第50話『四十二人の敵』
いきなり聞こえてきた青年の声にテディは笑いを漏らし、ホットは心当たりのある声に気持ちを浮つかせ、タンドリーは眉間に皺を寄せた。
「まぁ待たれよ。一旦紹介させて?ホット、タンドリー。この蛮族は男性六人組ゲーム実況グループ『ロクラメン』のヒルト、えんり、ばたえるだよ」
「誰が蛮族だ!あ、ホットさんとタンドリーさん。どうも初めまして~。ロクラメンのヒルトですぅ」
「えんりです。すみません急にお邪魔してしまって」
「ばたえると申します。どうかどうか、ウェルテックス祭ではお手柔らかに……」
「えっ丁寧な挨拶……。別人?」
「五秒前の威勢どこいった?」
怒鳴りながら入ってきた彼らとは思えないほどきちんとした挨拶に、ホットとタンドリーは面食らいながらも挨拶を返す。
「おい何笑ってんだこの3タテ野郎が!」
「ヒルトごめっ……そっか、ロクラメンからはこの三人が出るんだね」
3タテとは、一人が一部隊を壊滅することを指す。前回の試合、テディがウルトを発動して連続キルを重ねた際、敵の中にはロクラメンの三人も混じっていた。
テディは堪えきれずに爆笑し、話題を本筋に戻す。
「こんなんと戦う俺らの身にもなれ!」
「この変態チーム!変態だお前等は!」
「無理とか言ってるけど、僕たちにとってもロクラメンは厄介な敵だよ」
「どんくらい変態?」
「彼女が一日穿いた下着を嗅ぐくらい」
「それは……変態だな」
「いやウェルテックスで例えて!?やってるみたいになっちゃうから!」
「こっち配信中ですよ!?」
「ここでも暴れるんかこれプロォ!」
テディとタンドリーがロクラメンと盛り上がっている間、ホットはこっそり彼らの戦闘履歴を確認した。
――ヒルトさん4キルしてる……。この人が一番上手いのかな。
「ロクラメンはねー。全員クセ強いけど、れっきとした成人男性だからそれなりの社会性はあるグループだよ」
ロクラメンの三人が通話を切った後、テディは新しいステージへ降下しながら説明する。
「らむらすやこせゆ隊と同じレゾクラ系実況者で、僕が初めましてした時もロクラメンのレゾクラ企画だったんだ」
「今度の大会でテディが知ってるチーム何組いんの?」
「実際に通話してコラボした人は15チーム中4チームだけだからそんなにいないけど……ではらむらすのチームから紹介しましょう」
『らむらすランチチーム』――らむらすと同じくマイクラ個人実況者の『けや』と『サムろう』で編成されたチームである。
全員アサルトライフルやサブマシンガンを扱い、どの瞬間も弾幕を形成できる実力者だ。
らむらすは長時間配信の積み重ねで安定したエイムと立ち回りを誇り、チームの戦線を堅実に支える努力型のプレイヤーである。
けやはチーム内でFPSの腕が最も優れており、撃ち合いの強さと抜群の反応速度で多くの場面でキルを稼ぐ。ただし時折、初心者級のミスや雑な判断をしてしまうこともある。
そしてサムろうは、ウルトやグレネードを駆使して戦況のサポートを担当。直接の撃ち合いよりも、味方の援護やエリア制圧を巧みにこなすタイプだ。
「――ヘァックショーーイ!!」
「らむ声デッケ……あれ?耳のあたりがヌルヌルしてる……」
「あー。誰か俺が素敵だって噂してるわ」
「しね」
この三人は単純な撃ち合いだけでは攻略しきれない、複雑で読み合いの多いチームである。
「こせゆ隊は、こせゆ隊でしか使ってんの見たことない!みたいなウルトや戦術で突っ込んでくるからたまに怖いんだよね」
『こせゆ隊チーム』――りょくおー、まくれな、もさ彦で編成されたチームである。
総プレイ時間こそ長くないものの、長年の付き合いから生まれる連携の良さが大きな武器だ。
りょくおーはアサルトライフルを手に、物おじせず前線へ踏み込むアタッカーである。正面戦闘と連携を重視した堅実な戦い方が得意。そして稀に起こる覚醒状態に入れば、テディも舌を巻くほどの実力を発揮する。
まくれなは気分によって戦闘スタイルを変えられる柔軟性の持ち主で、なぜか大抵チームの中で一番長く生き残る不思議な強さがある。前線で撃ち合うこともあれば慎重に立ち回ることもあり、相手からすると読みづらい存在だ。
もさ彦はスナイパーライフルを使った遠距離支援を担当。無理な戦闘は避け、引くべき場面では確実に撤退を指示できる冷静さを持つ。
「まくれなテメェー!瞬間移動のウルト逃走用に使ってんちゃうぞ!」
「だって無理死んじゃうう!『定石に囚われないまくれなさん素敵!二億円あげちゃう!』ってコメントで言われたいー!」
「コイツ面の皮も赤アーマーか!?りょくおーついでにあの役立たずも割れ!」
「イヤーッ!ママァーー!」
無理に正面から押し切るのではなく、ウルトやポジション取りを活かしながらチャンスを作って一気に崩すタイプのパーティである。
「で、さっき挨拶したロクラメンは……特にFPS上手い三人が満を持して参加したって感じ」
『ロクラメンチーム』――ヒルト・えんり・ばたえるの三人で構成されるチームで、現役男子大学生だと噂されている。
全員がライトマシンガンを好んで使い、若さゆえの反射神経とスタミナを武器に押し切る戦い方を得意としている。
ヒルトはレゾクラの次にウェルテックスをやり込んでいるプレイヤーで、実力も頭一つ抜けている存在だ。ウルトで煙幕を展開し、視界を遮った混戦に持ち込む戦術を得意とする。弾幕と機動力を活かした接近戦の主導役を担うことが多い。
えんりは敵の数が増えるとパニックに陥りやすい一面があるものの、不利な位置からでも有利ポジションの敵を正確に仕留める撃ち合いの強さを持つ。
ばたえるは漁夫の利を狙う立ち回りを好み、終盤まで身を潜める『ハイド』戦法を得意としている。ただし印象が悪くなりがちな戦術でもあるため、配信ではあえて控えることも多い。
「ばたえるー。その建物敵いないよ」
「スナイパーライフルで入り口を覗くな」
「じゃあ俺今グレ(ネード)十個持ってっから向こうにいる敵炙ろうぜ」
「はははは!何でそんな持ってんだ!よし!いじめに行くぞ!」
火力の高さと若さの勢いを武器にしながらも、煙幕による混戦、撃ち合いの突破力、そして漁夫を狙う立ち回り――状況に応じて戦術を切り替えるチームだった。
「他にも女性ブイチューバーのチームや著名なストリーマーとか色々いて、皆二人より実力がある面々なんだけど……」
「あれ?顔見知りは四チームいる話だったよね?」
「あと一チーム残ってるぞ」
「それは――」
「あ!?撃たれてる!」
「っ!」
テディが最後のチームを紹介しようとしたその時。超遠距離から放たれたスナイパーライフルが炸裂し、三人の頭を正確に撃ち抜いた。
「な……何が起こった!?」
「全員スナイパー……あぁ。丁度あのチームだ」
テディたちは観戦モードへ切り替え、自分たちを倒したチームの視点を追う。
「『熱戦ウェルテックス祭』はプロゲーミングチーム『Quirk Hematite』が主催する大会で、当然いるんだよ……。まぁ他のプロゲーミングチームも十分脅威なんだけど、特にこの……QHから二チームいる中の『QH-S』が強いかな」
『QH-Sチーム』――さがん・ギバ・ファイヴiで編成されたチームである。
プロの看板を背負っているだけあり、そのプレイスタイルには一切の隙がない。
個々のプレイヤースキルが非常に高く、状況判断・射撃精度・ポジション取りの全てにおいて高水準を誇る。
さがんは常識外れの戦果を残すテクニカルプレイヤーだ。
当てるのが難しい代わりに高い火力を持つ武器で無双することが多く、彼の手にかかればそのポテンシャルを最大限に引き出す。ハンドガンで遠距離の敵のシールドを割り、逆にスナイパーライフルで前線に突入して部隊を壊滅させるなど、常識外れの戦い方を成立させてきた実績もある。
ギバは二丁拳銃のスタイルを好む。ゲーム内で唯一の二丁拳銃スタイルのハンドガンは扱いが難しいが、彼の手にかかればその武器はまるで西部劇の名手のような威力を発揮する。近距離戦での瞬間火力と反応速度はチーム屈指の実力を誇る。
ファイヴiは後方からチームを支える守り神のような存在だ。無駄のない鮮やかなプレイスタイルで被弾を極限まで抑え、巧みなキャラクター操作と裏取りで敵の死角を突く。
「はははははは!21キルうめぇー!」」
「はい暴力的なコンテンツ確定ー!」
「本番は手加減せんといかんかー?」
エイム、武器理解、立ち回り――全てが一級品で、そのプレイスタイルに魅了されるゲーマーやファンも数多く存在した。
彼らの異次元の強さを目の当たりにし、ホットとタンドリーの胸に不安がよぎる。自分たちはこのチームに挑むのか――と。




