第59話『最終マッチ開始』
最終マッチはアバドンフフロンティアで行う。ここはソロバトルのグループで使用されたマップでもあった。
雲を突き抜ける白亜の塔が都市の中心にそびえ立ち、その足元に広がる中央広場では巨大なエネルギー炉が淡く脈動している。
庭園区画では色鮮やかな樹木が風に揺れ、人工の小川と立体的な遊歩道が入り組んでいた。一見穏やかなその景観は、身を隠すには最適だが――同時に奇襲が絶えない危険地帯でもあった。
また外周や一部の橋の下はそのまま雲海へと切れ落ちており、足を滑らせれば即座に脱落となる。プレイヤーたちはこの近未来的な空中都市の中で、それぞれの戦略を迫られることになった。
「いやー荒れそうですね。思ったより差がついていません」
「特に10ポイント以上差がついてるチームは本当に早く落とさないとですね。これプロとQHを探せ!って試合になるんじゃないでしょうか」
実況席のカメラがマップ全域を俯瞰し、各地の動きを丁寧に追っていく中、らむらすランチのらむらす、けや、サムろうのチームは――
「あ、ショットガン用マガジンあった」
「あざ」
「サム君!俺俺くれくれくれ」
「あげるとは言ってねぇ……じゃあ俺がもらっちゃお」
「お前ショットガン使わねーだろ」
「一番いらねーだろ!オイらむらすどけっ!」
「けやがどけっ!」
――目の前の物資に意識を集中させ、必要な銃の補助パーツを奪い合っていた。
「敵おらんな……俺ナイススキャン!」
「先に自分で言わんでもろて」
こせゆ隊のりょくおーが自分の通常スキルで索敵したことを褒めると、まくれなはアイテム整理を続けながら呆れ気味に突っ込む。
「さっきソロマッチの時ずっと自分で言ってた」
「っふ!鼓舞してたん?露骨に」
「露骨やめて?」
「じゃあゲーム名『Say my name! Nice scan』に変えたら?」
「いや露骨ぅ!」
もさ彦の発想にりょくおーがすかさずツッコみ、三人の間に笑いが広がる。緊張感のあるはずの最終マッチだが、チームの雰囲気は柔らかくほぐれていた。
『警告、セーフゾーンの閉鎖が始まっています』
「んー」
場内にアナウンスが流れると、ストロニアンサイトのオルトスはマップを確認しながら渋い声で口を開く。
「ゲートウェイ西側……混みそうだな」
「じゃ裏から回る?」
「あそこのマンション一人いる!発砲していい?」
「よし詰めながら回ろう!」
IMIの銃声に続き、たろいちろーはウルトでミサイルを撃ち放ち――敵チームとの交戦を開始した。
一方、マップの中央付近に降下したロクラメンはというと――
「おっと!?『ロクラメン』チームはタイラントで草原エリアを横断!爆走中だー!」
「はっや……馬力が凄いっ!」
――ヒルトが運転する浮遊車で駆け抜けながら、後ろでえんりとばたえるが左右から弾幕を張っていた。
アバドンフフロンティア限定で点在する浮遊車両――通称『タイラント』。
地面から僅かに浮いた状態で走行する三人乗りの車で、平地はもちろん瓦礫や傾斜地でも滑るように高速移動が可能。ブースト機構を搭載しており、短時間であれば一気にトップスピードへ到達することもできる。
一方で防御性能は最低限に抑えられており、被弾には極端に弱い。機体がダメージを受けると内部のエネルギーが暴走し、搭乗者のシールドにフィードバックダメージがかかる。
直進させるだけなら難しくない。しかし急制動や細かなハンドリングには癖があり、実戦で活かすには習熟が必要だ。扱いこなせば奇襲や離脱、ポジション取りにおいて大きなアドバンテージを得られるが――一歩誤ればただの的にもなり得る、リスクとリターンが表裏一体の車両である。
「ヒルト外周回って!」
「おけ!」
運転手のヒルトは、敵との距離を巧みに維持しながらハンドルを切る。近づきすぎず、かといって射程を外さない――絶妙な円を描くような軌道を保っていた。こうした運転を、彼はなぜか異様なまでに得意としている。
「えっ……ヒルトの運転が御上手だ!円を描くように回り、ずっと有利な間合いを維持している!」
『アルティメットスキル。灼炎機関砲を発動します』
「ばたえる選手のウルトも……やっば何これ。威力凄いですね」
解説のイッサも唸る彼のウルト『灼炎機関砲』は――指定地点に固定式の焼夷機関砲を展開するウルトだ。
展開された砲台は無限弾薬の焼夷弾を連続発射し、着弾地点に燃焼領域を発生させる。炎上範囲は短時間その場に残り、接触した対象に小ダメージを与える。
設置後、発動者は砲台の射角を遠隔操作で制御可能。戦況に応じて照準を動かし、任意の方向へ弾幕を投射できる。
また、この砲台は通常の攻撃では破壊されず、破壊用グレネードやショットガンなど強い衝撃を受けた場合にのみ機能停止する。
「いやー驚きましたね。遮蔽が薄いアバドンフフロンティアであのウルトは刺さりにくいイメージでしたが……」
「周囲二チームを圧倒してますよ!私が勝手に『味方巻き込み戦犯装置』って呼んでるアレを……」
「ロクラメンが使うと強く見えちゃいますね」
焼夷弾は敵味方の区別なくダメージを与えるため、味方の位置取りや退路の確保には細心の注意が求められるが――
「ヒェッヘーイ!まとめて蜂の巣だぁ!」
――ばたえるは射角を細かく刻み、味方の進路だけを正確に外していた。
「このまま安置に突っ込む気!?甘いっての!」
「ロクラメン……ヘイト買いすぎやろ」
行く手に立ち塞がるのは、女性ブイチューバーグループ『ユニオンストリームU』と『こせゆ隊』の二チーム。
エンジンの轟音を響かせ、戦場を爆走するタイラントの走行ルートを読み――二方向からの銃火が一斉に降り注いだ。
「二方向からのクロスファイア!本来なら一瞬で削り取られてもおかしくない配置!」
ここでヒルトは車体は炎の縁をギリギリなぞるように走り、燃焼エリアに触れる寸前で軌道を変えた。これでこせゆ隊チームからの射線を切ったが、間髪入れずユニオンストリームUチームからの銃撃が迫る。
しかし――。
『ガキィンガキィン!!』
銃撃が車体を叩く直前、えんりが展開した扉型のエネルギーシールドが火花と共に弾丸を弾き飛ばした。
「この盾はソロマッチ②でまくれな選手が使用した通常スキルと同じですね」
「半年前に実装されたばかりのキャラクターですが、この大会でもピック率はかなり高めですねー」
「ヒルト急げ撒け撒け撒け!」
「急かすな!でもまだいけるな!」
「俺のウルトで1パ(ーティ)落ちたわ!」
「「ナイス!」」
漁夫を仕掛けるはずだった歌い手MIXチームだが、ばたえるのタレットに捕まり、抵抗する間もなく壊滅してしまった。
「止まらないぞロクラメンチーム!この爆走、誰が止めるんだ!」
タイラントはその大きさと視認性の高さから、敵にとっては格好の的だ。乗りながらの射撃も不可能ではないが、精度は著しく落ちる。本来はセーフゾーンへ向かうための移動手段に過ぎない。しかし彼等は被弾覚悟で都市部エリアにいる敵を掃討していく。
「まさに常識を逸した突破!それでもタレットの掃射は止まらない!」
「戦場を炎で塗り替えていく勢いですね。今タイラントの可能性を感じてますよ!」
流れる景色の中で乱射される重火器の咆哮。ロクラメンの三人が絶好調の勢いで敵陣を突き抜こうとした、その時だった。
「――タイラントじゃなくて、調子に乗ってない?」
「それな」
「いくよ……せーの!」
冷静な声と共にQH-Jチームのジェノ、ユケ、イアンの手から正確無比な放物線を描いて破壊用グレネードが放たれた。
『ドォォォォン!!』
凄まじい衝撃波が車体を浮かせ、制御を失ったタイラントは激しくスピンしながら横転する。
「うわあああっ!?」
「ぎゃー!」
「ぐぇー!俺のタレットが!」
地面と空が入れ替わり、視界が反転する。
さっきまで流れを握っていた側の三人が、今度は一転して無防備に投げ出された。
無敵の移動要塞と化していたはずの車体は、無残に地面を削りながら――もうもうと立ち昇る土煙の中に消えていった。
「タイラント横転!ロクラメンチーム、完全に足を止められました!」
「ちょっと止まった位置がやや悪いですね……」
「しかしロクラメンチーム、煙の中から無理やり体勢を立て直す!どこまで耐えられるか!」
そんな第一線の激戦が繰り広げられる一方で、QH-Sのさがん、ギバ、ファイヴiは着実にキルを積み重ね、危うさを見せながらも堅実に生き残っていた。
「まだそこいた方がいい?」
「ドローン飛ばすね……あー大丈夫!前詰めよ」
「あったけー!裏警戒ナイス!」
残るは十二部隊。各所でキルポイントを求めた戦闘が激化する中、これプロは――
「一人だとくじけるな……やる気」
――ただ一人残されたタンドリーが虚ろな視線を宙へと向けていた。




