第36話『諸君!これが竹馬スターである!!前編』
中間テストも無事終わり、三人は十日ぶりに揃って撮影に臨んでいた。
「その前にいいか?一個気づいたことがあって」
「どーぞ」
録画を押す前にタンドリーが発言し、テディとホットは一旦聞くフェーズに入る。
「クリムゾン・トラップアイランドから始まってメテオメイカー・サートナイト・ウェルテックス・同意するゲームとか色々やってきたけど……」
「うん」
「このチャンネルで初めてやるゲームの撮影が一番重たい」
「それはガチのマジでホントにそう。バレットラウンズの全能力紹介とかガイドラインに同意してくださいの全ミニゲーム紹介とか……紹介系キツい」
「そのキツさもホットのミラクルのお陰でかなり緩和されてるから。多分僕とタンドリーが同じことやったら倍かかるよ」
今回行うゲームは『タケウマ・ウォーカー』――竹馬に乗った主人公を操作して、障害物だらけの街やフィールドを進む物理アクションゲームだ。
プレイヤーは一本一本独立して動く竹馬を操作し、歩く・止まる・乗り越えるという極めてシンプルな行動だけでゴールを目指す。
ゲーム内では街中や川沿い、工事現場など多彩な環境がステージとして用意されており、段差や風、トラップなどの障害物がプレイヤーのバランスを試す。単純な歩行では進めず、ジャンプやターンを駆使してゴールを目指す戦略性も必要だ。失敗しても何度でもリトライでき、物理挙動の特性を覚えながら少しずつ攻略を進めていく楽しみがある。
「今日は諸君らに、エキスパートな竹馬テクニックを伝授するよ」
「この動画を見た諸君はタケウマスターになれるってコト!?」
「どっちもやかましいわ」
マルチプレイの部屋を立て、ニューゲームを選択した三人は竹馬に乗った状態で一列に並ぶ。
「今回このゲームで!ノーマルモード40ステージとエクストラモード20ステージ』の紹介&攻略をやってくぞー!」
「やるんだな!?今日……!俺も初めてやるゲームを!?」
「あぁ……!!そうだよタンドリー!勝負は今日!ここで決める!!」
「えっ……このゲーム冒頭でそんな台詞出るほどヤバいの?」
「クリトラは俺が既プレイのやつだったから……」
――全クリまで何時間かかんだ!?一日で終わるか!?
クリムゾン・トラップアイランドとタケウマ・ウォーカーは同じアクションゲームではあるものの、前者はタンドリーが小学生の頃から長時間やり込んできた作品だった。そのため、初挑戦となる竹馬操作には若干の不安や慎重さが伺える。
「ごめんね僕らがお荷物になってて……でも多分タンドリーは日和る必要ないと思う」
「俺このゲームの方がいけそう!ホラ最初のコースなんて一直線のチュートリアルじゃん!」
「それがフラグになるか煽りになるか……じゃあ操作説明をどうぞ?」
操作は全てキーボードに割り振られていた。
Aキーで左の竹馬を持ち上げ、Dキーで右の竹馬を持ち上げる。どちらか一方を押している間、その竹馬だけが宙に浮く仕組みだ。
持ち上げた状態で Wを押せば前へ、Sを押せば後ろへと進む。そして↑キーで前傾、↓キーで後傾する。
したがって、竹馬より先に胴体が傾けば――
「あっ、あっ……!」
「ホットー!君だけは顔面ダイブしちゃ駄目だよ!」
「おいまだ一歩も進んでねーぞ」
――重心は容赦なく引っ張られ、その場に崩れ落ちてしまう。
「こういうこと……かっ!」
片脚を前に出すこと自体は難しくない。だがもう一方を動かすタイミングで体幹の制御を誤ると――
「ぐあっ……!足!動け俺の左足!!」
「竹馬がクロス箸みたいになってる!」
「あぁ……タンドリーもゆっくり顔面ダイブしてった……」
――両膝が折れ、竹馬は交差したまま動かなくなってしまう。その崩れた状態から復帰するには、通常以上に高度な入力が必要だった。
「あっ俺もクロス箸に……ぶぺぇ」
「くそっ……何で地味に後ろに進んでんだよ!」
「あははははは!タンドリー竹馬持ったまま仰向けで倒れんのオモロ!はぁー笑った」
テディはひとしきり笑った後、平坦な橋の向こうに構えられたフィニッシュアーチを見据えて最初の一歩を踏み出した。
「まずAキーを押して」
左の竹馬が地面から離れ、わずかに宙に浮いた。
「そのままWを押す」
左の竹馬が前へ滑り、置きたい位置まで運ばれる。
「左足が地面に触れる前にAを離して……ここで↑↓キーでバランスを取ってね」
コツン、と左足が軽い音を立てて着地した。テディは重心が左に移るのを感じ、すぐに↓キーで体を戻す。
「次は右足……DからのWを押してー。バランス取るのも忘れないでね!」
右の竹馬が持ち上がり、今度はWで前へ。右が着地する直前↑キーを一瞬だけ叩く。すると胴体が僅かに前へ倒れ、体重が自然に乗った。
「これを繰り返していけば進めるよ」
バランスを保つため小刻みに歩を進め、さながら現実で竹馬に乗っているかのように――テディはそのままフィニッシュアーチを越えた。自分と同じスタートラインだと思っていたホットは一拍置いて一言。
「竹馬の猛者じゃん……」
「そこはタケウマスターだろ」
タンドリーも慎重に一歩一歩を刻みつつ、テディに胡乱な視線を向ける。
「テディこれどんくらいコソ練した?」
「でも五分くらいだよ……ふふふふ!ホット凄い凄い!教えてないのにジャンプしてる!」
「うおおおお!これが俺の竹馬だぁー!」
「っふふ……何でそれでいけんだよ!うわくそ足が滑った……!」
ホットは小刻みなジャンプによって距離を稼ぎ、まるで馬が躍動するかのような挙動でゴールへと飛び込む。言わずもがな、これはホットが直感で編み出した独自の攻略法だった。
「ちなみに、AとDを同時に押すとジャンプするから、階段や段差をそれで乗り越えてもいいよ」
次のステージは木の橋だった。だが一部の板が完全に失われており、踏み外せば落ちかねない隙間を大股で越える必要がある。
足を置ける場所を見極めながら渡り切ると――待ち受けているのは細かな段差が連なる下り階段。その下り切った先がゴールだった。
「ここも俺はジャンプで行くぜ……あっ」
「はっはっは!両足から落ちんな!せめて片足にとどめろ!」
「綺麗に落ちましたねー。ホットさん10点です」
「やった。この10点をテディが階段から転がり落ちるのに使います」
「僕を不幸にするために使わないで!?」
ホットとタンドリーは不安定な歩行と操作感覚の微妙な差を感じ取りながら、バランスの極意を学んでいくことになる。そして先に習得したのはタンドリーの方だった。
「タンドリーもう僕より速くなってる。どこで育ったらそんなポンポン進めるの?」
「ホントに。もうポンポン……」
「ポンポンポポン?」
「ポポポポポン。スポーン!って」
「脱いでるじゃねーか」
「あはははは!タンドリー気持ちよくなっちゃった?」
「最後のスポーン!で全部脱いでるから」
「誰が露出魔だテメ……!落ちろ!」
「あぁー!!」
海辺のステージにて。タンドリーが竹馬で前にいたホットを思いっきり蹴ると、彼は水しぶきを上げて落下した。
「テディちゃんと字幕で注釈付けろよ」
「任せて!」
――脱いでも羽毛があるので風邪を引きません。って入れよ。
後日『安心してください!モコモコですよ!』じゃねーよとツッコまれるのはお約束だった。
「……え!何このコース!」
次のステージも海上だった。足場らしい足場はなく、すぐ先には荷重が一定を超えると反発する跳ね台がひとつだけ。
「ここは一人ずつ乗った方がいいかも。じゃーホット」
「おーし!まぁ乗るくらいだったら簡単……」
「大丈夫か?右足曲がって震えてんぞ」
その上に乗ってもすぐには跳ばない。体重を預け、姿勢を崩さずに静止している間だけ内部にエネルギーが溜まっていく。
「あはははっ!ホットそのままの体勢で飛べる?」
「待って……何かもう動きそう!」
条件を満たした瞬間――跳ね台は下から突き上げるように反動を解放し、ホットの身体をそのまま空中へと打ち上げた。
「あああぁぁ……あ?」
だがホットは跳ね台を踏み外し、片側に重みが乗ったまま反動だけを受ける。竹馬を抱えたまま、身体だけが真上で三回転し――ほぼ同じ位置へ何事もなかったかのように着地した。
「ええええええ!今空中で三回転した!?」
「おい戻ってくんな!何で無事なんだよ」
体勢は崩れず、ダメージもない彼は二人が爆笑している隙に平然と再挑戦を試みるが――
「うわーー!」
『ドボーーン!!』
「ははははは!こっちまで濡らすな!」
「ホットー!」
――向こう岸までは届かず、大きな水しぶきがテディとタンドリーの体にかかるのだった。
タンドリー「飛べない種族は大変だな」
ホット「ささみ……タンドリー1発で行っちゃったよー」
テディ「早く逃げた鶏もも肉を追いかけよう!」
タンドリー「俺をたんぱく源として見るな」




