第63話『三人で走りきった!ウェルテックス祭!!』
サイレントカンペ『ホット感極まって全然コメント残せてないからタンドリーしっかりめにコメントしてもいいよ』
「あっはっはっは!」
「「!?」」
――タンドリーってそんな笑えるの!?
普段とは違うタンドリーの笑いに、彼を知る者たちは大変驚愕するが――当の本人は喜悦の表情を隠さず礼を言う。
「最後の試合で二人が落ちたときは焦りましたが……テディのカバーとホットのミラクルに救われました。戦犯で終わるかどうかの瀬戸際だったので」
「いやいやー。ソロマッチで神流を助けたの超かっこよかったです!師匠として代わりに礼を言わせてください!」
「あぁどうも……師匠?」
「ぶくっ……」
テディと毒島が堪えきれずに笑ってしまい、タンドリーは気を引き締め直してコメントを続ける。
「一点差……本当に僅差だったので、喜び以上に紙一重だったという印象が大きいです。この三人で最初の大会に出られたことは、私にとっても良い経験になりました」
「ありがとうございます……!いや熱いですね。ちょっと僕自身、逆転優勝に痺れてるのかタンドリーさんのイケボに痺れてるのか分からないんですけど」
「きっと両方ですよ。いやぁ……最高のエンターテインメントでしたね!」
「今期最も隆盛してるゲーム実況グループのスリーマンセル!『これプロ』チームの皆さん!改めて優勝おめでとうございます!お疲れ様でしたー!」
毒島の激励とイッサの控えめな拍手に見送られ、これプロのインタビューは締めくくられた。
三人は自分たちのボイスチャットに戻り、ほっと息をつく。
「……最後逆転できたのは多分、終盤でさがんがダウンさせた抱腹絶倒芸人チームにいた『半熟エンジン』ってコンビ芸人のレミジュレーヌ網代さんを僕がトドメ刺したお陰だと思うんだよね……」
「誰だよ」
「テディ今、俺の父ちゃん母ちゃんが推してるコンビ芸人『半熟エンジン』のツッコミ担当でオネェのレミジュレーヌ網代さんをトドメ刺したお陰で勝てたって言った?」
「アレンジリピートすんな」
――ホットの説明聞いても知らねぇ……でもその人のお陰でまくれたんなら。
「後でその人のお笑い送って。俺が好きそうなやつ」
「いいよ……って難易度高ぁ」
ホットは大きく体を伸ばして優勝の余韻を噛みしめるが――イマイチ表情は晴れ切らなかった。
「1キル2点デカすぎんだろ……ホント運が良かったとしか思えない。あとユイガのQH-S対策が刺さりすぎた」
「勝ちはしたけど納得いかねぇな……QH-Sがマジで強かった」
「でもまぁ、やっぱ普段の実力と、視聴者の応援があってこそだよ……っと」
「裏でいいこと言うな……ってSNSの投稿文かよ」
「ホントだ上げてる」
テディは話しながらPCでSNSを開き、リアルタイムで勝利報告を投稿する。
「シェン。神として労いの言葉ちょうだい」
「労い?結局テディがほぼ背負ってる試合を?」
「ぐえっ」
「ホットは汚名返上できてよかったな」
「ウッ!」
「タンドリーって……最後いた?」
「嫌な言い方だな」
「陰湿コメント読み上げてる?」
「やめてください……!」
「…」
―――最初の成功は話題性がある。実際SNSのフォロワー数とチャンネル登録者数は飛躍的に伸びた……けどおもんな。ただコイツ等も浮かれてないようだし。まぁいいか。
シェンは三人が最初に成功を収めたことを素直に喜べず、内心ではどこか冷めた感情を抱く。彼らが十三歳の少年だと知っているからこそ、余計にそう感じていた。
「不健全な神で悪かったな……最初からずっと見てたけどよく頑張ってた。お疲れ」
「なーんだ。ちゃんと嫌味なしで締められるじゃん」
「結果が全ての世界じゃけど……これで制したと思うな」
「はーい」
「分かってる」
最後には素直な誉れをもらい、三人は達成感に包まれるのだった。
☆彡
――はー終わった……。もう二十二時か……。
糸哉はPCの電源を切り、空のコップを持って実況部屋を出る。トイレ帰りにリビングへと寄ると――
「いっ君おはよう!よく寝てたね!おはよう!」
「…」
――やけに寝起きを主張するライアンと、言葉を選びあぐねているような顔でソファーに座る祐東カレンがいた。
「……え?」
流石の糸哉も糸目を見開き、その場に立ち尽くしたまま瞬きを繰り返す。彼が五時間、実況部屋に籠もっている間――何故か家には部活の先輩がいた。しかも時間帯はどう見ても夜だ。
「あのね?いっ君が寝てる間……四十分くらい前?あの子が来たのよ。『私、部活の先輩なんですけど熊本糸哉君いますか』って。普通に考えたらさ、もう夜遅いし帰ってもらうべきだったんだけど……何かただ事じゃない雰囲気で。雨に濡れた捨て猫みたいな。門前払いすんのも忍びなかったしアレも終わってるから待っててもらった。あの子から聞いたけどシェンと同じタワマンに住んでんだって?」
「うん……」
――確かに前、会話の流れで僕の家の情報はざっくり話したけど……。
糸哉とて、カレンの住まいがシェンのタワマンと同じであることと階数しか知らず、祐東家が何号室かまでは把握していない。
だが以前、会話の流れで自分が堀蔵小学校のほぼ真裏にある、四階建てマンションの角部屋に住んでいると零してしまったことがある。
――その情報を元に特定して、いかにも高級レストランでディナーした帰りですみたいな恰好で僕の家に来た……何で?
「ふわぁ……」
糸哉は何か言うより先に欠伸をひとつし、ぼやけた瞳のまま、艶やかな髪を綺麗に結い上げたカレンを見やる。
「先輩お疲れ様です……なーにしてんですか。すみません寝ててスマホ見てなくて……」
「……帰りたくないの」
「え」
落ち着きのない様子で見守っていたライアンは、ようやく訪問の目的を聞いて驚く。家に上げてからの四十分間、会話は糸哉の話題ばかり。装いから今日の行動を探ろうとしても、少し触れただけでカレンは口を閉ざした。今の今まで、彼女が何の目的で糸哉に会いに来たのか分からないままだったのだ。
「お……両親の許可は得てるわ。気にしないで」
「分かりました。夕飯はまだですか?」
「いいえ」
「じゃあ着替え……母さんのパジャマでいいですか?」
「別に貴方のでも構わないわ。背丈も変わらないもの」
「今に見てろ……じゃあさっさとシャワー浴びて来てください」
「オイオイオイいっ君!」
あっさり受け入れて風呂を勧める糸哉に、ライアンは血相を変えて詰め寄る。少し話せば帰るだろうという甘い期待は既に打ち砕かれていた。それでも――男二人の家に十四歳の少女を泊めるという状況を、兄代わりとして看過することはできなかった。
「一応聞くけど、あの子いっ君の彼女?」
「違う」
「え、マジで泊める気?本物のお金持ちお嬢様をこの家に?」
「親がオッケーって言ってんだからいいじゃん」
「あんなん嘘に決まって……」
「じゃあ追い出すの?多分兄さんが説得したら先輩ビービー泣いちゃうよ」
「泣かないわよ!」
カレンは普段の威勢をほんの少し取り戻し、糸哉の足を踏みつける。そしてライアンに向き直り、真剣な面持ちで頭を下げた。
「本日はこのままお泊めいただけませんでしょうか。明朝にはすぐにお暇いたしますので……何卒、お願い申し上げます」
「……あーもう……いいですよ」
――絶対面倒ごとの始まりだろ……明日俺、彼女とデートなのに。
ライアンは深いため息を吐き、破れかぶれな態度で歯を磨きに行った。
☆彡
「――大変困ったわ。急で。いっ君があの部屋にいるのバレないよう『俺がいっ君の様子を見に行くところを、決して見ないでくださいね……』って一々念押しして」
「約束の仕方が鶴じゃん。ライオンなのに」
「ライオンでもねーよ。しかも!優勝してインタビュー出てるし!おめでと!」
「ありがとー」
カレンがシャワーを浴びている間、ライアンは糸哉にこれまでの経緯を愚痴るように話した。
「てか寝る場所どうする」
「僕とライアンがベッドで、先輩が僕の布団で寝ればいいでしょ」
「馬鹿。あのタワマンに住むお嬢様がお前の布団で眠れるワケないって」
「じゃあシェンだったら」
「アイツは床でいい」
「先輩の家シェンより下の階だよ」
「ほなえぇか……ええんか?」
「プチ家出なんて可愛いもんじゃん」
「やめろその言い方。俺が誘拐したって勘違いされる」
カレンが明らかに裕福な家庭の美しい未成年であることもあり、ライアンは彼女の存在そのものが犯罪を呼び込む爆弾でしかないように思えた。
「僕だって多分明日の夜ウェルテックス祭の二次会誘われるし。それまでちゃんと片付けるから」
「大丈夫か……?」
――付き合ってないんだろ?あの子がいっ君に気があるから家に来たと思ったのに。何か本当にいっ君の優しさに甘えてる節もあるし……分からん!いっ君もこんな美少女と仲良くしてんなら言えよ!
ライアンには糸哉とカレンの距離感がただの先輩と後輩には見えず、もどかしさに悶える夜を過ごすことになった。
解散後。敦斗の場合。
両親「敦斗おめでとー!!」
敦斗「ありがと……(あれ。これ泣いたとこも聞かれた?)」
母「グスッ……いっ、いっぱい頑張ってたもんね」
敦斗「もらい泣きやめて……」
父「明日のお昼は三人でお寿司食べに行く?」
敦斗「明日翠羽とデートだから」
両親「えー!」
幸樹の場合。
母「コーキ。ハスム寝ちゃったよ。ベット連れてって」
幸樹「何で?」
父「コーキが勝つとこ見るまで起きてるって言うから……」
幸樹「サンタかよ……チッ」
蓮夢「zzz」




