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諸君!これがプロである!!~ゲーム実況者の日常~  作者: 椋木美都
中学一年生編

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 第43話『リトルワークスにようこそ』

入場時、子供一人につき50リドルが手渡された。リトルワークス専用通貨『リドル』は銀行での口座開設、デパートでの買い物、お仕事体験の費用など――街の中のあらゆる活動に必要なものである。


彼等は掌に収まるその通貨を確認する間もなく、係員に促されて入場ゲートをくぐった。


「「おぉーっ!」」


すると夜のベールをまとった光の街が眼前に広がる。深い青色の空には星がきらきら瞬き、建物の窓から溢れる光が宝石みたいに輝いていた。


「すげー!幸兄あっち!車走ってる!」


縦型信号機の青が赤へと変わるのを合図に、蓮夢の前を走っていた配達トラックが停止線でぴたりと止まる。横断歩道の白線は本物より少しだけ短く、それでも車道との境界をきちんと主張していた。


「夜の街だー!めっちゃテンション上がる!」


「確かに。こんな店がいっぱいがある道……夜に通ったことないかも」


「商店街とは全然違うな」


低層のビルから背の高い建物までが肩を寄せ合うように建ち並び、窓のいくつかには明かりが灯っている。現実の延長のようでいて、どこか作り物めいたその景色に、蓮夢の鼓動はどんどん速くなっていった。


――さっき通ってた消防車も子供しか乗ってなかった……!


大人の真似事じゃない。本当に子供が主役になれる、小さな夜の街――それがリトルワークスである。


糸哉たちは早速、街の奥にそびえるガラス張りのドーム型の建物――『宇宙センター』に向かった。


――宇宙飛行士……!


「宇宙服着て無重力空間の中泳げる!?」


「なわけないだろ」


「幸樹ー?」


「でももし何らかのハイテクで無重力空間になってたらどうしよ。僕宇宙酔いするかも」


そんな会話をしつつ中に入ると、白とシルバーで統一された近未来的なロビーが出迎えた。壁には人工衛星の模型が浮かぶように展示され、天井には無数の星座が映し出されている。


「本日のミッションは、制御を失った小型人工衛星を正しい軌道へ戻すことです」


簡単な説明を受けた後、幸樹、敦斗、蓮夢は宇宙飛行士役に、糸哉は管制室から全体を統括するフライトディレクタ役に分かれた。


「テディ頼むぞ」


「任せて。カメラから皆の宇宙飛行士っぷり見てるよ」


幸樹、敦斗、蓮夢が身にまとっているのは、白を基調にした宇宙服。


上半身には生命維持装置や通信機器を模した簡易ユニットが取り付けられており、配線や小さなランプが胸元に整然と並んでいる。本物の装備を思わせる作りだが、軽量で動きやすい設計になっていた。


「本物の宇宙服ってもっと重いんですか?」


蓮夢が質問すると、指導員はにっこり笑ってうなずく。


「そうですね。本物はかなり重いですよ。地上で着るとおよそ百キロ以上あります」


「ひゃく!?」


「胸と背中の生命維持装置が一番重いんですけど。ヘルメットもね、バイク用より重くて頑丈なんですよ」


――ってことは、今回のアクティビティはガチの無重力空間じゃないってことか……。


敦斗は胸の奥で安堵と物足りなさが混ざるのを感じながら、白いグローブを手に取る。指先は厚みがありながらも、タブレットやレバー操作ができる程度の柔軟さは残されていた。


「皆さん、靴はキツく感じませんか?」


「大丈夫です」


足元の白いブーツも同様で、磁気プレートに対応した靴底が特徴的だった。そして最後に、通信用ヘッドセットを内蔵したヘルメットを装着する。


――マジで()()ヘルメットだな。


幸樹がマイクを軽く叩くと、イヤーピースから指導員の声が返る。声を出すたび、通信が成立していることを示すインジケーターが点灯した。


「わー皆いいじゃん!カッコいー!」


一方、糸哉はワッペンの付いた白いワイシャツに濃紺のネクタイを締めていた。袖口はきっちりと留められ、どこか大人びた雰囲気をまとっている。派手な装備はないが、指示を出す側としてのそれらしさは十分だった。


「糸兄も本物みたい!」


「ありがとー。ホラ皆ピースしよ」


窓の外から写真撮影のフラッシュが光る。その一枚には、少し誇らしげな宇宙飛行士たちの姿が写っていた。


「こっ君がフライトディレクタ役かと思った」


『テディが宇宙飛行士になる方が想像つかんわ』


「ふっ……あいつ生きたがりだから」


やがて子供たちはシェンとライアンの目から離れ、いよいよ『制御を失った小型人工衛星を正しい軌道へ戻す』ミッションが始まる。


宇宙飛行士チームが案内されたのは、円形に近い広さを持つ部屋だった。


照明は落とされ、天井と壁の境目が分からないように設計されている。敦斗が視線を上げると、真っ黒な空に散りばめられた星の映像がゆっくりと流れ――ここが屋内だという感覚を薄れさせていた。


――ヤッバ……!凄いって言いたいけど言える雰囲気じゃねぇ!


部屋の中央には小型人工衛星の模型がワイヤーで吊られ、わずかに浮いて見えるよう工夫されていた。外装パネルは数枚が微妙にズレたまま固定されており、軌道制御ユニットが露出している。


――俺らだけじゃなくて道具や部品にまで命綱(テザー)がついてる……ないと即宇宙ゴミになるからか。


幸樹は表情を引き締め、ツールの説明に耳を傾ける。


ピストル・グリップ・ツールと呼ばれる電動式のレンチ、歪んでしまった外装パネルをこじ開けるためのプライバー、交換用の部品である姿勢調整パネル、無重力空間で足場や物を固定するためのマニピュレータ、タブレット型の操作コントローラーなど――どれも実物を簡略化したデザインで、色分けされた表示とアイコンが付いていた。


ここは本物の宇宙ではない。だが無重力空間でなくとも、この部屋は十分すぎるほどの臨場感を備えていた。


三人の船外活動が始まる一方、糸哉は管制室の椅子に座った。


――ここが声と判断だけで宇宙を動かす場所か……。


目の前に並ぶ五枚のモニターには、宇宙飛行士たちの映像と作業状況が同時に映し出されている。フライトディレクタの糸哉は手元のタブレット端末を操作し、通信回線を開いた。


How copy(聞こえてますか)?」


少し間があって、スピーカーから返事が返る。


「Loud and c(聞こえてます)lear.」


英語でのやり取りは短く、小学生でも口にしやすい単語ばかりだった。


――えーと手順は……。


まずは三人で協力し、フラフラと回転している衛星をマニピュレータで固定する。


「go」


糸哉の声を合図に、敦斗と幸樹がプライバーを使って固くなったハッチや歪んだパネルをこじ開けた。

真ん中の作業カメラには蓮夢と指揮官が映っており、電動のレンチを使って内部を保護しているカバーのボルトを一本ずつ外している。


「Initiating panel con(パネル接続開始)nection」


続いて故障の原因となっている古い姿勢制御装置を抜き取り、新しい姿勢調整パネルをスロットに差し込む作業に移る。


幸樹が衛星側のスロットにパネルを差し込むと、低い電子音が鳴った。ランプが青から黄色へと変わり、数値がタブレット端末に表示される。


――黄色ランプは『起動中』……これでランプが『正常稼働』の青に変わったら死んでた衛星が息を吹き返すのか。


作業は順調に進んでいた。姿勢調整パネルのランプは黄色から青へ移り変わり、数値も安定している。外装パネルが正しい位置に戻ると、姿勢調整パネルのランプが一斉に青へ変わった。


糸哉は視線を素早く行き来させながら、タブレット端末を操作する。


Hold(固定)


彼が英語の指示を出すと敦斗の手が止まり、四枚目の角度表示がぴたりと固定された。


数値が揃う。ガイドラインが衛星の輪郭と重なり、全体監視用モニターの表示が青から緑へ切り替わった。


「System is gr(全て正常)een」


これで衛星は、自分自身の力で姿勢を保てるようになった。


最後に衛星を正しい軌道へ押し戻すために、外付けした推進ユニットをコントローラで点火しなくてはならない。


幸樹がタブレット型のコントローラでユニットを起動し、正しい軌道へ押し出すための噴射タイミングを管理する。


蓮夢がパネル中央のスイッチを押し込むと――衛星模型全体がゆっくりと回転し、正しい向きで静止した。


糸哉の方の画面も、衛星の姿勢を示すアイコンが正位置で静止している。


「Manipulator o(マニピュレータ解放)pen. Contact los(接触解消を確認)s」


最後の確認が終わった瞬間、張り詰めていた空気が一気に解ける。宇宙という大きな舞台で、一人では決してできないミッションを彼等はやり遂げた。


「――どうだった?」


「楽しかった!」


「無重力じゃなかったけど、服とか道具とか超本格的でヤバかった!」


『ホットのテンションが小四と同じなんじゃけど。宇宙行って若返った?』


「リアルシミュレーションゲームみたいだったねー」


「宇宙飛行士のシミュレーションゲームってあんの?」


「あるよ。タンドリー興味あるならまた今度普通にやる?」


「……やる」


全員がこのアクティビティを通して得たのは、コミュニケーションとチームワークがあればどんな場所でも前に進めるという実感だった。


ここは本物の宇宙ではない。それでも――宇宙で働く気持ちは、確かに味わえたのだ。

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