第40話『欺け!エステート・ミステリー!! 後編』
任務の一覧は探偵も実行犯も確認できますが、進捗状況は実行犯側にしか分かりません。(実行犯側が一定数の任務を達成すると、その達成数が全体に通知されます)
探偵側(こせゆ隊)は各任務の実施場所をある程度把握しています。(両陣営テストプレイ済)
らむらすはゲームが始まって以降、女にばかり化けていた。今は爆乳夫人の姿で館一階にある一室から『密書を回収』しようとしている。
「らむらす……」
――もっと他の変装あっただろ。
「スペクテイター面白すぎでしょ。いやらむらすが面白いのか」
「もー俺ばっか撮れ高モンスターなんだから」
脱落したテディとタンドリーは、観戦モードでらむらすがテレポーテーションを使う様子を見守っていた。
実行犯側のアビリティの一つ――テレポーテーションは、マップ内の特定地点へ即座にワープすることができる。変装と同じく連発は不可だが、移動ログや足音が残らないのが肝だ。
「まくれなは探偵側だから、まだらむらすとホットが誰か分かんないんだ」
「そう味方だけ。今もさ彦見てるから、その範囲で実行犯がアビリティ使うとこ見れたら僕も報告できるんやけど……」
このアビリティの最大の利点は、犯行後に追跡されるリスクを完全に断ち切れる点にある。探偵は移動経路や目撃情報から怪しい人物を絞り込むが、テレポーテーションを用いることでそれらは一切意味を成さなくなるのだ。
そう。通常であれば、このアビリティは極めて強力に機能する――
「…」
「「えっ?」」
――移動した先に探偵の姿さえなければ。
らむらすを見ていたテディとタンドリー、もさ彦を見ていたまくれなは揃って声を上げる。もさ彦は突然現れた爆乳夫人に絶句し――ゆっくりと銃口を向けた。
「もっさー報告!」
「えー正門付近に突如として謎の婦人が出現しました。どうやら探偵がいる場所にテレポーテーションした撮れ高モンスターの模様。どうぞ」
「待ってバグの可能性は!?」
「どっちにしろそんな悲しい奴はいない方がマシです。どーぞ」
「お願い!らむらす撃たないで!俺一人にしないで!」
「は、腹いたい……やれやれやれ!」
会話を邪魔しないよう静かに爆笑するテディとタンドリー。早く撃てと急かすりょくおーとまくれな。もさ彦が引き金に指をかけたその時――
「はい今から面白いこと言います」
「おっ」
――ゲーム実況歴十二年目の男は、決してただやられることはなかった。
ちなみに、こせゆ隊の三人は全員梅坂という地域の出身である。茶番を前にして黙っていられない、笑いに貪欲な気質――そういう血が、間違いなく彼らに流れていた。
「こせゆ隊の新しい正式名称――」
全員が息を詰めて見守る中、爆笑夫人らむらすはとっておきのネタを放つ。
「――『こいつら、せいりょう、ゆばすぎ』」
「ははははは!」
「ひひひひひ!」
「ふふふふふ!」
テンポよく言ったらむらすは全員の爆笑を掻っ攫い、そのまま悠々と立ち去っていった。
「ゆ、ゆばすぎって……」
「確かに!今日も繋いですぐ俺らの音量下げたし……っ!あははは!」
「ゴリ押しすなぁ!」
「ホットあと一ついける!?」
「今からやる!」
「あぁヤバ……ゆばいゆばい!終わぶふっ……」
「まくれな止めろぉ!自爆すな!」
笑いの余韻が残る中、実行犯は全任務を達成し――初戦は実行犯側の勝利となった。
「ちょ、もっかいこれでやろ」
「ネクスト!」
軽く感想戦を挟んだ後、同じメンバーで二回戦に突入した。再び料理人に変装したタンドリーは正門付近にある『銅像に爆弾をしかける』間ある事実に気づく。
――俺こういうステルスゲーム苦手だ……。
定期的に挿入される説明文だが、タンドリーの十八番はアクションゲームである。しかし『エステート・ミステリー』において、これまで彼が培ってきた技能はほとんど通用しない。
――二連続で脱落一番乗りは避けてぇ……。
ホットのように機転で躱すか、らむらすのように茶番で押し切る。その覚悟をあらかじめ決めておくべきだと考えた。
――後者は論外だけどな。
「んー?何かこのコック怪しいな……」
「怪しくないよー」
「まくれな、この門番怪しくない?」
「ちょっテディ!?それ俺!」
「……えっ?それほんまに言ってる?」
「「…」」
「おい実行犯急に静かになったぞ!これやってるやろ!」
「やってませんでした」
「やってないかもー」
「やってないでください!」
「やってないと思いたい」
「やってないの四段活用やめろ!」
「仲えぇな」
なお、この実行犯の台詞はすべてブラフである。味方同士の位置は把握できる仕様のため、ホットがテディの嘘に乗ったという流れは実行犯側にだけ分かっていた。
「どこ行った……あ!見つけたぞ!」
「落ち着いて落ち着いて!」
「一旦待と?ホットも今から面白いこと言うから」
「!?」
『エステート・ミステリー』は同じレゾクラ企画のゲームである『忍兵鬼ごっこ』よりも操作が簡単で、時間の進みが遅い。その分、先輩実況者たちには余裕があった――後輩に無茶ぶりを投げるだけの余裕が。
「ホットが今からこせゆ隊の『こせゆ』であいうえお作文しまーす」
――らむらす今日も絶好調だな!配信じゃないのと自分の企画じゃないからってー!
テディが即座に助け船を出し、仲間を最悪の事態から救おうと動く。一方タンドリーは怖くて何も喋れず、無意識のうちにホットのいる方へ歩き出していた。
「こせゆ隊の、こー」
「この空気地獄だよ!」
「こせゆ隊の、せー」
「せめて一思いに殺して!?」
「こせゆ隊の、ゆー」
「ゅ、床下からそんな声が聞こえる……」
「あはははは!」
「ホラーオチかよ!」
タンドリーが間髪入れずに突っ込んだ後――
「消えろぉーー!」
『バチバチィッ!』
「ぎゃーーー!」
――まくれなが全然関係ない門番をテーザー銃で撃ち抜いた。
「馬鹿!またかよ!」
「結局あの会話もハッタリだったんかい!」
「そうだよ!ざまみろ!」
「あれれー?まくれなちゃんまたですかー?」
「判断が早いなー」
「トリガーハッピーか?」
脱落したまくれなを実行犯四人が余裕たっぷりの口調で煽るが――真の名探偵は発砲する機会を虎視眈々と狙っていた。
「おいそこのお前!歯茎出てんの見えとるで!」
『バチバチバチッ!』
「ぐわっ!あばばばば……」
「違ってたらすまん!けど絶対コイツ!」
『――バチバチィッ!』
「えーっ!?俺怪しかった!?」
テディとホットが相次いで姿を消し、残るはらむらすとタンドリーの二人のみ。未達成の任務は、なおも九つ残されていた。
「迷探偵……やるじゃねーか」
「おい何やってんだ!このゲームどう考えても実行犯側が有利だろ!?」
「そうだけど……」
「りょくおーが鋭すぎるよ!」
「このゲーム俺が気持ちよくなるためのゲームやから」
「りょくおーがキモがられるの間違いやろ」
「いやほんまに。当てすぎ」
「あれ?俺、孤立してへん?もう一人くらい味方おったはずなんやけどな……一人は無様に死んでんの見たけど」
「んー無様いらないね。わざわざつけなくてもよかったね」
こせゆ隊がわちゃわちゃ言い合っている隙に、隠密のらむらすが任務をこなしてタンドリーは陽動に回る。
「これ走ったら弾避けれないか?」
「あー」
「ど、どうかな?」
「声がしてほしくなさそうって言ってる!」
「頑張れ!」
タンドリーが広い庭園をぐるぐると走り回ると、すぐに異変に気づいたりょくおーが銃を構えて追いかけてきた。
「コラそこの従者!走ってんちゃうぞ!」
「さぁどうする?」
「探偵ビビってるよ!」
「魅せてくれよ迷探偵!」
「違っ、ゲーム違うやろぉぉ!」
「っ!」
これプロが挑発し、りょくおーが一か八かで引き金を引いた刹那。タンドリーは紙一重でそれを躱し――背後にいた、ただの貴族が撃ち抜かれてしまった。
「キィィィィィ!」
「あはははは!」
「ふひひひひ!」
「だから声量ゆばいって」
なんだかんだで残る任務は『鍵の型を取る』と『ワインに毒を混入する』の二つ。だがもさ彦は――
「まだ『鍵の型を取っていた』って目撃情報はない……つまり鍵の任務はまだやってないな!?」
――未達成の任務の一つが何なのか、その手がかりを掴んだ。
「もっさーずっとそこで見張れ!」
「もう一個の任務は捨てろ!」
「うわ。部屋に人が入ってくる度に銃向けてる……」
「ヤバ。ホントに鍵がある部屋の前にいるじゃん」
「ならもう一個はノーマークってことだな」
「タンドリー!俺あっち行くからお前そっちやれ!」
「どっちだよ」
――らむらすのことだし、自分は死ぬリスクが低いとこ行ってんだろーな。
「……!」
――あれ。ワインの方避けた……偶然?
らむらすは、タンドリーがあっさり鍵の任務に向かうのを見て驚く。そして、どこか既視感を覚えた。
タンドリーがらむらすを知り、彼のレゾクラ企画に参加するようになって三年が経つ。忍兵鬼ごっこなどの脱出ゲームや、増え鬼、隠れ鬼といった企画の中で――らむらすは彼を見つける度に頼り、時に迷いなく囮にした。
だがらむらすにとっては違う。彼が接してきたのはあくまで『inducks_tory』であって、タンドリーと会うのは今日が初めてである。
――まさかコイツ……いや、考えすぎか。
それなのに、説明のつかない違和感が残っていた。




