表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
75/110

 第67話『初めましての殴り合い二次会 後編』

次のステージはキッチンカウンターの上。右手にはIHコンロがあり、一定時間その場に留まれば発火する仕様だ。


「おらっ!何だテメェ!」

「ヴアッ!」

「アカン!燃える!」

「ギバさんも炎上しろ!」

「嫌だっ……あーーー!」

「パンチパーンチ!」

「いっでぇなぁ!コロスコロス……!」

「すいません!QHのコンプライアンス部の方ー!」

「助けてください!ハードパンチャーゴリラにボコされてます!」


各所で好き勝手に騒ぎながら争う中――最初に脱落したのは、誰よりも綺麗に身投げを決めたホットだった。


「おいまたホットかよ!」


「歌観月さんにポイってされた……」


「大丈夫!すぐに僕とタンドリーで全員天界に送ったげるからね!」


テディはしれっと初心者の神流を狙って気絶させる。だが彼女は場外へ落ちる寸前で目を覚まし――


「キャーエッチ!どこ触ってんのよぉ!」


『ゴッ!』


「ぬわー!」


――鉄槌のごときラリアットを一発。テディは見事に前転しながら場外へ消えていった。


「ほらわーっしょい!わーっしょい!」


その隣ではかくりがさがんを担ぎ上げ、落下ポイントまで連行中だった。


「易々と……捕まるか!」


「なー!?」


だが寸前でもがいたさがんは拘束を抜け出し、かくりに逆転の一撃を放つ。そして彼は流れるような動きで、足元に湧いた武器を掴み取った。


「おぅ来いよ。かかってこいやオルァ!」


「誰か助けてっ……さがんさん一旦落ち着いてください!?」


画面中央ではさがんが身体の半分ほどもある木べらを握りしめ、周囲を圧倒する勢いで猛威を振るっていた。


「ぐふっ!」


「ビャッ!」


「おぅ待てや寺岸ィ!」


「ひぃーー!」


勢いの衰えを見せないまま、さがんは神流の眼前でタンドリーとかくりを葬り去る。彼女は強気に荒れ狂うゴリラ――もといさがんから無様に逃げ惑うことしかできなかった。


「はーい。雑魚がこんなとこいたら危ないよー」


「イヴー!今アタシの雑魚って言ったか!」


「おいテディ!テメェ神流さんになんてこと言うんじゃあ!」


「僕もう墓場にいますが!?」


無関係のはずだったテディは強引に会話へ引き込まれ、懸命に弁明する。しかしファイヴiは悪びれる様子もなく平然と一言。


「何かあったらテディとさがんに他責すればいい」


「おい俺は仲間だろ!」


「これが憂さ晴らし……」


ホットが息を呑んで言葉を漏らす。その間にも盤面は、歌観月天対QH三人――覆しがたい絶望的な構図へと変わっていた。


「ギバこのっ……!天と髪色被ってんのよ!顔面崩壊しろ!」


「天ちゃん。もうしてるしてる」


「あっそっか。てへ☆」


「おい暴言罪だぞ!」


「尊厳が崩壊してる!」


ギバとホットが天とさがんの掛け合いにツッコミを入れる中、彼女はファイヴiを殴って気絶させ、そのまま不満をぶちまける。


「ちょっとぉ、ゲーム慣れしてない初心者狙うのやめてもらっていいすか」


「嘘つけ。この前二時間半やってただろ」


「知らん!天は永遠の初心者だぁー!」


「そーだそーだー!」


「禁じ手なのだー!」


「ゴネたら何とかなると思ってんな……」


「タンドリー!シーッ!」


三対一という逆転の難しい状況でも、天は懸命に抗う。


「外道がぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙!」


「ぶはっ!断末魔えぐ」


だが最後は醜い悲鳴を残し、二回戦の殴り合いはQHが制した。その直後、さがんが小言を言う体勢に入る。


「天ちゃんさぁ……この配信が初見の人いたらどうすんだ!」


「大丈夫。天のブランディングはリスナーが守ってくれる」


「恥知らずかよ」


「流石五年目……面構えが違う」


その後さらに一戦が行われ、流れは次の段階へ。今度は混合三チームによる対戦が幕を開ける。


まずはオッズが低い寺岸神流とファイヴiとテディのバーサーカーラーテルチーム。


「はい勝った」


「今から俺ら以外のチーム全員落としまーす」


「一人あたり倒すノルマは二人でーす」


反対にオッズが高い歌観月天と万世かくりとタンドリーの両手にプリティーウサギチーム。


「ん」


「タンドリーさん?美しいお声が濁ってらっしゃいますよ?」


「戦力差……?うーん!皆おんなじだぁ!」


「ホット変わって」


「俺だと余計オッズ上がっちゃう」


そんなホットが振り分けられたのは、さがんとギバが名を連ねる脳筋チンパンジーチームだった。


「俺全然勝てない……」


「気合い入れろ!ホットにはミラクルがある!」


「日頃の恨みぶつける勢いで行け!」


「確かに……練習でテディとタンドリーにハンドガンで負けた時の落とし前を」


「おい」


「ウチのホットを殺意で洗脳しないで!」


ホットは仲間二人から敵を必ず蹴散らすという意思を感じ取り、自らも闘志の炎を燃やすのだった。


「……何ここ!」


「トイレじゃん!」


「しかも和式かよ!」


今回は和式トイレでのステージ。前方の落下ポイントに落ちれば脱落となる。さらに便座は一定時間ごとに水が流れ、その際に落ちると流されて退場扱いとなるため注意が必要だ。


「おらどけどけどけ!」

「コイツ殴り慣れてる!」

「はいワンダウンー!」

「怖いよーー!」

「あっ落ちる落ちる!」

「勝ちたいでゴワス!」

「なんか力士いない?」

「ギャンッ!」

「えっ犬いる?」


いつものように乱闘が繰り広げられる中、そこかしこで悲鳴や怒号が響き渡っていた。


「ふんっ!ふんっ!」


「痛っ!?僕味方ー!」


「こいつ敵味方の区別ないんか!?」


武器アイテムであるスッポンの奪い合いを制したファイヴiは、無我夢中でそれを振り回していく。だがしかし――


「危なっ!?」


「逃げるなぁ……えぇぇぇぇ!?」


――ホットを夢中で追いかけていた彼は、その勢いを殺しきれないまま場外へと落下してしまった。


「タンドリー!から揚げ屋に納品してあげるよ!」


「テディやめろ!勝手に俺の出荷先を決めんな!」


「タンドリーさん危ない!露払いは天が……ギャー!」


天はデッキブラシを握り、タンドリーの元へ駆け出す。だがその刹那、視界の外から飛来したギバと衝突した。


「美味しいー!これが真の強者っすわ!」


「脳筋チンパンジーチーめ……!ご容赦ください!」


『ゴンッ!』


「ぐへっ!」


天は拳骨でギバの頭にタンコブをこしらえ、そのまま地面へ叩きつけた。ギバの頭上ではヒヨコと星がぐるぐると回っている。


「ふわぁーー!助けてぇーー!」


「強者の余裕どこいったんだよ。呪物で封印したんか?」


鮮やかな下剋上を横目に、タンドリーは冷静にツッコむ。その態度のまま――


「お互いメンバーの血の気が多くて……気苦労が絶えませんね」


「……寺岸さんもそっち側じゃ」


「ふふ。アタシはしっかり者で優しいお姉さん枠になって……もう五年ですよ?」


「今すぐ視聴者のコメント見に行きてぇ……」


――彼は敵チームの神流と穏やかに言葉を交わしていた。


「そこの二人何してんの」


「休戦中」


「おいそこ!敵同士でイチャイチャすな!」


「ブチ殺してやる!」


「トイレでやるな」


雪崩れ込むように群がり、一斉に襲撃する。乱戦の末、神流とかくりは――


『ジャーー。ゴボゴボ……』


「「いやぁーー!」」


――便器の奥へと流されてしまった。


時にトイレへ流され、時に場外へと弾き飛ばされ――残るはテディ、タンドリー、ホット、さがんの四人。


「ホットいくぞ!」


「えぇ!?何何!?」


「ちゃんと段取り――」


『ドガッ!』


タンドリーが言い切る前に、さがんの電光石火の飛び蹴りが彼を吹き飛ばす。そして――


「飛べー!」


「はぁ!?嘘だろっ……」


『バキッ!』


「えぇ凄いっ!」


「ヤバすぎ!!」


――着地地点で待ち構えていたホットの右ストレートが炸裂し、そのまま場外へと叩き落とされた。


まるで心が感応したかのような連携。並外れたキルコンボに、天界とコメント欄は一気に沸き上がった。


「やっぱホットが邪魔だな……!」


「うわーーっ!」


デッキブラシでホットをトイレへと流し込み、さがんとテディによる一騎打ちのゴングが鳴り響く。


「消え失せろぉ!」


「さがんがね!」


信じられるのは己の拳のみ。『バキッ!』『ドガッ!』と鈍い打撃音が重なり、やがて互いの顔面にクリーンヒットした。


「ぐっ!」

「痛!」


同時に崩れ落ちた二人は、無言のままトイレの天井を見上げた。


「はぁ……はぁ……」


「トイレじゃなきゃいい感じなのに……」


「この青春ロール何?」


「「あははははははは!」」


場は爆笑に包まれ、最後はさがんのチームが勝利を収めた。無秩序に戦っているようでいて確かな連携を見せたさがんに、ホットはぽつりと呟く。


「俺、さがんさんのこと世紀末系ヒャッハーキャラだと思ってました」


「未来から参戦してねーから」


「や、やめて……」


「ははははは……!も、戻れない……」


ホットの一言が追い打ちとなり、場は再び爆笑に包まれる。


「はぁ……いい感じに鬱憤晴れたわ」


「やばすぎる……」


「マジ死ぬほど笑った……」


QHの三人は震える息を吐き出し、どこか晴れやかな表情で笑った。


胸に引っかかっていたのは、新参チームにあと一歩で敗れたあの苦い記憶。それも今は、楽しい思い出に塗り替えられている。


こうして、過去の遺恨も因縁も静かに清算されるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ