第37話『諸君!これが竹馬スターである!! 後編』
「ホットとタンドリーは竹馬乗ったことある?」
「ある。竹じゃなくて金属のやつ」
「あ、僕も」
「……竹馬は竹じゃないと竹馬じゃないだろ」
「おっと地域差が」
ここで地味に設定順守しているキャラが出る。テディのモデルは独逸製のぬいぐるみ。ホットのモデルは亜米利加系のスタンダード・ダックスフンド。タンドリーのモデルは印度のブロイラーだった。
「僕の故郷で竹が自生してるの見たことないなー」
「タンドリーの故郷に竹……ありすぎる、たけっ!」
バランスを崩して尻もちをついたホットは、勢い余ってタジャレを零す。すると街中の交差点ステージに、吹雪が吹き抜けたかのような空気が流れた。
「……今ので俺の故郷にある竹死滅したな」
「世界有数の産地に何てことするんだホット!」
「え。俺今怒られてる――ヴアーーッ!」
「ホット危なーい!」
「轢かれるとこ見てから言うなよ」
このステージでは信号が赤になる前に渡り切らなければならない。一瞬ペースを乱したホットは、無情にも走行中の普通車に跳ね飛ばされてしまった。
「死んだ……そもそも交差点を竹馬で渡るな!」
「それはどのステージでもそうだろ」
ここまでステージの三分の一を竹馬で進んできた三人だったが、それぞれに苦手なステージがあった。
「ぐうっ……く、届かないっ……壁ビターン!」
「ああっヤバイ!一回転しちゃっ……」
テディとホットは、空中で姿勢を保つタイプのコースを苦手としていた。追い風を利用してビル街を渡る今のステージでも、テディは飛距離不足で建物に激突し、ホットは途中で両膝が折れてしまう。
「……あ?」
「はははは!ホット凄ぇ!倒立!?上下逆さまで竹馬乗ってるぞ!」
だが今回は奇跡が起こり、ホットは逆立ちの姿勢のままビルの屋上に降り立った。ゲームオーバーではないと気づくや否や、彼は声を弾ませて両腕を振り上る。
「……いける!皆!俺このままゴールいけるよ!」
「あはははは!ホットめっちゃちょこちょこジャンプしてる!」
「もうお前がタケウマスターだよ」
タンドリーは最初こそ試行錯誤していたものの、開始十分で早くも感覚を掴む。そしてどんな環境のステージでもタイムアタックさながらの速さで次々とゴールしていった。
「出たな冬ステージ……特に凍った池には気をつけろ。踏んだら絶対割れるぞ」
「初見殺しのアクションゲームやりすぎ」
「このゲームそこまで意地悪くないから」
テディは攻略法の解説をタンドリーに任せ、段差の一段飛ばし、激細の一本道を大股で渡り切る動き、そして前後に傾いた体勢からの復帰テクニックを次々と実演してみせた。
「さーて次、は……」
「あ!?おいテディ!ホットが脱走した!」
「違う違う!超危険地帯だから防具付けた!」
無言でログアウトしたホットをタンドリーは見逃さない。即座に咎められた彼は慌ててアメリカンフットボール選手の装備に着替え、再びログインした。
「ヘルメットとフェイスガードで誰か分かんねぇ……あとこのゲーム、スキンでのバフないだろ」
「久しぶりにフル装備見たけどゴツいね……ちょっホット!ショルダーパッド当たるって!」
画面奥から段ボール箱が飛来してくる倉庫内ステージにて。それらは一直線に飛んでくるとは限らず、空中や路面で互いにぶつかり合い、反射する度に軌道を変える。避けたと思った次の瞬間――
「あうっ!」
「ぶなっ!」
「ヴッ!」
――弾かれた一つが思いもよらない角度で迫ってくるのだ。
「あーテディ止めてよ!」
「何をー」
「段ボール飛ばすの!」
「フフ!」
「バケモンじゃねーか」
段差で体勢を崩したところを狙い撃たれたホットはn回目の顔面ダイブを決める。予想外の文句を言われたテディは笑って乗っかることにした。
「とりゃとりゃ!行けっ!タンドリー喰らえ!」
「テディ惜しい!あっそこ!タンドリーのこめかみに当たれ!」
「当たるかノーコン。ホットも俺の敵ならお前が当たれ!」
「ぐわぁー!」
主にホットとタンドリーの間で内ゲバが起きることもあるが、次の後ろ歩行を強制されるステージでも――
「あれ!?俺後ろに進む方が得意かも!」
「どうして……ホットの人生も後退してるってコト?」
「今サラッとえげつないこと言わなかった?」
「ピーキーな才能だな。しっかり前向いて生きろよ」
「生きてるよ!」
――ホットは二人にイジられるのであった。
後半は浮遊や落下のステージが続く。テディとホットが慎重に落ち、浮き、飛びながら進む横を、タンドリーは泳ぐような滑らかさで追い越していった。
そしていよいよ最終ステージへと突入する。
「おー。観客がいっぱいいる」
「歓声すご」
「公開処刑か」
グラウンドに設営されたコースは、今までのステージでプレイヤーを苦しめてきた要素を遠慮なく詰め込んだ総集編だった。
シンプルに難易度が高い階段、不安定な足場、体勢が崩れやすい跳ね台、段ボールが飛んでくるゾーン……。
これまで身につけた攻略法を、全て正確に繋げなければ突破できない構成になっていた。
「危ね危ね……!俺ホント真っすぐ飛べない!自分のペースで行かせてください!」
「誰かあっ……!この状態から入れる保険はありますか!」
「テディさん。まずゆっくりと一時停止を押して……」
「そんなのしてる暇ないですよタンドリーさん!」
最長のコースだけあって、テディとホットは同程度に苦戦したが――
「よし!」
「きたー!」
「やったぞ……!」
――それでも三人は、通常ステージを二時間半で踏破してみせた。
「一歩踏み出す度に重心は揺れ、慣性が残り、判断の遅れは即転倒へと繋がる――諸君!これが『タケウマ・ウォーカー』である!!」
「エクストラステージ行くぞー!」
「おー」
動画用の導入を撮り、エクストラステージの扉を開く。
最初はタンドリーがやや苦手とする氷のステージ。白く凍りついた斜面は、まるで巨大なスキージャンプ台だった。
踏み出した瞬間――
「あぁー!止められない止まれない!」
「撮影中に菓子食うな」
「重心を後ろちょい下に落として!真後ろは駄目だよ!」
――足元は抵抗を失い、身体ごと前へ持っていかれる。
さらに斜面の途中、石で組まれた壁が一定の間隔で上下を繰り返していた。
「石の壁は潰されるーってタイミングでいくのが丁度いいよ」
「ずっとこのくらいの難易度でいいのに」
エクストラステージとはいえ、序盤は易しく調整されているらしい。三人は難なくクリアして次のステージへ進む。
「また空か」
「しかも急かされる系っぽいね」
「えー大好き!」
舞台は雲よりも高い場所――足を踏み外せば、そのまま空に飲み込まれる天空のステージだった。
足元には固定された道はなく、フィニッシュアーチ方向に動く足場だけが頼りになる。
「ハードル走だー。足場に置いてかれる前に乗り越えて……」
前方には一定の高さで設置された細長い棒。
足場の動きに身を任せながら、タイミングを見てそれを乗り越えなければならない。
「えっ今度は上!?頭ぶつかるっ……痛い!」
「今日のホット顔面怪我してばっかだな」
そしてゴール手前で棒の高さは下がり、今度は竹馬を左右に開き、身体を低く保ったまま――まるでリンボーダンスのように、棒の下をくぐり抜けなければならない。動く足場の上での姿勢制御や、竹馬を素早く操って進むことが求められるのだ。
その他にも無重力空間で後ろ向きに進むステージや、移動するリフトを飛び移るステージが続き、いよいよ最後のステージに突入する。
「ま、回ってる?これも強制?」
「俺らの動き関係なく回ってるな」
「あっ、ウッ……激ムズ!」
巨大な輪は、水車のように音もなく回り続けていた。角ばった内壁は十の面を持ち、どこを踏んでも水平という瞬間がない。一歩進むごとに、足元の下がどんどんずれていく。上へ登っていたはずが、気づけば体勢は横向きに変わっている――そんな十角形の輪をぐるりと一周した先に、ゴールが待ち構えていた。
「ここはタンドリーみたいに速く行かなくてもいいよ」
「そうそう。回転に身を任せて落ちないように……あっ」
「言ってる傍からこっち落ちてくんな!」
輪を一周できた者だけがゴールに辿り着くことができる。三人の運命は、十角形の輪に委ねられていた。
「五角形って何だっけ?マジでド忘れした……国防総省?」
「それはペンタゴンだな」
「違うよホット。正解は某クイズ番組の」
「それも……ペンタゴンだな」
「あれ?」
疲れを感じさせない軽快なトークで場を温めながら、三人はすべてのステージを無事に制覇した。
「やーお疲れ様。楽しかったねー」
「はぁ……何か全体的に変なステージばっかだったな……」
「こんなもんだろ。前提が狂ってんだから」
後日。タンドリーが一回もミスらずに通常ステージを十六分でクリアしたのは――テディの定期配信で明かされることとなる。




