第53話『大会本番!』
改めて『熱戦ウェルテックス祭』とは――プロゲーミングチーム『Quirk Hematite』が主催する、FPSゲーム『ウェルテックス』のオンラインカジュアル大会である。
試合はトリオバトル三試合とソロバトル一試合。計四試合で構成され、各試合の結果に応じて順位ポイントとキルポイントが加算されていく仕組みだ。
大会ではプロ選手の使用キャラクターに制限が設けられており、チームの戦略にも大きく影響する。
そして四試合すべてを終えた時点での総合ポイントによって、最終順位が決定する。
なお、総合ポイントが同点となった場合は、最終試合のゲーム内順位が高いチームが上位とされる。
順位ポイントは以下の通り。
1位:10pt、2位:8pt、3位:6pt、4位:5pt、5位:4pt、6~7位、3pt、8~10位:2pt、11~15位:1pt。
さらに、敵を倒すことでキルポイントも獲得できる。1キルにつき2ポイントが加算されるが――第一試合:最大4pt、第二試合:最大8pt、第三試合:上限なし。といったように、試合ごとに上限が設けられていた。
本大会は『歌い手MIX』、『QH-J』、『QH-S』、『古参面ストリーマー』、『こせゆ隊』、『これプロ』、『ストロニアンサイト』、『声優ゲーマー』、『チルアウトレック』、『ディパレット』、『抱腹絶倒芸人』、『ユニオンストリームN』、『ユニオンストリームU』、『らむらすランチ』、『ロクラメン』の全十五チーム四十五名が出場している。
「――さあ四十五名の選手が一斉にセーブルアイソレートの各地へ、ランダムに降下していきました」
第1マッチのマップはセーブルアイソレート ――広大な灰色の大地に、巨大な都市群と赤く煮え立つ溶岩地帯が点在する、極めて起伏に富んだ戦場だ。
崩れた岩盤が広がる荒野には視界を遮る遮蔽物が少なく、遠距離戦が起こりやすい。一方、高層ビルが立ち並ぶ都市エリアでは、建物の上下階を利用した立体的な戦闘が繰り広げられる。
さらにマップの各所には、地表を裂くように流れる溶岩地帯が存在する。溶岩もまた、触れればダメージを受けてしまう危険地帯だが――その分だけ周囲は物資が豊富で、ハイリスク・ハイリターンの激戦区となりがちである。
「第1マッチが始まりましたが……イッサちゃん、この大会の序盤はどんな展開になりそうですか?」
「こういう大会って、実は初動ファイトが起きにくいんですよねー。順位結果がポイントに直結しているので……」
「えぇ。どのチームも物資を揃えつつ、かなり慎重に動いているようですが……」
一方その頃。こせゆ隊チームは、セーフゾーンから少し離れた都市エリアで装備を整えていた。
「まくれな。向こうの建物にペールノエルあったで」
「えー欲しい!」
「でもちょっと遠いかも」
「欲しい欲しい欲しい」
「早よせぇ!セーフゾーン収縮する!」
「待って待って!」
――外から上った方が早い!
お目当ての武器がある建物に到着したまくれなは、階段から上がるのではなく、外壁をよじ登って屋上へ向かった。
「まくれな!近くに別チおる!」
「え?」
『えっ?』
しかし――そこで、同じことを考えていた人物と鉢合わせてしまう。
相手は個人勢の古参ストリーマーである『古参面ストリーマー』チームの一人だった。
「ぎゃー!?」
『わー!まくれなさん!?』
「おーっとここでハビコとまくれなが接敵!」
ここで戦闘を検知した実況カメラが、まくれなの視点を映し出した。
「お互い索敵キャラじゃないので気づけませんでしたね。完全に鉢合わせです」
「距離が近い!両者白アーマーでハンドガンを構える――撃ち合いだ!」
ここで最初の銃撃戦が始まる。火花散る撃ち合いの末――
「決まったぁ!まくれなが撃ち勝った!」
――その勝敗は、ほんの僅かな差でまくれなに軍配が上がった。
「っぶねぇー!ガチでミリ……」
「まくれなすぐ離れろ!今そいつの味方こっちで抑えとる!」
「了解!あ、ペールノエルと赤アーマーみっけ!」
『……向こうで2パ(-ティ)やりあってんな』
『詰めよ詰めよ』
だがその交戦を見逃す者はいない。『こせゆ隊』と『古参面ストリーマー』の戦闘の背後からゲーム好きの有名声優で結成された『声優ゲーマー』チームが漁夫を狙って動き出していた。
「さぁ都市部エリア北西で現在三チームが激突。『こせゆ隊』、『古参面ストリーマー』、『声優ゲーマー』チームです。どうですかイッサちゃん」
「やっぱ基本は漁夫の利を狙う形になりますねー。なので一度撃ち合いが始まると、周囲のチームが一斉に集まってきてキルポイントを狙う展開になりやすいです」
削り合いの末、こせゆ隊のように命を優先して引くチームもあれば――
「割った!」
「あいつ激ロー!」
「上手っ……ナイス!」
「――おっと、強気にも攻めた『ユニオンストリームU』!一人残された歌観月天がしっかり『ディパレット』チームを壊滅!」
――撃ち合いを制し、一部隊を壊滅に追いやったチームもあった。
「神流がダウンする直前にヘッドショットを通したのが決定的でしたね。あの一発で完全に流れが傾きました」
「まさに起死回生!ですがユニオンストリームUは歌観月天のみ!そしてその近くに『QH-J』――これは戦闘なるか!」
各所で激しい戦闘が起こり、複数の部隊が一瞬のうちに全滅していく。そんな試合が中盤に差し掛かった現在。これプロチームはセーフゾーン中央付近に陣取り、周囲の敵を牽制していた。
「……一気に減ったな。もう残り十部隊か」
「ホントにここが最終安置?」
ここで言う『安置』とは、敵の攻撃やマップ収縮によるダメージを受けない場所のことである。
「うん。ごめんね視聴者諸君。今日だけ慎重に行かせて」
たとえランクマッチであっても、視聴者の目があれば果敢に攻めて撮れ高を作るテディ。だが大会ではその血の気を抑え、堅実な立ち回りに徹していた。
「まだ俺ら1キルもしてないもんな」
「だってこの試合は二人倒すだけでもうキルポイント上限達するし」
第1マッチ開始から『これプロ』チームは、実況カメラにも拾われないほど穏やかな立ち回りを続けていた。
「さっきも絶対倒せたのに。何でらむらすのチームに譲ったの?」
「だってらむらすのチームいたし。譲ったというより押し付け?」
先程もテディの索敵で『チルアウトレック』チームの位置は掴んでいた。だが彼は決して深追いしない。別ルートから『らむらすランチ』チームが迫っているのを把握していたからだ。
「焦らずゆっくり行こ。シールド割ったらすぐ引くよ」
テディの指示で、これプロの三人は軽く牽制射撃だけを入れる。弾は当てるが、キルを取り切る動きではない。シールドを割るだけ割り、すぐに撤退する。
セーフゾーンが縮まり、各チームの接触が増え始める中盤から終盤では――いかに自分たちにヘイトを向けさせないかが重要になってくるからだ。
二つのチームが撃ち合いを始めたのを確認すると、テディは満足気な笑みを浮かべた。
――よし、押しつけ成功。
「ヘイトを買わないのが一番だから。何事もねー」
「テディ来たぞ!」
ここで、ウルトではなく通常スキルで空を旋回していたタンドリーがプロゲーミングチーム『ストロニアンサイト』に発見される。下から撃ち上げられる銃弾を躱しつつ、彼はそのまま彼らの背後を取るように軌道を変えた。
「おっとここで初めてカメラが入りました!『これプロ』チームです。タンドリーが上空でしっかりヘイトを集めている間に……来ました!ストロニアンサイトチームが空を仰いだその一瞬の隙をついてテディのペールノエルが火を吹く!」
2倍スコープ越しに放たれたテディの弾丸は、正確に敵の頭を捉える。次の瞬間、敵は糸の切れた人形のように崩れ落ち――その一部始終が実況と視聴者の画面に映っていた。
「一瞬でストロニアンサイトチームのシールドが粉砕された!」
「お見事……!これプロの看板に偽りなしですね」
「さあホットも負けていない。横からいい弾を当てています!そのままストロニアンサイトチームを壊滅に追い込むが……」
タンドリーが作り出した一瞬の隙を、テディが最高の暴力で塗り替える。だがタンドリーは降り立つや否や、すぐ近くまで迫っていた『歌い手MIX』チームの迎撃に回った。
「こちらタンドリー。別部隊と交戦中。向こう二人白アーマーですどーぞ」
「なら左横方向にウルト投げて!そっちも敵いる!」
「了解」
そう言いながら彼はウルトである時空装置を投げる。起動すると同時に時空の歪みが発生し、合流してきたばかりのロクラメンを一気に吸い寄せた。
「さあここで『ロクラメン』チーム!タンドリーの時空装置に引き止められるが――あっ、しかし即座に集中攻撃で破壊!」
「そうなんですよー。このウルト強いんですけど、割と銃で簡単に壊れちゃうんですよね」
タンドリーはロクラメンが体勢を立て直す前に『歌い手MIX』チームを仕留め、自チームと合流する。ここで食い潰し合いになるかと思われたその時――
『パシュッ!パシュッ!』
「うえぇ!?」
「はぁ!?」
――さがんのスナイパーライフルが戦場に割り込んだ。
チームの分類。
ストリーマー……古参面ストリーマー
プロゲーマー……QH、ストロニアンサイト
歌い手、グループ……歌い手MIX、チルアウトレック
ゲーム実況者……こせゆ隊、これプロ、らむらすランチ、ロクラメン
Vチューバ―、グループ……ディパレット、ユニオンストリーム
芸能人・声優……抱腹絶倒芸人、声優ゲーマー




