)「……テディ!?久しぶり……でもないわ。ウェルテックス祭以来?」
テ「だね。二次会僕ら途中で抜けちゃったけど。あの後どうだった?」
さ「午前三時まで『パレットウォーズ』して終わった」
『パレットウォーズ』とは――四人一組のチームに分かれ、色水鉄砲などの武器を手にステージを塗り潰し合うアクションシューティングゲームのことである。
テ「ぶフっ!元気だなー」
さ「残ったのが俺とギバと天ちゃんと寺岸でー。四人なら丁度ええやんって」
テ「さがんと初めてやったゲームも『パレットウォーズ』じゃなかった?」
さ「あれマジ神ゲー。第四回だっけ?QHカップの二次会でもやったわ」
テ「さがんとまともに話したのもその時だったけど、この人銃持たせたらマジ世紀末ヒャッハー系ゴリラじゃんって思ってたなー」
さ「マスター。このゴミカスに青酸ソーダを。お前に関しては出会ってから俺史上最速で敬語抜けたからな」
テ「あっはっはっは!」
さ「結局テディには大会で一回も勝ててねぇ……。お前もっと出ろよ。いややっぱ出んな。出禁」
テ「どっち?出すぎるとプロゲーマーって勘違いされるからな……まーでも、いつかさがんと組んで大会出てみたいかも」
さ「嫌だよ俺の隣来んな。次元が違う化け物扱いされる」
テ「もう遅いよ。でもあと一人がガチ初心者じゃないとバランス崩れるか。やーありがたいことにね。QHカップから僕を知ってくれた人がいっぱいいて……QH様様だよ」
さ「QHカップとかウェルテックス祭で伸びた人結構いるよな。俺も横の繋がりめーーっちゃ増えた。マジで倍」
テ「僕さがんと会ってからちょいちょい配信とか切り抜き見てるよ。面白い」
さ「マスター。あちらの素敵なテディベアに……味噌漬けを」
テ「フフッ!何の?マスター困っちゃうよ」
さ「何がいい?」
テ「まぁ味噌漬けと言ったら銀だらかなぁ」
さ「あーいいね。定番の中の王者」
テ「さがんは?」
さ「オレはね……長芋の味噌漬け。あとかぶも好き」
テ「渋いね!?さがんって年齢公開してるっけ」
さ「今年21。俺さー爺ちゃんが作る長芋の味噌漬けが世界一好きで。マジ一回食べてほしい」
テ「成程。これがギャップかぁ……」
さ「テディって普段カフェ行く?」
テ「いやあんまり……でもこの前台湾のティーバッグもらって」
さ「台湾のTバック?」
テ「うん。使う気分が来るまで待って、ある時ふと『あ、そういえばアレあったな』って思い出したんだよね」
さ「あー。分かるわそれ。なんか『特別なやつ』っていざ使うタイミング逃すとずっと寝かしちゃうよな」
テ「そうそう。早速それマグカップに入れてお湯淹れて……」
さ「え!?」
テ「えっ、あ。さがんちゃんとする派?僕コツとかの知識はあるけど面倒くさくてやらないタイプで……」
さ「いやしないしない!したことない!っ……ど、どんな味した?」
テ「茶色になるかと思ったら薄くてビックリした。薄い緑色みたいな」
さ「ううう薄緑!?は!?」
テ「想像と全然違ったけど美味しかったよ。何か上品で」
さ「……俺も想像してたテディと別人出てきたわ」
テ「僕を何だと思ってたの」
さ「いや、もっとさ……なんて言えばいいんだろ。しっかり大人っつーか……変に堅くなくてめっちゃ親切でノリもいい、みたいな」
テ「今はどう変わったの?」
さ「超親しみやすくてノリもいいけど毎朝Tバックの出汁飲むド変態」
テ「のブッ……!飲むか!!下着じゃなくてお茶!お茶のティーバッグだよ!」
さ「えー!だって俺が『台湾のTバック?』って聞き返した時、普通に『うん』って言ったじゃん!」
テ「それはっ……!僕のミスだけど!文脈おかしいよ!さがんの『カフェ行く?』始まりから下着の話には行かないじゃん!」
さ「始まりの過ちis俺?会話の流れが俺をそう導いてた?」
テ「feat.お前。じゃなくてさがん」
さ「あははははは!今の『お前』めっちゃ味抽出されてた!」
テ「道理でやけに驚いてると思った……若干引いてたよね?」
さ「正直、内心ガチで引いてた。でも空気壊すのも嫌でとりあえず肯定しちゃった」
テ「いやそこは本音出して!?お湯に浸したら薄緑色になるTバックなんてないから!」
さ「ははははははははは!!うっ、薄緑……」
テ「ぶはっ!ふふふふふふ!!『どんな味した?』とか聞くな!」
さ「ごめん……!これは9:1で俺が悪い。場の平和優先しちゃったわ」
テ「僕もごめんね。言葉一さじくらい足りてなかったかも」
さ「テディTバック持ってんの?」
テ「広げるな!カフェのカウンターでする話題じゃない!」
さ「やば、マスター今ちょっとこっち見てない?睨まれてる気する」
テ「話題変えよ。さがんって都心に住んでるじゃん」
さ「うん」
テ「外で話しかけられたりするの?『QHのさがんさんですか?』って」
さ「全くない。仮にあったら俺……胸叩いて大声出すかも」
テ「ゴリラの威嚇行為じゃん。もう自分からカミングアウトするあたり定着することを望んでるよね」
さ「銃持たない俺はただの繊細なゴリラ……誰がゴリラだコルァ!」
テ「真のゴリラは争いを避ける生き物だよ!じゃあ外にすら出ないんだ?」
さ「着ていく服がねぇ。服とかマジどうでもいい。でもQHにめちゃくちゃ服気にするやついて。ファから始まってiで終わる奴がいるんだけど」
テ「うん。名前伏せなくても分かっちゃうね」
さ「あいつに会うたび『ふざけてんの?』って普通に怒られてる」
テ「厳しい……。駄目だよファ……iさんの前でふざけちゃ」
さ「シャツインも首詰まってる服も嫌いだし。あれ落ち着かなくね?」
テ「スーツキャンセル界隈じゃん。もう一生プロゲーマーで食べてくの?」
さ「じゃないと俺ホームレスになる」
テ「ファンはさがんのそういうとこ知ってんだ」
さ「多分?動画でも配信でも普通に言ってるし。テディはさ、周りから言われてんのに結局直してないこととかある?」
テ「僕は……それこそQHカップ出た頃くらいからネット活動者さんにご飯誘われることが結構あって。あとパーティの招待とか……もう全部断ってる」
さ「え。テディって年齢公開してる?」
テ「してない。身バレ怖すぎてネットには手すら映したことない」
さ「ネットリテラシーたっけー!いやでもいい。大事。じゃあ逆に誰が知ってんの?」
テ「メンバーと裏方スタッフ……だから三人」
さ「ガチ!?『RTS』と会って飯は?」
※『RTS』……第四回QHカップでテディ、らむらす、佐々來深°で組まれた混成チーム。
テ「らむらすと深°は二人でご飯行ったことあるらしいけど……僕はそのSNS投稿に反応しただけ」
さ「うわうわうわ。じゃあ俺ともご飯行ってくれないんだ」
テ「そもそも都心住みじゃないし。遠いし……って言って断る。皆にね」
さ「酷いねー。いつ直るかだけ教えて?」
テ「あーあーそういえば『パレットウォーズ』って神ゲーだよね。僕もSランクいったよ」
さ「マジ!?早くU帯(最高ランク)来いよ。てかやらん?今日」
テ「いいよ。あれって四対四のチーム戦だからな……いつかこれプロ対QHでもやりたいね」
さ「激アツやん!またメンバー増えんの?」
テ「それはどうでしょう」
さ「あヤベ!オレもう出ないと間に合わんわ」
テ「危なー。僕も帰って編集しよ」
さ「いやテディは暇だろ?ゆっくりしてろって」
テ「あ、まさか……『先程のお客様が払ってくれましたよ』やる気だった?」
さ「……あばよ!」
テ「待て待てーい!無事にここを出たかったら領収書を僕に寄越しな!」
カラン、と軽い音を立ててバーのドアが閉まる。
カウンターに残ったグラスと、途切れた会話――二人のトークは、そこで静かに幕を下ろした。




