第61話『強い言葉』
『タンドリーの安心感やばい』
『ホット残り=負けの流れみたいなの出来てて草』
『第二マッチのミラクルショット忘れた?まぁ結局負けたけど』
「…」
その一分一文は波のように流れていくコメントの中で、妙に重く沈んだ。
――だよな……。
ホットはとうに知っていた。デビューの頃から、同じような声が消えずにあることを。
ホットのゲームスキルは平均以上ではある。だが、それでもテディやタンドリーには到底及ばない。持ち前の強運で、どうにか食らいついているのが実情だった。
タンドリーが加入してからは、その差がいっそう浮き彫りになる。
『邑犬群吠なんかに惑わされないでよー』
『俺、ホットがゲーム弱いって思ったことねーけど』
だがテディもタンドリーも、そんなことは気にも留めていない様子だった。
ならば、信じるべきはどちらか。
――勝って証明してやる!
ホットは画面を閉じ、サブモニターから視線を引き剥がした。そして強引に思考を切り替える。
「まだ終わんないよ!」
「いけるいける!」
画面の向こうで、タンドリーが『リコンストラクション・ビーコン』に二人分のコアデータを挿入する。
その光景を見た瞬間、胸の奥から熱がこみ上げてきた。
「タンドリーありがとー!」
ホットは迷いなく前へ踏み出し、再出撃の合図と共に意識を戦場へ引き戻す。
『…』
その裏で――シェンは該当のコメントに目を走らせ、読み取れない表情を覆い隠すように紫煙を吐いた。
「――残り七部隊十六名……ですが、タンドリーがテディとホットを再生しましたね。残り十八名です」
「おー!テディ選手の強さはもう十分見えてますからね。あとはフォローに回る二人の動き次第で、チャンピオンに手が届く展開になるんじゃないでしょうか」
「いやー。アイル・ビー・バックしちゃったねー」
「ホント。もの凄い歓迎されてる」
最終的なセーフゾーンはアバドンフフロンティアの心臓部『キャパシター・ステーション』に収束し、三人は近未来的な変電所の内部へと足を踏み入れた。
「てか弾ない……回復アイテムも」
「戦利品から都度拾ってって!もう結構そこら辺に落ちてる!」
角を曲がった瞬間、待ち構えていた敵の銃口が火を噴く。火花が床を叩くのと同時に『ガガガッ』と乾いた発砲音が通路に響いた。
「一旦引くよ!向こうやりあってるから」
「一人詰めて来てる!」
「この壁裏にもいるぞ!」
弾は迷いなく敵の急所に当たり、アーマーが砕ける鋭い音が鳴り響く。テディは素早くシールドを回復し、保管庫の裏へと潜り込んだ。
『ドガァン!』
「!」
その直後、扉が蹴破られる勢いで吹き飛び、内側から転がり出てきたのは――すでに戦闘不能に追い込まれた敵チームだった。
テディは一瞬で戦闘データと残存部隊数を把握すると、ホットとタンドリーへ簡潔に状況を伝える。
「僕さがん相手してくる!二人は互いをカバーし合って!」
「もうやってる!」
「第二マッチはそれで各個撃破されたからな……!」
残り三部隊七名。テディは口角を吊り上げると、保管庫内へブリーチグレネードを放り込んだ。
「移動中……シャープレディの音聞こえてましたよ!」
「おーいー!ぬいぐるみは部屋のベッド守ってろって!」
そして互いの存在を確認したテディとさがんは、ほぼ同時にアルティメット加速剤を投与し――ウルトの起動に備えた。
「このまま二人の一騎打ちが始まるか!?」
「激アツじゃないですか。でも他の二部隊が裏取ってますよ?」
だが、両者は同時に銃口を逸らす。
狙いは、ハイドで漁夫を狙っていた『抱腹絶倒芸人』チームの一人――
「遠くから豆鉄砲でチクチクされんのウザいからな!」
「はーい、おやすみなさーい」
『――バシュバシュッ!』
――横槍を排除する判断は一瞬だった。放たれた銃撃が、第三勢力をあっという間に沈めていく。
残されたのは『これプロ』と『QH-S』。ついに、純粋な一騎打ちが幕を開けた。
――シャープレディ……『スコープを覗かないで撃つと弾道バラけるから、走り回りながらの乱戦だと弾当たんない。ホットには無理』ってユイガが言ってたな。
ホットはさがんとファイヴiが構えるショットガンに目をやる。ユイガから特徴は聞かされていたものの、いまひとつ突破口が見えていなかった。
『アルティメットスキル。跳ねる道化師を発動します』
「なっ――」
「タンドリー!?」
ここでファイヴiのウルトがタンドリーの足元に展開され、彼の身体が一気に天井すれすれまで跳ね上げられる。
「タンドリーがファイヴiのトランポリンで飛んだ!ホットのカバーはギバが阻む!これは決まるか!?」
宙に浮き、格好の的となったタンドリーに銃弾が集中する。誰もが被弾は避けられないと思ったその時。
「危ねぇ!」
「は!?」
咄嗟に空中でしゃがみ、頭部への直撃だけはどうにか逸らした。
「普通、やられる前に少しでも削ろうとして撃ちますよね……!?タンドリー選手のキャラクターはもともとヒットボックスが小さめなので、しゃがみで致命傷を回避……いやエグ!」
タンドリーは着地の間も惜しみ、即座にアサルトライフルでファイヴiの体力を削りにかかる。
『ビシュビシュッ……バキイン!』
「は!?当て勘いいな!」
「一体どうなってるんだこのストレイフは!タンドリーは瀕死とは思えない動きで撃ち返していく!」
実況とファイヴiが驚く中、お互いのシールドが割れ肉体に弾が食い込む。
「っ……」
それでも空中へ移る際の被弾が響き、タンドリーが先に崩れ落ちた。
「っぶねー!こっちは当たんねーのに何でアイツの弾はほぼフルヒットなんだよ」
「イヴ上!」
「えっ?」
『――ドオンッ!』
テディが投げ込んだインパクトグレネードが爆ぜ、ファイヴiの残存体力を消し去った。
「ここでテディ!タンドリーが倒れる直前に示した方向へグレネードを投げ込む!ファイヴiは回復間に合わずダウン!」
「さがん選手が回復しているタイミングで詰めず、しっかり戦況を読んで動く……連携が光ってますね」
「おいズルいぞ!」
――テディさえ止めりゃ、ギバとイヴで残り二人は余裕で捌けるはずだったのに……!
「ギバ!早くホット落とせ!」
「今やってる!」
――コイツちょこまか動きやがって!猫ちゃんか!
ギバはホットが味方と連携できないようハンドガンで圧をかけつつ詰めるが、まるで特徴を読まれているかのように弾を躱され、障害物を使われて中距離以上を保たれていた。
――『正面からやり合うは絶対やめて。ギバは右利きだから、出来るだけ左に体を流すのを意識して……は?ホットも右利きだとかどうでもいいんだけど。あと今みたいに単調なストレイフじゃ駄目。一定リズムで動くと普通に抜かれるから、一瞬止まるか引いてすぐ動く……フェイント入れるって感じでリズム崩して。それと顔出しっぱなしにしたら死ぬから。数発撃ったらすぐ隠れるか場所変えて。連続で当てさせたらどうなるか……その犬頭に叩き込め』
ユイガはQH-Sがどの試合でも最後まで残ると踏み、彼らの戦闘スタイルと対策をホットとタンドリーに叩き込んでいた。
ホットはその教えを反芻していつもの攻めを封じ、削りに徹しつつ命を繋ぐことを最優先に動く。
彼はひたすらに耐え抜く――テディがさがんを倒しきるその時まで。
――――待てば絶対ギバさんを狙うチャンスが回ってくる……保証はないけど、銃の弾がもう無い!
一方、ギバもさがんのカバーを期待するが――
「テディいつになったらウルト切れんの!?一回深呼吸しない?」
「いやさっきなったばっかだよ」
――『捕食者の突進』で強化されたテディの対応に手一杯といった様子だった。
「さがんウルトくれ!」
「くそ……本当は対テディ用に使う予定だったのにー!」
「さんきゅー!」
『アルティメットスキル。抜け出せない光を発動します』
もはや万事休す――そこへさがんのウルトが、追い打ちをかけるようにホットへ撃ち込まれた。
「ここでさがんがウルトを切った!」
「第一マッチ終盤でタンドリー選手が使用したウルトと同様のものですね」
『抜け出せない光』――この装置は起動と同時に周囲の時空を乱す干渉領域を展開し、範囲内の敵の動きを鈍らせる。ただ破壊されやすい性質上、キル目的というよりは足止めや退路確保のために使われることが多い。
「足が重い……!」
「ホット!」
ホットの足が止まり、最後のマガジンはウルトの破壊に費やされてしまう。それと同時に、ギバは二丁拳銃へと持ち替え――すぐ傍まで迫っていた。




