第54話『即ち、殺傷の頂点』
第一マッチは終盤戦へと突入し、安置の収縮に伴う戦闘が各所で始まっていた。
残りは『QH-S』、『これプロ』、『らむらすランチ』、『ロクラメン』の四部隊、計十一名がセーブルアイソレートの車両基地周辺に残っている。
「セーフゾーン収縮による強制移動ファイト!さぁここでの撃ち合いを制すのは誰か……イッサちゃん!」
「一番有利な状況にいるのは『QH-S』チームですかね。さがんの位置がズルいくらい良いな……。しっかり高所から狙撃してます」
「――イヴ!向こう二人割った!」
「ナイス!でも俺らのファイトポジもう駄目だわ」
「前いくぞ!」
『QH-S』チームの三人はセーフゾーン外で受けたダメージを回復しつつ、残ったチームを狩りに向かう。
『パァン!』
「何故当たるのか!さがんが一発のダメージが重いエネルギーライフルを巧みに扱っていく!」
「やーば。何あれ!これも良いエイムですねー!」
「ば、馬鹿な……8000ヤードは離れてるぞ」
「そこまで遠くねーよ」
「後ろも近いよ!ホット一回こっち来て!」
瞬く間にロクラメンが脱落し、残るは『QH-S』チームのさがん、ギバ、ファイヴi、『これプロ』チームのテディ、ホット、タンドリー、『らむらすランチ』のらむらすとけや――計八名となった。
「くそ無理だ……けや!そこの上いる!」
「…」
『アルティメットスキル。虚空の輪を発動します』
『虚空の輪』――それは、手にした輪を媒介に別空間へと接続する能力だ。
発動者は輪を通じて空間を歪め、任意の二地点を同時に結びつけることができる。接続された空間同士は一時的に連結され、人体や投擲された物体がその境界を越えて転送される。
この能力は単なる移動手段に留まらない。発動者自身が輪へと身を投じることで瞬間的に別地点へと転移することも可能であり、戦場における位置取りを大きく変化させる。
『バシュバシュ!バキィン!バシュバシュ!』
「っ!?ごめんっ!」
けやはこのウルトでらむらすが報告していた敵――ホットの裏へ回り込み、背中に銃弾を叩き込んだ。
「あーっと!ここでけやのウルトが!ホットに確キルという形で刺さる!」
『パァン!バキィン!パァン!』
『ズドドドド!』
「同時にテディはギバをノック!タンドリーもファイヴiの射線に入っている!」
――これは……。
テディはタンドリーがノックダウンしたことを確認すると、けやが出した『虚空の輪』を通ってファイヴiの射線を通した。
『ズドンッ!ズドンッ!ズドンッ!』
「なんっ……は?」
「テディは輪を利用してファイヴiに発砲!」
「凄い……何としてでも『QH-S』の順位を落としにいこうっていう意思を感じます」
ショットガンの実包が急所に命中し、ファイヴiは目の前で崩壊した。
「はぁ?何だコイツ!俺の輪っかだぞ!」
その隙を逃すけやではない。自分より低所にいるテディへ銃弾を叩き込み、ついに彼も倒れた。
これで残るはさがん、らむらす、けやの三人。
「さがん!これクラッチあるぞ!」
「頼む……!二人共頑張れ!」
しかも全員が満身創痍だった。お互いの仲間が声援を送りながら祈る中、他の選手たちも固唾を呑んで戦いの行方を見守る。
『ズドドドドドドドド!』
『ババババババババ!』
『バシュバシュバシュ!』
「さぁどうなる!」
「あるか!?」
二対一の苛烈な銃撃戦の末――
「第1マッチ、チャンピオンは『らむらすランチ』!」
――あと一歩というところで人数の有利が働き、初戦は『らむらすランチ』が勝ち取った。
☆彡
「いやー!見応え十分の熱戦が繰り広げられました」
「もう心拍数がブチ上がりまくりですよ!これ多分、見てる皆さんもめちゃくちゃ盛り上がってますよね」
「イッサちゃん、ラストはどういった駆け引きがあったんでしょう――」
「…」
「……ねぇお兄ちゃん!何で最後テディはけやを狙わなかったの?」
自室のPCで配信を開き、静かに解説を聞いていたユイガは『ガチャッ!』と勢いよく部屋に入ってきた妹の純花に渋面を向ける。
「イッサって人が説明したばっかなんだけど」
「知らないよトイレ行ってたんだから!ねぇ何で?」
「……はぁ」
ユイガは一呼吸おいて口を開く。
「ホットとタンドリーが秒で落とされて、テディがさがん&ファイヴi、らむらす&けやを相手に戦う状況になったとこまで分かる?」
「うん」
「距離も戦力的にも、らむらすのチームを落とす方がずっと簡単だった。それでもテディはあえて強豪の『QH-S』を削る選択をしたんだ。目先のキルよりもQHにポイントを積ませないことを優先した――この先に響かせないために!」
「へぇー。やっと分かった」
「あの射角で頭狙えるなんて……プロすぎるんだけど!」
より少ない被弾で倒せる『らむらすランチ』チームを優先すれば『QH-S』チームの勝利はほぼ間違いない――。だがテディは、どうしてもその結末を望めなかった。
「さがんチームの勝ちを確定させない方が面白いじゃん?」
「まぁ確かに……ホットな試合だったけども」
「これ結果次第では視聴者からクソミソ言われるぞ。テディが」
「大丈夫大丈夫任せて!要は次の試合で一位二位のチームより長く生き残ってればいいんでしょ?頑張るぞー!おー!」
これプロチャンネルのコメント欄が『声から汗出てるぞ』『今シャドーボクシングしてる』『見 て る か ら な』『行く末が決まるまで何でワザと三位になったのって言わないでおく』など冗談交じりの否定で埋まる一方、大会公式チャンネルの配信では第一マッチの順位結果が表示されていた。
「――チャンピオン獲得は『らむらすランチ』。キルポイント4を加算して、トータル14ポイント。暫定一位です!」
「おめでとうございます!」
「二位は合計12ポイント『QH-S』、三位は10ポイント『これプロ』、四位は9ポイント『ストロニアンサイト』、五位は8ポイント『ロクラメン』となっております」
イッサが振り返りのコメントを残している最中、さがんは灰皿に置いていた煙草を取り上げてひと口吸った。
「ふざけんなマジで。掻き乱してくれちゃってさぁ……」
「テディの今際の際ショットちょー痛かった……」
「二人共これプロにシールド割られてて……実はヤバかったな。けやさんとさがんほぼ相打ちみたいなもんだったし」
一瞬の判断が勝敗を分ける極限の攻防や、予想外の逆転劇が連続する――ウェルテックス祭は準備が整うと、すぐさま次の試合へと突入した。
「マップはプロトコルリグに代わりまして、十五チーム四十五名が降りていきます」
プロトコルリグ――赤茶けた岩肌が、何層もの波のように折り重なって広がる巨大な峡谷。その切り立った谷の底に、まるで月面基地を彷彿とさせる人工物が佇んでいた。
建物は丸みを帯びた白い外殻で覆われ、半球状のドームや滑らかな円筒がいくつも連結している。まるでこの峡谷が、宇宙のどこかにある別の惑星のクレーターであるかのように。
セーブルアイソレートより射線は通りにくいが、高層ビル屋上での縦軸を意識した撃ち合いが起こりやすいマップである。
「第2マッチになると、選手たちの緊張もだいぶ解けてきている頃でしょうか」
「そうですねー。初戦はどうしても手探りになりがちですけど、第2マッチから本来の調子を取り戻してくるチームって結構多いんです。なのでここからが本番!って言っていいかもしれません」
「さぁ視点に映っているのは女性ブイチューバ―『ユニオンストリームU』チームです。歌観月天、寺岸神流、万世かくり。同期で組まれたこの三人は、先月開催された活動五周年ライブで一万人を動員。さあ、この勢いをそのまま大会の舞台でも見せてくれるのか」
だが公式チャンネルが歌観月天の視点を映しているその裏で、三つの不穏な影が静かに接近していた。
「さぁ、門が出るか石が出るかプロが出るか……」
「選択肢が意味不明すぎん?伝わるけど」
『アルティメットスキル。飛行装置生成を発動します』
最低限の武器だけを確保した三人が、オルトスのキャラクターがウルトで生成したジェットパックで一気に上昇する。
そのまま仲間ごと空へと打ち上げられ――パラシュートもないスカイダイビングのように、それぞれ狙いを定めた建物群めがけて急降下した。
既に身体も感覚も温まりきっている彼らは、装備が整う前の今こそ奇襲の好機だと判断する。
互いに準備が整う前なら、勝負は一瞬で決まる――その可能性に賭けたのだ。
「え、こっち何もないわ」
「6倍スコープあったらクダサーイ」
「はいなー!」
そして、不運にもその降下地点にいたのが――『ユニオンストリームU』チームだった。




