第49話『諸君!これがキャリーである!!』
キャリーとは。実力の高いプレイヤーが技術の低い味方の分まで大活躍し、チームを勝利へ導くこと。
「前に敵二人いる!」
ホットが発砲しようとしたその瞬間――
『ドゴンッ! ドゴンッ!』
「は?」
――テディは目にも止まらぬ速さで距離を詰め、ショットガンで二人を撃ち抜いた。
圧倒的な動きに、ホットは思わず背筋を震わせる。
「怖っ……」
「あれ?引いてる?僕またなんかやっちゃいました?」
「ワンマガで二人殺ったからだろ」
テディが好んで使うショットガンは、一撃の破壊力に特化した武器だ。
至近距離で標的を捉えれば、わずかな弾数でも確実に相手を仕留められる。その威力は圧倒的で、狭い建物や通路、角待ちの戦闘で真価を発揮する。少しでも距離を詰められれば、勝負はほぼ瞬時に決まるのが特徴。
装填数は少なく、撃ち尽くせば無防備な時間が生まれてしまうが――攻撃本能の塊であるテディがそれを手にすれば、その欠点さえも意味を失う。装填数の少なさも、射程の短さも、彼の前では些細な制約にすぎなかった。
「カスクブルーで負けると萎えるけどな」
「分かる。俺のリーニュプラットの方がDPS高いのに……」
DPSとは、武器や攻撃手段が一秒間にどれだけ相手の体力を削れるかを示す指標である。
ホットの言う通り、秒間ダメージで見るとアサルトライフルのリーニュプラットの方が優れている。だがショットガンのカスクブルーは一発で『99〜110』のダメージを叩き込めるのだ。
リーニュプラットで同じだけのダメージを稼ごうと思えば、約八発を当てなければならない。
つまり、ショットガンは瞬間火力で一瞬の勝負を決める武器だ。射程は短いが、近距離での破壊力は計算を超えている。テディはそんな玄人向けの武器を下ろして建物の外に出た。
「それは自分でやっても当たんないからでしょ」
「「あ」」
「ごめん。配信じゃないから軽口叩いちゃった☆」
「テディ3倍欲しい」
「はーい」
テディはタンドリーに3倍スコープを渡す。スコープとは、武器に装着できる照準器のことを指す。装備すると武器を構えた際に専用の照準表示が現れ、敵をより正確に捉えやすくなる。
倍率は近距離向けの等倍に近いものから、スナイパー用の高倍率まで幅広く存在し、戦闘距離に応じて有効性が大きく変わる。
ただし、全ての武器に全てのスコープが付けられるわけではない。
武器種ごとに装着可能なスコープは決まっており、たとえばスナイパー用の高倍率スコープは近距離武器には使えない。また、倍率が高ければ強いというわけでもなく、視界が狭くなりすぎて扱いづらく感じることもある。
こうして三人は物資を回収しつつ装備を整え、マップの中心を目指して移動を続けた。
「あーずっとあそこいたかった」
「もうあそこセーフゾーンの外だよ」
ウェルテックスでは試合開始と同時に、マップ外周からセーフゾーンが展開される仕様だ。この領域は時間経過とともに段階的に内側へと迫り、マップを削るように安全地帯を狭めていく。
領域外に取り残されたプレイヤーは、シールドや体力が定期的に削られるペナルティを受ける。ダメージはフェーズごとに加速し、序盤は回復キットを使えば耐えられるが、後半では回復が追いつく前に体力を削り切られてしまう。そのため、プレイヤーたちは否応なく次の安全エリアへと移動を強いられるのだ。
「西に別チ(―ム)いる」
「オッケー」
そしてその条件は全員に等しく課されている。時間が経過するほど、他パーティと遭遇する確率は高まっていった。
現在十五部隊中四部隊が全滅し、これプロチームは生存十一部隊の中に属している。
「一人やった!俺詰めるわ」
「ナイス」
「や!?この人のアーマー赤じゃん!僕がやるね」
ウェルテックスには『ボディアーマー』と呼ばれる防御装備が存在する。耐久力に応じて色が変化し、白・緑・赤の三段階に分類される。試合開始時は全員が白アーマーを装備している仕様だった。
ボディーアーマーはエリア各所に配置された補給ボックスから直接入手が可能。
そのため、序盤から高ランクのアーマーを確保する者もいれば、中盤に差し掛かっても入手できないままのプレイヤーも存在する。
前述したとおり、色が濃くなるほど耐久性能も高くなるため、テディは防御力が二番目に高い赤アーマーの敵を優先して引き受けた。
「向こう割れた……けど俺も割れた!」
「赤割れてるよー」
「おい後ろから別チ来てる!」
そのアーマーも被弾を重ねればいずれは『割れ』、機能を失う。だからこそ戦闘の合間に体力やシールドを回復し、常に万全の状態を保つことが重要となる。
「グレ投げるぞ!」
「オッケー!」
タンドリーは建物の外からインパクトグレネードを投げる。このアイテムは、投げてから短い遅延ののち爆発する投擲兵器だ。爆風は半径内の敵にダメージを与え、遮蔽物の裏にいる相手にも圧力をかけられる。室内戦や物陰に隠れた敵のあぶり出しに使われる、最も標準的なグレネードだ。
そしてホットもノリでブリーチグレネード投げる。これは強力な炸裂を起こす破壊用グレネードだ。爆発威力が高く、扉や簡易バリケードなどの遮蔽物を破壊することができる。
「諸君!ウェルテックスに存在するグレネードはこの二種類のみである!!」
「テディ誰に言ってんの?」
「あ、前から新しいお客さん来た!」
テディは漁夫の利を狙うパーティを見つけ、心の奥がすっと冷える。それは、自分の中に潜む凶暴な一面が顔を出す予兆だった。
――あーもう、全員あの世行きだな。
「ウルト使っちゃうねー」
ウルトとは、各キャラクターが固有で持つアルティメットスキルのことだ。
『Ultimate』でウルトである。発動すれば一定時間、戦況を左右するほどの強力な能力を発揮する。
テディが使用するキャラのウルトは覚醒型のアビリティで、戦闘と索敵の両方に効果を発揮する。
発動すると一定範囲内の敵の気配や存在感を察知できるようになり、壁や建物の陰に隠れていても、おおよその位置を把握することが可能だ。
さらに身体能力にも短時間の強化がかかり、走行速度や反応が向上する。索敵と機動力の両方を強化するこのウルトは、戦闘中に主導権を握るための強力な切り札だった。
『アルティメットスキル。プレデターラッシュを発動します』
迷わずウルトを発動した次の瞬間、周囲の景色が少しだけ歪む。視界に流れ込む情報量が一気に増え、敵の位置が感覚として浮かび上がった。
――先ずは裏に隠れた敵二人!
壁や床、建物の奥に潜む相手の気配までもが、うっすらと存在感として感じられる。遮蔽物に隠れていても、この状態では見逃すことは難しい。
『ズドドドドド!』
――当たんないよ!!
同時に身体能力も底上げされる。脚が軽くなり、一段と鋭い踏み込みで弾丸を躱していく。感覚が極端に研ぎ澄まされ、まるで獲物を追うためだけに感覚が作り替えられたかのようだった。
そしてこの状態は敵を撃破するごとに持続時間が伸びる。彼が一度この状態に入ると、解除される頃には現在最も多く敵を倒したプレイヤーに選ばれていることが多かった。
「おいキルログやべぇって!」
「まだまだー!」
テディは戦場を自由に駆け巡り、一帯の敵をねじ伏せていった。
「テディが通ったとこ戦利品だらけなんだけど」
彼は笑って自分のシールドを回復し、敵に撃たれてダウンしたホットを復活させる。
プレイヤーの体力が尽きても、即座に脱落するわけではない。倒れ込んだ肉体は『ダウン状態』へと移行し、戦闘能力を失う。
この間に味方の復活処置が完了すれば戦線へ復帰できるが、制限時間を超えた場合、肉体は維持できず崩壊してしまう。崩壊後は装備だけがその場に取り残される仕組みだった。
「また来るぞ……!」
タンドリーも向こうで新手を警戒しつつ体力を回復していた。
こうして次から次へと迫る敵を撃ち倒していくうちに、いつの間にか残っていたのはテディたちの部隊と他の一部隊だけとなる。
「ラスト!」
『Your team is the Champion』
「「ナイス!」」
ホットは相打ち覚悟で最後の一人と撃ち合い、そのままこの試合のチャンピオンとなった。
「16キル……」
タンドリーはリザルト画面を確認し、テディの驚異的なキル数に絶句する。ホットでさえ、彼の無双状態にはいつどのゲームで見ても慣れなかった。
「――おいコラこれプロォォォ!!」
「邪魔すんでコレェェイ!!」
「オラァ!ロクラメンチャンネル配信中じゃコルァ!」
「おわー!何か来たー!」
こうして三人がカスタムマッチリザルトを見ていると、ゲーム実況グループ『ロクラメン』の三人がテディたちのボイスチャットルームに殴りこんできた。
「おい上手すぎだぞコノヤロー!」
「トルネードが来たかと思ったわ!」
「マジ意味分かんねー!ヤバすぎ!」
「声でけぇ……」
タンドリーとホットは慌てて音量を下げる。ロクラメン三人の声は軽い冗談まじりだが、通話越しの声量は確実に場を制圧するそれだった。




