閑話⑦『インターバル』
最終試合を控え、十分間の休憩が与えられる。次々とマイクがミュートに切り替わり、席を立つ気配が消えていく中――テディはそこに残り続けた。配信の静寂を嫌ってのことだ。
「やーまさかタンドリーが寺岸さんを助けてたなんて……実況も見れてなかったんだ?これは至急タンドリー視点を動画化しないとね」
『今慌てて神流視点の該当部分追ってる』『初っ端からまくれなさんたちがかち合ってたからね』『タンドリーらしいよ』
「これで僕0やらかし、ホット0やらかし、タンドリーが1やらかしか……優勝して皆仲良く0でゴールしよう」
『お前はもう大やらかしだろ』『勝手に減らすな』『アンケ取ろ?』
テディがコメント欄と軽快にやり取りしていると、ふと気配を察する。戻ってきた仲間かと思い目を向けた次の瞬間、飛び込んできたのは――
「テディてめぇーー!」
「何してくれとんじゃいワレェ!」
「わー!らむらすともさ彦だった!」
――テディの被害者その一と二だった。
「偏差撃ち上手すぎだろ!バカ!」
「おぅおぅ!26ポイントて!どないなっとんじゃい!」
「まぁ待ってよ。らむらすのチームには最初の試合で2ポイント譲ったし、ソロマッチではウチのホットがりょくおーにやられたんだよ?これでプラマイゼロってことで」
「うるせーー!」
「ボケ!カス!」
「駄目だこの二人!パッションで押し切る気だ!保護者ー!連れて帰ってー!」
しかしこの絶妙なタイミングで通話に加わったのは――
「エイムおかしいだろー!悪い意味でー!」
「何か増援来たー!」
――テディの被害者その三、『ロクラメン』のばたえるだった。
「最終試合と二次会でギタギタにしてやるからなぁ!」
「俺、割られた時めっちゃ泣いとったのに。何で見逃してくれへんかった?」
「ワケ分かりまセーン。僕の理解を超えてマース。森に帰りなサーイ!」
「ホット!タンドリー!戻って来たのにマイクミュートにしたままなのバレてるよー!加勢してー!」
テディたちが熾烈な攻防を繰り広げているその裏で、純花とユイガは爆速でトイレに駆け込み、歯を磨いていた。
「何か凄い盛り上がってんだけど!」
「またアーカイブ見直さなきゃ……!」
「……二人はまだ起きてるのか。もう二十一時だぞ」
山根家の父はリビングに入るなり険しい表情で二人を見据えた。純花とユイガは一瞬たじろぐが、すぐに助けを求めるように母親へ視線を向ける。
「二人ね、今日の配信リア(ル)タイ(ム)で見るために勉強と手伝い頑張ってくれたの」
「明日の塾の課題も終わってるけど?」
「ちゃんとママの言質とってるから!」
「映画見てると思って……ねぇ?」
「これは何時までやってる」
「次が最終マッチで、そのあと結果発表だから……」
「に、二十三時までには終わるけど……」
純花は『最終』、ユイガは『まで』の一言に力を込め、許しを乞うように食い下がる。父は大きく息を吐き、テレビ前のテーブルに置かれた紙と鉛筆を静かに指差した。
「勉強か配信かどっちかにしろ」
「あ、これスコア表だけど」
「?」
「マッチ毎のスコア計算……この配信、ウェルテックスってFPSゲームの大会だから」
山根兄妹は公式の途中結果を待てず、リザルトのたびに二人で分担しながら順位表をまとめていた。
――『ウェルテックス祭』……eスポーツじゃない、プロ以外も参加している普通のFPS大会か……。何故急に?
父はダイニングチェアに座り、スマホの検索画面を見る。まるで世界大会さながらの熱中ぶりを見せる二人に驚きを覚えると同時に、純花がいわゆる『ゲーム実況者』にハマっていることを思い出した。
「……純花の好きなゲーム実況者がいるのか」
「う、うん。今流してるのがテディの配信」
「……俺の方が先に好きになったけど」
ユイガがぼそりと漏らした一言が純花の癪に障るが、最終マッチの開始と共にその苛立ちは霧散した。
「テディならいけるテディならいけるテディなら……」
「ソロマッチで一位獲ったからって満足しないでよね……!」
「……このチームは強いのか」
「最強だけど?」
「絶対絶対優勝するから!」
子供たちの趣味は理解できないままだと思っていた父だったが、その熱中ぶりに触れ――せめて最終マッチだけは見てみることにした。
――名前しか知らんが……鉄砲撃つゲーム?四対四のチーム戦……じゃなさそうだな。
ともあれ、最初はルールの確認からだったが。
山根兄妹は普段の動画、配信は各々のキッズ用スマホやPCで視聴しています。今回は大画面で見たかったらしく、リビングのテレビを使わせてもらえるよう交渉したそうです。




