第39話『欺け!エステート・ミステリー!! 前編』
七人の実況者が喋ってます。フィーリングでどうぞ。
ソーシャル・ディダクションゲーム『エステート・ミステリー』――レゾンクラフト内で開発された、こせゆ隊考案のオリジナルゲームである。
舞台はモッサリーニ侯爵邸。豪奢なお茶会中、ある極秘任務を帯びて館に潜り込んだ実行犯と、彼らを突き止めて確保する探偵の攻防劇だ。
参加人数は三~八人。プレイヤーは探偵と実行犯、二つの陣営に分かれて戦う。
◆探偵(一~四名)
目的……不自然な行動を見抜き、怪しい人物にテーザー銃を撃って確保する。
ただし探偵が誤って無実のNPCに発砲した場合、その時点で脱落となる。
◆実行犯(二~四名)
目的……招待客や使用人といったNPCに紛れ込み、探偵の目を盗んで複数の任務を仲間と協力してこなす。なお、探偵に銃で撃たれたプレイヤーはその場で脱落となる。
◆アビリティ
探偵……聞き込みによる実行犯の情報収集。特定のNPCに発信機を取り付ける。走る。
実行犯……変装、テレポーテーション。走る。
◆勝利条件
探偵……全ての実行犯を確保する。
実行犯……任務の完遂または全ての探偵が脱落する。
☆彡
今回の参加メンバーはこせゆ隊、これプロ、らむらすの七名。初戦は探偵側をこせゆ隊が、実行犯側をゲストの四人という布陣で行うことになった。
「――ええかお前等!今この館には四人の極悪実行犯が紛れ込んどる」
「ご、極悪……」
「そいつらを捕まえたら報奨金がたんまりもらえるんですよね?」
探偵の恰好をしたもさ彦がそう確認すると、『ドナイシテン・タングステン』の衣装を身にまとったりょくおーが頷く。
「せや。もし間違えて一般人を誤射したら……その場で舌を噛み切って死んでもらう」
「ぶははは!ええっ!?」
「おんも!」
「人数は向こうの方が多いけど経験はこっちが上や」
「っすね!犯罪者なんて全員ブチ殺してやりましょう!」
「もう目に入った奴から撃ちます!」
そんな殺意マシマシの探偵チームを遠巻きに眺めていた実行犯の四人は――
「ペッ。ちょっとテストプレイしてるからっていい気になりやがって」
「ちょっと誘導したらすぐ誤射しそうだな」
「怪しまれても余裕で撒けそう」
「僕らの変装を見抜けられるかなー?」
――音声通話でネチネチと煽り続けていた。
本作では探偵側と実行犯側で通話を分けずに行う。互いの報告は筒抜けになるが、通話によるブラフや駆け引きも、このゲームの醍醐味だからだ。
「やーでも色んな人がいるね」
――えーと『貴族と談笑する』か……。
貴族に扮したテディは、さり気なくNPCの輪に入って任務を遂行していく。その近くをまくれなが素通りしたが、全く気づかれなかった。
「実行犯の考えなんてお見通しじゃい!どーせ一番広い庭園に全員おるんやろ?」
「ギクッ」
フィールドは庭園、館一階、正門付近の三エリアで構成されている。
庭園の中心に設けられたお茶会会場では主に貴族たちが談笑し、傍にはメイドや従者、護衛の騎士が控えていた。
「はいどっこいしょーどっこいしょ!」
「ソーラン!ソーラン!」
「おい楽団の中に民謡混ぜてる奴おる!こん中におるなぁ!らむらすさんとホットどこや!?」
さらに庭園の端では弦楽四重奏などの楽団が演奏を行い、厩舎周辺には従者や庭師が忙しなく働いていた。
「……ん?お前ちょっと怪しないか?」
「!」
この館の料理人を装っていたタンドリーは、りょくおーの鋭い声に思わず足を止める。だが彼は近くにいる無関係のNPCを勝手に訝しんでいた。
館一階では主に執事・メイド・騎士・料理人や菓子職人が行き交い、正門付近には騎士、門番がそれぞれの持ち場についている。
――他のNPCが大量にいるしな。所詮こんなもんか。
タンドリーは老騎士に『賄賂を送る』と、何食わぬ顔でその場を離れる。
「そこの騎士!絶対らむらすさんだろ」
「なら撃ってみろよ」
「く……」
「ん?もっさービビってんの?おいおいおい見せてみろよ。お得意の推理力ってヤツを」
「らむらす煽ってくねぇ」
実行犯はどのタイミングで行動するか、どのNPCに紛れるかによって立ち回りは大きく変化する。
――『伝書鳩に手紙を括り付けて飛ばす』……鳩ってあれか。
らむらすともさ彦が通話で注目を集めている隙に、タンドリーは一気に任務を進めようとした。
「探偵の心得。ひとーつ!」
「っ!?」
だが次の瞬間、彼の後頭部にひやりとした銃口が当てられた。
「『魂の違和感を見抜け!』……やっちゃったなぁタンドリー」
「くそ……」
「スペクテイターで実行犯の立ち回り学んでこい!」
タンドリーは強引に鳩の任務を進めようとしたが――『バチバチィッ!』という音と共に視界が暗転した。
「りょくおーナイス!」
「あと三人!」
「タンドリー!何でバレた!?」
「NPCでも『貴族と談笑』するし『盗みを働く』ことがある……俺が近くにおる時に連続で任務やるのは流石にやり過ぎちゃう?」
「おい初狩り可哀想だろ!」
「だってコックが賄賂渡したその足で伝書鳩のとこ向かうんやもん」
「あーそら怪しいわ」
「見られてたか……」
探偵は全NPCの行動を観察する。不自然な進路変更、無意味な立ち止まり、任務を行う挙動などを手がかりに、実行犯を特定する。
今回は移動の不自然さと場にそぐわない行動が些細なズレとなり、疑惑へと繋がってしまった。
「実行犯はNPCらしい動きを演じ切れるかが勝負で、探偵は観察力と推理力が鍵や。この迷探偵ドナイシテンが貴様ら極悪実行犯を処す!」
「……こいつやろ!うぁーっ!?」
「え?」
りょくおーが格好よく決めた直後。誤って本物の貴族に発砲したまくれなは、その場へ倒れ伏してしまった。
「いいぞいいぞ!」
「これで1:1交換だ!」
「まくれなぁー!」
「ちょっと人多すぎやって!ムズすぎ!」
およそ六十人のNPCの中に実行犯は現在テディ、ホット、らむらすの三人。それを捕らえる権限を持つ探偵は、りょくおーともさ彦の二人のみだった。
実行犯はNPCの一人として自然に振る舞いながら十五種類の任務を遂行しなくてはならない。
――あと残ってんのは『門番の邪魔をする』、『賄賂を送る』、『密書の回収』、『鍵の型を取る』、『伝書鳩を飛ばす』、『貴族と談笑する』、『使用人に指示を出す』、『銅像に爆弾をしかける』、『ワインに毒を混入する』、『盗みを働く』の十個か……。
貴族に扮したホットが『使用人に指示』を出そうとしたその時。テーザー銃の射線が彼の頭をなぞった。
「うーん分からん」
「…」
――怖っ!!
「……あれ?今キミ使用人呼ぼうとして止めんかった?俺の気の所為?」
もさ彦に狙われている――その疑念が、ホットの判断を一瞬だけ早めた。だがそれが裏目に出る。不自然な挙動が探偵の目に留まり、不運にもマークされてしまった。
「もっさーどいつ?」
「りょくおー茶会来て!この貴族怪しい!」
「いないいない!僕そっちいないよ!」
「俺じゃない俺じゃない!」
「止めて!絶対違うから!」
――やばいやばいやばいやばい……!
らむらすとテディが機転を利かせ、音声でかく乱する。ホットも必死に便乗するが、内心はもうパニック寸前だった。
「もさ彦そいつや!そいつを撃て!」
「まくれなが言うと違う気がしてきた……」
「何でやねん!」
「お前の『撃て!』から戦犯増やしてやろって魂胆が透けとるんよ」
もさ彦が天界の声に耳を傾けている隙に、ホットは人々に紛れて茶会から離れる。しかし背後には探偵の影が迫っており、撃たれるのはもはや時間の問題だった。
――こうなったら……!
ホットは大木で視線を切ると、素早く貴族から執事に変装する。そして踵を返し、そのままもさ彦の真横を通り抜けた。
「……ホット今のプロすぎるだろ!」
「いやホット……ホントに終わったかと思った!」
「あの貴族どこ行った!さては変装したな!?」
一部始終を見たタンドリーは、ホットの安全を確認してから口を開く。もさ彦は怪しい人物を完全に見失い、事態は振り出しに戻ってしまった。
「『見覚えのないメイドがワインに何かを入れていた』……?そこにいる前だっ!」
『バチバチィッ!』
「ぬわー!」
「テディー!?」
だがりょくおーの右手は実行犯を正確に撃ち抜く。テディが『ワインに毒を混入する』任務を達成した直後、彼は聞き込みで得た情報を頼りに怪しいメイドを特定していた。
「目撃者がいたなんて……僕としたことが」
「これで人数的に互角!」
「任せろ任せろ。俺の周り探偵全然いないわ……あらよっと」
「何っ!?」
ここで探偵側に、実行犯の任務が残り五つであることが通知される。ホットがもさ彦を引き付けている隙に、テディとらむらすは任務を次々に達成していた。
「何かただ徘徊してるだけのコスプレ野郎おらん?」
「なんだァ?てめェ……。こっちは真剣なんだよ!誤認確保よりマシやろ!」
「男なら覚悟決めてけ!一般人の判別もできねーのか!」
「「お前じゃい!」」
脱落したまくれなは、暇を持て余しながらもさ彦を挑発する。だが速攻で味方二人からブーメランを投げ返されるのだった。
それぞれの呼ばれ方
もさ彦:りょくおー……もっさー。まくれな……もさ彦。らむらす……もっさー。テディ……もっさん。ホット・タンドリー……もさ彦さん。
タンドリー:まくれな・もさ彦……タンドリーさん。それ以外……タンドリー。
それぞれの呼び方
もさ彦……りょくおー、まくれな、らむさん、テディ、ホットさん、タンドリーさん。
タンドリー……りょくおーさん、まくれなさん、もさ彦さん、らむらす、テディ、ホット。




